第35話 青い枯れ花
【Side サレ冒険者】
翌日。
俺はフードのついた外套を身に纏い、停車している馬車に座っていた。
乗り合い馬車だ。と言ってもガラガラに空いているが。
いつも腰に下げている魔剣は収納している。
「今まで剣を隠せばバレなかったのに、まさか顔まで隠さなきゃならなくなるとは……」
昨日の夜、俺の戦闘が公開されてからというもの、顔バレしてしまって剣を仕舞っていても俺が《四剣》だとバレるようになった。
しかも、あんな場面(笑顔で蹂躙する姿)を映されたせいで、完全にヤベー奴として見られてるし……。
「でもいいじゃん。強さが知れ渡って悪いことはあんまりないよ? この前みたいな馬鹿は減るし」
「よかったわね〜、アルビアさんがあっくんの戦闘を撮っておいてくれて」
そう、ギルドニュースに拡散させた記録映像は、アルビアがスタンピードで戦っていた俺を撮影していたものらしい。
あの日の言葉はそういうことだったのか……!
彼女とオハナシしてその存在をなぜか知っていた三人がそれを使おうと提案してきて、どうせなら世界中に広めないかという流れになり。
カムルに連絡を取って、先日の約束の一つを使ってギルドニュースに載せてもらった。
あの狸爺には「欲がない」と言われたな、貴重なネタを提供されるだけだから俺の方にも売り上げを還元するって言われて、収入源が増えた。
「そういえばアルビアさん、さっきは凄かったよね」
「アベルがカーヘルから出ていくって聞いた途端、縋り付いてたもんねー」
マリアとエルミーが苦笑混じりにアルビアの痴態を思い出していた。
ギルマスに対する態度じゃないけど……まあ仕方ないな。
というのも、ついさっきまで用があってギルドに顔を出していたわけだが。
そこでカーヘルを出発すると伝えたら「まだ居てください、もう少しでいいから! まだ成分補給が足りないんですぅ!」としがみついてきて……エルミーたちにシャットアウトされていた。
そういうとこだよ残念美人。
そんなアクシデントはあったけど、目的は達成できた。
その目的とは――
「じゃあ落ち着くまで結構掛かっちゃったけど、改めて――ようこそ! Aランクパーティー『誓いの輝剣』へ! ――って、Sランクのアベルに言うのも恥ずかしいけど、これからよろしくね!」
エルミーが満面の笑みで歓迎の言葉を伝えてくれた。
そう――これまでは仮加入だった誓いの輝剣に、俺は本加入したのだ。
一時的にじゃなく、これからずっと一緒に行動すると決めたから。
「歓迎するわ〜!」
「アベル君が入ってくれて、とっても嬉しいよ!」
「あぁ、ありがとう……よろしくな」
三人に歓迎され、昔を思い出しつつも
ミリアが用事や、学校の授業があって一人になったとき、よく三人に混じって依頼をこなしていたことを思い出していた。
まさか正式にみんなの、パーティーに入るなんて想像もしていなかったな……。
と、過去に浸っていると、エルミーが聞いてきた。
「パーティー加入してくれたのはよかったけど、こんなに早く街を出て大丈夫なの? アベルが倒した魔獣の素材とか回収できてないし、そもそも処理すらできてないけど」
スタンピードから一週間ほど。
俺たちはそこまで長居することもなく、カーヘル……ひいてはシルディエル王国を出発して、別の街、国に行くことにしたのだ。
慌ただしいように感じるが、ミリアに俺のことを伝えた以上、すぐにでもシルディエル王国を出たい。
シエルも早く行方を眩ませてください、私への連絡は各地の教会からできるようにしておきます、と言っていたしな。
「めぼしい物は回収したし、あとは他の奴ら任せでいいよ」
今頃、他の冒険者にはお片付けの依頼が出ているからな。
魔獣の解体、片付け、死骸の焼却などなど。
カーヘルの近くに今も転がっている、山のような魔獣を片付ける依頼がな。
「この変化はよかったのか、お姉ちゃんちょっと疑問に思うわ」
「アベル君のSランクムーブだね〜。自分は好きに暴れてあとは人任せ。う〜んっ、とっても暴君!」
「失礼な。人任せっていっても、美味しい思いが出来てるんだから円満な丸投げだよ」
実はこれ、Sランクが暴れた後によくある特別依頼だ。お片付けは苦手な連中が多いからな……。
危険も少なくある程度稼げるから下っ端ほど助かるボーナス依頼だったりする。俺も昔は世話になったな。
ま、その分ギルドがキツくなるんだけど。
これからはしばらく仕事漬けであろう解体師のおっちゃんには殴りかかられたぜ!
