表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/52

銀髪の少女

 宿を出た俺は、寂れた小さな町から森へと向かっていた。先を照らしていた月の光も、ほとんど遮られてしまっている。


「うぅ〜、ここ暗いね…… 何か出てきそうだよ……」

「お化けとかか?」

「もう、アイラちゃん! 私が怖いの苦手なの、知ってるでしょ!?」

「知ってるよ。シエラも、あたしが他人をからかうの大好きなの知ってるだろ?」

「うん、アイラちゃんの事なら何でも知ってる! でも、お化けは禁止! お化け怖い!」


 また両側が騒がしくなる。さすがの俺も我慢の限界だ。


「お前らどっちも幽霊だろっ!」

「急にでかい声だすなよ、リック。ほら、シエラが固まったじゃん」


 見てみると、確かにシエラは驚愕の色を顔に浮かべたまま、石像のように固まっていた。それは、ふんわりとカールしたピンク色の長髪にも及んでいる。

 パッと見は、十八歳の可愛い少女だ。


「はぁ。幽霊を怖がる幽霊って……」


 そう。


 シエラをよく見ると、足が地面から離れている。そして、その身体は少し透け、後ろの木々が映っているのだ。

 それは隣にいるアイラも同じ。金色のショートヘアーをした、切れ長の目の美少女は幽霊なのだ。他の人には見えない。声も聞こえない。


「おーい、シエラー、起きろー。後でお菓子あげるぞー」

「え、お菓子!? なになに? どんなお菓子? 私はあれ、ケーキが食べたい!」


 と、垂れ目を輝かせるシエラ。


「まったくシエラは。リックにそんな金あると思ってるのか?」

「え、ないの?」

「こいつの薄給っぷりは知ってるだろ? 加えて今は無職。あんたの純粋な心を弄んだんだよ、この自称優男は」

「言い方! それに、俺は優男なんて自称してないから! 薄給で無職なのは…… ごめん!」


 俺は潔く頭を下げた。この二人は幽霊だが、俺にとっては大事な仲間だ。適当にあしらう事はできない。


「そんな風に謝るなよ。ちょっとからかっただけじゃん」

「そうそう! 私はケーキなんていらないよ。バウムクーヘン? で大丈夫!」

「それも無理だ……」


 百人に一人が魔法を使えるこの世界。

 その中で、霊視をし、また霊を使役する魔法を使えるのは俺くらいだろう。小さい頃は、薄ぼんやりと霊が見える程度だったが、今はこうして自分の手足となってくれている。

 これは特殊な魔法だが、分類するとしたら召喚術とかその類だ。あちらも"契約"という過程がある。

 ローグ率いる勇者パーティーに誘われたのも、その特殊な魔法を買われたから。結局、期待を裏切る形になってしまったが。

 

「ていうか、今どこに向かってるんだ? 隣町は反対方向だし。あのハゲが言ってた通り、この辺は危ないぞ?」

「ハゲとか言うな。良い人なんだから」


 まったく。俺も気にはなっていたが、一度も口にはしなかったのに。


「まあ別に魔物に襲われる最期でもいいかな……」

「は? あんた、何言ってーー」

「もう終わりにしようかと思って」


 俺が呟くのに合わせて、前の景色が開けてきた。

 崖だ。空はいつの間にかどんよりと雲がかかり、月が見えない。下は真っ暗な地面に通じていた。

 俺は崖の端ギリギリの所に立つと、ゆっくり振り返った。


「終わりって、どういうこと…… ?」


 シエラの、滅多に見せない真剣な表情に、俺は心がチクチクする。


「いやさ。これ以上、俺なんかが二人を留めておく権利なんてないよ。二人の力も引き出せないし」

「何言ってるんだよ! あたしらは嫌々あんたに憑いてるわけじゃないんだぞ!」

「そうだよ! あの日、リックが私たちを救ってくれたから! だから、私たちは死ぬまでリックに憑いて行こうって決めたんだよ!」


 二人からの猛反論。考えが揺れ動く。


「でも、どうすればいいんだ。今までだって、色んな職を転々としてたけど、どれも上手くいかなかった。それで、ようやく有名な勇者パーティーに参加できたと思ったら、これだ」

「そんな事気にするなよ。あたしはあんた達と過ごせればそれで良い。たとえあんたが無一文になっても、その気持ちは変わらない」

「うんうん。私木の実とか取ってくるよ。あ、そうだ、自給自足すればいいんだよ! そうすればケーキ作り放題じゃない?」


 シエラには誰もツッコミを入れなかった。


「二人とも……」

「あんたは一々深刻に考え過ぎ。」


「ありがとう。もうちょっとだけ、頑張ってみるよ」


 不意に、月明かりが森を照らした。少しの欠けもない、まん丸な月だ。それに照らされて、二人の穏やかな顔がよく見える。

 俺はなんだか安心して、一歩踏み出した。


「リック、後ろ!」


 突然シエラが叫ぶ。

 彼女の見開かれた目が向く先を、急いで向いてみる。

 崖の向こう側。何もない虚空から、黒い円がいくつも現れてきた。大きさは皆バラバラで、数は二十以上はある。


「なんだ、あれ……」


 あまりに不可解な現象に、俺は呆気に取られるばかり。

 と、その円の一つ。一際小さなものが明滅し始めた。やがて、その中心から何かが出てきた。手だ。

 手から腕、腕から上半身が。まるで泥沼から抜け出すようにゆっくりと。そして、理解する。円から出てきたのは、銀髪の少女だ。

 

「逃げろ!」


 少女が切羽詰まったように叫ぶ。


「逃げろって……」


「どういう事?」と聞こうとした手前。

 他の円が、先ほどと同じように明滅を開始した。そして、そこから現れてきたのは。


「嘘だろ……」


 見たことのない異形の軍勢であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