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魔王の目覚めを妨げるもの

作者: ありま氷炎

 僕は人間と獣人の間に生まれた。

 母は兎の獣人だった。

 獣人と言っても、ただ耳が人間のものと違って兎みたいに長くて、丸い尻尾が生えているだけだ。

 僕たちは森の中で静かに暮らしていた。

 でもある日、人間に見つかった。

 その人間は、父だった。

 人間が集まる村というところに連れて行かれて暮らしたけど、最悪だった。

 人間は自分達と異なる僕たちを受け入れてくれなかった。

 汚物や石を投げつけられたり、罵声はいつものこと。

 父が必死に村人を説得しようとしたけれども無駄だった。

 父は泣いて僕たちに謝り、森に帰ることになった。

 けれども、僕たちは森には帰れなかった。

 村人が僕たちを追って来た。

 最初に僕らを庇った父が殺され、次に僕たち。

 長い耳は切り取られ、殴られた。母と妹が息をしなくなり、最後は僕だけになった。

 殺してやる、こいつら全員殺してやる。

 殴られても、殴られてもその執念が僕を生かし、そして遂に力を得た。


 僕は魔王になった。

 手始めに村人を一人残らず殺して、次に全ての人間を駆逐するため、魔物を生み出した。

 人間に恨みをもった生き物は多く、僕は自分の中に溜まった瘴気をそれらに与え、魔物に変えた。

 そうして僕、魔王によって、人間は一人残らず滅ぼされた。


「魔王の物語はこれでおしまい」

「終わり?それ終わりなの?可哀想だよ」

「可哀想って、人間が?」

「魔王だよ。きっと復讐を遂げても悲しかったはずだよ。だって何も変わらないんだもん」

「そうだね。そう、復讐しても何も変わらない」


 そう言って僕は息子の頭を撫でる。


 僕は、結局魔王にはならなかった。

 森に逃げようとした僕たちに村人が襲いかかってきた時、ある少女が僕たちの前に飛び出したんだ。

 それは村の少女だった。

 震えながらも少女は果敢に僕たちの前に立ち、村人に向かって叫んだ。


「ここから先は通さない。絶対に。暴力を振るなんて間違っている!」

「お前、その獣たちの味方をするのか?それじゃあ、お仲間だなあ。一緒に殺してやる!」


 襲ってきた奴の一人がそう叫ぶと、後方から声がした。


「もう我慢ならねぇ!ここで黙っていたら、俺らは畜生以下だ。そいつらが何をしたんだ。襲うのは間違っている!」


 松明を持ち、数人の村の人間が集まっていた。


「お前、裏切るのか?お前たちも、この獣たちから何かもらったのか?」

「オイギル!馬鹿なことはやめろ!彼らが森に帰るだけだ。それを邪魔してどうするんだ!」

「こいつらの存在がゆるせねぇ!」

「それじゃあ、俺はお前らの存在がゆるせねぇなあ!」


 村人たちが争い始めた。


「ご、ごめんなさい。ずっと何もしなくて。村から追い出すようなことになってごめんなさい」


 震えていた少女がこちらを振り返り、泣きながら謝ってきた。

 謝まられる理由がわからなかった。


「いいんだ。ステラ。来てくれただけで十分だ」


 父が僕たちの代わりにそう答え、僕たちは村人が争っているうちに森に逃げ込んだ。

 後から少女のごめんなさいという言葉がずっと聞こえていた。


 森に帰り、僕たちの生活は元の平和なものになった。

 父は村に戻るのかと思ったけど、僕達と暮らすことにしたようだ。

 父は森を少しだけ拓いて、畑を作った。

 家の近くで野菜が取れるのは楽で、それは助かった。

 何年かたって、ある日、人間が現れた。

 それはあの時の少女だった。

 全然雰囲気が変わっていて、びっくりした。

 背は僕と一緒くらいだったけど、なんだかガッチリした体型になっていた。父に比べるとほっそりだけど。

 母の血を強く受け継いだ僕と妹は、ほっそりした体をしているから。


「会いたかった!もう絶対にあんなことにならないように、私は体を鍛えたの!何があってもあなたたちを守るから!」


 何を言っているんだろう?


「ステラ。いったい、どういう意味だ?」

「叔父さん。私をこちらに置いてください。料理から洗濯、狩りも、畑仕事も、殺しも全部できます」


 殺し?


「ステラ、何があったんだ。いったい」

「私、あの時、叔父さんたちが虐められるのをただ見ることしかできなかった。弱かったから。だから、強くなろうと思ったの。今の私は、多分叔父さんよりも数倍強いよ。だから、置いてください」

「いやいや、村に帰りなさい」

「嫌です!この日のために、私は頑張ってきたんですから!」


 ステラ?っていうんだっけ。

 この人間。

 なんでそんなに必死になんだろう?


「あの、私、ステラって言います!一目惚れしたんです!あなたのことは一生をかけて守ります!子供の時のように黙って見ていることなんで絶対にしない。だから、結婚してください!」

「え?」

「ステラ!」

「まあ」

「お兄ちゃん、モテモテ」


 ……結婚って、あれだよね。

 子作りってこと?

 まあ、僕もそういう年齢だし。

 だけどなあ。人間っていうのは。


「私なんでもします!まずはお試しから」

「ステラ、何を言っているんだ。村に帰りなさい」

「叔父さん、村には帰りません。絶対に!村から誰か来たら返り討ちにしますからご安心ください」

「ステラ、いったい、お前は何をしてきたんだ」

「まあ、いいじゃないの?そろそろ、繁殖の時期だと思ってたし」

「姉ちゃんができるの嬉しい!」


 父と僕の意志は関係なく、彼女が一緒に住むことは決定したようだ。

 そうして一緒に住むうちに、まあ、僕も雄だったわけで子どもが出来てしまった。そうしてしばらくして僕は夢を見るようになってしまった。

 僕と妹、子ども達が人間に襲われる夢を。そして僕が闇に落ち、魔王になる夢を。復讐に明け暮れ、何も残らない日々。

 泣きながら目覚めると隣で寝る彼女の温もりに僕は救われる。

 あの時が彼女があいつらの前に立ち塞がってくれたから、僕らは彼らは救われた。

 あの時の話をする時、彼女はひたすら謝る。

 もっと早く行動してくれたら、そう思わない事はない。だけど、最後の最後に勇気を振り絞り、僕らの前に立ってくれた事、それだけで僕らは救われたのだ。

 こうして今は彼女は僕の側にずっといてくれる。ゴツゴツしてしまった手の平、日に焼けてしまった肌。硬く筋肉に包まれた体。僕の為に彼女はここまでしてくれた。

 遅くないよ。

 来てくれてありがとう。

 そう言うと彼女は少し申し訳なさそうに笑う。

 そんな事ないのに。

 君の勇気はきっと世界を救ったというのに。


 今日も魔王の寝息が何処からか聞こえてくる。

 どうか彼が起きませんように。

 誰かの勇気ある行動で、きっと今日も世界は救われている。

 魔王の目覚めを妨げるもの、それはきっと勇気ある行動だ。


(END)


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「村から誰か来たら返り討ちにしますからご安心ください」と自信満々に言ってのけるステラさん、格好いいです。彼女に「遅くないよ」と言ってあげられる主人公も素敵ですね。
[一言] うん。これぞ「勇気」ですね。
[良い点] うーん、ふかいぃ
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