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慣れた試合


キーンコーンカーンコーン………


「ごちそーさまでした。」

『ごちそーさまでした。』


うちの学年は運動が大好きで、


ガタ ガタガタ……


1つ、熱中している遊びがある。

それは…


「今度こそ負けねーから!」

「ぷぷぷ…前の試合じゃキミらボロ負けだったのにぃ?」

「あれはナカTの授業が長引いたからだろ?」

「でも試合は試合だ。」

「だから今度は負けないって言ってんだよ!」


ドッジボール。

遊びと言うか試合の方が合ってる気がする。

休み時間になったら一斉に体育館に出向く。

それが嫌であっても強制連行される。

とにかく、本気なんだよ。

俺はそんなに好きじゃないんだけど……


「か〜ける!」

「っ!……なんだ、直登(なおと)か」

こいつは2組の大柳直登(おおやぎなおと)

小学校が一緒だったのでほぼ唯一会話が弾む奴だ。


「………………で、なに?」

翔月(かける)ってさ、いっつも学ランでさ、動きにくくないの?」

「いや、全然。大丈夫。」

「そ〜なんだ〜。ま、絶滅危惧種の制服民は保護しないとね。」

「保護って……皆が制服着ればいいだけだろ?」

「いやいやいや〜そんなの無理に決まってんじゃん」

「なんでだよ…」

「だって、俺たちにはドッジボールがあるからさ。」

「制服なんて着てられねーんだよ。」

「ふーん……」

「あ、今ぜったい翔月興味失せたな!?」

「いや……ソンナコトナイヨ……」

「カタコトになってんぞ…翔月……」

「………で、何の話だっけ?」

「やっぱり興味ないんじゃんか!」

「うん。」

「そこは否定しろよ〜!」

………………やっぱり訂正。

面倒くさい。会話なんて弾まん。


なんやかんやで、体育館についた。

既に隼人(はやと)伸太郎(しんたろう)がいた。

ドッジボールになると、出しゃばってくるのは晴希(はるき)だ。

「おせーよ晴希!」

「ごめんごめん。」

「今日の相手どこだったっけ?隼人覚えてる?」

「確か〜………2組かな?」

「さっすが隼人!」


「よーし、やるぞー」


今日は確か2組との対戦だった気がする。

「翔月は今日どこと対戦?」

「お前んとこだよ。」

「マジ!?ぜって〜お前ボコボコにしてやる〜!」

「貴重なセイフクミンに攻撃するのか?」

「都合のいいときにだけ制服アピールすんじゃねーよ。」

「保護しないとねって言ったのは直登だろ?」

「それとこれとは訳が違う!」

「へー…」

「また興味失せたな!」

「うん。」

「だから否定しろって!」


そんな感じで直人と話してると、

2組の中堂真太(なかどうまなた)が「試合やるぞ〜!」って言ってきた。


前半チームと後半チームに別れた。

俺は後半チームだ。直登も後半だ。

……余程俺を潰したいらしい。


そそくさと2組の柚子(ゆずこ)と、3組の亜希(あき)がドッジボールを仕切りだした。

《えーっと、これから1組対2組と、3組対4組の試合を開始ししま〜す!》

《ステージ側が1,2組で、入口側が3,4組です!》

《試合時間は3分間です!》

《それでは、よ〜い………》

《《スタート!!!》》


始まった。


「2組いけ〜!1組なんてぶっ潰せ〜!」

隣の直登がうるさいが、まぁいい。

ジャンプボールは2組が取ったらしい。


暫くすると、伸太郎がボール取って、2組の女子に当てた。

「しゃぁっ!」

「クソっ、結構持ってかれたか。」

「一箇所に固まってるからそ~なるんだよ!」

「伸太郎ひっど!」


「あ〜!何やってんだよぉ〜!」

直登が更にうるさくなった。


更に1組の戦況は良くなっていったが、

残り一分になったときにガラリと変わった。

《残り一分なのでボール一個追加しまーす!》

