第33話 過去は止まらず、明かされる真実
「ふっ……ざけんなよ! お前は金や物送っただけだろうが! 俺達は命がけで魔王と戦って、倒して来たんだぞ!?」
《勇者》ユート・アマノ。
彼は平和な日本で育った高校生だった。
元はあまり目立たない人間だった彼は暴力とは無縁の世界からいきなり召喚され、命懸けの戦いに身を投じた。
そんな彼にとって自身が成し遂げた魔王討伐という偉業は、『勇者たる自分』を肯定する絶対的自信であり、夢見た物語のような『仲間と共に勝ち取った絆の証』なのだ。
(僕……俺は何度も大怪我しながら頑張ったんだ! いい思いだってしていいだろ! それにミリアは俺の仲間だ! こんな奴なんかよりっ、『世界を救った勇者』の方がいいに決まってる!)
この世界を侵略……詳しくは、亡ぼそうとしていた魔王。
奴は世界中に住む生物だった魔獣を従え、さらにはその魔力を奪う力を持っていた。
戦いの最中でも付近の魔獣から魔力を奪い取り、際限なく強化され――倒しても、復活する。
魔力の簒奪を防ぐには、邪悪を払う『聖剣』と、それを唯一扱うことのできる《勇者》のジョブが必要だったのだ。
これこそが今まで魔王を倒せなかった理由。
「最終決戦じゃ俺達は死に物狂いだったんだ! 魔王の攻撃で死にかけた! ここにいるみんなのおかげで生き残ったんだ! それを、何も知らないやつが文句つけんじゃねぇよ!!!」
一か月と少し前。
最終決戦では北方の軍事国家からも力を貸してもらい、付近の魔獣を掃討しながら勇者パーティーは魔王城に突入。
なんとか魔王と邂逅し、聖剣の力で魔王の力を遮断。
それでも強かった魔王とギリギリの戦いをして、なんとか討ち果たしたのだ。
それは絶対に自分の、自分たちの成果だ。
いなかった奴が文句を言うなと、ユートは吠える。
――その戦いが薄氷の上、ある者からすれば茶番だったことを知らずに。
『だって魔王なんて、Sランクが三人もいればフルパワーでも余裕で何回も倒せるぐらい弱かったしな』
「……は?」
「ぇ……?」
『――倒しに行ったこと、驚いてるかな? 強くなったんだから、試さないわけがないだろ。そうすればすぐに会えるんだから……まぁ、倒しきれなかったけどさ。そこの勇者と聖剣が無いと倒せないってのは本当だったんだな』
Sランクに上がったばかりの頃。
アベルはひょんなことから知り合った他のSランクに提案をして、魔王城に奇襲をかけたことがある。
そのときは何度も魔王の命を奪うことは出来たのだが、復活を止めることが出来ず仕方なく撤退した。
『だから、最終決戦のお膳立てをしたんだよ』
アベルは考えた。
魔王を殺し切れるのが勇者だけなら、殺せる状況を作ろうと。
障害となるのは主に三つ。
魔王城の周囲に蔓延る魔獣たち、これは自分でなくても実力者たちが集まれば対抗できる。勇者パーティーの逃げ道も確保できる。
魔力補充のない魔王本体の強さ。これはSランク一人の方が上だ。勇者パーティーが全員でかかればなんとかなる。
一番厄介なのは……十万の魔人で構成された魔王軍だった。Aランク冒険者でも戦えない魔人がうようよいる。Sランク以外に対処できない。
だから多くの人間が力を結集して侵攻した最終決戦のとき、アベルが何をしたかといえば。
『魔王軍が秘密裏に隠れて迎え撃とうと集まってたところにカチコミかけてな、足止めしていたのさ』
その言葉には、勇者パーティーどころか国王ランデッドすらも、驚きの声を上げていた。
『最終決戦のとき、魔人がほとんどいなかったんじゃないか? それは勇者を殺すために、誘いをかけてたんだよ』
それは……事実だった。
魔王軍がいない、魔人が少ないと判断したからこそ決戦のきっかけとなったのだ。
それが隠れていて、自分たちを迎え撃つつもりだった?
