生存戦略
あれからずっと2時間近く戦闘を継続していた。前哨基地からは定期的に物資の降下が行われていてそれを回収出来れば弾丸やエネルギーはリセットされる。だがパイロットの疲れはどんどんと蓄積され他の部隊では戦死者も出てきたそうだ。
「いま、今ので何回目ぇ?」
「数えるんじぇねぇ…。知れば後悔スっぞ。」
「部隊各員、機体の損傷はどれくらいだ。」
桐ヶ谷「ルース04。全身黄色表示だ。右足のモータが点滅してやがる。」
汐川「ルース03。同じく黄色の左肩の装甲が全損……。」
進「ルース05。両足が赤、あとは黄色。」
少佐「私は黄色だ。大尉は言わなくてもわかるぞ。真っ赤だろう。」
「御明答。」
御影大尉の巴長門の歩行速度は1番遅い。それもそう第444機動部隊でエイリアン撃破数トップであるためだ。
桐ヶ谷「いつになったら終わるんだよ…。」
少佐「あと3時間くらいだな。」
汐川「目がね。チカチカするんだよ。おかしくない?」
御影「それはVDT症候群だな。別名IT眼炎。モニターの見すぎだな。」
汐川「はぁ…。それならみんなそうでしょ。」
たしかに汐川の言う通り頭痛もするし肩も重い。
進「交代まではあとどれくらいですか?」
少佐「だいたい半日で交代と作戦本部は言っていたな。」
さっき言っていた3時間か。
御影「思いついた作戦がある聞いてくれ。群れの左右端に2機ずつ機体を配置しつられて空いた真ん中を突っ切って司令目を叩くというやり方だ。今までの戦闘でわかったのだが奴らの動きは単純だ。」
汐川「とりあえずやってみようか。」
少佐「数を減らし、しかも距離を置くとは支援出来なくなるぞ?」
御影「この作戦では狙うは司令目の一体だけだ。他を撃破する必要は無い。」
少佐「真ん中は誰が行く?」
御影「私だ。」
少佐「大尉自らか!?」
御影「私が1番損傷しているし何よりも技量が問われるポジションだ。来たぞ奴らのお出ましだ。作戦はさっき言った通り
、桐ヶ谷と汐川で右サイド。左は進と少佐だ。散開!」
4機はその場から去り残るは御影大尉の巴長門。
大尉の言った通り両サイドに別れた機体を追ってエイリアンの群れが分断されていく。すると司令目がどちらかの群れについて行こうと移動を始めたその時が攻撃タイミング。
「ここだ。」
御影大尉の巴長門が地面スレスレを飛ぶ。スラスターの出力を最大にして加速していく。そして巴長門は音速を超えた。ソニックブラストで機体が揺れるが大尉は冷静に対応してみせる。さすがは元実験部隊、テストパイロットだった時の操縦技術は未だ健在。両サイドからの狙撃目の予測射撃さえも見事に交わしていく。
「落ちろ!」
大尉の長剣は司令目が奇声を発する前に肉を斬った。その様子を遠くで見ていた俺は絶句する。大尉は減速するため一度、高度を上げてからゆっくりと着陸した。
「さすが大尉。素晴らしい操縦技術だ。」
「お褒めありがとうございます。少佐も直ぐにできますよ。」
「やめておく。冒険心はとうに無くなったよ。」
汐川「新手です。」
御影「さっきの作戦をもう1回行う。直近なら通用するかもしれん。」
「「了解!!」」
少佐「各機散開。道を開けろ。」
数分後また、司令目への道が開く。大尉は同じように速度をあげていく。そして音速を超えた一撃を司令目に与える。が撃破したのはいいもののエンジン不調で減速できず地面に足を擦って着陸した。
「大尉。損傷を確認しろ!」
「どうやら限界がきたようだな。左舷のジェットエンジンが故障した。両足も点滅だ。」
「継戦不可能か……。」
「2回しかできなかったな。すまない。」
「謝ることは無い。おかげで我々の損害はゼロだ。」
「他の部隊に悪いがここで大尉を基地に戻すぞ。ここまで輸送機が到着することはできない。」
その時、ライフルのスコープを覗いていた汐川が叫ぶ。
「皆さん、さらに新手が接近中。それも司令目が三体も!?規模が桁違いです!!」
「ちょっと待て汐川。1番前にいるのはS-88じゃないか?」
