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姉の身代わりで、イケニエにされてしまいました

 

 その年は梅雨になっても村に雨が降らず。


 森も田畑もカラカラに乾いてしまっていた。


 村の神様と言われるヌシ様が住む淵には、さすがにまだ水が残っていたが。


 量は限りなく少なく。


 また、そこから、田畑に水を引こうにも距離がありすぎた。


 星の美しい夜。


 困り果てた村人たちは長老の家に集まった。


 座敷の上座に座る、淵のヌシ様の巫女、シノに向かい、長老が言う。


「シノよ。

 お前が人柱となり、この地に雨を降らすのだ」


 文明開化の光も届かぬ田舎では、まだ、村人たちはイニシエの因習に囚われたままだった。


 村人たちが口々に言う。


「そうだ。

 そのために、今までお前を大事に扱ってきたのだから」


 シノはおもむろに髪飾りを外した。


 丁寧な細工の(ほどこ)された、洋髪にも使える造りの貴重な鼈甲(べっこう)の髪飾りだ。


 隣村のまた、その隣村から手に入れてきたという、透けるような見事な布で作られた巫女の上衣も脱ぐ。


 ササッと衣を畳んだシノは両手をつき、頭を下げて言った。


「実は、私にはもう、巫女のチカラはございません」


 なんとっ? と長老たちが声を上げる。


 赤みがかった不思議な色の髪が映える、美しい顔を上げ、シノは言う。


「きっと、私の力は移ったのですわ。


 ――我が妹に」


 シノはこの村で唯一、農作業をしたことのない、白く美しい手で、妹のヒナを示した。


 いやいやいやっ。

 あなた、いつも、母の連れ子の私は家族じゃない。


 赤の他人だとか言っているではないですかっ!


 なんで突然、血のつながりもない私にあなたのチカラが移動するんですかっ?


 村人たちの末席に、ちんまり座っていたヒナは後ずさる。


 だが、長年、みなに(かしず)かれてきた姉は説得力のある言葉で語りつづけた。


「私は気づいていました。

 ヒナこそが真の巫女です。


 その証拠に、ヒナには明日の天気が読めますし」


 おお、確かに、とみながどよめく。


 いやいやいやっ。

 それは単に西の空の具合を見てるだけですよっ!


 昔、お父さんに天気の見方を習ったからっ。


 ヒナの実の父は漁師だった。


 だが、お父さんに習ったんで、とは、そこそこ良くしてくれている義理の父の前では言いづらい。


 ヒナは救いを求めて、義父を見たが。


 洋装をまとったら似合いそうな、苦み走った男前の義父は、うむ、と深く頷き、


「一理ある」

と言い出した。


 ないですっ。


「確かに。

 ヒナは淵の巫女様かもしれん」


 お義父さま~っ?


 あなた、単に実の娘をイケニエにしたくないだけではっ?

と睨んでみたが。


 義父は、娘を差し出せと言われて、衝撃を受けている美しき妻を、


「ヒナは賢い娘だ。

 なんとかするだろう」

とかなんかと適当なことを言い、なぐさめていた。 



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