竜の国 ポイニクス王国
早速、俺たちは王都行きの馬車へ乗り込んだ。まあ、馬車とは名ばかりで、俺たちが乗ったのは荷物運搬用の馬の荷台。御者の人に無理を言って、タダで乗せてもらえたのは幸いだった。
馬車が出発する頃には、平穏な町に少しずつ騒ぎが広まっていた。
数時間後。
「わぁ〜、見えてきたよ〜」
荷台から体を乗り出し、無邪気に指さすシエラ。その先に現れたのは、見渡す限り巨大な壁だ。
「なんだあれは。岩でできているのではないのか?」
フィジーが興味を示す。
「ああ。たしか、岩の上にでかい竜の皮をいくつも貼り付けているらしい。単純に強度が高いのと、魔除けとかの理由で」
「ふーん。死骸を晒すとは、趣味が悪いな」
「まあ、否定はしないよ」
徐々にはっきりと見えてくる壁の全貌。
それは単色ではなく、暗い赤や緑など、様々な色で出来上がっていた。アーチ状の入り口の上部には、俺の身体より大きい竜の頭が飾ってある。なんでも、特殊な薬液で朽ちないようにしてあるとか。
上から見下ろすと、王都全体が翼を広げた竜の形になっているらしい。
ポイニクス王国、王都オドゥース。
入り口で、二人分の通行料を払い、ようやく中に入れた。全員分払っていたら、持ち金がなくなるところであった。
「人間がうじゃうじゃいるな」
「そりゃあ、王都だからな」
アイラのぶっきらぼうな言い方。あまりフィジーの事を気に入ってないらしい。
フィジーはそんな事気にしていないようだが。
「で、ここからどうする? 人間」
「とりあえず、ロードたちを探そう。もう王都には到着してるはずだから」
「見つかるかな〜? 王都は広いよ〜?」
シエラの言う通りだ。この数万人はいる王都の中で、目当ての人物を見つけるのは中々骨が折れる。
さて、どうしたものか。
「僕が探してくる」
いきなり申し出て来たのは、今まで無言を貫いていたガータだ。
「え? だって、ガータは二人の顔を知らないだろ? どうやってーー」
と、俺が言い終わらない内に、ガータは一人歩き出し雑踏の中へと消えていった。俺たちはすっかり呆気に取られる。
「なあ、あいつ本当に大丈夫なのか? オシリスの刺客っていう可能性は?」
アイラは眉をひそめて、ガータの向かっていった方向を睨んでいた。
「それはない。仮にそうだとしたら、昨晩助けた意味がわからないからな。それに、奴は我の事を守ってくれるらしいし」
「かっこいいね〜、王子様みたい〜」
「んー、ますます謎だな。あんたの容姿に惹かれたって感じには見えなかったし……」
「この人間みたいにな」
急に俺の話が出てきて、俺はびっくりする。
「ち、違う! 俺は欲情なんてしてない!」
「別にそこまでは言ってない。だが、そうか。我にも欲情していたか。見境ないな」
墓穴を掘った。
俺は完全に思考停止する。
「こら! リックはそんな奴じゃないぞ!」
「そうだよ! リックは好き嫌いとかしないよ! みんな好きなんだよ!」
「シエラ、あんたはどっちの味方なんだ……」
「ほえ?」とよく分かってなさそうなシエラ。
「よ、よし! 気を取り直して、俺たちもロードを探そう!」
「そう言う割には、まだ身体が熱いぞ?」
「うるさい!」
もう耐えられない。早くこの話題から抜け出さねば。
俺は歩き出そうとして気づいた。
「あ…… ガータに落ち合う場所とか教えてない……」
俺に続いて、残りの三人も「あ」と三様に口を開く。
「やばくね? それ」
「やばば〜」
「やば過ぎる! ガータがいつ戻ってくるかわからないし! 俺たちここでずっと待ってなきゃいけないの!?」
「戻った」
聞き覚えのある小さな声。
そっちを見てみると、片膝を折って待機するガータの姿が。少々陰鬱な感じの黒目がこちらを見ていた。
「うわっ、ガータ!? いつのまに……」
「ロードの場所、わかった」
「はやっ!? なに!? どういう事!?」
「こっち」
いや、めちゃくちゃ自由人。
ガータは振り返ると、再び勝手に進んでいってしまう。無愛想なのか、献身的なのかよくわからない。
だが、また見失うわけにもいかず、俺たちは彼の後に続いた。