一万体の解体頑張ってくれ。
それから死骸の浄化なども行う聖職者たちも長い事駆り出されている。
昨日、一昨日と訪れた教会も案内役のご婦人以外ほとんど人がいなかったし。
しばらくはかかりっきりだろうな……俺は燃やすくらいしか出来ないので、それならさっさと出発させてもらおう。
「急ぐ旅でもないけれど、早めなことに越したことはないからな」
「それなんだけど……アベル君、ほんとにいいの? 魔剣を返すって……」
隣に座るエルミーの向こうからマリアが聞いてきた。
「せっかく魔法を使えるようになって、強くなれたのに……もったいないんじゃないかしら?」
「そうかもしれないけど、な」
……魔力出力がゼロの俺は、魔剣が無いと魔法がほとんど使えない。
しかもこれだけ強力な魔剣は珍しい。手放せば弱体化は免れない。
昔よりかは強くなったとはいえ、魔剣がなければ膨大な魔力も宝の持ち腐れなんだから。
でも――
「いいんだ。俺が魔剣を求めたのは、ミリアを助けるためだ。その役割も終わった……俺が持ってる必要はないんだよ」
ケジメの一つみたいなものだ。
三人のおかげでもう吹っ切れはした。だけど、改めて前に進もう……とは、まだ思えていない気がするんだ。
ミリアに関するもの全てを置いて、ようやく前に進めるんじゃないか……そう思ったからっていうのもある。
「――でも思い返していたら、色々と厄介事があったのを思い出したんだよなぁ……」
三年間の旅は結構な無理を通した。
魔剣を手に入れた方法だって方々に借りを作ってやっとのことだったし、それ以外にも色々と……うん。
ちょっと自殺してる場合じゃなかったくらい、やり残したことがある。
「これから厄介なことになるかもしれないけど……それでもその、よろしく頼む」
「何言ってるんだよ、アベル。そんなの当たり前だよ……ずっと一緒の、パーティーなんだからね!」
笑顔で快諾してくれるエルミー。まだ内容も言ってないってのに……そう言ってくれて、凄く、嬉しかった。
と、そんな話をしていると馬車が動き出した。
今はこの街から離れる人がいないからか、乗り合い馬車には俺たちしかいない。
目指すは南国――海洋国家『シュナルテ』だ。
「旅支度の荷物、たくさん持ってくれてありがとね、アベル君」
「いいさ、俺の魔法具の方が容量多いんだし」
シュナルテへの移動に準備したものは、ほとんど俺が預かっていた。
俺の収納魔法具『白幻の宝物庫』は城一つほども入る大容量だからな。それくらいどうってことない。
「その指輪だったかしら? 城ひとつくらい入るなんて、とっても容量大きいわよね」
「ねぇ、他にはどんなのが入ってたりするの?」
「金にできるものはほとんど換金してたから、そんなに変わってる物は入ってないと思うけど――」
フレイとエルミーに聞かれて、指輪に意識を向けて中身を探る。
旅で得たもので残ってるものは多くない。
ほぼ勇者パーティーに送ったか、換金して送ったからな。
「おっと……あったな、そういや」
指輪の中身を見ていると――まだ大量に、青い花があるのに気付いた。
少しずつミリアに贈っていた枯れない花――【永遠の愛】という花言葉を持つ花だ。
シエルから聞いたが、ミリアは結局このことを知らずに捨てていたらしい。
花言葉の意味も込めて、さらには魔法具の素材にもなる。いざというとき売れることもあって贈っていたんだが……結局、気付いてはいなかったらしい。
昔一緒に図鑑で見た記憶があったような……見当違いだったかな。
「あ、それイクシスの花でしょ?」
「あぁ、前に見つけるたびに集めててな……ま、いいか」
指輪から黒い魔剣を取り出しながら魔力を流すと――手に持った、青い花が生気を失っていく。
枯れないはずの花が、枯れていく。
永遠に続くはずだった、彼女への想いも連れていって。
「枯れてる……? アベルがやってるの? なら、その……ボクが欲しいくらいなんだけど」
「一輪だけだからさ。俺には、必要だったから」
「ミリアちゃんにあげてたんでしょう? お姉ちゃん達にもくれないの〜?」
「お姉さん欲しいなぁ〜?」
「あはは、またあとであげるよ」
裏切られて膝をつき、蹲って落ちるだけだった俺が踏みとどまれたのは、三人のおかげだから。
鮮やかな青を保ちつつも、カサカサに枯れた花をくしゃりと握りつぶして、外へ投げる。
馬車は進んでいく。
風に吹かれて後方に飛んでいった、崩れた花弁の残骸を残して。
第一章
久想の君に青い枯れ花を
不朽の貴方に秘めた花束を
―完―




