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【書籍化】キラキラネームの『破滅の闇聖女』にはなりません!   作者: 葉月クロル
学園編

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26 聖女は皆、人格者なのだろうか違うのか

「皆さま、タイタネル国立学院へようこそ。わたしは聖女科を受け持つことになりました、ミリアム・ローリーです。四年間という限られた時間を無駄なく使って、精一杯それぞれの能力を向上させてください」


 三十歳をかなり過ぎていそうな女性が、わたしたちの担任のようだ。

 その目つきには優しさがない。

 なんだろう、この人は聖女科の担任だそうだが、いわゆる聖女っぽさに欠ける気がする。


「聖女の仕事というのは、おそらく皆さんが考えるほど甘いものではございません。根気よく、自分を律して務めなければならない仕事なのです。光魔法が使えるから即、聖女になれるなどと思わないように。妙な選民意識をお持ちならば、今すぐ捨ててください。よろしいですわね?」


 笑みのまったくない表情でいきなりそんなことを言われて、教室に戸惑いが広がる。

 わたしたちは、光魔法が使えるというだけで強制的にこの学院の聖女科に入学させられた。他のことがやりたくても、そちらの道には進めない。

 元々聖女を目指していた者以外は、その点には少しもやっと(わたしはかなりイラッと)しているだろう。

 けれど、貴重な光魔法という当たりくじを引いてしまったようなものだから、仕方がないと諦めているし、聖女も神官もこの国に必要な仕事だから、皆もできるだけがんばろうとも考えているはずだ。


『光魔法が使えるから自分は偉い』などとは思っていない者がほとんどだろう。


 ああ、そうですわね、お恥ずかしいことに前世のわたしは『未来の大聖女ですわよ、おほほほほ』と偉ぶっていましたけれど。

 それ以外のことでは自分を肯定してもらえないと思っていた、哀れな美少女をお許しくださいませ。

 

 静まり返った教室で、ミリアム先生は続けた。


「もちろん、わたしはなるべく多くの聖女を卒業させることができるように、厳しく指導していきますので、覚悟をしてください」


 あー、この人、エリザベス夫人を百倍くらいにキッツイ感じにしたような雰囲気だわ。エリザベス夫人には愛が感じられるから、厳しい指導をされても彼女のことを嫌いにはならなかったけれど、ミリアム先生はどうだろうか。

 見た感じ、愛などなさそうよ。

 あと、経験者だからわかるけど、なんだかこじらせているわね。


 それにしても、前世では別の人が担任だったような気がするんだけど、なぜこの人に変わったのだろうか。不思議である。


「まずは、ひとりずつ簡単に自己紹介をしていただきます。アライア・チェスターさんからどうぞ」


「はい」


 ゴージャスなふたつ結びロールさんが立ち上がった。廊下側の一番前の席から、自己紹介が始まるようだ。


「チェスター伯爵家の長女、アライアでございます。どうぞよしなに」


 綺麗なカーテシーを行って、アライアさんは座った。そのまま、名前を告げるだけの自己紹介が進んで、わたしの番になる。


「シャンドラ・リーベルトですわ。どうぞよろしく」


 クラスメイトへの自己紹介にカーテシーなんてしてられないわ。わたしはにっこり笑って会釈するだけにとどめて席に着く。

 リーベルト伯爵家の名前はよく知られているので、少しざわつきながら注目を浴びた。


「シャンドラさんは、エレーナさんのお嬢さんなのですわね?」


 ミリアム先生に聞かれたので「はい」とだけ答える。

 彼女の顔が少々強張って見えた。ミリアム先生はお母様の知り合いで、しかもさほど仲が良くなかったのかもしれない。


「リリアン・ウィングです。シャンドラお姉様の妹分にしていただいております。どうぞよろしくお願いします」


 こうして淡々と自己紹介が進み、最後のひとりまで行くと先生が「ようございます」と締めた。

 驚いたことに、わたしはクラスメイトの名前や人となりをすっかり忘れていた。これは、巻き戻った時に記憶がなくなってしまったのか、それとも今回の聖女科の学生が一新しているのか……神様にしかわからないし、わたしはどちらでもかまわないのでこのまま放置しようと思う。