…うちの学年だけの特別ルール。

残り一分のボール追加。

まさに混乱の元である。

「よしっ!2組いけ〜!」


「うわ!危な!」

「あ………当たった」


次から次へと1組の面々が外野に強制送還される。

2組はボールが2個のときに強いのだ。


「やばい…やばいぞ!」

「キャァァ!」

「……いちいちうるせーな」


「よしよしっ!2組いいぞ!」

「直登、うるさい。」

「ちょっとぐらいい〜だろぉ?」

「ちょっとじゃない。だいぶうるさい。」

「翔月のケチ!」

「ケチじゃない。」

「そこは否定するんだな…」

「てか、翔月は焦んないのかよ。自分のクラス負けそーなのに。」

「別に。」

「冷たいなぁ。」

「ガンバレー。イケルゾー。」

「感情がないんだよ!お前は!カタコトだったぞ!」

「興味ないからしょうがない。」


実際、俺はドッジボールが好きじゃない。

ただの遊びなのに。

ふとタイマーを見ると、もうすぐで試合が終わりそうだった。

《さーん!にぃ〜!い〜〜ちっ!ゼロ〜!》

《試合終了〜〜!》

《内野の人は座ってくださ〜い!》

《外野の人は集まってくださ〜い!》


ザワザワ ザワザワ ザワザワ


暫らくして、柚子がマイクを取り、結果を発表し始めた。

《え〜っと、前半ステージ側は2組が、入口側は3組の勝利です~!》


「いえ〜い!」

「いやっふぅ〜!」


「くっそ〜!」


「やった!2組の勝ちぃぃ!」

「直登うるさい。」

「なんだよ〜、あ、もしかして、一組が負けたから悔しいのか?」

「そんなの興味ない。」

「デスヨネー…」


ダラダラと負け犬(1組の前半)達が帰ってきた。

次は俺らの試合なのでズルズルとコートの中へ歩く。


「あーあ」

「1組はエース使い切ったのかぁ〜?」

「くっそ…」

「ま、せいぜい頑張れ〜!1組後半〜!」


ドンッ!


「っ!」

下を向いて歩いていたため誰かにぶつかってしまった。

「いってぇなぁ!」

「す、すまん…」

「あぁ?こちとら負けてイライラしてんだよっ!」

……やばい。あの4組の赤城 将(あかぎ すすむ)だ……

こいつは確か学年で触れちゃいけないと言われている奴だ…

「……つ、次試合だからっ!」

「あ、おいっ!」

あまりの怖さに振り切って小走りした。


《もうすぐ後半戦始めますのでコースに入ってくださ〜い!》

「頑張ろうね。翔月くん。」

「!……あ、あぁ…」

急に話しかけてきたのは同じクラスの皆寺 碧(みなでら あおい)

皆寺くんは外野で活躍してくれるThe・優等生ってやつ。(ちなみにあいつも学ラン。同類だ。)

割と仲が良い。


《それでは3分間、よ〜い……》

《《スタート!!!!》》

始まった。

ジャンプボールはひょろ長い倉出 行夫(くらで ゆきお)のお陰でうまくいった。


目まぐるしくボールが行き交う。

「よし!」

「行け!」


「やばっ!」

「横横!」


どうやら1組の方が有利らしい。

今の状況は1組内野が9人、2組内野が6人となっていて、1組外野が外野同士でキャッチボールしているような状況だ。


……暫くして、2組がボールをキャッチした。

同じぐらいのときに、

《それでは、ボール追加しま〜す!》

ボールが追加された。

「っ!」

「キャッ!」

「やばいやばい」


「よし!」

「きたきたきたぁっ!」


……あっという間に1組内野は5人程度に減ってしまった。

そうこうしてたら、直登がボールを持った。

こっちを見ている直登が、

‹翔月、覚悟しろよ!›

と言っているような気がした。

直登がこっちにボールを投げた。

「キャッ!」

(……すまない)

大勢(と言っても、そんなにいない)の中に入り、盾になってもらった。


「よっ…と。」

ボールを手にした。

(直登、覚悟しろよ?)

