死戦
午後の演習に御影大尉は参加しなかった。
フェニキシオン少佐は御立腹な様子で演習後直ぐに彼女のもとへ向かったそうだ。そして午後の演習で少佐にアドバイスされたことがあった。
「進中尉。いや言い難いから衛人中尉でいいかな。」
「大丈夫です。」
「では、衛人中尉。君はS-70:シュミューラという戦闘機における操縦が同学年の中で突出して上手かったと聞く。人型機動兵器では活かせないのか?」
俺は返答に困る。人型機動兵器と戦闘機の操作はほぼ一緒である。なぜなら戦闘機の派生が人型機動兵器であるからだ。しかし、俺には何故か人型機動兵器に対して苦手意識という抵抗があった。
「返答しないということは活かすことが出来ないのを認めたとみなすぞ?」
「はい……。」
「そうか。なら戦闘機に乗れ。」
「えっ。」
「適材適所という言葉が日本にはあるそうじゃないか。意味はあっているだろう?君は人型に向いてない。というか嫌っている。ほんと珍しい性格だよ…まったく。」
「生存確率が著しく低下しますが。」
「死にたくないなら軍を辞めるか、人型に慣れろ。では私はもう1人の問題児を見に行ってくる。明日の出撃までにどうするか決めておくことだな。」
フェニキシオン少佐は片手を上げ、挨拶したあと格納庫を後にした。
ぽつんと演習室に残された俺はしばらく放心していた。
――――
明朝、午前4:30。前衛との交代時間まで1時間半前。
「答えは見つかったか?その様子だとまだのようだな。」
格納庫の出口に近く。そこには少佐が手配したS-70:シュミューラが鎮座している。人型機動兵器が主力になった今、ありあまっていたのだろう。
「衛人中尉。君は本当にそれで良いんだな?」
「はい……。」
「情けない。非常に情けない……まぁいいさ、君の人生だ。責任は私が負う。だから思う存分飛んで、死ね。」
最後の言葉は力強く重たかった。
「進くん。言い返そうよ!このままじゃ……あなたは……。」
「汐川、いいんだ。やっと戦闘機が乗れる。」
「馬鹿野郎!!」
!?
桐ヶ谷が鋭い目つきで思いっきり俺を殴った。
「好き嫌いの問題じゃねぇ!部隊全員の命がかかってんだよ。1人の勝手気ままで俺は死にたくないね!皆もそうさ。攻撃能力の低さは他がカバーしなきゃいけない。わかってんのか!?」
桐ヶ谷の言い分は正しい。嫌いだとか上手く扱えないとかウダウダと言っている時間を相手は待ってくれないし、部隊員との協力も重要だ。
「俯いてないで前を見ろよっ!答えはそこにあんだよ。俺たちは国民を守るっていう大きな使命がある。けどその前に――その前にまずは仲間を守りやがれ!!」
心配そうに前かがみになって見つめる汐川とグッドサインを送る桐ヶ谷、それにやれやれと腕を組んで苦笑いするフェニキシオン少佐。最後に俺の隣に立つ御影大尉。
「昨日は助かったな。」
御影大尉が呟く。
「私にも言えることだが前を向いてまっすぐに立て。自分の弱さと向き合い、克服できない時は頼ってくれ。技術というのは何回も訓練してやっと半人前だ。頑張れとは言わない。良いな?」
最後に大尉はコツンと俺の右腕に拳を軽くあてた。
「衛人中尉。S-86fに乗りたまえ。」
「ありがとう、ございます…。」
――――
『こちら、コマンドポスト。交代の時間になりました。第226・227・300・444部隊は至急速やかに離陸し交代ポイントへ向かってください。皆様の健闘を祈ります。』
滑走路には第226機動部隊「ドラケン」に第227機動部隊「ミラージュ」、第300機動部隊「ヘクター」、第444機動部隊「ルーデンス」が並び、順に空へ上がる。
空へ上がった時点で遠くに黒く染まった大地が見えた。それ全部が大阪の未確認飛行物体着陸ポイントから放射状に広がってくるエイリアンの群れだ。
我々は最終的に未確認飛行物体の着陸ポイントまで到達しその船を破壊しなければいけない。
「もうそろそろ交代ポイントだ。」
少佐からの連絡が入る。そして交代ポイントには複数の人型機動兵器が見える。数は5機程度か。そのうちの1機がこちらの接近に気づいた。
「我々はもう戦力を維持できない!撤退する!」
少佐「了解!連絡はいいから離脱しろ。各機、スモーク散布!」
前任の部隊の頭上まで高度を下げてスモークを放つ。そしてそのままの速度でエイリアンの群れへ攻撃を開始した。
