どうしたら、私、殺されずにすみますかねー?
「とりあえず、どうしたら、私、殺されずにすみますかねー?」
神様がなにもしてくれそうにないので、ヒナは彼の前で、いろいろと考えてみる。
「そうだ。
雨だーっと叫びながら、このわずかな水を汲んで、空からまくとかっ」
淵の水たまりを見ながら、ヒナは木に登り、畑に向かってそれをまく自分をところを想像する。
「私が干上がるわ!
今は、このわずかな水にすがって生きておるのだぞ!」
「もしや、龍神様。
水がないと、雨を降らせるほどのチカラが出ないとか?
なんか本末転倒ではないですか?」
「お前は、ほんとうに無礼だな。
単に眠りから目覚めてあまり経っておらぬので、まだチカラは振るえぬと言っておるだけじゃ。
まあ、チカラさえ溜まれば、腕試しに村に雨を降らせてやってもよいのだが」
「あ、ありがとうございますっ。
このお礼は必ずやっ」
「気にするな」
「巫女もイケニエも嫁もいらぬのなら、小間使いにでもなりましょう」
「……ほんとうに気にするな」
かえって面倒くさそうだから、と龍神様は言う。
「そのチカラが溜まるまで、どのくらいかかるんですか?」
「そうだな。
もう結構溜まっては来たから、あと十四日くらいだろうかな」
「その間に、私、イケニエにされますよね……。
それとも、龍神様、私が殺されそうになったら、助けてくださいますか?」
「だから、十四日間はそのようなチカラはないと」
「なんという役た……」
「お前、今、私に向かって、役立たずと言おうとしただろう」
いえいえ、とヒナは苦笑いする。
だが、そこで、ふと、気がついたように龍神様が言った。
「そういえば、空なら飛べるな」
「えっ?
チカラ使えるじゃないですかっ」
「莫迦め。
私が空を飛ぶのは人間が歩くのと変わらぬ」
「神通力みたいなので飛んでるわけではないのですね。
そういえば、地面を歩いてる龍神様って聞いたことないですね。
龍神様の絵、大抵、足がありますけど」
まあ、この龍神様、人型なので、どのみち、足はあるのだが……。
「あっ、そういえば、最近は、飛行機とかいう、空飛ぶ乗り物があるそうですよ。
私はまだ見たことがないのですが。
飛んだり降りたりするときに、足を使うとか」
「お前、そんな訳のわからぬものと私を一緒にするな……。
待てよ。
そういえば、眠る前にも、空飛ぶ乗り物を見たな。
大きくて、こんな感じの」
と龍神様は手で楕円を作ってみせる。
「あ~、それは飛行船の方ですかね?」
「なんだ。
人間も空を飛べるのではないか。
じゃあ、それを借りてこい」
と龍神様は言い出す。
「水汲んで、それ乗って、空から畑に向かってまけ」
「いや……そんな金があるのなら、遠方の水買って、人雇って、村に運んでもらいます」
ヒナは龍神の足元にある、頼りない量の水を見た。
「今は、その水に依存して、存在してらっしゃるのですよね?」
「……そうだが?」
とこの人間味あふれる(?)神様は喧嘩腰に訊いてくる。
「じゃあ、私がこの水を村に持ってって、木の上から畑にまいたら、龍神様も一緒に移動するんですかね?」
「……わからぬが。
いきなり龍が畑に降って来たら、雨が降らない以上の大惨事だろうよ」
仕方ない、と龍神様はため息をついて言う。
「お前を背負って空を飛ぼう。
何処かで水を見つけたら、それを桶にでも汲んで、空から村人のいる畑にまけ。
雨だと言い張れば、死なずにすむかもしれん。
代わりに、私を祀って信仰しろよ」
人の祈りが私のチカラになるから、と言う。
「はいっ。
ありがとうございますっ」
とヒナは喜んだ。