俺はニヤリと笑い、直登に向けてボールを思いっきり投げてやった。

「あっ!翔月っ!」

「……ざまーみやがれ、直登。」

無事直登に当たった。

外野にまわった直登が「制服のくせに〜!」って悔しそうにしてた。

……そろそろやばい。内野3人は流石にキツイ。

しかも2組は7、8人ぐらいいる。

「そらっ!」

「えいっ!」


コロコロ……


(ラッキー)


「よいしょっ!」


俺はボールを隼人にまわした。

隼人は当てるのがうまいんだ。

「せんきゅー翔月!」

次から次へと、2組の面々が外野に送られていく。

元外野の隼人の活躍にはナイスとしか言いようがない。


ピピピピ!ピピピピ!

試合が終わった。

《内野の人は座って、外野の人は一箇所に集まってくださ〜い!》

「はぁ……はぁ…」

この試合、結構いい勝負だな。

《え〜っと……ステージ側は1組の勝利!入口側は引き分けです!》

「っクソ〜!」

「やった!」

「引き分けかよ〜!」

ちょっと不貞腐れた様子で直登がこちらに向かってきた。

「なぁ〜んで避けるんだよぉ〜!」

「ドッジボールなんだから当たり前だろ。」

「それに当てられるしぃ〜!」

「……ざまーみろ。」

「っ!……あ、あー悔しいー…」

「全然悔しそうに見えないぞ…」

「っ気のせいだ!」

「?……なんかお前変だぞ?」

「へ、変じゃね〜し!」

今日の直登はなんか変だった。


キーンコーンカーンコーン……

試合が終わった僕らはそそくさと帰っていく。

「あぁ!次数学じゃ〜ん!翔月なにやった〜?」

「確か利用だった気がする。」

「マジか〜………なぁ翔月、明日って大丈夫?」

「あぁ。いつものか?」

「そうそう!話が早くて助かるぜ〜!」

「俺ん家で。」

「はいはい…」

「てか翔月はさ、なんでそんなに頭いいの?俺だって塾行ってんのにさ~。」

「家でもやってる。」

「それができるとこからもう頭いいじゃん。」

「普通だと思うぞ。」

「普通じゃない〜!」

ギャンギャンと直登が叫ぶ。

うるさい。

「翔月くん!今日のプレー良かったよ!」

「っ!み、皆寺くんか…」

「びっくりした~!」

「そう?」

「ちょっとだけ…」

「そっか、ごめん。」

「……皆寺くん、近い。」

「……あぁ、ごめんよ。」

ニコッと笑って皆寺くんは足早にこの場を後にした。

後を追うかの如く俺等も歩くスピードを速めた。

皆寺くんの笑ったときの目は、笑ってなかった。

隙間から闇を見たかのようだった。

自分とは違う優等生という印象がそのように見せたのかも知れないが。


教室に着くと、急いで授業の準備をする。理科だ。

そうこうしてると、4組の遥歩(あゆむ)先生が入ってきた。


キーンコーンカーンコーン……

「日直さんお願いします。」

「気をつけー。」

『はーい。』

「よろしくお願いしまーす。」

『よろしくお願いしまーす。』

「今日の試合はどうでしたか?」

「後半勝ちましたよ。」

「前半はボロ負けでした~。」

「あら〜。相手は、何組でしたっけ?」

「えっと〜……2組でした~。」

「2組か……2組はボール2個の時が強いからね。」

「そうです。」

オープニングトークをしながら先生が出席確認をする。

隼人中心に、伸太郎なんかも会話に混じって、和気藹々な感じで聞いていて心地よかった。

会話も一区切りついたのか先生が、授業を進める。

「え〜っと、教科書45ページを開いてください。」

「確か、脊椎動物のどこまでやったはずですが…」

「途中のところまでやりました。」

「表作って終わりましたね。前回。」

「そこまでだったか。」

「プリント配って…」

「あ、そうだそうだ。プリント配ったんだ。」

「じゃあ、プリント出してくださーい。」

ガサゴソと、プリントを出す音が聞こえてくる。

「え〜っと、前回の続きで…」


「終わりまーす。」

『終わりまーす。』

サクサクと授業は進み、無事に終わった。

今日は5時間授業だからもう後に授業はない。

ザワザワと周りがうるさくなってきた。

のんびりと帰宅の準備を始める。

ふと廊下に目をやると、直登が立ってた。

「お~い!翔月ぅ〜!」

「直登?どうした?」

「今日一緒に帰ろ〜!」

「あぁ、構わない。」

「センキューな!」

「ほーい。」

相変らず直登はうるさいやつだ。

ぼちぼち帰りの準備を進めていると、今度は皆寺くんから話しかけられた。

「やぁ、翔月くん。今日一緒に帰れないかい?」

