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この集まりは一応打ち上げという名目なので、王都からエマが取り寄せたデザートが各種用意してある。
「こちらはブラン・シェリーナの新作ケーキでございます」
様々なフルーツとゼリーがのった宝石箱のようなホールケーキを、エマがお披露目してからカットすると、スイーツ大好きな女子たちから幸せそうなため息が漏れる。
「さすがはリーベルト家ね。人気のケーキをこんなに用意できるなんて」
アルマさんが、キラキラした瞳でケーキを凝視している。どうやら甘いものに目がないようだ。
彼女の懐柔には、今後はお菓子を使おうと思う。たぶん、エマの心のメモ帳にもそう記入されたはずだ。
「ほほほ、それほどでも」
なんでもないように言ったけれど、それほどでもあるのよね!
わたしが授業を受けている間に冒険者のレンマとして活動しているエマは、「少々匂いますわね」という怪しげな依頼を多数受けながら、このタイタネル学院がある学園都市と隣接する王都にその触手を着々とのばしているとのことだ。その結果、ブラン・シェリーナというお店にも『ちょっとしたお願い』ができるコネができたらしい。
エマは本当に暗躍が好きなのね……もう誰にも止められないわ……。
先ほどの陰鬱な雰囲気をすべて吹き飛ばすような、美しくて美味しいケーキに盛り上がっておやつタイムが終了したので、話し合いに入る。
まずはわたしが口を開いた。
「この情報は、わたしたちの手で周知させなければならないと思うの。聖女の……いえ、聖女だけのものではないわね。『癒し魔法』の使い手がもっと増えたら、民の暮らし向きがよくなるでしょうし、神様はそれをお望みの筈よ」
そう、神様はみんなが想像しているよりもずっと『人間大好きラブラブっ子』なのだ。なにしろ闇聖女に堕ちたわたしのことすら愛し続けてくれたほどなのだから。
「でも、それまでは先生方にも神官や聖女にも知られてはならないわよ。そうでなければ、神殿に神託が降りていたはずだものね」
わたしの言葉に、アライアさんは上品に頷いた。
「そうですわね。あえてわたしたちの手に委ねてくださった理由として推測されるのは、今現在地位や権力がある人に知られると、情報を捻じ曲げられたり揉み消されたり、都合よく使われたりする恐れがあるから、でしょうか。とても残念ですけれど」
力のあるチェスター伯爵家のご令嬢だけあって、幼い頃から勉強してきたアライアさんは、この国の力関係にも詳しい。リーベルトもチェスターもそれなりに強い立場ではあるが、タイタネル国には公爵家や侯爵家に辺境伯家など、他にも十家ほど目障り……いや、歴史ある家がある。
ただし、光魔法の使い手であり、聖女となってきた者を多く輩出してきたのは、リーベルト伯爵家とチェスター伯爵家、この二家のみだ。そして、光魔法の使い手は、子爵家や男爵家といった下級貴族の家の出が多い。今年の聖女科にも、公爵家と侯爵家の子女はいないし、神官科に公爵家がひとりいて、それが軽く驚かれているほどだ。
なぜそのようなことが起きるのか、領地になにか秘密があるのかと不思議に思われているが、いまだに謎は解明されていない。
「それじゃあさ、どうすればこっそりと周知できるの? 噂を流す?」
スージーさんに、ガブリエラさんが頭を横に振った。
「どうかしら。それだと噂の出どころがすぐにバレてしまいそうだし、噂を真に受けて実際に教会に足を運んで祈りを捧げ、癒し魔法を発動するところまで行動してくれる人が、果たして現れるかしら? 根拠のない噂はそのうち消えてしまうわ」
スージーさんは「そっかー」と難しい顔になる。
「噂の出所があたしたちだってバレたら、口止めに命を狙われかねないかー。そこまでいかなくても面倒なことになって、周知どころではなくなりそうだよね。変な圧力がかかるかもしれない」
スージーさんの言う通りだ。権力を求めるものにとって命はとても軽いものらしい。なにをやっても揉み消せるという驕りもあるだろう。下級貴族や庶民などはあっという間に処理されてしまう。
「貴族の体面、学院の体面、神殿の体面、そんなのがみんな揃って襲いかかってきたら、ただの学生であるわたしたちなんて到底太刀打ちできないよ。それはシャンドラさんとアライアさんも同じだ」
目から光を無くしたニコルさんが言った。
「だから、疑念が自然に湧くように仕向けるのはどうだろうか?」
「疑念?」
「うん。具体的にはさ、長期休みの後にある学院祭で見学客を神殿に連れ込み、うまいことやって癒し魔法を使わせる、といった感じ」
「はあっ? なんですって!」
アライアさんが淑女らしからぬ声を出した。ニコルさんはニヤリと笑って言った。
「お祭りだからさ、敵のガードも緩むんだよ。そういう時を狙って攻め込むのが戦の常套手段なんだ」
さすがは武闘派のニコルさんね。
「でも、そんなことが可能かしら? なにか作戦があるの?」
アルマさんが、にこやかに尋ねた。
「そうだね……学内神殿ツアーと称して見学者を神殿に連れて行く。聖女や聖女の魔法に興味がある人が集まるだろうから都合がいい」
「なるほど」
「そこで、うちらが先導して祈祷文を唱えさせて……なにか、魔法を使わせてみる?」
「聖水はどうですか? 実習で使うあの壺を借りて、見学者に持たせてみたら? 運が良ければ誰か聖水を出せるかもしれないですよ」
壺から聖水をダバダバ出す女、リリアンが言った。
「聖水はわかりやすいでしょう? 治癒魔法とか回復魔法は見てもわからないけれど、聖水はひと目でわかりますよ」
「リリアン、いい案ね」
わたしが褒めると、妹分は「えへへ」と嬉しそうに笑った。
「うまく魔法が使えても、うちらは『なにかやっちゃいましたか?』って顔をして惚けていればいいんだ。わあわあ騒いでそこから話を広げてしまえばいい。そして、証人が現れれば噂話にも信憑性が出る。啓示を疑うわけじゃないけど、うちらだって証拠ってものが欲しいじゃないか。実際に癒し魔法を使える一般人が確認できたら、そこから真実を伝えて行けばいいと思う」
淡々と話すニコルさんは目に光がないけれど、戦況を読んで確実に勝ちをもぎ取る戦士のような安定感が感じられる。いわゆる聖女っぽさはないけれど、こういう人材が神殿には必要なのだろう。
「地に足がついたいい作戦だと思うわ。それでは、ニコルさんの提案でいきましょうか」
アルマさんの発言に全員が同意して、みんなで神様に成功を祈った。




