ハンナは男運が悪い
ハンナは男運が悪かった。
一人目の男は幼馴染の少年、オドリック。幼い頃は一緒に遊び、ハンナにとって初恋の相手であったのだがいつからかハンナをいじめるようになり、それは彼女が引っ越すまで続いた。
二人目の男はレオポール。初めての恋人である彼は、面倒見がよくてリーダーシップがあると思っていたのだが、段々とハンナに対して見下し、馬鹿にしてくるようになったのだ。別れをほのめかすと暴力まで振るわれ、ハンナは命からがら彼の前から逃げ出した。
三人目の男はカルニス。二人目の恋人だ。穏やかで紳士的な人を選んだつもりだったが、彼は非常に束縛が強く、彼女の行動を逐一報告させ、自分以外の男と少しでも接触すると彼女を責め立てた。前回のこともあり、早々に別れようとしたハンナだったが彼は逆上してストーカーとなり、住んでいた街を離れざるを得なくなってしまう。
このように、好きになる男がことごとく問題を持っていたハンナ。
彼女自身も大いに悩んでいたのだが、今はすでに、昔の話である。
ハンナはそわそわと、落ち着かない様子で外を伺っている。
彼女の兄は、それを呆れたように見ていた。
「ハンナ、子供じゃないんだから、もう少し落ち着いたらどうだ?」
「な、わ、私は、落ち着いてます!」
「どうだかなぁ。お前は昔っからそそっかしいところがあるから、アルバに呆れられないといいが」
「お兄様!」
ハンナが声を荒げると、「おお、怖い怖い」と肩をすくめ、彼は部屋から出て行く。
「もう、お兄様ったら本当に意地悪なんだから」
口ではそう文句を言うハンナだが、彼が男関係で苦労している自分を気に掛けていることは知っている。
だからこそ、信用のおける友人を彼女に紹介したのだ。
その当時、すっかり恋愛に後ろ向きだったハンナは当然、その紹介された男性と親しくなるつもりなどなかった。
しかし、兄が自分の為にやってくれたことだから、とりあえず一度だけ会ってみようと思ったのだ。そして、二度と会わないつもりだった。
けれど、この意思は覆されてしまった。
「あっ!」
窓から見えたその人物に、ハンナは我慢できず部屋から飛び出す。
転ぶなよ、という兄の言葉すら耳に入らず、玄関までたどり着くとちょうど呼び鈴が鳴った。
「はぁい!」
返事をして扉を開けると、待ち望んでいた人物が立っていた。
「アルバさん」
「ハンナ、久しぶりだな」
兄と同じ年頃の彼の名前はアルバ・スレン。ハンナの三人目の恋人である。
初めて会った日のことを、ハンナはよく覚えている。
その時はアルバのことをよく知らなかったし、彼は兄よりも背が高い長身である上に、冷ややかな無表情をしていたために、ハンナはちょっと怖そうな人だなという印象を抱いた。
一時間、お茶を一緒に飲んだが大して盛り上がることもなく、これは相手も自分に興味がないのだろうなと内心安堵していたのだが、帰り際、彼は思いもよらないことを言ったのだ。
「このまま終わらせたくない。どうか、俺にもう少し時間をくれないだろうか」
てっきり、彼も自分と同様乗り気ではないのだと思っていたハンナはこの申し出に驚き、戸惑った。
「でも……その……」
「……では、文通からというのはどうだろう?」
どう言って断ろうかというハンナの思考を読んだのか、アルバは言葉を重ねる。
「無理に急いで返事を書く必要はない。時間があるときに出してくれれば、それでいい。短くてもかまわない。だから、どうか……」
「……私、忙しいから、会えないと思います」
言外に、会うつもりはないということを匂わせるが、アルバは何の躊躇いもなくそれを受け入れた。
「構わない。手紙だけで十分だ」
「…………」
最初は応じるつもりのなかったハンナだったが、ここまで食い下がりつつも譲歩しているのだから、少しは歩み寄ってみようかという思考に変化していく。
会わなくていいといわれたことが大きかった。もし、たまにでもいいから会ってくれと言われたらハンナは何が何でも拒否していただろう。
「それじゃあ、文通相手として、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、よろしく」