「あぁ、別に構わない。」

「ありがとう、翔月くん。」


呑気に待っていると、帰りの学活が始まった。

日直がダラダラと司会をし始める。


10分〜15分ぐらい経って、帰りの学活は終わった。

教室内がガヤガヤとうるさくなり始める。


嫌になるほど重いカバンを持って廊下に出る。

ジャンバーをのそのそと着ていると両肩から「帰ろ」どうした話しかけられた。直登と皆寺くんだ。

少しばかりびっくりした。

「あ、!あぁ。帰るか。」

「「……」」

「直登も一緒なの?」

「俺だけじゃなかったのかよ〜!」

「なんでもいいだろ……早く帰ろう。」

「そうだね。」


階段を早々と駆け降りて、下駄箱から靴の出し入れをし、乱暴に靴紐を結ぶ。

二人を待って、玄関から出る。


「あ、翔月、そういえばさ、明日のアレ、伸ちゃんと隼人も行きたいって言ってたんだけどさ、良い?」

「増えたな……まぁ、大丈夫だが。俺でいいのか?それこそ皆寺くんとかも入れてやれば…」

「えー!?」

「いいのかい?僕なんかが来たらきっとあいつも来るよ?」

「誰だ?」

美彩咲 河辻(みさざき かわず)。ほら、3組の。」

「あぁ、別に構わないが?」

「へ〜。じゃあ行こうかな?」

「ちょっ……じゃ、じゃあ!図書館でやろ?うちに6人も呼べないから。」

「南図書館か?」

「そうそう!」

「別に問題はない。」

「僕も大丈夫さ。」

「OK!伸ちゃんたちにも言っとくね~。」

河辻か…… 

幼馴染だけど学校では関わってないし、独特の雰囲気があって、よくわからない。塾ではよく関わってくるけど。


「そういえば翔月ってさ、いっつも思ってたんだけどさ、なんか小洒落た格好してるよな~。」

「そうか?普通だと思うぞ?」

「いやいやいや〜。あれは普通じゃない。」

「どんな格好してるの?」

「黒い帽子とシャレオツな肩出しコーデ」

「意外だな~、翔月くんがオシャレに気遣ってるなんて。」

「全部お母さんが指示したのを着てる。」

「前言撤回、気遣ってなかった。」

「翔月のかぁちゃん美人さんだしな~。」

「家のかぁちゃんをそんな目で見てたのか。」

「中学生男児舐めんなよ〜!」

「中学生男児関係ある?」

「ないな。」


「あ、俺ここだから。」

「え?」

「じゃあね〜翔月〜。」

「ちょ、ちょっと。」

「何?碧。」

「これホントに翔月くんの家?」

「そうだけど?……あーなるほどね?大きすぎてびっくりしてるんだろ?」

「そうだけど……」

「ていうか驚かない方が異常じゃい?」

「俺も最初は驚いたぜ?」

「最初は?」

「うん。でも何回も来てるから慣れた。」

「そ、そっか。」

「じゃ、また明日。」

「おう!また明日な〜!」

「バイバイ。翔月くん。」


直登たち手を振り、家の玄関の扉を開ける。

「ただいま〜。」

「おかえり〜翔月〜。」

お母さんが階段から降りてきた。

「今日は?」

「塾だよ。」

「何時から?」

「5時から。」

「はーい。」

ドタドタと物音がして、妹の彩音(あやね)が降りてきた。

「翔月お兄ちゃんおかえり〜。」

「ただいま、彩音。」

「そういえば、お兄ちゃんの部屋にある漫画さ、2・3冊借りといたから〜。」

「それぐらいいいけど、ちゃんと戻せよ?」

「わかってるよ。」

「いっつもその辺に置いてるから言ってるんだが?」

「善処しまーす。」

彩音の善処しない宣言を聞いて、上に上がる。

部屋は3階だから階段を登るのが面倒くさい。

部屋について、カバンを降ろし、私服に着替える。

呑気に小説を読んでいると、兄の満流(みつる)に呼ばれた。

「翔月〜、ちょっと来て。」

「ほーい。」

部屋を出て隣の満流の部屋の扉をノックする。

「満流?何用?」

「翔月、わざわざごめん。ここの本棚移動すんの手伝ってくんね?」

「いーよ。どこに移動すんの?」

「お前の部屋。」

「…へ?」

「ほらお前、前に本棚欲しいって言ってたろ?」

「……あ、あぁ〜!」

「俺新しいの買ったからさ。」

「へ〜………ありがとね。」

「ほら、あっち持って!」

「あ、あぁ。」

「いくよっ……」

「「せぇ〜のっ!」」

「よいしょっ!」

「よしよしっ、そこ曲がるよ。」

「ここでいい?」

「うん。」

「せーのっ。」

トンッ

「ふ〜。」

「ありがとう、翔月。」

「こちらこそ、ありがとう。」

「じゃ。」

「ほーい。」

ガチャン

わ〜!

大っきい本棚、ずっと欲しかったからよかった〜!

