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魔王の目覚めを妨げるもの

作者: ありま氷炎
掲載日:2024/01/25

 僕は人間と獣人の間に生まれた。

 母は兎の獣人だった。

 獣人と言っても、ただ耳が人間のものと違って兎みたいに長くて、丸い尻尾が生えているだけだ。

 僕たちは森の中で静かに暮らしていた。

 でもある日、人間に見つかった。

 その人間は、父だった。

 人間が集まる村というところに連れて行かれて暮らしたけど、最悪だった。

 人間は自分達と異なる僕たちを受け入れてくれなかった。

 汚物や石を投げつけられたり、罵声はいつものこと。

 父が必死に村人を説得しようとしたけれども無駄だった。

 父は泣いて僕たちに謝り、森に帰ることになった。

 けれども、僕たちは森には帰れなかった。

 村人が僕たちを追って来た。

 最初に僕らを庇った父が殺され、次に僕たち。

 長い耳は切り取られ、殴られた。母と妹が息をしなくなり、最後は僕だけになった。

 殺してやる、こいつら全員殺してやる。

 殴られても、殴られてもその執念が僕を生かし、そして遂に力を得た。


 僕は魔王になった。

 手始めに村人を一人残らず殺して、次に全ての人間を駆逐するため、魔物を生み出した。

 人間に恨みをもった生き物は多く、僕は自分の中に溜まった瘴気をそれらに与え、魔物に変えた。

 そうして僕、魔王によって、人間は一人残らず滅ぼされた。


「魔王の物語はこれでおしまい」

「終わり?それ終わりなの?可哀想だよ」

「可哀想って、人間が?」

「魔王だよ。きっと復讐を遂げても悲しかったはずだよ。だって何も変わらないんだもん」

「そうだね。そう、復讐しても何も変わらない」


 そう言って僕は息子の頭を撫でる。


 僕は、結局魔王にはならなかった。

 森に逃げようとした僕たちに村人が襲いかかってきた時、ある少女が僕たちの前に飛び出したんだ。

 それは村の少女だった。

 震えながらも少女は果敢に僕たちの前に立ち、村人に向かって叫んだ。


「ここから先は通さない。絶対に。暴力を振るなんて間違っている!」

「お前、その獣たちの味方をするのか?それじゃあ、お仲間だなあ。一緒に殺してやる!」


 襲ってきた奴の一人がそう叫ぶと、後方から声がした。


「もう我慢ならねぇ!ここで黙っていたら、俺らは畜生以下だ。そいつらが何をしたんだ。襲うのは間違っている!」


 松明を持ち、数人の村の人間が集まっていた。


「お前、裏切るのか?お前たちも、この獣たちから何かもらったのか?」

「オイギル!馬鹿なことはやめろ!彼らが森に帰るだけだ。それを邪魔してどうするんだ!」

「こいつらの存在がゆるせねぇ!」

「それじゃあ、俺はお前らの存在がゆるせねぇなあ!」


 村人たちが争い始めた。


「ご、ごめんなさい。ずっと何もしなくて。村から追い出すようなことになってごめんなさい」


 震えていた少女がこちらを振り返り、泣きながら謝ってきた。

 謝まられる理由がわからなかった。


「いいんだ。ステラ。来てくれただけで十分だ」


 父が僕たちの代わりにそう答え、僕たちは村人が争っているうちに森に逃げ込んだ。

 後から少女のごめんなさいという言葉がずっと聞こえていた。


 森に帰り、僕たちの生活は元の平和なものになった。

 父は村に戻るのかと思ったけど、僕達と暮らすことにしたようだ。

 父は森を少しだけ拓いて、畑を作った。

 家の近くで野菜が取れるのは楽で、それは助かった。

 何年かたって、ある日、人間が現れた。

 それはあの時の少女だった。

 全然雰囲気が変わっていて、びっくりした。

 背は僕と一緒くらいだったけど、なんだかガッチリした体型になっていた。父に比べるとほっそりだけど。

 母の血を強く受け継いだ僕と妹は、ほっそりした体をしているから。


「会いたかった!もう絶対にあんなことにならないように、私は体を鍛えたの!何があってもあなたたちを守るから!」


 何を言っているんだろう?


「ステラ。いったい、どういう意味だ?」

「叔父さん。私をこちらに置いてください。料理から洗濯、狩りも、畑仕事も、殺しも全部できます」


 殺し?


「ステラ、何があったんだ。いったい」

「私、あの時、叔父さんたちが虐められるのをただ見ることしかできなかった。弱かったから。だから、強くなろうと思ったの。今の私は、多分叔父さんよりも数倍強いよ。だから、置いてください」

「いやいや、村に帰りなさい」

「嫌です!この日のために、私は頑張ってきたんですから!」


 ステラ?っていうんだっけ。

 この人間。

 なんでそんなに必死になんだろう?


「あの、私、ステラって言います!一目惚れしたんです!あなたのことは一生をかけて守ります!子供の時のように黙って見ていることなんで絶対にしない。だから、結婚してください!」

「え?」

「ステラ!」

「まあ」

「お兄ちゃん、モテモテ」


 ……結婚って、あれだよね。

 子作りってこと?

 まあ、僕もそういう年齢だし。

 だけどなあ。人間っていうのは。


「私なんでもします!まずはお試しから」

「ステラ、何を言っているんだ。村に帰りなさい」

「叔父さん、村には帰りません。絶対に!村から誰か来たら返り討ちにしますからご安心ください」

「ステラ、いったい、お前は何をしてきたんだ」

「まあ、いいじゃないの?そろそろ、繁殖の時期だと思ってたし」

「姉ちゃんができるの嬉しい!」


 父と僕の意志は関係なく、彼女が一緒に住むことは決定したようだ。

 そうして一緒に住むうちに、まあ、僕も雄だったわけで子どもが出来てしまった。そうしてしばらくして僕は夢を見るようになってしまった。

 僕と妹、子ども達が人間に襲われる夢を。そして僕が闇に落ち、魔王になる夢を。復讐に明け暮れ、何も残らない日々。

 泣きながら目覚めると隣で寝る彼女の温もりに僕は救われる。

 あの時が彼女があいつらの前に立ち塞がってくれたから、僕らは彼らは救われた。

 あの時の話をする時、彼女はひたすら謝る。

 もっと早く行動してくれたら、そう思わない事はない。だけど、最後の最後に勇気を振り絞り、僕らの前に立ってくれた事、それだけで僕らは救われたのだ。

 こうして今は彼女は僕の側にずっといてくれる。ゴツゴツしてしまった手の平、日に焼けてしまった肌。硬く筋肉に包まれた体。僕の為に彼女はここまでしてくれた。

 遅くないよ。

 来てくれてありがとう。

 そう言うと彼女は少し申し訳なさそうに笑う。

 そんな事ないのに。

 君の勇気はきっと世界を救ったというのに。


 今日も魔王の寝息が何処からか聞こえてくる。

 どうか彼が起きませんように。

 誰かの勇気ある行動で、きっと今日も世界は救われている。

 魔王の目覚めを妨げるもの、それはきっと勇気ある行動だ。


(END)


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「村から誰か来たら返り討ちにしますからご安心ください」と自信満々に言ってのけるステラさん、格好いいです。彼女に「遅くないよ」と言ってあげられる主人公も素敵ですね。
[一言] うん。これぞ「勇気」ですね。
[良い点] うーん、ふかいぃ
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