迎撃準備
核を使った米国、アラスカ半島の崩壊と同時期に腐食弾頭高速ミサイルを大量使用したロシア、日本。
逆にそれらを使わず戦闘を今も続けている欧州や南アジア諸国。
前者は世界中から大きく非難され、非道である。環境破壊推進国などと呼ばれる始末となった。それは未だ、浮遊物体を処理できない国の僻みでもあった。
12月を境に事態は新たな局面を迎えて行くこととなる。荒廃したアメリカや一部汚染地域になった日本、戦闘を続けていた欧州。その3つの地域で未確認飛行物体が襲来。
ロシア政府が公開した映像にはおびただしい数の宇宙船がアメリカの国土へ飛来する様子が映っていた。
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東京都、横田基地。
先日の未確認飛行物体によってこの基地も人型機動兵器が数多く滑走路に並んでいた。
そして、ここには本国に帰ることが叶わなかった米国軍の兵士用の宿舎も建ててある。
その宿舎へ冬用の軍服を着た銀髪の女性が入っていく。早足で目的の部屋に到着した彼女が鉄の扉を3回ノックした。
「どうぞ」と聞こえ彼女が室内に入る。
「お久しぶりです。少佐。」
「こんな早朝に誰かと思えば、君だったか御影大尉。昇進おめでとう、どうぞかけたまえ。」
フェニキシオン少佐が持ってきた鉄の椅子に大尉は座る。
室内は殺風景で長いデスクと小さな本棚しか置いておらず、ヒーターはあるがすきま風で寒かった。
「話しは聞いているよ。444機動部隊の指揮の事だ。資料を見るに元々は実験部隊だったそうじゃないか。それすら引っ張り出す程事態は切迫している、か。」
少佐は大きなため息をついてコーヒーをすする。
「おかげで私は本土解放作戦にも参加出来ずここで待ちぼうけていたよ。」
宿舎にはフェニキシオン少佐以外だれもいなかった。
在日米軍以外はロシアと東カナダが行う解放作戦に招集されている。少佐は浮遊物体戦初期のテキサス防衛ラインからずっと生き残ってきたベテランなのにだ。
「大尉は人型に乗り出して何年になる?」
「初期型のS-80に初めて乗ってから7年になります。」
「随分と長いじゃないか。なら大尉が部隊リーダーを勤めればいい。」
「いえ、少佐が採用されたのには訳がありましてね。ここだけの話し、少佐の上官に当たる人物からの命令だったとか。」
「はぁ…。だいたい話は理解したよ。それなら仕方ないなぁ。」
フェニキシオン少佐は目頭を指でつまみ、一杯食わされたと悩み顔をした。米国軍内の内情は知らないが少佐がとても大切な人物であったと理解出来た。
米軍からすれば日本は後方勤務なようだ。
「私の所持品はこの部屋にある荷物で全部だ。後で運んでもらおう。」
大尉は端末を取り出し手配の連絡を送る。
「では、滑走路へ行きましょうか。輸送機がお待ちです。」
――――
輸送機に乗り込んだ2人は和歌山にある前線基地へ到着するまで情報の確認を行う。
「新種の未確認飛行物体、エイリアンか。米軍が知りうる情報では奴らを5つに分類している。兵士目、戦車目、狙撃目、補給目、司令目。中でも厄介なのが戦車目と補給目だ。その2つが共に行動している事が多く、無尽蔵に攻撃してくる。」
「それらは大阪でも確認していますが戦車目は地面を掘削し、その土を固めて撃ってくる様ですね。」
「加えてダンゴムシのような装甲も兼ね備えているな。補給目に関しては運動するためのエネルギーを供給しているのではと我々は考えていて機械と同じように電気のようなものを使用していると仮定した。」
「有効な戦術などはありますか?」
「そうだな〜。戦車目のために地雷を敷いても兵士目が先に踏むことで防がれる。よって戦車目の目前に爆弾を地面に投げ、装甲の内側へ入れるしかない。タイミングを間違えれば丸くなって防がれる。」
「近接戦は免れないと……。」
「浮遊物体をばら撒かれるよりはマシだよ。」
「ええ、浮遊物体に関してですが組織内部に電気を発する器官があったと分かっており、新種と比較するとおそらくは電池に相当する物だと日本の研究者は考えております。」
「奴らにとって直進しかできないゼンマイ仕掛けのオモチャだった訳だ。」
「良いたとえですね。」
「オモチャ……、うーむ。ちょいと特殊機能好きな開発者が宇宙のどこかにはいるのだろうね。」
少佐は苦笑した。
「ありえない話でもない。」
大尉も顎に手を当てて、納得といった表情だ。
輸送機は1時間のフライトの後、和歌山の前線基地につく。そこには出撃を今か今かと待つように滑走路へ何機もの人型機動兵器が並んでいた。




