イケメン彼女を全力で甘やかした結果
皆さんこんにちは!抹茶風レモンティーです!
覗いて頂きありがとうございます!楽しんで頂けたら幸いです!
「ねぇ、神崎さん!今週末にみんなでテーマパーク行こうって話があるんですけど来れませんか?」
「神崎さん!放課後、一緒にカラオケに行きませんか?」
…今日も相変わらず凄い人気だな。
毎日のように同級生に取り囲まれている彼女の名前は神崎穂乃果。
中性的な整った顔立ちにモデルのような高身長、おまけに頼れる生徒会長で、学校では王子様とも呼ばれる程の完璧人間。その上クールでミステリアスな一面も備えていて、男子からはもちろん、女子からも絶大な人気がある。
神崎さんに罵倒されながら踏みつけられたいとかいう変態も生み出す凄い人だ。
先日、学校の裏掲示板でとられたアンケートでは恋人にしたい人ランキング男女両方の部門で1位を取ったらしい。
当然、そんなにモテるから男女を問わず毎日のように告白されるが、今まで誰とも付き合った事はないそうだ。一部では社会人の恋人がいるんだとか言われてるが、真相は謎に包まれている。
…まぁ、実はそんな事はないんだけどな。
そんな事を一人寂しくクラスの端っこで考えている僕は立花瑛人。彼女の恋人である。
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神崎さんとは入学してからずっと一緒に生徒会に所属している。
もっとも僕は生徒会庶務、いわゆる雑用的な立ち位置で神崎さんは生徒会長。
立場も人望もかけ離れてて、まさしく高嶺の花すぎて恐れ多かった存在なんだけど、ある時一緒に夜遅くまでイベントの準備をしたのがきっかけでよく話すようになった。
それから教師から渡された嫌がらせみたいな量の書類を手伝って貰ったり、逆に重そうな荷物を一人で運んでいたところを助けたりして、少しづつ距離が縮まっていった。
そんなある日の事、僕は夕暮れ時のスーパーに切らしていた調味料を買いに行ったんだけど、偶然にもそこで神崎さんと出くわした。神崎さんは両親の仕事が忙しい日はいつも惣菜品で晩御飯を済ませているらしくて、この日もそうだったらしい。
それからいろいろ話してたら、話の流れで僕が神崎さんのお家でご飯を作る事になって、初めて彼女の家にお邪魔した。
そして、その日から僕はちょくちょく神崎さんのお家で晩御飯を作るようになったんだ。
帰り際にスーパーで買い物をして、神崎さんのお家に寄ってご飯を作って、一緒に食べて、少し話をしてから家に帰る。
そんな日々を過ごしていると、次第に僕は神崎さんに異性としての明確な感情を持つようになった。
仕方ないじゃないか、憧れの人と一気に距離が近づいたんだから。
普段のかっこいいところも、時々見せる優しげな表情も、実は抜けているかわいい一面も、全部好きになった。
そして、一度そんな気持ちを抱いたらそれは自然と膨れ上がって大きくなっていった。
思春期って怖いと思う。自分の感情なのに歯車が壊れたみたいに制御が効かなくなって…僕は神崎さんと少し距離を開ける事にした。…ただただ、この関係が壊れるのが怖かった。
…でも、それにはもう遅すぎた。神崎さんは何かあったのかと聞いてくるし、僕は毎日が満たされないような気持ちだった。
そんな日々が過ぎ、僕の感情の歯車は完全に狂い出した。
好きなのに離れたくて、好きだから離れたくない。そんな相反する感情が心の奥底で渦巻いて、僕の事を煽ってきた。
僕はもう抑えきれなくなって、神崎さんに吐き出すような、醜い告白をした。
…そして、オーケーを貰えた。
…マジで?
まぁ、そんな訳で信じがたいことに、僕は神崎さんの恋人になれた。それが大体1年前。今でも良好な関係でソフトなお付き合いをしている。
僕は今、間違いなく幸せである。
そんなこんなで、僕は今日もたくさんの幸福感と少しの優越感を感じながらイケメンな彼女の事を盗み見るのだった。
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あっ、目があった。口をぱくぱくしてる。…ふむふむ、"放課後、一緒に帰ろう"かな?
