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【書籍化】キラキラネームの『破滅の闇聖女』にはなりません!   作者: 葉月クロル
学園編 その2

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「シャンドラさんは、リーベルト家の跡取りなんでしょ。聖女になるのにどうするの?」


「まずね、聖女になれるかどうかが超微妙ー」


 わたしはスージーさんっぽい言い回しをした。


「知っての通り、わたしは聖女に向いていないのよ。光魔法が使えるし魔力も多いけれど、聖女としての治癒魔法や回復魔法、聖水生成の成績が芳しくないわ。はっきり言って落ちこぼれよ。だから、もし万が一聖女になったとしても、すぐに引退することになると思うわ。そうしたらさっさと領地に戻るつもりよ」


 本当は家を出て、自由な冒険者にでもなりたいんだけれどね。そんなことをお父様に話したことがあるけれど、悪い冗談を言うなとかわされた。発言が広まったらリーベルト家のお家騒動を引き起こしかねないからだ。


 エレーヌお母様をまだ愛していらっしゃるお父様は再婚する気がないみたいだし、親類に養子にできそうなパッとした人物もいない。

 一番条件に合いそうなのは、何事にも優秀なルークだ。騎士科の優等生である彼は、卒業したら成績が優れた者に与えられる特別騎士爵を手に入れるだろうし(これはメンダル師匠もお持ちだ)騎士として手柄をあげればすぐに正式な爵位を授かる筈だ。


 爵位を手に入れられなかったら、彼をリーベルト一族の貴族家に養子として入れてから改めてうちで引き取り直し、適当な一族の女性を彼の配偶者として貰えばリーベルトの血筋は保たれて丸くおさまる。これは優秀な庶民の血を取り込みたい時に貴族がよく使う手だ。でも、それはルーク本人が激しく拒否している。


 ルークいわく、『自分はわたしの為に存在するのだから、わたしがいないリーベルト家に留まることはあり得ない』そうだ。わたしが家を出て冒険者になったら、彼は間違いなくどこまでもついてくる。忠実すぎる元勇者である。


 というわけで(敏腕の事務内政官であるフロリアン・ジュールにも「絶対に逃しませんよ、お嬢様」と素敵な笑顔で宣言されているし……ううっ、怖い)逃げ場のなくなったわたしはお父様の跡を継ぐ為の勉強を始めている。そして、わたしの補佐として無敵のリーベルト戦隊ことルーク、リリアン、エマが共にリーベルト家を盛り立てていく予定だ。


「シャンドラさん、お忘れのようですけれど、あなたは王太子の婚約者候補でもあるのよ。その辺りはどうなんですの?」


「あ、忘れてたわ」


「んもう、これですもの」


 アライアさんは額を押さえてため息をついた。


「あら大丈夫よ、わたしが選ばれるなんてことはまずないから。あれは人数合わせか王太子の気まぐれかで名前を挙げられただけだと思うわ」


「そうかしら? 王族はシャンドラさんのように適当なことはなさらないと思いますわ」


「じゃあ、アライアさんががんばってよ! わたしたちみんなでアライアさんが王太子妃になれるように応援すればいいんじゃない? そうすれば万事解決よ」


「あなたの妹分の、リリアン・ウィングさんはどうなさるの。彼女も候補者ですわよ」


「リリアンはリーベルトで働かせるから駄目。王家にはやらないわ」


「つくづく自分勝手な方ね!」


 アライアさんに呆れられたけれど、撲殺子ウサギが王妃にでもなったら、タイタネルは血みどろの恐ろしい国になってしまうわよ。


 にこにこしながら会話を聞いていたヴィーラさんが、お尻の下の毛皮をモフモフして楽しみながら言った。


「光魔法を使える方がもっとたくさんいらっしゃればよかったのに……いえ、別にわたしは、神様に逆らうつもりはありませんわ。でも、聖女になれる方がもっと多くてもいいのではないかって思うの」


 彼女は実家で長いこと辛い目に遭っていたせいか、繊細そうな見た目とは違い精神が強い。ミリアム先生が聞いたら悲鳴をあげそうなことを言ってのけた。


「そうよね、わたしもそう思うわ。なんでこんなに少ないのかしら? 光魔法はとても強力で危険だから、とか?」


「シャンドラさんったら、光魔法のどこが強力なの? 聖女の魔法の他には、周りを明るくするくらいしか使い道がないじゃない」


「光でりんごを切ることもできるわよ。りんごじゃないものも……」


 闇聖女は身体中から細い光を回転させながら放ち、全てのものを微塵に切り裂いた。遠くまで放たれた無数の光の刃に身体を貫かれた者はその場で倒れて絶命したし、巨大な光の弾が撃たれたその後には、えぐれた土しか残らなかった。


 けれど。

 そのやり方を身につけたのは、ルミナスターキラシャンドラと名乗るわたしだけだった。今現在、光魔法が攻撃魔法であることを誰も気づいていないはずだ。


「やっぱり、なんでもないわ」


「なによう、変なシャンドラさんね」


 冗談を言うのに失敗したとでも思ったのか、スージーさんがなだめるようにわたしの肩を叩いた。


「あら、でも……どうして光魔法が聖女の魔法になるのかしら? 治癒も回復も結界も光とは関係なくない?」


 クラス委員長のアルマさんが首を傾げる。


「えっと、光って、神様っぽいから……じゃないかしら」


 小さな声で、セアリーさんが言った。


「そういえば、傷が治る時に光るわよね」


 アルマさんの言葉に「光るわねー」「確かに光るわ」と皆同意した。


「ってことはさ、神様のお力は光なのかな?」


 それはどうだろう? 

