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ソセイソル 〜Uninvited sin〜  作者: おやさしい海月
12/18

先を見据えたものが勝者である




高知と徳島の間にある山間部で手を擦り合わせ寒さを紛らわせている人物がいた。

名はアルター・フェニキシオン。身長140cmの小柄なブロンドをしたボブヘアだがくせっ毛のせいではねている。


「はぁ…。日本の冬は寒い。雪が降っていないのが幸いか…。」


「フェニキシオン少佐。地雷の設置、終了致しました。」


「よろしい。持ち場に帰りなさい。」


報告に来た兵士は駆け足で山を下って行った。


「日本兵は仕事が早くて助かる……。比べて我が隊と来たら…酒、酒、酒、酒。もう我慢ならん…。」


フェニキシオン少佐はズカズカと歩いて自分のテントに入った。


「お前たち!!いい加減にぃ……あれ?」


彼女はテントの中に自分の部隊員がいないことに驚く。

『奴らどこに行った…。』

そして、テントを出たところで飛び出てきた隊員に驚かされた。


「ひぃっ!?」


「隊長〜。なに驚いてるんですかぁ。」


「プロトフ!!貴様、上官に向かって!」

プロトフ。彼はムキムキのデブ。


「ここはアメリカじゃないんですよぉ?ましてやアラスカ戦線でもない。放射能汚染されてない浮遊物体が相手なんだから気楽に行きましょうや。」


プロトフの後ろからは他の隊員も揃っていた。彼らはアメリカから派遣された新兵の人型機動兵器パイロットである。本国から浮遊物体との練習の一環で日本に来ている。本国は新兵教育が何よりも大切だと考え、大統領が日本に避難していたこともあってこの地を選んでいる。


「貴様ら新兵は浮遊物体の怖さを知らないのだ。だから呑気なことが言ってられる。奴らの移動速度と言えば――」



フェニキシオン少佐が言い終わるころに、地雷が連動して爆発する音が聞こえた。

音は30秒にわたって続き、場を凍らせる。


「お客さんが来たぞ!新兵共、練習の時間だ。さっさとS-88に乗れ!」


フェニキシオン少佐の部下がいっせいに近くで中継姿勢を取らせていた機体に飛び乗っていく。フェニキシオン少佐は無線で彼らに連絡する。


「地雷には腐食弾を混ぜてある。数体は沈黙させているが数は減っていないだろう。それに森の中だ。木々に隠れている可能性もあるからな。サーモグラフィーを使い動く自然物を攻撃しろ。動物の形状でないことはわかっているな!」


「「了解!!」」


『ほんとにわかっているのやら……。』

フェニキシオン少佐は雪にさらされないように外套を被せてある自分の黒いS-88に近づく。


そこへ、ズシン、ズシンと音を鳴らして近づく機体が2機。日本のマークを左肩にペイントした機体だ。


巴長門(トモエナガト)…。最新型か。」


両肩にそれぞれ三本の長剣をつけた赤い機体と黄色い機体。S-88のような流線型ではあるが肩は武装をつけるため大きく、膝にはライフルを付けるための装備がない代わりに衝撃吸収装甲が付いてある。

そして何よりも目を引くのが頭に付いた2本角だ。顔は鎧武者のように凄んでいる。


「フェニキシオン少佐。守備はどうですか?」


「日本の部隊には感謝しているよ。おかげで我が隊が安全に訓練できている。」


「それは良かった。本国に渡った長剣の成果は?」


「あぁ。あれが使えるのは欧州かアジアだけだな。米国では放射能のせいで奴らに近づけない。」


「そうですか。では圧縮弾の開発の方は?」


フェニキシオン少佐は両手をあげてヒラヒラした。


「全然だめだ。兵器として使う以前に材料の回収すらできない。たまたまロシアに飛来した隕石の欠片から何発は作れても地球上の浮遊物体を消滅するに至るほど数がな……。」


御影中尉とフェニキシオン少佐が話していると突如無線が入る。それはプロトフ隊からの応援要請だった。

実験部隊とフェニキシオン少佐のS-88が支援に向かう。


テントの設営場所から南へ5km行った所、そこには谷があって地雷で浮遊物体を渋滞させ、腐食弾で一気に沈黙させるという作戦をとっていた。

駆けつけた時、その谷には大阪の時に出現していた30m位の大型浮遊物体が3体も並んでいた。

やつの特徴は攻撃範囲の広さと防御できる面が広いことである。


「厄介だな……。」


地雷で足止めしたため動いてはいないがそのままにもできない。


「実験部隊の出番だな。」


御影中尉は肩に付いた長剣を展開させる。その剣全てが放射状に広がり3枚歯の手裏剣になった。

手裏剣は強靭なワイヤに繋がっていて御影中尉の巴長門はそのワイヤを掴んで振り回す。

5、6回転したとこで手を離すと回転しながら大型浮遊物体に直撃し巨大なプレス攻撃を割り肉を断つ。


その攻撃により狙う対象を変えたのか残った浮遊物体の照準全てが御影中尉の機体に向けられる。


「これなら、本国でも使えるだろう?」


「訓練期間だけで国が滅ぶ。各機、全力で退避。くるぞ!」


フェニキシオン少佐の一声でそこにいた全機が散開する。大型浮遊物体は一点に全ての攻撃を集中させ、山を抉った。遅れた機体が瓦礫に飲まれていく。浮遊物体たちは土砂に埋もれ半数が見えなくなった。


「土に埋めるというのも手かもしれないですね。」


「いい案を思いつくじゃないか、さすがエリート校上がりだな。」


フェニキシオン少佐はどうやって山1個を覆えるだけの土を用意するのだと呆れ返る。しかも封印するだけで今後どうなるかさえ予想がつかないと言うのに。


欧州では沈黙させた浮遊物体を月へ飛ばし、生存しているだろう月面基地から太陽系外まで送るという壮大な計画が実働段階に入ったとも聞く。

この際、なんでもいいから成功してくれと祈る少佐であった。




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