勇者パーティーの動向
「しかし傑作だな。あのリックが死んでたなんてよ」
「鋭利な物で胸を一突き、とか言ってたよね。誰かに殺されたとかかな?」
「いや、最近あいつの目死んでたし。自殺だろ。根性もねえ無能にはお似合いの最期だよ」
ゲラゲラと聞くに堪えない笑い声を上げる、ロードとリンシア。
だだっ広い部屋に、お互い薄いローブだけを羽織って、ソファで寄り添っている。テーブルに置いてあるのは、琥珀色の液体が入った二つのグラス。何があったのかは大体想像がつく。
「でも、残念だよね」
「残念? 何がだ?」
「だって、今まで色んな奴雇って来たけど、あんなバカ真面目な性格の奴なんていなかったじゃん。少ない取り分でも、全然文句言わなかったし」
「ああ、たしかにな! もはや奴隷みたいなもんだったからな、あいつ! しかも勝手に死んでくれるなんてよ! あいつは間違いなく一番だったよ!」
またロードの顔に悪魔のような笑みを作られる。
よほど気分が良いのか、グラスを手に取り、それを勢い良くあおった。
「まあでも、もう時期俺たちは英雄になれる。金も大量に入ってくる。そうすれば、もう馬鹿を補充する必要もねえ」
「ねえ、倒せると思う? あの魔王を」
「当たり前だろ。こっちにはポイニクス王国の全勢力が加わるって話だ。王様も国の体面を守るのと、英雄への媚売るのに躍起になってやがる。失敗する事はねえさ」
余裕たっぷりに答えるロード。
「それにだ。ポイニクス王国が勝とうが負けようが、遅れてケヌリオ王国が攻めてくる手筈だ。結局この国は、ケヌリオに支配されるんだ」
「そしたら私たちは……」
「ああ。世界最強の大国、ケヌリオ王国の重要な役職につけるって訳だ。まったく馬鹿な国だぜ、ポイニクス王国は。魔王を倒せば、世界から称賛だけが来ると思ってやがる。考え方が古いんだよな」
再び外まで聞こえる大きな笑い声が響いて来た。
「なるほど、あれが真性のクズというわけか」
今までの話を、フィジーが簡潔にまとめてくれる。
「あいつら…… ! リックをあんな風に嗤って、その上まだふざけた事をしようとしてたなんて…… !」
アイラは歯軋りが聞こえて来そうなほど、歯を噛み締めていた。
俺たちは今、王宮近くにある巨大な建造物の屋根から、客室にいるロードたちの様子を探っていた。ちょうど頭を下に出すと、窓から室内が一望できるのだ。
以前から、彼らが近々ポイニクス王国の王と会合し、魔王討伐の準備を整えるという話は聞いていた。たまたまその場に居合わせたアイラからの又聞きだが。
しかし、こんな裏話があったなんて。
「リック、大丈夫…… ?」
視界いっぱいに映り込むシエラの不安そうな顔。
「え? ああ、うん! 全然平気だよ」
「ふっ。我の前で嘘が通用すると思ったか? 胸の辺りがチクチクするのを感じるぞ?」
俺はぎくりとする。そういう感覚は全て共有されているらしい。
「なんなら、奴らの魂を浄化してやってもいい」
「恐ろしい事言うな。そんなの殺しと変わらないだろ。それに、今ロードたちが死んだら、魔王討伐の予定がなくなるかもしれない」
「はあ、お前はもっと自分の欲望に素直になれ」
余計なお世話だ。
そんな話をしていると、ふいに窓が開く音が聞こえた。俺は慌てて首を引っ込める。
「どうしたの、ロード?」
「いや、なんか今声が聞こえたような気がして」
すぐ真下からロードの声。間一髪だ。
「もう、幽霊じゃないんだから。それよりさ、王様との謁見は八時からだし、少し観光していかない?」
「もうすぐ滅びる国をか?」
「いいじゃん別に。さっきの大通りのお店にさ、綺麗な竜のアクセサリーがあったんだよね。それがさーー」
その後、有益な話は出なかったため、俺たちはそそくさと退散した。ガータが安全な抜け道を知っていたおかげで、衛兵に見つかる事はなかった。
「それで、この後はどうする?」
通りに出ると、フィジーが聞いてきた。
「八時に謁見らしいから、そこで魔王討伐の詳細な話も出てくるはずだ。それを盗み聞きして、色々と情報を掴もう」
「わあ〜、なんだか悪い事してるみたいでドキドキする〜」
相変わらずシエラはノリが軽い。
「なら、それまでは自由時間というわけだ」
「そうだけど…… 何かしたい事でもあるのか?」
「ああ。人間、お前を大人にしてやる」
俺はすぐに直感した。これは面倒な事になる。