こうして二人の文通は始まったのだが、自分から提案しておきながら、アルバからの手紙は短く、内容もそれほど濃くはなかった。
手紙の始まりには必ず、時節の挨拶とハンナの体調を伺う文言が書かれ、その後は身の回りで起こった小さな出来事を書き連ねて、最後には堅苦しさを感じさせない結びの言葉で終わる。
そこには会いたいという気持ちも、愛を伝える言葉も記されておらず、だからこそハンナは何も気負うことなく手紙を続けられた。
この手紙がハンナの心を少しずつ変え、三か月過ぎる頃にはアルバに対する苦手意識はなくなり、半年経つ頃には手紙のやり取りそのものを楽しいと感じ、一年も続くと彼に会いたくなってしまった。
だから思い切って、手紙の終わりに書いたのだ。今度、一緒にお茶しませんか? と。
そうして一年越しにまた会った二人だが、そこでの会話も手紙のやりとりと同様、日常的なものばかりだった。
その日はそのまま終わり、その後も手紙のやり取りをしつつ、たまに一緒にお茶を飲むんだりもしたが、ハンナはそれに物足りなさを感じるようになっていた。
もっとアルバのことを知りたいし、一緒に過ごしたい、お喋りしたい、近づきたい。
気づけばハンナは毎日アルバのことを考えるようになっていて、そして、今まで散々嫌な目に遭ってきたくせに、もう二度としないと誓ったくせに、性懲りもなくまた恋をしてしまったのだ。
「ねえアルバさん、あなたは私とどうして文通しようと思ったの?」
自分の気持ちを自覚してから初めてアルバと会った時、ハンナは我慢できずに聞いてしまった。
彼が自分のことをどう思っているのか、それがまるでわからなかったからである。
少なくとも初めて会った時には、帰ろうとする彼女を引き留め、文通の約束まで取り付けるぐらいには自分に対する興味や好意はあったはずだ。
しかしそれ以外、彼は一切アプローチを行っていない。それどころか、いつまで経っても、どこか他人行儀のまま。
もしかして、文通をしているうちに気持ちが冷めてしまったのではないだろうか。自分がもだもだしているうちに心変わりをしてしまったのではないか。
そんな最悪な展開がハンナの頭を占めて、離れなかったのだ。
ハンナの気持ちを知る由もないアルバは、彼女の問いに答える。
「それは勿論、君と親しくなりたいと思ったからだ」
「……でも、その、何だか私と距離をとろうとしているように感じてしまって……」
ハンナの言葉にアルバは「それは……」と声を詰まらせ、慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと話した。
「……君が、男性からどんな仕打ちを受けてきたか、知っていてな」
「そうだったんだ……」
「ああ。だから、あまり強引に迫れば嫌われると思って、ゆっくり君と仲良くなれればいいと……今思えば、文通の約束を交わしたのもかなり強引だった」
「すまない」と謝るアルバに、ハンナは胸が詰まる思いがした。
そうか、そうだったのか。彼が自分に対し、余所余所しい態度だったのは、自分のことを想ってのことだったのだ。
確かに彼の言う通り、最初から彼が積極的に距離を詰めようとしていれば、ハンナは彼を怖いと思い、拒絶していただろう。
自分のこの恋は、彼の優しさと忍耐があってこそ、生まれたものなのだ。
「あの、アルバさん……もっと、距離を縮めたいって言ったら、困る?」
こうして二人は文通相手から、恋人になった。
「さ、アルバさん、腰掛けて寛いでね」
「ああ、ありがとう」
アルバを客室に通したハンナはお茶を淹れる準備をする。
二人が恋人になって二年目になるが、その関係はいたって順調であった。
これまでだったら、付き合っていくうちに男性側の理由で関係は悪化するのだが、アルバとはそんなこともなく、ハンナは毎日心穏やかに過ごせている。
もしアルバとの関係も駄目になったら、彼女は本格的に男性不信となっていただろう。
「ハンナ、よかったらこれを」
そういってアルバが渡したのは掌に乗るほどの小箱であった。
「ありがとう! 中身は何かしら?」
「開けてごらん」
彼に促されリボンを解くと、出てきたのは兎の置物。