さっそく、別の本棚の上に置いていた本や、新しい本を大っきい本棚にワックワクで入れ始めた。

一通り入れ終えて時計をふと見ると、4時40分を指していた。

「そろそろ準備しなきゃ…」

のそのそと準備をしていると、ケイタイの通知が唸った。

〚かけるん〜。今日塾何時からだっけ?……河辻〛

河辻からだった。

メールアプリを開く。


〈かけるん〜。今日塾何時からだっけ?5時だったらかけるんの家ピンポンしに行くね〜。〉

〈5時だよ。〉

〈じゃあかけるんの家ピンポンしに行くね〜。〉

〈てか、かけるん呼びやめて。〉

〈やだね。〉

〈せめて学校とか友達の前ではやめろ。〉

〈善処しまーす。〉

〈しないだろ。〉

〈うん。〉

打ちながら準備を終わらすと、家のインターホンがなった。

「翔月〜。河辻くんが来たわよ〜。」

「はーい。」

そそくさと階段を駆け降りて、家を出る。

「いってきます。」

「いってらっしゃい。」

ガチャ

「やぁ。かけるん。」

「かけるんやめろよ。」

「んふふっ。やだね。」

「あ、そういえばさ、明日南図書館で直登たちと勉強会する予定なんだけど、来る?」

「他に誰がいる?」

「皆寺くんと、伸太郎と隼人。」

「じゃあ行くね。」

「ほーい。」

「そういえば、かけるんは宿題終わった?」

「うん。」

「ちょっと、塾ついたら1問だけ移させて〜。」

「いいけど……バレると思うぞ?」

「だからね………」

ガサゴソ

「おい……カバン漁んな。」

「あったあった。」

「俺の宿題とってどうする気だ。今じゃなくても…」

「塾行ったらすぐトイレ行ってトイレで移す。」

「……ちゃんと返せよ?」

「もちろん!かけるんの字とボクの字は違うからね。」

「はぁ…」

「かけるんはさ、来週のドッジボール大会知ってる?」

「いや、知らん。」

「だよね!委員会で面白いルールが出てきてさ…」

「厚生委員のお硬い頭で面白いルール?」

「お硬いって…まぁ、それはそうとして、」

「その面白いルールってのが、試合時間が4分間なんだけど、1分ごとにボールを追加していくんだよ!」

「……2組有利じゃん。」

「だからね、残り一分で劣勢側のチームの一人がくじを引いて、あたりを引いたら外野の数と内野の数を優勢チームと取替えっこするんだよ。」

「ますますの混乱するな。」

「それが面白いんじゃん!」

「………お前の感性よくわかんない。」

「そう?面白いと思うよ。だって一発逆転があるんだもん!」

「そっか……」

「さては……興味ないな?」

「うん。」

「即答!」

「ただの遊びじゃん。」

「そうだけどさぁ……」

そんな話をしている間に、塾に着いた。

塾についた途端、河辻が急に腹を抱え始めた。

「先生っ……お腹痛いのでトイレ行ってきますっ。」

多分宿題を移しに行ったんだろうけど…

随分演技派だったな、と思う。

「先生、僕もトイレ行ってきていいですか?」

「あぁ、構わん。」

「ありがとうございます。」

ガチャ

「河辻〜?」

「!かけるんか~。びっくりした~。」

「移せたか?」

「バッチリ。」

「じゃあ返せ。」

「はいはい。」

「ん。」

ガチャ

「2人共〜もうすぐ授業始まるぞ〜。席につけ〜。」

「「はーい。」」