魔王軍というのは通称であり、軍とは名ばかり統率も取れていない魔人の集まりではあるが、十万もの強力な兵力があった。
上位の魔人は勇者パーティーでもなんとか戦えるというほどの強さであり、魔人は地道に各個撃破して数を減らしていくしかない……そう思われていた。
『あれ、何人か他のSランクにも頼み込んでちょっと手伝ってもらったりはしたけど……ほぼ俺一人で足止めしてたのさ』
Sランクとの交渉には非常に難儀したものの……それぞれ一撃だけ魔王軍に放ってもらい、魔人たちは半壊。
いざという時の自分の回収も頼み、アベルはそこに突撃して残存戦力を相手に大立ち回りをしたのだった。
『おかげで大怪我して、ちょっと寝込む羽目になったんだよな……まぁ、そのおかげであの現場に鉢合わせたとも言えるか』
そんなことを苦笑しながら語るアベルだったが――まったく意味が、わからなかった。
だが一つわかることがある。
アベルがいなければ、最終決戦は勝つことができなかったのだ。
「俺の、おかげで……俺の、俺の偉業なのにぃ……?」
「アベル……え? なんでそんなに強くなってるのよ、なんで……嘘」
「俺達は、そこまで……まるでおんぶに抱っこじゃないか……ッ!」
「そんな……これでは彼こそが、立役者ではないか。我々はどう報いれば――!」
(あわばばば――やはりアベル様凄すぎ桁違いすぎませんかヤバ――)
一部、無表情で崩壊しそうな聖女を除いて。
国王ランデッドも含め、一堂が驚愕を見せる。
『納得してくれたかな。それに、恐ろしく高価なもの送りつけてるんだから、金は妥当……かなぁ、えっ普通……? ――妥当だろう。例えば、《勇者》の専用装備で、古代遺跡に眠っていた勇者の鎧とか?』
「俺の、鎧……?」
初代 《勇者》。遠い過去の異世界人が使ったとされる鎧は、《勇者》のジョブと合わさることで殆どの攻撃を防ぎきれる力がある。ゲームならば、ほぼお助け装備。
アレのおかげで生き残れたと言ってもいい。
『そ、そういえば……二人のものじゃないけど、伝説の古代ドワーフが作った盾、『絶華』も俺が見つけて送ったものだし――』
「……自分の、盾もだったのか」
アッドの使っている盾は魔法が込められた『魔盾』。
とても珍しい「周囲を庇い守る」ことのできるジョブ《聖騎士》の力を引き上げるものだった。
パーティーが今も生き残っているのはその盾のおかげに他ならない。
『それからあの頑固な軍事国家から兵を出して貰ったのも、俺が皇帝と交渉したんだ。
――あと、旅の途中で立ち塞がっていた『吸血鬼』の《始祖》。アレも俺が戦ってどかしたから少し早く進めただろ?
――それから全国各地の非常事態案件。Aランク魔獣やSランク魔獣の討伐とか、スタンピードとか、『龍』が暴れ回ってたのも止めたし……。
魔王城の結界を壊すためのアイテムとか集めたのも俺だし、あとは――』
などなど。
次から次へと出てくる、勇者パーティーを助けるエピソード。
勇者パーティーは謁見することすら拒否された軍事国家の皇帝が、急に兵を出してくれたことも。
北の大地に踏み込むときに自分たちを立ち止まらせた、魔王よりも強いと思えた恐ろしい《始祖》が、今度こそと挑戦しに行ったらいなかったことも。
各地で魔王軍や魔獣が起こす事件に駆り出され、満足に休息も修行もできなかったのが急に少なくなったことも。
……まさか、それが全てアベルの活動のおかげだったとは。
ユートは確かに魔王を倒していた。
だがそれは……本来やるべきことを、全てアベルが肩代わりした、非常にショートカットした結果だったのだ。
『そういえば。賠償金についてだけど、二人からの支払い以外は認めない。――国や仲間からの援助とかな、そこは蒼天教が見てるから。でも賠償金は無理にとは言わないよ。制裁を解除しなくてもいいなら、無視してくれても構わない。支払い以外なら国や仲間に頼っていいし。生きるだけなら、どうにでもなるだろ』
『あとはまぁ……最終決戦の足止めの時、四割くらいの魔人をぶっ殺した覚えがあるんだけど、まだ六割くらい残ってるから、頑張ってくれ』
突き放すようにアベルの表情はどこか悲しげに、だが安堵に包まれたような表情をしていた。
『――俺はこれから、自分の幸せのために生きる。とりあえずは、傷心旅行ってとこか。だから――もう、関わらないで欲しい』
生涯を誓い合った元恋人、そうでなくとも救ってくれた幼馴染との別れ。
思うところはあるのだろう。しかし、それを選択させたのは、ミリアだ。
地面に零れた水は元に戻らない。過ぎ去った過去に戻ることはできないのだから。