生徒会の書類地獄で鍛えられた僕と神崎さんは、もはや念話レベルでの意志疎通を実現出来ているのだ!…流石にそれは盛ったけど。
まぁ取り敢えず、今日は神崎さんと一緒に帰ることになるらしい。
少し久々の下校デートだから楽しみだ。
もちろん今日の授業は飛ぶように過ぎていった。
*
というわけで僕と神崎さんは放課後、一緒に帰るために待ち合わせをしていた。
もちろん誰にもバレないように学校からかなり離れたところでだけど。
「悪い、瑛人。もしかして待たせたか?」
「お疲れ様です、神崎さん。全然待ってないですよ」
まぁ、本当は30分くらい待ったんだけど。
とはいえ、神崎さんが遅かったのは彼女の人気ゆえの事だから何とも思ってない。
あ、やっぱ他の男子と話してるのはちょっとだけ妬けちゃうかもだけど。
「心配しなくても瑛人以外の男とは最低限しか話さないさ。これでも結構一途な方だからね」
「あれ、今ナチュラルに心読みました?」
「あの書類地獄を乗り切った仲じゃないか。そのくらいなんてことないさ、そうだろう?」
そう言って神崎さんはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。こんな一面も似合っているのだから美人はずるい。
それに、流石神崎さん。読心術まで会得していたらしい。
…というか嫉妬してたのがバレバレなのが恥ずかしい…。まるで束縛の強い彼氏みたいじゃないか…。
「私は束縛の強い瑛人も好きだぞ」
神崎さんのからかうような一言に、僕はすっかり赤面してしまった。
「えっと、あの、神崎さん。取り敢えず帰りませんか?」
「あぁ、そうしようか。それから待たせて悪かったね」
でも、そんな一言を添えられるだけで嬉しくなっちゃうんだから、僕はやっぱり神崎さんの事が大好きみたいだ。
*
とまあ、僕の羞恥心が悲鳴を上げた事件はあったものの、それ以降は楽しくおしゃべりをしながら帰った。
神崎さんと話していると時間があっという間に過ぎていって、気がついたら神崎さんの家の目の前だったのだから驚きだ。
「じゃあ瑛人、また明日な」
そう言って神崎さんは家の中に入ろうとした。
「待ってください!」
…でも、僕はそれを引き留めた。
どうしてかは分からないけど、僕は今日の神崎さんになんとなく違和感を感じたんだ。言葉では表せないけど何かヘン、そんな感じ。
勘違いだったら僕が変な奴になるけど、その時はその時って事で。
「?どうした、瑛人」
「神崎さん、ちょっと笑ってみてくれませんか?」
「…ん?別に構わないが?」
そう言って見せてくれた神崎さんの笑顔は、100人中100人が見惚れるような、素敵な笑顔だった。
…だけど僕にはやっぱりいつもと違って見えた。まるで作ったような――いや、実際に作って貰ったんだけど――とにかくヘンな感じがしたんだ。
「はぁ…、瑛人はそういう人の細かいところによく気づくよな。人間観察が得意って言うか、勘が鋭いっていうか。…まぁ、そんなところも好きになったんだけどな。家に上がっていくか?どうせこのまま帰れって言っても聞かないんだろ?瑛人はときどき頑固になるもんな」
「もちろんです!」
ときどき頑固になるという評価は心外だけど、僕は神崎さんの話に乗って家にお邪魔する事にした。
*
そして神崎さんの家に通された僕は、彼女の部屋で向かい合ってじっと座っていた。
「それで、何かあったんですか?力になれるかは分かりませんけど教えて欲しいです。誰かに話すだけでも少し楽になると思います」
少しの静寂が場を支配した後、神崎さんはポツポツと話し出した。
「…最近、両親の仕事がさらに忙しくてな。家では家事や小さい妹の世話、もちろん授業の予習復習もしないといけないし、学校では生徒会長として皆の期待に応えて過ごす。情けない話だが少し疲れがたまってしまってね。精神的に休む機会が全然取れていないんだ」
……
「そんな、何で言ってくれなかったんですか!?知ってたらもっといろいろ手伝ったのに!知ってるでしょう!?僕、家事なら大体出来るんですよ!」
「今でも週に2回もご飯を作りに来て貰ってるのに、これ以上瑛人の好意に甘えるのは申し訳なくて…」
彼氏なんだからそんな事気にしなくて良いのに…。
でも、神崎さんは真面目だから気になっちゃうんだろうな。
…そうだよな。そんな努力家な神崎さんも好きになったんだから。
そっか…
「なら僕が神崎さんの休むお手伝いをします」
「…瑛人?」
「神崎さんはいつも一人で頑張ろうとしてます。もちろん、そんなところも大好きですけど人に頼らなすぎです。せめて彼氏の僕にはもっとたくさん頼って欲しいです!神崎さんは甘えるのが下手すぎなんですよ!」
「多分…そんな事ないが…」
「そんな事あります!だから僕が神崎さんの事を全力で甘やかします!!」
*
―神崎穂乃果視点―
「ふぅー、神崎さんはいつも頑張ってて偉いですね。あっ、危ないから動かないで下さいね」
私は今、付き合っている彼氏に膝枕をされながら耳掻きをして貰っている。…瑛人、これ普通逆なんじゃないか?