キーンコーンカーンコーン……

キーンコーンカーンコーン………

「授業始めるぞ。」

「まず、この間の宿題を後ろから回してこい。」

ガサゴソ

プリントを渡す音が教室内に響く。

「よーし。集まったな。」

「それじゃあ、テキスト40ページ開け。」

「今日は1次方程式の応用だな。ということで今日はグループで学習を進めていく。」

「そこは4、4、でこっちも4、4、4にするか。そこだけ3で。よーし、じゃあグループ体形になって。」

ガタガタ

「教え合いしながら進めていけ。残りは宿題な。」

「どうしても分かんなかったら先生のところに来い。」

『はーい。』

俺のところは河辻と伊真那川(いまながわ)中の井上珠莉(いのうえしゅり)西永波豆夢(にしなが は ず む)がいる。

俺以外のメンツは頭が良いので3︰1になるだろう。

と言っても1次方程式は割と得意だ。質問するところは出てこないだろう。

暫くして、隣りにいた河辻が聞いてきた。

「かけるんここわかる?」

「うん。」

「教えて〜。ボク1次方程式苦手だからさ~。」

「俺より頭いいくせに何言いやがる。」

「いやぁ~、かけるんのほうが理系得意じゃん。」

「そうか?大して変わんないと思うけど?」

「このあいだのテスト理系20点ぐらい差ぁつけてたのに?」

「お前だって文系25点ぐらい差つけてただろ。」

「そうだっけ?ま、いいや。ここ教えて?」

「へいへい…」

河辻に説明して、その後は特に何もなく、授業が終わった。

「残ったヤツは宿題な。ちゃんとわかるように印つけとけよ~。」

「かけるん残る?」

「宿題とかワークやりたいから1コマだけ残る。」

「ふ~ん……じゃあボクも残ろう。」

「お前何残ってんの?」

「えーっと、さっきのやつの大問2つと、昨日の理科のプリントと、先週の国語のプリントかな?」

「結構あるな。」

「その都度教えてよ。」

「いいけどさ…」

「そろそろ授業始めるぞ~。」

「ボク達も自習ブース行こ?」

「そうだな。」

ガチャ

「始めまーす!」

「はーい……」

「うるさいね~。ただの塾講師なのにねぇ。」

「ああいうのが1番嫌い。」

「似非講師が。」

「似非って……んふふっ。」

「ッあ〜……かけるんキツイよ~、可愛すぎ~。」

「……は?そういうノリやめろよ。可愛いとか、何言ってんの?」

「可愛いは本心だよ。」

「へいへい、早く宿題やれよ。」

「かけるんノリ悪すぎ〜。」

その後、黙々と宿題を進めていた河辻だが、5分したらすぐ聞いてきた。

「かけるん教えて〜。」

「どれだ?」

「ここの大問5の(2)。」

「軟体動物の分類?」

「そうそう……」

河辻の理科の理解力が乏しくて説明だけで1コマが終わってしまった。

「あ、ぁあ〜!なるほどねぇ〜。ありがとう。」

「ようやくわかったか……1コマかかったが…」

「……帰ろっか。」

「あぁ。」


「ねぇ、かけるん。」

「なんだ?」

「………いや、なんでもない。」

「なんだよ。」

「いや、気にしないで。」

「そうか。」

「あ、じゃあボクここ曲がるから。」

「ん。また明日。」

「また明日。」

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