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【書籍化】キラキラネームの『破滅の闇聖女』にはなりません!   作者: 葉月クロル
学園編

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22/78

22 学院に入学しますわ

いよいよ学園編に突入です!

 ここは、タイタネル国が誇るタイタネル国立学院。

 タイタネル国の貴族の子女が十五歳になると、この学院に四年間通う資格を得られる。平民でも領主や教会、場合によっては辺境の村の村長の推薦があれば入学が可能だ。要するに、タイタネル国に有用な人材を育成するのが学院の目的なのだ。

 

 卒業生はそれぞれの道へと進んでいく。

 家を継ぐ者もいるのだが、ここでの勉強が一番役に立つのは、爵位を継承しない次男以下の男子である。

 女子は政略結婚をして他家へと嫁いで行くので、割と将来に困ることはないのだけれど、長男以外の男子は働き口を見つける必要がある。

 一番の人気は、騎士になることだ。次に大魔法使いになること。

 努力だけではなれない職業である。


 馬車から降りたわたしは『またここに戻ってきたのね』と、苦いものを噛みしめた。

 わたしが散々馬鹿な真似をした挙げ句に闇聖女と転落していった、嫌な思い出ばかりの場所だ。


 タイタネル国立学院は総合学部と学問研究部に分かれていて、総合学部には聖女科、神官科、騎士科、魔法科がある。

 汎用性がある学問研究部は生徒数が多く、卒業後には領主代行者や文官、事務方などの職につく。

 騎士科と魔法科は共学なのだが、聖女と神官はなぜか別である。未熟な学生たちは、水に入って禊をしたり、横たわって瞑想する時に異性がいると、気が散ってしまうからだと思う。


 騎士科と魔法科の授業は、気が散ったら即、そのまま命に関わるから……異性どころではないのだろう。もしかすると、貴重な光魔法使いを減らしてしまうわけにはいかないから、わたしたちは特別に配慮されているのかもしれない。


 騎士科なんて、自然淘汰させているの? というほど荒っぽい場所らしい。心身共にタフでないと、授業について行けない。だからこそ、騎士科を卒業してどこかの大貴族の家の騎士となり、あるいは王宮の騎士となって手柄を立てた者は貴族と同じ地位と力を持つ者として尊敬されるのだ。


 そんな、荒っぽくて厳しい騎士科の首席として卒業したのがメンダル師匠なのである。なるほど、訓練があんな感じになるのも仕方がない。


 でも、師匠のやり方は嫌いではないわ。

 怖いけれどとても面白かったもの。

 そして、年齢にそぐわない身体能力と剣の技術をわたしに身につけさせてくれたのは、この師匠なのだから、とても感謝しているの。


 わたしとリリアンは、左胸に青い薔薇の刺繍がされたブレザーツーピースを着ている。これは聖女科と神官科の印で、騎士科のブレザースーツには赤い薔薇が付いているのだ。ちなみに、魔法科の薔薇は黄色で学問研究部はすべて白い薔薇である。


 リリアンとわたしは淡いブラウンの女子の制服を着ている。リボンタイを結ぶようになっていて、きっちりしているけれどなかなか可愛いデザインだ。膝上の長さの、赤いチェックのスカートの下には黒いスパッツやタイツを履き、脚の肌が見えないようになっている。そこは淑女の嗜みというやつだ。

 そんな制服に、わたしはドラゴン素材のブーツを合わせている。これは防御力がとても高い上にしなやかで履き心地がよく、運動するのにも適しているので、普段から愛用している。いつでも全力疾走できるように身だしなみを整えるようにというのが、メンダル師匠からの教えなのだ。


 ちなみにリリアンは学院指定の靴だ。この学院は、品の良さに気をつけるならば、身につけるものを多少アレンジすることは許されている。

 というわけで、リリアンの靴もアレンジされていて、靴底と爪先に鉄板が仕込まれていた……って、そっち方面のアレンジなの!?

 あと、そんなものを履いて全力疾走できる子が、なんで聖女科なの?


