来訪者
ソ連と米国の冷戦時代。
核開発競走や宇宙開発競走といった研究が一気に加速した時があった。
そして、アポロ11号が月面に着陸し2名の宇宙飛行士が月に降りたって57年後、それまでに人類は月に様々なものを送ってきた。人の歴史の記録や技術、微生物などである。
それから、再度月に有人ロケットを飛ばす。
その実験は成功し陰謀論などと言われてきたアポロ11号と違いより正確な映像で月面に降り立つ人間が報道された。
実験の成功を境に宇宙開発競走は激化し、人類は火星に人が住めるコロニーを建設するまでに至る。
火星まではコールドスリープ技術で延命し2億3000万kmという距離を移動する。移住希望者が地球に帰って来た時一体幾らの年月が経っているのか。
一昨年の火星通信ではコールドスリープを生かした太陽系1周旅行なんて実行されたらしい。
なぜ、らしい。なのかと言うと火星から発信した映像や記録は今の技術を持ってしても数年かかって地球に到着するからだ。
そんな火星コロニーから先月、不可解なメッセージが届く。
送り主は定時連絡を行う正しき機関ではなく個人からのものだった。
内容は「地球人類は速やかに惑星を脱出しろ。」と。
世界中の国々の各受診チャンネルに届いたメッセージはすぐさま拡散され、どこのニュースでも報道された。
世間は誰かのイタズラだろう。
地球人類以外の新たな宇宙人発見の知らせか?
火星コロニーがどうなったのか。
様々な見解が現れるがなんせこの情報は数年前に送信されたもの、事実を確認するために調査団を派遣せねばならない。
昨今火星行きのスペースシップを建造する国は少なくなってきた。
理由としては資源が減ってきているからだ。
火星まで安全に人を運ぶには頑丈な装甲が必要でありその合金を作るだけで莫大な資材が溶けてゆく。
だからどの国もこのメッセージを信じずにいた。
他にも軌道エレベーターや月面コロニーの維持など他にも資材はいる。材料を再生させる技術が無い訳では無い。
しかし、火星を救援できるほど時間と費用を捻出させた国はいなかった。
実際、火星に新たな国家が誕生していたから自国でなんとかしてくれと考えてのことなのか。
そのメッセージが来た翌年
軌道エレベーターが破壊されたというニュースが流れる。
その数日後には1部の衛星が通信途絶し電子機器が使えなくなったり、宇宙ステーションも無くなった。
地球軌道上を周回していたほとんどの設備が破壊されたのだ。
初めは隕石か地球軌道上におかしな物質が周回しそれが当たったのだと言われていたがその予測は半分正解で半分不正解だった。
答えがわかったその訳は北米と南米の中部、バミューダ諸島付近に飛翔体が落下。
その後、落下地点の周辺国家が吹き飛んだ事である。
初めはやっぱり隕石だと言われたが違う。
スクランブル発進したS-88:ホワイトホーネットが移した映像には未知の浮遊物体が複数体記録されていた。
浮遊物体は半透明で画像調査で水分を多く含んだ物だと考えられた。
連日、その浮遊物体はライブ報道されつづけたが1週間後事態は大きく変化する。
浮遊物体は移動しメキシコへと移り、破壊行動を起こした。
メキシコの国防軍は1度、進行を抑えたが今までのどの戦術も通用せず蹂躙された。
米国はメキシコの崩壊と同時期に条約を破棄し核攻撃を開始。
その威力は絶大で浮遊物体を蒸発させる。
が、空にできた大きな雲から降った雨によって浮遊物体は再生する。
しかも、個体を増やしている。
これに対し米国は核の威力では不十分だ、より強力なエネルギーを持つ兵器か浮遊物体の弱点を知る必要があると判断。
米国国防省はテキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニアに絶対防衛ラインを構築し浮遊物体の侵入を食い止めようとする。
他国も支援を開始。
早期に解決した方が良いと判断した。
米国の核攻撃から2日後。
アフリカのモロッコへ浮遊物体が上陸。
その当日、モロッコは消滅した。
その事実は欧州を震撼させ、米国への支援を切ってしまう。
ヨーロッパ諸国はスペインとポルトガルに絶対防衛ラインを構築し対策を開始。
「我々は現在、劣勢である。」
核攻撃から4日後、米国大統領はそう語った。
人類を火星まで進出させる程の技術力がありながらなぜ浮遊物体に勝てないのか。
それは浮遊物体の攻撃手段にある。
浮遊物体は放射線を使って攻撃してくるのだ。
かのデーモンコアのように青白く発光し、その光を見た人間は必ず身体にダメージを負う。
防護服を着てまで入念に対策した兵士が幾らいたというのか。
とある専門家たちは放射線を含む光を放つのは核攻撃による後天的な性質だと提唱している。