「それでは、今の順番で、こちらにある光魔法専用の測定石を使っていただきます。これで聖女としての光魔法を使うための魔力がどれくらいあるかわかります。アライア・チェスターさん、いらっしゃい」


 ふたつ縦ロールのアライアさんが立ち上がり、両手で子どもの頭ほどある透明な石に触れた。

 ふわっと青白い光が輝く。


「そこそこです。次の人」


 アライアさんは「そこそこ……」と口元をひくつかせながら席に戻り、次の生徒に代わる。


「まあ、そんなものでしょう。次」


「はあ、なるほどね。次」


「ふむ、そうきましたか。次」


 わたしはミリアム先生の判定を聞いて、感心した。いちいち学生を苛立たさせるような言葉を、いろんな方向から口に出しているのだ。

 もしかすると、これも聖女としての修行の一環なのだろうか。

 聖女は精神力を鍛えて、どのような状況でも動じない心を持たないといけない。攻撃が飛び交う戦地に赴くこともあるし、大怪我を負った人の治療をする時に、患者の無惨な姿に動転したり気を失ったりしたら困るからだ。


 そんなことを考えていると、わたしの番になった。


「シャンドラ・リーベルトさん」


「はい」


 十二人とはいえ、全員の名前を覚えているのは素晴らしい。


 わたしは教壇の前に進み出て、両手で石に触れた。

 あら。

 やだ。

 全然反応がないわ。


「ミリアム先生、この石は、もしかすると癒しとか浄化とか、そういう魔法を使うための魔力しか反応しないとか……」


「その通りです」


 なるほどね。このシャンドラ・リーベルト、闇聖女として力を振るった時も、身体強化とか光線とか爆発とか、威勢の良い魔法が得意だったのよね。そして、聖女科の授業での魔法は苦手だったの。


 でも、皆無ということはないはず。


「ふん……んんんんん……ふぬぬぬぬぬぬぬぬ」


「シャ、シャンドラ、さん? あなたはなにをしているのですか?」


「んぬあああああああああーッ!」


 めちゃくちゃ気合いを入れてみた。

 全力で魔力を石の中に叩き込む。

 するとようやく、ごくごく小さな青白い光が石の中に微かに浮かび上がった。


「先生、ほら、ここ、ここのところです!」


「え、はい」


「見えました? 光ってましたよね?」


「……微かに……おや、まあ」


「ふう、疲れた」


 わたしが額の汗を拭おうとしたら、すかさず駆け寄ったリリアンが「お姉様、お拭きいたしますわ」と、ハンカチでぽんぽんと押さえてくれた。


「お疲れ様でございます」


「ありがとう、リリアン」


 わたしが笑顔で頷き、やりきった感を出して胸を張りながら席に着こうとしたら、ミリアム先生に呼び止められた。


「シャンドラ・リーベルトさん!」


「なんですか?」


「あなた……もしや、ふざけているのかしら?」


「先生ったら、なんてことをおっしゃるのですか!」


 わたしが「全力を貶められては黙っておりませんことよ!」と憤りながら先生の方へ数歩進むと、彼女は怯みながら言った。


「いえ、その、失礼申し上げましたわ。けれどもあなたはエレーナの娘ですよね? 姿形がそっくりだし……」


「そうですわ。エレーナ・リーベルトは間違いなくわたしの母です」


「エレーナはとても力のある聖女だったのですよ。大聖女と言ってもよいほどに強い光魔法を使い、多くの人々を癒して……」


「その娘のわたしに、聖女としての魔力が少ないのはおかしいとおっしゃるのですか? ミリアム先生。母は母、わたしはわたしですわよ」


 わたしはものすごい上から目線で言った。


「姿は似ていても、わたしは母とは別の人間です。母の魔力は強大だったかもしれないし、聖女に向いていたかもしれませんが、わたしの魔力は今ご覧になった程度ですし、正直、聖女向きではないのです。光魔法が使えるというただそれだけで、こちらの聖女科に入学したまでです」