少佐「大尉、昨日話した通りに行くぞ。切り込め!」
少佐と大尉の機体が前に出て残るは後続となる。
少佐は昨日の演習で見せたの動きをもう一度行い、兵士目の群れに対しサブマシンガンで掃討する。
次に大尉は両手に弐式叢雲という長剣を持ち、腰部のジェットエンジンで兵士目たちの目前へ加速。そして一刀両断するという芸当を見せた。移動速度は少佐が早いが取りこぼさないのは大尉のやり方だ。
残る俺たちは汐川が狙撃しながら、桐ヶ谷と俺で取りこぼしを機関銃で薙ぎ払う。
他の部隊も並走するように群れをすり潰していく。
だが、ここからが難所だった。兵士目の状況を把握した司令目が狙撃目へ攻撃ポイントを教える。すると大きな壁のように密集した土の弾丸が各部隊へ飛んでくる。
御影「高度をあげるな!!戦車目と同じ高さをとって戦え。あたれば即死だぞ!」
進「御影大尉!戦車目が!」
兵士目エリアを抜けた大尉の機体に戦車目が詰め寄る。戦車目の装甲の間には砲身があってそこから狙撃目ほど強力でないが射撃ができる。詰め寄った戦車目たちが大尉の機体に向けて発砲する。
御影大尉はジェットエンジンを前後に向けて点火、加えてロケットエンジンでの瞬時加速で機体を一回転させて弾の直撃を避けた。そしてそのまま円弧を描くように移動。戦車目の背後をとる。
しかし、この動きが裏目に出る。戦車目の後方には狙撃目が控えている。司令目が伝えなくとも視界に入れば狙われる。
御影大尉はそれを戦車目に攻撃する直前で気づき移動したが左肩に被弾した。その衝撃で前のめりになって地面に叩き落とされる。撃った狙撃目は汐川によって撃破された。
汐川も狙撃による牽制を行っているが数が多い。兵士目は見ただけでざっと1万はいるだろうし戦車目も1000近く、補給目は戦車目と同数で狙撃目は500くらいか。
御影「私に構うな!止まれば兵士目に喰われるぞ!」
少佐「ルース03、04、05。私に着いてこい。司令目を取りに行く!」
(ルースとはルーデンスの意。その後の番号は隊員の部隊コード。並びは少佐、大尉、汐川、桐ヶ谷、進)
少佐の号令で狙撃目エリアへ突撃する。狙撃目は射撃前に砲弾生成の溜めが入るため、銃口が狙ってくるのを見逃さなければ避けることは可能だ。
俺は全周モニターの後ろを見ると立ち上がって剣を構える御影大尉の巴長門が映る。大尉は流れるように回転しながら寄生する補給目を先に狙って攻撃していた。
汐川「桐ヶ谷くん。この中間地点で両方を援護しよう。少佐と進くんは先に行って!」
少佐「了解した。衛人中尉、着いてこい!」
「了解!」
汐川は機体を地面に着地させライフルを構える。そして狙ってきた狙撃目に対して先制攻撃をかけ各個撃破していく。
桐ヶ谷「汐川。兵士目が寄ってきたら少しずつ移動していくぞ。手遅れになれば厄介だからな。」
「わかった。」
桐ヶ谷のS-86fと汐川のS-88は並んで攻撃する。機関銃で目線を散らし、ライフルでトドメを刺す。
少佐と俺は狙撃目からの目線を感知するシステムが鳴らすロックオン警報を聞き回避運動を取りながら司令目エリアを目指す。距離はそう遠くない。
少佐「見えたぞ!!あの白いのがそうだ。」
俺はすかさず機関銃をばらまいて攻撃する。すると司令目の黒目の下が開いて奇声を発した。
そして突如鳴り響く大量のロックオン警報。
「こいつ!?」
俺が狙撃目に対応しようと回避するのを横切って少佐のS-88が司令目を撃破。
するとロックオン警報は消え、エイリアンたちが地面に伏せ始める。
「司令目の役割はチェスのプレイヤーだな。他は全部、駒。動かす者がいなくなれば停止する。」
「何故それを?」
「私の勝手な想像だよ。衛人中尉、前を見たまえ。今倒したのは1人目のプレイヤーだ。あと何回勝てばゲームマスターに会えるのだろうね。」
少佐のS-88が指さす方向にはまた兵士目の群れが見える。兵士目から始まり司令目で終わる敵部隊は何層にも重なっているようだ。
「衝撃波、爆発、四散する破片。その全てを防ぐ奴らの装甲。こちらは弾丸を使ってしか倒せないという縛りがある。嘆いてもきりないかな。行くぞ衛人中尉、部隊を収集して再度攻撃する。」
「呼んできます。」
「おう。」
少佐を置いて、連絡しに行く時ギリギリ部内回線が届く距離くらいでフェニキシオン少佐の悲痛な声を聞いた。
「うぉぉぉ…。カルフォルニアに帰りた〜い。」