『俺からは以上だ。これからは互いに頑張って――』
『――おっとぉ! アベルは終わっても、ボクたちが言いたいことあるんだよね!』
『あら、行くの? ならわたしも〜』
『そういうことならっ!』
そうして、アベルが締めに入ろうとしたときだ。
高い快活とした声が映像外から乱入し、声ばかりか姿までも映り込んでくる。
後ろだけ尻尾のように長く伸ばした短い金髪の、細くしなやかなモデル体型の美女。
一人だけではない。
豊満な胸とヒップ。暴力的なスタイルを持つ、瓜二つの外見をした紫髪の美女が二人。緩やかなウェーブがかかった髪と、さらさらとまっすぐに伸びる髪を揺らして現れる。
ミリアにとっては既知の同業。たまにパーティーも組むほど仲がよく、色々な意味でライバルだった女性たち。
「え……エルミー!? フレイに、マリアまで、なんで!?」
三人の登場にミリアは混乱に陥るが、記録映像は待ってくれない。
『三年前まではボクたちが付け入る隙も無かったけれど――ミリアが離したんだから、もういいよね!?』
頬を染めながらもぎゅっとアベルの右腕に抱きつき、目を見開いてこちらを睨みつけるエルミー。
その……女の顔は、彼女の気持ちをよく表していた。
『オイタをしすぎよミリアちゃん。この三年間で貴女にどんな変化があったのかわからないけれど……いい変化じゃなかったのは、お姉さん残念だわ』
『こんなにいい男を逃がすなんて勿体ないことするんだね。まぁあたしたちにとってはすっごく都合がいいから、ありがたいんだけど!』
後ろから首に腕を回して抱きつき、かたや空いている手を絡めるように握る、蠱惑的なフレイにマリア。
『あの、三人とも? ちょっ、なにこれ原稿に無――』
唯一、当の本人だけが困惑しているようだったが……彼を囲む女たちの目は真剣そのもの。
そして、エルミーが決意を込めた視線をこちらに向けてきた。
『恋人を自殺寸前まで追い詰めるようなクソ女は、もう友達と思わない。せいぜい関係ないところで悔しがってるといいよ。――アベルは、ボクたちが貰うからっ!』
ブツンッ――。
金髪の女の宣言を最後に、記録映像は途切れたのだった。
「はぁ……? はぁああ!? なによあの……ッ! あのッ、泥棒猫ども! 昔っから私のアベルに色目使って! 友達だと思ってたから大目に見てたのに! あいつらが唆したのね!?」
映像が切れた途端……わけがわからず混乱していたミリアが爆発した。
「わたしが取られるなんて……! そんなの認めない、アベルは私のよっ!」
――直接でなくとも遠見水晶でも、対面しなかったのは正解だったのだろう。
誠意を見せてほしい。そんなアベルの声を届けられたにも関わらず――
「俺を、こんな目に遭わせといて……ッ! 自分はあんな美人を囲ってるだと……!? 許せねぇ……! ぶっ殺してやる……!!!」
二人に反省の色は見えなかった。
特にこの様子では実力行使にでも出かねないほど怒る勇者だったが、その目論見は一日もせずに自信と共に打ち砕かれた。
・ ・ ・ ・ ・
その日の夕方、カーヘルでのスタンピードが、あの件以降だんまりだったギルドニュースの記事に載った。
見出しは『一万もの大規模スタンピード。打ち砕いたSランク冒険者|《四剣》のアベル、英雄たるその戦いを見せる』。
一万もの魔獣を相手に圧倒したという内容の記事と共に、遠見水晶が置かれているギルドにはとんでもない映像が流されていた。
誰が撮ったか、一万もの魔獣に迫られながらも圧倒し、逆に蹂躙する《四剣》の姿である。
映されたのは遠くからもわかる狂気的な笑みを見せ、隔絶した強者のオーラを迸らせる――地の果てまで斬り伏せる頂点の一角。
元からSランクを畏怖し、前回の記事に眉をひそめていた者も。「勇者に恋人を寝取られた間抜け」と笑っていた者も、総じて口を閉じた。
この記録映像を見た者全てが、改めてSランクの強さと、恐ろしさを思い知ったのだった。
勇者は正規ルートを辿っていたつもり。
こんなに早く魔王討伐できる俺TUEEEE!!! SUGEEEE!!!と輪をかけて増長してました。
でもキーアイテム集めも金策も、キークエ(おつかい、運搬、チェーンクエ)もやってくれるチートモブがいたら、そりゃクリアも早くなります。
本来はもっと時間をかけて、強くなってアイテム集めて魔王軍削って……で倒していたはず。
でも早くクリアしてほしかった奴が選んだのは、自らが二重の意味でチートになることでした。
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