 まあ、わたしも人のことを言えないけれどね。

 ジャケットの裏にもドラゴンの皮が貼ってあるし……スパッツの素材もドラゴンだし……お金に糸目をつけないお父様が、少しでもわたしが生き残る確率が高くなるなら国中のドラゴン素材を買い占めてもいい! という勢いで用意してくれました。

 ありがとう、お父様。

 愛を感じて嬉しいわ。

 でもね、わたしは聖女科に入学するのよ?

 騎士科のような命がけの戦闘をする予定はありませんわ。


「わくわくしますね、お姉様!」


 重いはずの靴を履いているリリアンは、子ウサギのようにぴょんこぴょんこと元気に跳ねた。

 

「そうね」


 わたしは学院の馬車も通れる大きな門を見上げた。石造りの立派な門の傍には門番の詰め所があり、槍を持った門番が交代で一日中この学院を守っている。


 前世では、この学院での生活は辛いものだった。

 自分は大聖女になるべくして生まれたシャンドラ・リーベルト伯爵令嬢であると、入学するなり威張り散らして、そのくせろくに聖女に必要な魔法が使えずにいた。そんなわたしに友達などいなかったし、関わるのは身の回りの世話をしてくれたエマと、恐る恐るといった様子で声をかけてくれたリリアンだけだった。


 もちろん、エマには理不尽に当たり散らし、リリアンには憎しみをぶつけたわ。


 家庭の事情でいろいろと拗れたにしても、わたしの振る舞いは酷かった。

 でも、今回のわたしは違う。

 生まれ変わったシャンドラは、路傍にひっそりと咲く花のように地味で可憐で奥ゆかしい目立たない令嬢として、気弱げに微笑みながら学生生活を過ごすのよ。


「では、参りましょう!」


 わたしが胸を張り先頭に立って門を通ろうとしたら、両肩をルークにがっちりとつかまれてしまいましたわ。


「ああん、痛いわ。なにをなさるの、ルークさん」


「わたしが先に進んで、危険のないことを確かめてからにしてください。あと、その気持ち悪い話し方は二度としないでください」


 気弱な令嬢っぽくしようとしただけなのに、気持ちが悪いってなによ!


 身長が伸びて、とうとうお父様を追い越してしまったルークは、青い瞳でわたしの顔をじっと見ながら言った。


「あなたが飛び出すとろくなことにならないことを、もっと自覚してください」


「……学院の寮に向かうだけなのよ、危険なんてないわよ。あと、顔が近すぎるので離れなさい」


 先に到着したエマが、わたしとリリアンとルークの部屋を整えておいてくれているのだ。そのため、わたしたちはのんびり領地を出発して、入学式を明日に迎えた今日、学院に着いた。


 わたしは彼の胸に手を置いて、押し退けた。

 ……びくともしなくて腹が立つ。


 彼は美形の青年(成長が早いから、少年っぽさがないのよね)だから目の保養になるとはいえ、年頃の異性の顔が近くに来るのは落ち着かないわ。


「もしかすると寮が燃え上がっているかもしれません」


「んなわけないでしょ!」


 ルークは、家畜小屋全焼事件のあとに変なトラウマができてしまったらしく、わたしが先頭に立つと必ず阻止してくるのだ。


「このシャンドラ・リーベルトがリーダーとして先に行きますわ」


「駄目です」


「平気よ」


「担いで行きますよ」


「やめなさい!」


『愛と光の守護戦士』の才能のせいか、体力お化けとなったたくましいルークなら、わたしを担いでも涼しい顔で全力疾走するだろう。


「お姉様、わたしが先に行きますから。お姉様に危険がないように、わたしが露払いをいたします!」


 リリアンが元気に言う。


「リリアンお嬢様、ぜひお願いします」


「お任せを! ルークはお姉様が飛び出したり転んだりなにかと戦闘を始めたりしないように見張っていてくださいね」


「心得ました」


「あなたたち、このわたしをなんだと思っているのよ!」


 というわけで、ぴょこぴょこ歩く(だから、そんな重い靴を履いているくせに、なぜそんなに無駄に跳ねられるの?)リリアンの後ろから、わたしとルークが並んで歩いて行く。


 わたしは隣のルークをちらりと見た。

 リラックスしているように見せかけて、実は辺りへの警戒を怠らない彼は、淡い茶色に焦げ茶がアクセントカラーに入っている、かっちりしたデザインのブレザースーツを着ている。肩にはもちろん、赤い薔薇の刺繍入りだ。

