おっちゃん
「なっ…… ! どうして、おっちゃんが……」
「魂を食われたな」
フィジーが言う。
「魂を食われた…… ?」
「魂を共食いをする事で、その魂が保有していた能力を得られる。もちろんこれは禁忌だが…… 見たところ、低級の魂の仕業だろう。あのデイモスには及ばない」
俺はゾッとした。魂が共食いをするなんて。
今まで魂なんて、アイラたち以外にほとんど見たことがなかった。だから、魂があんなに恐ろしいものだとは露ほども思わなかった。彼女たちが特別だっただけだろうか。
「じゃあ、もうおっちゃんは……」
「一体化しただけで、あの人間の魂は今も存在しているという見方もできる。が、それはオシリス側の解釈だな。あの人間の魂はもう存在しない」
心臓が締め付けられるように痛む。
おっちゃんは、こんな俺にも愛想良く接してくれた。それがどうして。
「悠長に話してる場合か! どうすればいいんだ、あれ!」
アイラは剣を構え、臨戦態勢を取る。
「浄化する。だが、我は消耗しすぎた。お前たち、奴の左胸を攻撃して、奴を弱らせろ」
「はあっ!?」
「何言ってるんだ、フィジー。俺はまだ動けるーー」
身体を動かそうとするが、右半身はピクリとも動かない。動かし方には大分慣れてきたはずなのに。
「あれ、どうして……」
「今言った通りだ。先刻の一戦で力を使い過ぎた。ゆりかごも、もうボロボロだ。朝までは動けん」
「まじか……」
最悪のタイミングという訳だ。
「ちょっ、弱らせるって!? どの程度!?」
「さっきみたいな凄い技使えないの〜?」
アイラたちが助けを求める。
「王のため、王のため、王のため王のため王王王王ゥゥゥゥゥ!」
身体を小刻みに震わせ、狂ったように叫び出すおっちゃん。黒い触手が素早くこちらに伸びる。
アイラたちだけであれを倒せるだろうか。頭によぎるのは、さっきの槍で貫かれた二人の姿。
俺が二人を守らないと。今の俺にはその力があるんだ。もう二人の傷付くところなんて見たくない。
頼む、動け身体! 動いてくれ!
「なんだお前たち。あの程度の魂とも満足に戦えないのか。これでは主人が憂慮するのももっともだな。お前たちに信用がないのだろう」
「何言ってるんだフィジー!」
「お前の今の感情を教えてやっただけだ。お前からは強い焦りを感じる」
フィジーの言葉で、アイラたちが固まる。
そこへ迫り来る黒い大量の触手。二人の身体は瞬く間に黒に巻かれ、姿が見えなくなっていった。
「アイラっ! シエラっ!」
俺は懸命に二人の名を呼ぶ。しかし、返事はない。
「そんな……」
「王ゥ…… 王ゥゥゥ……」
聞こえてくるのは、おっちゃんの唸り声だけ。
いや、それだけじゃない。静電気が起こった時のような、パチパチという微弱な音。それが触手に閉ざされた内側から、連続で発生している。
「ふむ。悪くはないな」
フィジーが言った直後。
目が眩むほどの強い光が、触手の隙間から漏れ出した。それは一気に激しさを増す。ついに触手は弾けるように飛び散った。
「誰が戦えないなんて言ったよ! あんなのあたしとシエラだけで十分だ!」
「そうそう! リックはそこで休んでて大丈夫だよ〜 あんなツルツル頭、私たちがこんてんぱんにやっつけちゃうから」
そこにあったのは、先ほどと変わらぬアイラたちの姿。黒い液体が所々に付着して、少し不気味さが出てはいるが。
全ては杞憂だった。二人は頼もしい、俺の友達だ。