「……」


「ええ、自分の力がどのくらいなのかはわきまえておりますわ。力不足で退校処分になさるというのなら、わたしはかまいません。気持ちを切り替えて、自分に向いた勉強を始めたいと思います」


 ミリアム先生は、なんとも言えない顔をしてわたしをまじまじと見ていたが、やがて「けっこう。席に戻りなさい」と言って視線を逸らした。





 というわけで、わたしの魔力量がクラスでもダントツに少ない(あくまでも、聖女の使う魔法のための魔力だが)ことがわかって、本日の授業は終わった。


「行きましょう、リリアン」


「お待ちになって」


 声をかけてきたのは、ふたつ結びの縦ロールさんだ。


「ゴージャス……いえ、アライア・チェスターさんでしたわね。なにか?」


 この学院内では、身分とか貴族階級とか、そういうことにはとらわれない決まりになっているので、わたしはチェスター家の令嬢にも気軽に返事をした。


「シャンドラさん、あなた、その魔力量でどうやっていくおつもりなの?」


「どうって……こればかりは生まれついてのものだから、どうしようもないもの」


「あらそう」


 アライアさんは、呆れたように肩をすくめた。


「光魔法の才があるからといって、すべての者に入学を認める規則は現実的ではないわね。あなたでは、聖女の魔法はろくに使えないのではないかしら?」


「ほぼ間違いなく、使えないわね。でも、入学を辞退することはできないから、仕方がないわよ」


「……そうですわよね」


 アライアさんは、腕を組んで、わたしを怖い顔で見た。


「あなた、絶対にわたしたちの足を引っ張ると思うから、無理だと思ったら何事も早めに離脱なさいな」


「あら」


「下手に手を出されると迷惑だと言っているの。聖女の務めはできる者に任せておけばいいのよ。よろしくて?」


 すると、隣で真っ赤な顔をしてぷるぷる震えていたリリアンが「そんな言い方は酷いと思います!」とアライアさんに向かって言った。


「もしかしたら、これからお姉様の魔力量が増えるかもしれないし」


「リリアン」


「お姉様は素晴らしいお方なんです、魔力量がわずかでもその素晴らしさは」


「リリアン、黙りなさい」


 わたしは手のひらで妹分の口を塞いだ。


「勘違いしないの。アライアさんがおっしゃるのは、少ない魔力量をなんとかしようとして、わたしが無理をしないように、ということなのよ」


「……え?」


 わたしの言葉を聞いたリリアンがアライアさんの顔をまじまじと見ると、彼女はふたつの縦ロールを揺らして「ふん」とそっぽを向いた。


「心配してくださってありがとうございます。アライアさんって、誤解されやすい方でしょう?」


「べ、別に、そんなことはなくてよ!」


 冷静を装っているが、耳が赤い。


「リリアン、わたしはとても思慮深くて観察力があるから、アライアさんの本当の気持ちがわかったの。わかりにくいので仕方がないけれど、彼女のお気持ちを傷つけるような発言をしてしまったのはよくないわね」


「わわわ、わたしったら! 申し訳ありません、アライアさん! 勘違いしちゃって恥ずかしいです!」


 リリアンが深々と頭を下げると、アライアさんは「ふんっ、まったく、全然、あなたの発言などこのわたしの耳に入っておりませんわよ」と鼻を鳴らした。


「リリアン、アライアさんはあなたの失言をお許しになると言っているのよ」


「さすがはお姉様、わたしにはわかりませんでしたわ! ありがとうございます、アライアさん。これからよろしくお願いしますね」


 すると、ゴージャスな巻き髪をしているけれど実は親切なチェスター家の令嬢は「仕方ありませんわ、こうして同じクラスになってしまったのですから、多少の無礼なら見逃してもよくってよ、では失礼」と言って去っていった。


「今のは『クラスメイトとして仲良くしましょうね』という意味よ」


「あんなわかりにくい言い回しがよくわかりましたね!」


「ふふふ」


 素直になれないところが前世のわたしにそっくりだから、彼女の心の中が手に取るようにわかるのよね。

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