 背が高くて肩幅があり、脚はすらりと長い。美少年だったルークは、気がついたらとんでもない美青年に育っていた。


 前世での勇者ルークは、もっと細くて子どもっぽかった気がするけれど。今回はリーベルト家にやってきて栄養状態がよかったからなのかしら。

 性格も、もっと素直で素朴な感じだったと思うんだけどなあ……。


「どうなさいましたか、お嬢様?」


「なんでもないわ。その制服、似合っているわよ」


「ありがとうございます」


 ルークは薄く笑って「お嬢様はなにを着てもお美しいですね。でも、胸元にリボンを結ばれると、よりいっそう愛らしさが増します」と、ベタベタに甘いことを言ってきた。


「そういうのはエリザベス夫人に習ったの?」


 歯の浮くような褒め言葉を展開するのも、貴族の男性の嗜みなのだ。ルークは騎士を目指すので、騎士爵を賜った時に困らないようにと、エリザベス夫人の教えも受けているのだ。


「そうですが……」


 彼は、今度はメンダル師匠のようににっこりと笑って言った。


「心からそう思ったので、申し上げました」


「なっ! なによ、ルークのくせに生意気ね!」


「おや、美しきお嬢様のご機嫌を損ねてしまったならば遺憾です」


 こいつは……絶対に女たらしだわ。

 育て方を間違えたみたいね。




 実は、ルークを学院に入れる時に一悶着あった。

 学院にわたしが在籍している間は自分が護衛をするつもりだから、騎士科への入学を遅らせたい、などと言い出したのだ。


 過保護にも程があるのだが、ルークの言葉を聞いたお父様は、わたしのことを見て「あーあ、シャンドラちゃんのせいだよー」と責めてきた。


「うちのお嬢様が平気で燃え盛る火の中に飛び込んじゃうから、ルークは心配で勉強に身が入らないそうだ」


「わたしは、お嬢様をお守りするためにこのリーベルト伯爵家に雇っていただいた身ですから、お嬢様の安全を第一にしたいのです」


「従者の鑑だけど……どう責任を取るの、シャンドラちゃん?」


 ふたりに畳みかけられて、わたしは必死で言い訳をする。


「あっ、あれは、わたしが無分別で無謀な子どもだったからです。もう大人になった今は、そのようなことはいたしませんわ、本当に、淑女のわたしを信じてくださいませ」


「お言葉ですが、お嬢様の中には一生変わらないなにかがあって、大人になってもまた騒ぎの中に飛び込むような行動を取るのではないかという恐れを、わたしはどうしても捨てることができません」


「もうやらないってば。わたしのようなか弱い淑女が、そのように荒っぽい振る舞いをするわけが……なによ、その目は! お父様! ルーク!」


「うん、シャンドラちゃんは、もう少し現実を認識した方がいいね」


「わたしはお嬢様を一生守り続けることができるのならば、騎士になることを断念しても構わないと考えています」


「ありがとうルーク、立派な忠義心は確かに受け取りました、だからもう、やーめーてー」


 危うく勇者ルーク……ではなくて、愛と光の守護戦士ルークの将来を潰してしまうところだったので、本気で焦った。


 けれど、彼を説得してくれたのは、エマとメンダル師匠だった。


「ルーク、わたしも一生お嬢様の側でお守りいたします。学院の中では危険な目には遭わせませんわ」


「みんなが入学してしまうからね、俺の仕事がたいしてなくなっちゃうんだよ。というわけで、学院の剣術の教師になることにしました。よろしくね。学院の中には手練れの戦士である教師もたくさんいるし、貴族の子女が生活する地だから警備も厳しいし、安全性がとても高いから安心するといいよ」


「……そういうことならば」


 というわけで、過保護従者のルークも、リーベルト伯爵家からの推薦で無事に騎士科に入ってくれました。

 本当、めんどくさい子だわ!


 ……え、やっぱりわたしが悪いの?

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