緊急速報
午後の訓練項目が終わり訓練生達は食堂へ集まっていく。
訓練生たちの話題は昼過ぎに見た記録映像のことばかりだった。
テレビには迎撃作戦の状況が流されていて、今は人型機動兵器の補充が完了するまで制圧射撃が止めどなく行われている。浮遊物体の移動速度は砲撃で60%程度下がっているようだ。
和歌山周辺の県には避難命令と沿岸部に迎撃部隊の配置が行われ、周辺海域では戦闘機がレーザーによる海中調査をし他の上陸可能性のある地点を割り出していた。
太平洋に面する東北地方より下の地域はレッドゾーンになっている。
進はそのテレビを見ながら1人で黙食していた。
そこへ演習場で俺と話していた訓練生がやってくる。
彼女は黒井悠。艶のいいダークブルーのストレートロングに後ろで髪を束ねている白いリボンがトレードマークだ。
「隣、いいかな?強制的に座るけどさ。」
彼女は俺の有無も聞かないで隣の椅子へ座った。
「進、高速道路は避難民で大渋滞に空港も船乗り場も人でごった返してるみたいだ。今までこんなことあったか?私が知っている限り無かった。それだけ非常時だってことさ。」
「そうかよ。俺はまだ実感が湧かないね。」
「へぇ〜?覚悟しといた方がいいぜ、あの7人みたいに一瞬で圧死だ。」
黒井はヘラヘラ笑いながら野菜を頬張っている。
テレビには政府が緊急事態宣言を発令したという赤いテロップが流れている。
俺の予測じゃ今の戦力で大阪を守りきれるとは到底思えない。進軍速度を落とせたって問題の解決には至らない。
腐食弾以外の有効的な攻撃方法を考えている時間の猶予なんてないと言いきれる。
「10日間もしてたら前線は崩壊する。作戦はとうに失敗してるんだよ。」
「進の言う通りだな。」
俺の目の前の席に能登教官が座った。
「飯伏大佐は無理も承知で10日と伸ばした。本当だと今日の今頃から現地に到着し作戦に参加していたはずだ。ほかの訓練生には言うなよ?教官たちでも上の者だけが知らされた内容だ。」
「そうかよ。はなから俺たちは捨て駒だったって訳か。」
「そこまでは言っていない。あくまで時間稼ぎだ。」
「変わらないですよ。」
能登教官を合わせて3人は口を噤んだ。
俺は夕食を食べ終え食器を戻すために立ち上がった時、テレビの映像が急に切り替わりアラートが鳴りだす。
そこには高知沿岸に浮遊物体が接近していると言う警告と同時に大阪迎撃部隊が食い破られたという報告だった。
俺は思わずトレイを床に落とす。
慌てて片付けしようとした俺の手を能登教官が止める。
「行くぞ。時間は無くなった。」