 すべてのものは神様がお作りになったものだけれど、それを人間がどのように扱うかが問題であって、存在に優劣はない。なのに、今は聖女の魔法に繋がる光魔法が特別扱いされている。


「光魔法が聖女の魔法と関係ないとしたら、聖女科に来て勉強してお祈りして、神殿で実習することで聖女の魔法が使えるようになるのかも……そうだとしたら、もっとたくさんの人が使えるようになるわね。そうだったらいいのにね」


「シャンドラさん、それはどういう意味なのかしら?」


「だから、わたしたちがたまたま珍しい光魔法を使えるから聖女科に入れられたけれど、実は聖女になるためには光魔法なんて必要なくて、神様への信仰や訓練で得られる力だったとしたら……聖女ではなくて、一般の人たちにも治癒の魔法が使えるということに、えっ?」


 馬車の中に、突然小さな光の玉がたくさん現れて、リズミカルに点滅したので、みんなは思わず声をあげた。


「きゃあっ、なに?」


「蛍の大群が来たの?」


「いやあああーっ、虫は嫌いーっ!」


「敵襲?」


「ヤバいヤバいヤバい」


 お嬢様たちは皆驚いた(いや、敵襲ってなに)。

 わたしも驚いたけれど、この手の光はしょっちゅう目にしているので「これって神様の合図? もしかして、わたしの言ったことは正解だとおっしゃりたいのですか?」と声に出して尋ねた。


 光の玉は列になって『さすがはシャンドラさん』という文字になった。さらに、『さす』『シャン』『さす』『シャン』と数回点滅してからスッと消えた。


「…………これ、って、まさ、か」


「今の光は、神様からの啓示というものではなくて? 神殿でなくてもあるものなんですわね、驚きましたわ」


「神様から『さすシャン』貰っちゃったの? ヤッバー、さすがはシャンドラさんだね!」


「すごい演出だったわね。光の啓示、とても綺麗だわ」


「神様はセンスの良さも際立っていらっしゃいますわね」


「お待ちください、皆さん、着目すべき点はそこではないと思いますわ」


 賢いアルマさんが声を張って言った。


「これは一大事です。聖女になるために光魔法は必要ではないし、聖女の魔法は聖女以外でも使うことができる……つまり聖女科の存在が、神様に全否定されたのですよ」


「そうですわ! これは大神殿ごとひっくり返りかねない、とんでもない事態ですわよ! ああもう、シャンドラさん……あなたは破天荒にもほどがございます……」


 半泣きのアライアさんに肩を揺さぶられながら、わたしは「えー、わたしのせいー、じゃないとー、思うんだけどー」と反論した。アルマさんも、真剣な目でわたしを見つめて言った。


「聖女のたまごに過ぎないわたしたちが受け止めるには、あまりにも大きな啓示だわ。ねえ、わたしたち、これからどうしたらいいのかしら……?」


 みんなの目が『シャンドラさん、どうしてくれるの?』と一斉にわたしに向いた。


「いやよ、こっちを見ないで。わたしのせいじゃないってば、やめてよもう」


 いや、たぶん、わたしのせいだけど。

 これも前回やらかしたことへの償いなのだろう。どうやらわたしの人生に『平穏』という言葉は無縁らしい。


「アルマさーん、クラス委員長として、なんとかしてー」


 馬車の席から立ち上がってアルマさんにしがみつくと、彼女の委員長魂が激しく燃え上がってくれた。


「わかりました、クラスでなんとかしましょう。この情報を聖女科一年で共有して、ミリアム先生には絶対に知られないようにします」


「賛成!」


 スージーさんが即、賛成し、他の生徒も全員賛成する。


「神様的には、聖女の魔法を他の人にも使えるようになってもらいたいのかしらね」


 ヴィーラさんに、アルマさんが同意する。


「ええ、おそらくそうでしょう。力のないわたしたちに伝えたのは、権威あるものが知ったら揉み消されてしまうからかもしれません」


「わかるわ。下手したら国がひっくり返るもの。権力者としては封じてしまいたいでしょうね」


 そう言うヴィーラさんが馬車の揺れでひっくり返りそうになり、スージーさんに支えられた。


「わたしたち……消されたり……しない、わよね?」


 セアリーさんが怯えた瞳で言った。


「それを防ぐためにも、早急に聖女科での共有をしなくては」


「それじゃあ、帰ったらリーベルト家のサロンで実習の打ち上げという名目で話し合いをしましょうよ。防音の術式が展開されているから安心して会話できるわよ。うちのエマとルークにも知られるけれど、あの子たちは秘密を守れる子だから大丈夫よ」


「シャンドラさんの下僕だもんねー」


「人聞き悪い表現はおよしになってくださいませね、スージーさん!」


「あたたたた」


 わたしはスージーさんの頬っぺたを引っ張って伸ばし、『第一回聖女科秘密会議』の開催が決定した。

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