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ソセイソル 〜Uninvited sin〜  作者: おやさしい海月
11/18

結果、終うなら一緒




23:00、D中隊降下開始。

目標地点は浮遊物体の正面である。大阪の市街地は破壊され京都との県境、山城周辺にまで迫っている。


「第1から順に左舷から攻撃しろ。」


D中隊の指揮を務める乾中佐が命じる。

第1から第4の総勢40機が第1部隊リーダーの乾中佐の機体に続く。その誰もが浮遊物体との戦闘が初めてである。


読者はファースト・ペンギンなるものを知っているだろうか?国語の教科書に出てきた?私は国語の時間にその話を聞いて驚かされた。

ペンギンが氷上から海へ飛び込む時、海の中には天敵がいるかもしれない。氷の上からは海の中まで見えないから分からない。だが、海に入らねば餌がとれない。

ペンギンは生か死かのジレンマに阻まれなかなか海に飛び込まない。

しかし、そこへ勇気を振り絞り先陣を切るペンギンが存在する。そいつは単に無鉄砲なのか勇気ある者なのか不明だが彼が飛び込み死ななければそこは比較的安全であると残ったペンギンたちは思うのだ。

そんな先陣を切るペンギンをファースト・ペンギンと呼ぶ。

また、このように未知なるものへ挑戦する人間にも言ったりもするのだ。


なら乾中佐、および第1部隊はファースト・ペンギンである。



「第1部隊!斉射開始!」


第1部隊が浮遊物体と30m近辺で発砲を開始する。

浮遊物体からのプレス攻撃は第1部隊が来る前から放たれており脱落者が現れる。当たるか当たらないかの運かもしれない。浮遊物体の大きさは人型機動兵器より若干小さいため、見下ろす形になる。

第1部隊は犠牲を出しながらも初撃に成功し数体の浮遊物体を沈黙させる。続く第2も同じ結果だ。

そして、汐川を含む第3部隊の攻撃が始まった。不運なことに第3部隊リーダーは言葉もないまま潰されてしまう。それに動揺したのか部隊の動きが鈍くなって被害を多く出してしまった。第4はと言うと既に同じ動きを3回見せられた浮遊物体たちが1機も残らず撃破する。


