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魔女と足なし姫  作者: Y.Itoda
エピローグ
62/63

ep.61

 湖の水面が、きらきらと光っていた。

 その上を、不死鳥が鳥籠(とりかご)から放たれた小鳥のように自由に飛び回っている。

 ただ眺め、——そうだった。とミアは自分の過去を思い返していた。

 同じだ。——鳥籠。それは、かつての自分の部屋。

 閉ざされた窓の内側で、何もできずに、ただ時だけが過ぎていった。

 でも、ある日やってきた。

 ……辺境の魔術師が。

 その水の魔法は籠のなかの私を解き放った。

 初めて会った大切な思い出。いや、再会か。何でもない日が、記念日になった日だった。

 それが今までも、胸をくすぐる。

 その余韻のなか——ばしゃり、と湖の中央で水飛沫が上がった。


「なによこの展開っ、聞いてないんだけど!」


 跳ねるように現れたのは、淡い赤色の毛並みに金の角を持つ小さな獣。テテポと同じ精霊だった。

 くるくると宙で舞いながら、羽根のように軽やかに地に降りる。


「ドラココーっ!」


 駆け寄ったテテポはドラココに飛びついた。

 しっとり濡れた体をぷるんと震わせて水を払うと、ドラココは歩いてきた。


「へえ。……この娘が、新しい(あるじ)ってわけ?」


 真っ直ぐに見上げた煌めく瞳が、ぐるりと周回しながらミアを値踏みするように眺めてくる。


「水と火。両方を手懐けようなんて——ほんっと、とんでもない強欲女ね!」

「えっ……?」


 その可愛らしい姿に似合わない鋭い口調に、ミアは気圧された。


「ちょ、お、おい、ドラココ! ミアはそんなんじゃねーんだよ」


 どうやらテテポは、この精霊には物申せないようである。慌ててミアの間に入るが、ドラココはふんと鼻を鳴らすだけだった。


「べ、別に……あたしはこの娘の味方するなんて言ってないんだからね!」


 と口では言いつつも赤く染まった耳はその心の揺らぎを隠せない。ツンデレか?


「だいたい、テテポのせいであたし、ずっと氷のなかだったんだから! ……べ、別にあたし、テテポに会いたかったとか、そういうのじゃないんだからね」


 そのやりとりに、ミアはくすりと笑う。


「テテポ? ガールフレンドをちゃんと守ってあげなきゃ駄目よ? 閉じこめられてるって、あんまり、気分のいいものじゃないものよね?」

「……あら」


 ドラココの目がぴくりと動いた。


「ミアだったかしらね? やっぱりあなた……わかってるじゃない? まあいいわ。許してあげる」

 そう言って「……たくぅ」と息を吐きながらくるんと背を向ける。

「ディルガはどこに行ったのかしら……?」


 薄っすらとドラココの瞳が揺れた。

 そして、その視線の先の水面が波打った。


「ぷっはぁっ!」


 水を割って現れたのは、湖の底から必死に這い上がってきたアワだった。


「死ぬかと思ったぁー!」


 肩で息をつき、水を滴らせながらも、彼は周囲を見渡す間もなかった。


「アワーッ!」


 ミアの声が空に響いた。

 びしゃっ、びしゃっと音を立てながら、水面を走ってくる。

 濡れた靴音、揺れるドレスの裾、陽光に透ける美しい髪。

 アワは呆然と、その眩ゆい姿に心奪われていた。

 何も、言葉はいらなかった。


「会いたかったわ! ずっと、ずっと……!」


 そのまま、勢いのままにミアはアワに抱きついた。

 ただその熱い想いを体で受け止めながら、アワは安堵した。


「……よかった」


 それだけで、すべてが報われた気がした。

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