結局あの後甘やかすと言って聞かなくなった瑛人に押しきられてこうなっている訳だけど、どうしよう…凄く恥ずかしいんだが。
それに、耳の中が程よく刺激されて顔が緩みそうになる。必死に堪えないとすぐにバレてしまいそうだ。
「な、なぁ瑛人?やっぱりこう言うことは女性が男性にするのが良いんじゃないかなって思うんだよな?ほらっ、瑛人もやって欲しくないか?」
「神崎さん、こっち側終わりましたよ。反対向いてください」
私は素直に反対側を向いた。
「それで、僕もやって欲しいですけど、それよりも神崎さんを休ませてあげたいんですよ…。神崎さんの彼氏ですからね。それに人は誰かに甘えると自己肯定感が高まって生きるのが楽しくなるらしいですよ。健康にも良いんだとか。だから神崎さんはもっと甘える事を学んでください。気持ちいいですか…?」
ただでさえ耳が気持ちいいのに瑛人のゆったりした声が耳元を震わせてくすぐったい…。
きっと、このまま眠ったら凄く気持ちいいだろうな…。
「はい、神崎さん。こっちも終わりましたよ」
あっ、もう終わってしまったのか…。いつもより時間の経過が凄く早く感じた。
まぁ少し名残惜しい気もするけど、恥ずかしさも限界だったしちょうど良かったか…。
「ありがとう、瑛人。お陰で肩の力が抜けたみたいだ」
「はい!それじゃあ次はギュッってしても良いですか?」
んんんんん??
「えっと…瑛人、まだやるのか?」
「もちろんですよ。あっ、でもさっきより身体が密着するので嫌だったら言ってくださいね。」
…いや、別に付き合ってるんだからそのくらいの密着なら良いんじゃないかな。
…うん、瑛人は自分からスキンシップをとろうとしないから珍しい機会だと思っておくか。…決して膝枕をやめたら寂しくなったとか言うことではないが。
「別にそのくらいのスキンシップで嫌がったりしないぞ。むしろ瑛人は恥ずかしくて出来ないんじゃないか?」
ただ、なんかしゃくだから少しだけ挑発を添えておく。
「それなら良かったです。じゃあギュッとしますね」
そうして瑛人は恥ずかしげもなく私に抱き付いてきた。
うっ…これは想像以上にヤバい…。
瑛人の匂いがさっきよりも強く感じる。
男の子らしいけど汗臭くない爽やかなにおい…。
匂いフェチとかではないけど、癖になりそうな優しいにおい…。
…なんだか変な気分になりそうだ。
「神崎さん、いつも頑張ってて偉いですけど、今はゆっくり甘えましょう?誰かを頼る事は恥ずかしい事じゃないんですよ。みんなやってるんです。神崎さん、頭なでなでして良いですか?」
「あっ、うん」
「ありがとうございます。…よしよし、良いですね、神崎さん。全身の力が抜けてきたみたいです。もっとリラックスして下さい」
…まるで身体と頭が泡沫のようにふわふわとさまよっているみたいだ。
瑛人の少しごつごつした無骨な手がそれに似合わないくらい優しく頭をなでる…。
瑛人の声が耳を溶かしていくみたいに脳に直接伝わってくる。身体の奥から安心するようで、それがくすぐったくて、気持ちいい…。
…頭がぼーっとしてきて、頬はそれに比例して熱を帯びていくのが、かろうじて理解できる…。
「瑛人、もっと強く…」
っは!私は一体何を言ってるんだ!?これじゃあまるでもっと抱きしめて欲しいって言っているようなものじゃないか!
「神崎さん!良いですよ!もっとギュッってしますね!」
そう言って瑛人は腕の力を強めた。
顔が瑛人の胸に押し潰されるくらい埋まって、息苦しいのに満たされるような感覚。
なんとか息を吸おうとすると、瑛人のにおいが胸一杯に広がってぽかぽかしてくる。
「神崎さん?どうですか?」
「…穂乃果」
もう理性なんてブレーキはとっくに決壊して、私は夢見心地のまま言葉を発していた。
「ほ、穂乃果さん?」
「…」
「………穂乃果?」
「…うん」
「疲れはとれた?」
「まだ…」
「そっか…じゃあもっとこうしていよう?」
「…うん」
こうして夜は深くなっていき、私の意識は次第に落ちていった。
*
「瑛人…」
翌朝、まだ明るくなる前に目が覚めた私は、隣に眠る瑛人の顔を眺めていた。
昨日の事を思い出すと全身が真っ赤に染まっていく。
「のんきに眠っているな。…ちょっと胸借りるぞ?」
そう言って、私は瑛人の胸に顔を押し付けて息を目一杯吸い込んだ。…仄かに甘いにおいがする。
「まったく…昨日はよくもあんなに甘やかしてくれたな。……お陰でこの胸に抱きしめられないと快眠出来なくなってしまったじゃないか。………責任、とってくれよ?」
そして、私は瑛人のかわいらしい寝顔に…そっとキスを落とした。
※自己肯定感うんぬんの話は作者が一秒で調べただけなので鵜呑みにしないで下さい!