追放
「お前、クビな」
「え…… ?」
俺は耳を疑った。
目の前の、バカに豪華なソファーにふんぞり返るロードは、冷たい顔で続ける。
「だからさ、お前はもういらないっての。いい加減、自分の無能さに気付けよ」
「そうそう。まじでなんの役にも立ってないから」
ロードに身体を密着させながら、リンシアが嘲るような上目遣いで俺を見る。
乳をなすりつけやがって。最近はいつもこうだ。
「いや、待ってくれよ。確かに、昨日はヘマしたけど、もうあんな事にならない。だからーー」
「昨日今日の話じゃねえんだよ!」
テーブルを強く叩く音。
「毎日毎日、お前が雑魚のせいで、こっちはどんだけ苦労してると思ってんだ! 昨日だって、お前の支援がクソだったから、盗賊を取り逃したんだろうが!」
俺は何も言い返せない。昨日の失態は酷かった。
「ほら、早く行けよ。俺たちはこれから忙しいんだ」
と、下品な目で見つめ合うロードとリンシア。もう俺の事は眼中にないのか。
「わかった…… 今まで苦労をかけた……」
俺は力なく立ち上がると、部屋を後にした。
扉を閉めてすぐに、向こうから営みが始まる音がし始めた。
「またやってるよ、あいつら。この宿の壁の薄さ知らないのか? この前も、あんたが寝てる間に延々と交わってたし。脳に行くべき栄養が全部玉に行ってるな、あれは」
俺のすぐ隣で女の声がする。
「アイラちゃん、そういう話はやめようよ〜…… いけない事なんだよ? 結婚もしてないのに」
今度は反対側から。恥じらいを含んだ、お淑やかな口調だ。
「まったく、シエラだけだよ、そんな事言ってるの。今時の奴は、結婚なんかしてなくても、やる事やってるっつーの」
「してないよ〜…… 私のいた国ではね、みんな結婚するまではそういう事しちゃいけない事になってるんだよ? 法律なの」
「ここはあんたの国じゃないっての」
耳の両側で続く口論。さすがに嫌になってきた。
「お前ら、少し静かにしてくれ…… 今日は気分が悪いんだ……」
「ほら、怒られた〜。ごめんねリック。アイラちゃんがうるさかったよね?」
「怒られたもの何も、昨日の失態はお前のせいなんだぞ? わかってんの、シエラ?」
「え〜。だって、バカあほロードがうるさくて〜」
「たまに口悪いな…… そこも可愛いけど」
俺は大きくため息を吐く。全く俺の言うこと聞いてないな、こいつら。
仕方なく、俺は無視して宿の出口へと向かった。
出口の前へと差し掛かった時、後ろから声をかけられた。
「あれ、リック。こんな時間に外出か?」
振り向いてると、ここの宿主だった。ここは何度か利用してるから、彼とはもうすっかり顔馴染みだ。
「うん、ちょっと森の方に」
「そうか。あの辺り、魔物が多いから気をつけろよ? いかな勇者でも、"一人"じゃ危ないからな」
「わかってるよ。ありがとう」
そう言って、俺は宿を出た。さっきから変わらず、俺の両隣ではアイラたちが楽しそうに話し合っていた。
この作品が気に入っていただけたら、評価・ブクマをお願いします。
評価は下の☆をタップです!
作者が喜ぶのでぜひよろしくお願いします。