「え、嘘っ進くんそれ本当……ホントに言ってる!?本当だ!!」
「おいおい、あの部隊カラーは227のトコじゃねぇかよ!」
連絡可能範囲になったところでその機体のパイロットの叫びが聞こえだした。
「ヘルプコール!!こちら第227機動部隊ミラ03!死にたくない…死にたくないよぉ!」
「こちら444、ルース01。援護を開始する。進路そのまま速度を限界まで上げろ。」
桐ヶ谷「少佐、本気ですか!?」
「ああ、本気だ。大尉、すまないこれがラストだ。」
御影「あぁ、やるさ。もう逃げはしないからな。」
聞こえてくる音声にはノイズが混ざって彼女のコックピットで鳴り響くエラー音が聞こえてくる。
そして、大尉の機体が軋みを鳴らしつつ起き上がる。排熱口が壊れ、コックピットの温度は30度を超えている。大尉は吹き出る汗を拭いながら操縦混を握った。大尉はコマンドを入力して肩の装甲を切断し機体を軽くする。
少佐「来るぞ構えろ。この量だ、高度をあげれば聞いたことない数の警報が鳴るだろう。両サイドからも無理だ。正面から対峙するしかない。腹をくくれ。」
少佐は1呼吸おいて我々に命じた。
「5秒だ、5秒で離脱しろ!!各機突撃!」
そして第444機動部隊は3つ分が合わさった群れに攻撃を開始。俺は機関銃のトリガーを押し続けた。画面いっぱいに広がる黒目のエイリアンたち。その一体一体を撃破する度に黒い液体が彼らから吹き出る。
「時間だ!退避せよ!!」
少佐が叫ぶ。それに合わせて腰部のジェットエンジンを前に向けて後退する。その時、1人遅れた赤い機体を見た。その機体は逃げようともせず鬼神のごとくエイリアンを滅していく。しかし、あと数秒で群れに飲まれるだろう。
「大尉!!」
「大尉!!」
彼女は下がらない。
「あぁクソ、死に急ぎ野郎が!!」
俺は機関銃を投げ捨てて大尉の巴長門の背中に付いた牽引用の取ってを掴んだ。そしてスラスターを限界まで使用してその場から撤退する。しかし、思うように速度がのらない。
「ちくしょう!大尉もエンジンをつけてください!」
その声に呼応したのかジェットエンジンが起動した。そうしてやっと速度が上がり続け群れと距離をとることに成功した。
咄嗟の判断だったため少佐たちとは別な方向へ行ってしまい連絡可能範囲外になってしまう。
「とりあえずこのまま基地の方向へ向かいます。連絡部隊が戦況を確認していると思われるので交代時間は早まるでしょう。大尉、聞いてます?」
「なんで……危ない橋をわざわざ渡った?」
「死なれると困るからですよ。俺よりも人的損害が大きいのもあります。それに俺は…過去に仲間を見殺しにしていた。」
「あの大阪か。」
「はい。でも今朝、桐ヶ谷に殴られて思ったんです。俺は軍人で、もう訓練生じゃないって。そんなこと今更気づいても遅すぎるけど……。」
「日本は100年以上戦争をしてこなかった。だから急に命をかけた戦争を初めて直ぐ死ぬ覚悟できた者はいないさ。皆が運命に流され亡くなっている。」
「大尉はなんであそこで逃げなかったんですか。」
「私はかっこよく最期を遂げたかっただけさ。」
「なにがなんでも生き残ろうとするのが人間の業でしょう。」
「進。浮遊物体が現れてから世界中の自殺者が一気に増えたのは知っているか?」
「いえ…知りません。」
「もう未来はないと、このまま待っていても宇宙に逃げれるのはお金持ちだけ。ならいっその事。他にも軍人でも辞めていく人が増えている。人型しか通用しないならそれ以外の自分たちは用済みじゃないか。」
「そんなの勝手に思い込んでるだけでは?」
「未来は誰も分からない。思い込んでるって決め付けれる答えを君は持っているかい?」
「……いいえ。ですが大尉は自分の人生にとって死んでいい人ではないですよ。」
「ふふっ……そうか、わかったよ。」
「今、笑いましたか?あ、見てください大尉。基地が見えてきましたよ。」
「長かったな……。」
「ええ、まったくです。」




