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覚醒

「何だこれ、どうなってーー」


 喋っている途中、俺は違和感に気づいた。


「声が……」


 声が妙に高い。まるで女性のように。それに、身体の感覚も少し違うような。痛みも感じない。

 俺は恐る恐る、貫かれたはずの胸に手を伸ばす。しかし、その手はなぜか急に止まった。


「おい、ぼさっとするな」


 また、同じ女性の声。だが、今の方が凛々しくて、自信に満ち溢れたものだった。


「あれ、今俺の口が動いとぅえーー」

「さっさと起き上がれ。お前の仲間が消されるぞ?」


 まただ。喋っている途中、勝手に口が動いて、勝手に言葉を紡ぎ出している。

 いや、それより。


「仲間?」

「そうだ。アイラとシエラ。二人は生身の魂だ。このままでは、デイモスに魂を消滅させられるぞ? 魂の消滅は、まあ人間でいう死だ。二度と戻らない」


 俺はハッとした。

 そうだ。あの黒い人型が二人を串刺しにした。急がないと、二人が本当に消えてしまう。


「でも、あんな奴どうやって倒せば……」

「お前の魔法とやらを使え」

「俺は霊を使役する魔法しか使えないんだ。俺一人じゃ戦力にならない」

「知っている。まずは手始めだ。それを己に使ってみろ」

「え…… ?」


 俺の頭は混乱しっぱなしだった。


「残念でしたね、主人が亡くなってしまって。ですが、ご心配なく。その身体は朽ち果てようとも、魂は残留し、タルタロスへと還るのです」


 アイラを前にして、人型は悠々と講説を始めていた。


「魂はやがて浄化を経て、この世の新たな身体へと入り込む。ややもすれば、今頃そこらのウジムシになって、貴方の元へ帰ってくるかも」

「よくもリックを…… ! 許さない…… ! あんただけは絶対っ…… !」

「対して、貴方たちに待っているのは魂の消滅! 行き着く先は、完全なる無! 良かった良かった! 怒りも悲しみも、貴方を苦しめている全てから解放されるのですよ!」


 人型は一人興奮した様子でまくし立てると、再びその手に槍を発現させた。もうその顔には一つの関心も残っていない。


「さて、私は忙しいので、この辺りで……」


 槍が二人の胸を貫く。

 その寸前。人型はピタリと動きを止め、俺がいる洞窟の方を見た。


「なっ!」


 人型目掛けて、真っ直ぐに伸びていく銀色の光。が、それは奴に当たる手前で光を失っていった。

 違う。光は、奴が生成した黒い障壁に阻まれていたのだ。


「まったく、今ので確実に仕留める算段であったのに…… お前が溜めに時間をかけすぎるからだ」

「え、俺のせいなの!?」


 俺は少女の口を借りて言う。

 変な感じだ。自分の意思で発言しているのに、声は自分とは違う。

 洞窟を出ると、はたして人型はほとんど無傷でそこにいた。その顔に驚きと怒りを浮かべて。


「アスィミの戦乙女…… ! あの時致命傷を与えたというのに…… 貴様、どこにそんな余力をーー」


 人型は三つの目を飛び出さんばかりに見開き、こちらを凝視する。


「この匂い…… 貴様、まさか……」

「そのまさかだ」


 自分の顔がニヤついているのが、なんとなくわかる。それに、この少女が感じている高揚感も。

 すると、どうしたというのか。人型は異様に長い手を口に当て、小さな笑い声を漏らし始めたではないか。


「よもや、貴様が…… アスィミであるはずの貴様が、穢れた魂を喰らったとは!」

「喰らう? 違うな、共存しているのだ」


 俺には二人の会話が一切見えない。


「何を言い出すかと思えば…… まあ何でもいいです。貴様から消えに来てくれたのは、好都合。私ああいう汚い場所、苦手なので」


 人型を守っていた障壁は、いくつにも分裂し、複数の槍を作り上げた。月光を黒く反射するその切先が、一斉こちらを向く。


「お二人仲良く、ここで消滅させてあげましょう」

「その必要はない。お前のそのうざったい潔癖も、腐り切った渇望も。私が全てを綺麗さっぱり浄化してやる」


 黒い槍の雨が降り注いできた。

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