同じく前衛のE中隊は正面から浮遊物体と戦うようで隊列を組んで後退している。E中隊の方が利口かもしれない。


「再度、突撃を開始する。続け!!」


「乾中佐やめましょう!我々の目的は殲滅ではなく注意を引くことです。」


「貴様、どこの隊の者だ。」


「第2部隊所属、末永大尉であります。」


D中隊各機は空中で待機している。


「誠に無礼ながら申しますが第4部隊が撃破された現状、同じ行動を繰り返すのはどうかと考えます。」


「囮とは敵の注意を引くことだろう?ならこちらを簡単に撃破できるカモだと思わせるのが1番じゃないか。」


「それでは人的被害が!」


「また訓練すればいいさ。それか逆に貴様は囮すらこなせない弱虫か?」


末永大尉は言葉が出なかった。同じく言い返せる者はおらず皆、黙っている。


「……了解しました。」


「よろしい。では行くぞ!我に続けぇぇ!」


無謀にもD中隊はもう一度突撃を開始する。それに続く隊員たちの表情は険しく、死なば諸共と言ったようだ。

しかしその突撃に参加しない機体が1機。


バカみたい。年功序列とか上下関係とか浮遊物体との戦闘に必要ないでしょ。誰も戦った経験なんて無いのにさ。

汐川機は第3部隊から離れ、E中隊の方へ向かう。今どき命令違反で銃殺なんて無いのだから大丈夫、大丈夫。

と、汐川がE中隊の後ろへ回っている時、浮遊物体が間隔を取り始める。


これはまずい。汐川は速度を上げE中隊の前方付近まで近づき、連絡を入れた。これを知っているのは私だけだ。


「大きな攻撃が来ます!距離をとってください!」


「全機、散開!離れろ!」


E中隊の誰かが叫んだと同時に浮遊物体の全方位攻撃が炸裂。E中隊は先頭の部隊をローテーションしながら攻撃していたためその時、前にいた第2部隊が回避できなかった。

汐川も例外ではなく、両足の大破という痛手を負う。だが残ったロケットエンジンでその場を離れる。そして地面に不時着した。


「生きてるか!!」


運良く逃げ延びた第2部隊の機体が助けに来る。


「はい、なんとか…。」


「わざわざ、命はって警告に来るとは度胸あるやつもいたものだ。君には悪いがあの攻撃を見ていない者はここにいないさ。」


「骨折り損かぁ…。」


「いや、助かった。俺の機体が無事なのは君が盾になったおかげさ。よし、後方まで運ぶぞ。」


第2部隊の彼は汐川の機体を両手で掴みジェットエンジンを付け、落下地点の山間部の村から引きづってその場から逃がす。


「連絡が出せない場合、3分後に迎撃部隊が斉射する。その流れ弾に恩人をさらせるかよ。」


「せめて、もう1機いないとあなたまで逃げ遅れます!」


「そう、言うなよ。なんとかなるかもしれないだろ。」


汐川のモニターに小さく映っている浮遊物体が加速したように見えた。浮遊物体がだんだんと大きく見えてくる。


「浮遊物体が加速してきました。あなたは逃げてください!」


「おいおい、まじかよ。あんたこそロケットエンジンで逃げろ、ここは俺が食い止める。」


「そんな無茶な!」


助けてくれた機体は汐川のライフルを取って前方に2丁で構えた。彼は迎え撃つようだが迫ってくる浮遊物体の数はおよそ6000体以上。

浮遊物体が加速した理由は敵に勝てると確信したからだろう。今までは様子見で減速しながら防御陣形を保っていたが今は各々が突撃してきている。速度は200km/h位か。


「俺にも花を持たせてくれよ。人生、1回でもかっこいいとこ見せたいだろ?」


「なんでもう死んだみたいな事言うんですか!?」


「逃げ遅れたこの状況で勝てる保証はどこにあんだよ。ねぇだろうがよぉ…。だからせめてでも――」


彼が言い終わる前に浮遊物体との距離は200mを切る。彼は先手を取るためにすかさず2丁のライフルを連射してマガジンが尽きるまで撃ち続けた。マガジンは肩にあるロボットアームが自動でリロードしてくれている。しかし、浮遊物体の量は想定を超えており彼の機体は持って数分だった。一度に4体からのプレス攻撃を受けた機体は大破どころではなく四角いコンパクトな形状へ変えられてしまった。


「うそ…うそうそうそ!」


汐川はその光景を見て血の気が引いた。慌ててナイフを取り出すが時すでに遅し。浮遊物体との距離は100mを切る、これは浮遊物体の攻撃距離の暫定範囲である。

瞬間、彼女の機体に大きな鈍い音が響いて衝撃波が届く。機体は大きく後ろへ飛ばされて古民家へ激突した。


なに?私…死んだの?死んだんだね…だって何も聞こえ――



「――また会ったな。訓練生。」


汐川はハッと目を開きモニターを見る。ひび割れたモニターが映すのは赤く染められた見たことの無い機体だった。


「そ…その声。御影中尉ですか?」


「覚えてくれていたか。再会に感謝したいとこだが!今はこいつらを蹴散らすのが先だ。手伝え訓練生!」


御影中尉の乗った機体がライフルを投げ渡してくる。私はそれを受け止め、ひっくり返った状態のまま照準を合わせて浮遊物体へ撃ち込む。


「射撃の腕はいいようだな!」


御影中尉はこれまた見たことない大型の長剣で戦っている。しかもその長剣は浮遊物体が飛ばしてくる板状のプレス攻撃を斬っている。


「そ、その武器は!」


「護式:金剛に標準装備されている近接武器、叢雲(ムラクモ)に微振動を起こす機能が加わって、いる。」


「なんですかそれは!」


御影中尉はバッサバッサと浮遊物体をプレス攻撃ごと叩き斬っている。


「理解力が足りないようだな訓練生。回転物を設計する上で共振と言うものを聞いたことはないか?」


「あります!」


「物体には固有振動数がある。では人間の細胞と共振できる振動数を訓練生に与えるとどうなる?」


「さ、細胞が壊れます。」


「浮遊物体にも同じことが考えれると仮定し我々実験部隊が開発した武器がこの弐式叢雲(ニシキムラクモ)。」


「やっと有効打が!」


「しかし今みたいに近接戦闘しかできないのが弱点だ。弾丸1発1発を振動させるなど出来ないからな。」


しかし、弐式叢雲を扱う御影中尉は見たことも無い速さで浮遊物体を沈黙させていく。

だが、根本的な殲滅方法は未だわかっていない。細胞を破壊しても奴らは水分さえ吸収出来れば復活するのだ。そして破壊した分、数が増える。


「撤退だ訓練生。この武器の性能は分かった。迎撃部隊が斉射を始めている。早めにさった方が良いだろう。」


そう言い、御影中尉は私のS-88を軽々しく持ち上げた。


「先の犠牲になった彼は運が悪かった。ただそれだけだ。だが、君の命はこの世の誰かが常に護っているのだと理解しておくことだな。」


「はい…。」


御影中尉の機体は一気に速度を上げ地面を滑るように後退した。迫る浮遊物体を振りほどいて山を超え、京都に入っていく。空に上がった時、燃え上がる人型機動兵器の残骸が見えそれがD中隊のものだとわかる。その先には浮遊物体に追撃するようにA・B中隊が攻撃していた。浮遊物体の数は着実に減っている。


「やっと、大阪は解放されるんですね。」


「まだだ。近畿と四国は未だ浮遊物体の驚異に晒されている。」


「ええ。そうですね……。」


「訓練生…いや、汐川少尉。」


「はい。なんでしょうか。」


「私の部下1号にならないか?嫌なら他にあてがあるが……。」


「お断りするなど有り得ますか?奴らを蹴散らせるのならどこの隊にでも入ります。」


「では、ようこそ汐川少尉。実験部隊“Ludens(ルーデンス)“へ。」




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