理由は放射能を含んだ雨を吸収し再生したからだと。
この説には裏付ける証拠があり、モロッコに襲来した浮遊物体は放射線攻撃を行わないのだ。
だがこの情報は広く共有できていない。
地球軌道上にあった衛星が機能しなくなり、海底ケーブルのみとなったためである。
米国の絶対防衛ラインが構築されてから8日後、テキサス防衛ラインが崩壊しその綻びから北米の中部まで侵攻された。
その間、雨を浴びては浮遊物体は分裂し個体を増やしていく。
未だに浮遊物体の弱点は判明していない。
幸いなのは地球の重力が重いのか高度限界がある事だ。
浮遊物体で10m以上地上から離れている姿は確認できない。
よって、制空権は生きている。
浮遊物体の全長は個体毎に違い約2m~10mとバラバラである。
巨大すぎて手に負えないほどではない。
攻撃方法は伸びた複数の腕によるムチのような動き。
体内のほとんどが水分だと言うのにその攻撃は強く、分厚い鉄板を真っ二つに斬れる。
次に浮遊物体へ現在行われている戦術が無誘導ミサイルの面攻撃である。その攻撃では人的被害を出さずに浮遊物体の移動速度を下げることが出来た。
他にもレールガンやレーザー兵器も用いたが効果なし。
そして今まさに試験段階にあり最も有効だと考えられているのが腐食弾の開発である。
腐食弾は水素:H2Oを腐食させる。腐食した水の質量は変わらないが性質を変え凝固させるのだ。
それによって行動不能にする作戦だ。
だが、腐食弾は公害など環境への悪影響を及ぼしかねないし1発を生産するコストも高い。
よって、確実に対象へ当てる必要がある。
熱探知型の誘導弾では浮遊物体を捉えれず、プレデターミサイルやレーザー照射での攻撃も試すが前者は強い放射線によって電波が妨害され、レーザー照射は赤外線が浮遊物体には見えているらしく避けられる。
スペインとポルトガルの絶対防衛ラインはプレデターミサイルなどのUAVでなんとかなっているそうだ。
アメリカ戦線は事情が違う…。
ま、何千体と進行してくる浮遊物体一体一体にミサイルを当てる。それも外したら土壌が汚染される兵器を…。
それでは核と変わらないではないかと自然環境を守る団体から叱咤の声。
そこで白羽の矢がたったのはS-88:ホワイトホーネットである。S-82を改良し世界初の完全3次元戦闘を確立した人型機体である。
完全3次元機動、それは左右・上下・前後の方向へ直進後退でき、3方向の各軸で回転を行える事である。
従来の戦闘機では再現できなかったその場で回転し方向転換するという荒業を可能にしたのだ。
背部4門のブースターに腰部2門のブースター、この6つを駆使してホバリングから全方向展開、急制動を空中で行える本機は背部飛行ユニットによって戦闘機のように音速移動も可能だ。
この機体に腐食弾5発を装填した特殊武器、Rotgunを所持させる。これなら地上からも空からも命中させることができ尚且つ安価である。
第4次反抗作戦に参加したS-88:ホワイトホーネットは計7体の浮遊物体を腐らせ行動不能にしたのち大破、パイロットは死亡した。
原因はS-88一機では無理だと言うことだ。
この戦闘以降、欧州や米国ではミサイルとS-88を併用した作戦が展開され浮遊物体への有効的戦術ができるようになって数週間あと悲劇はおこる。
腐食し沈黙していた浮遊物体が動き出したのである。
これまた原因は雨。
水分を吸収し腐食した部位を直したのだ。
対浮遊物体戦は振り出しに戻る。
奴らは絶対に殺せない。誰もがそう確信した。
驚異に犯されていない国は地球脱出計画を考え、戦闘中の国や支援国家はそれすらできずすり潰されていく。
1ヶ月たって、米国はアラスカ州まで後退することになる。
南米戦線も崩壊し浮遊物体はオーストラリアに進行。
先日、マレーシア領でも浮遊物体を発見したそうだ。
欧州はスペイン、ポルトガルが破れ戦線を後退、今はフランスで踏ん張っている。
とある専門家がこう言った。
浮遊物体が海に潜れないで良かったと、海中で水分補給し分裂されると地球は数日で浮遊物体でごった返していただろうと。
隕石落下からひと月と15日がたった晴れた天気の良い日。
浮遊物体、日本へ上陸。
場所は和歌山。
迎撃に当たるのは40式戦車大隊102台、日米共同軍約3万名。
迎撃ミサイル部隊車両24台、S-88機動小隊10機。
異例の配備数が大阪に集まり防衛ラインを作る。
そして今作戦には日米共同軍が開発したS-90試験機:ブルービーも1機参加した。
浮遊物体の出現数およそ8000。
この迎撃作戦が始まった頃から物語はスタートする。
空を飛ぶことを夢見た青年のお話だ。