温かみのある乳白色の体に赤い染料で彩られた目、前足でしっかりと人参を抱えるその姿が何度も愛らしく、ハンナの心を掴んだ。
「わぁ、可愛い!」
感嘆の声を上げて指先で触れると、つるりと滑らかな感触が彼女を楽しませる。
「気に入ってくれたならよかった」
「ええ、今回は置物なのね」
今までアルバから貰った物はいろいろあるが、陶磁器の贈り物はこれで三つ目だ。
一つ目は飾り皿、二つ目は花瓶である。どちらもハンナのお気に入りだった。
「それにしても、これは一体何という素材で出来ているの? 白磁と比べると青白くないし、光もよく透けるけど」
「骨灰磁器だ」
「骨灰磁器?」
聞きなれない言葉にハンナが首をかしげると、アルバが説明する。
「基本的に家畜の骨灰を陶土に混ぜて作った物、ということだ」
「へえ、骨を……」
骨が混ざっていると聞いて、少しだけ怖いと思ったが、贈ってくれたアルバの前でそんな態度を見せるわけにはいかないと何でもないように振る舞う。
「そういえば、花瓶は玄関で飾られていたのが見えたが、皿の方はどこに置いてあるんだ? 」
「ああ、私の寝室よ」
「……寝室」
「ええ、とても気に入っちゃったから」
理由はそれだけではなく、アルバから贈られたそれを飾っておくと、寝ている時にも彼の存在を感じられそうだからというのもあるのだが、それは照れくさくて言えなかった。
「そうか……」
アルバが一瞬、顔を俯ける。
けれどすぐに顔をあげ、またその表情も普段と変わりなかったので、ハンナは違和感を覚えることはなかった。
「なあ、俺も久しぶりに見たいんだが、いいだろうか」
「お皿を? いいわよ、ちょっと待ってて」
突然の頼みに驚かないわけではなかったが、しかし断るほどの物でもないので、ハンナは寝室から飾り皿を持ってきた。
その皿は青く縁どられ、中心にはマリーゴールドが咲き誇っている。繊細なタッチで描かれたその絵をハンナは一目で気に入っているのだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう……本当に懐かしいな」
ハンナから皿を受け取ったアルバはもっとよく見ようと顔に近づけようとしたその瞬間、皿は彼の手から滑り落ちた。
「あ」
ハンナは咄嗟に手を伸ばそうとするも、アルバが彼女を後ろに引かせたのでその手は届かず、大切な皿が床にぶつかり、そのまま無惨に砕け散るのを見つめることしかできなかった。
「すまない、大丈夫か?」
「え、ええ……でも、お皿が……」
「本当にすまない、すぐ片づける」
アルバが皿の破片のを素手で拾おうとしたので、ハンナは慌てて引き留める。
「ま、待って! 今箒とちりとりを持ってくるから」
ハンナは部屋から飛び出して、掃除道具を手に持つと自室に戻った。
その途中、壊れてしまった皿が脳裏によみがえる。
(……気に入っていたのに……)
残念だし、悲しい。しかし、アルバに怪我がなくてよかったとも思う。
「ありがとう、ハンナ」
アルバは戻ってきたハンナから掃除道具を受け取ると、皿の破片をちりとりに集める。
宝物の残骸にハンナの胸はチクリと痛んだ。
「ハンナ、本当にすまない。俺のせいで……」
しかし、肩を落として落ち込むアルバを責める気にはなれず、「気にしないで」と声をかけた。
「……罪滅ぼしになるか、わからないが、新しい物を用意させて欲しい」
「そんな、本当に気にしなくていいのに」
「いや、それでは俺の気がすまないんだ」
「……わかった。それじゃあ、楽しみにしてるね」
「ああ、任せてくれ」
これ以上断るのも悪いと悪いと思ったので受け入れると、アルバは目に見えてほっとしたような表情を浮かべる。
(お皿が割れちゃったのは残念だけど、くよくよしててもしょうがないもんね)
起きてしまったものは仕方がない。自分が落ち込んでいたらアルバも気にしてしまうだろう。
ハンナは気持ちを切り替えて、片づけに専念する。
「よし、綺麗になったね」
「ああ。しかし、結局ハンナにも大分手伝って貰ってしまったな」
「ふふふ、だからそんなの気にしないでって」
殊勝な態度のアルバに、もしこれが前の恋人たちならどんな反応をするだろうかと考えた。
(……きっと、何故か私が悪いことになっていて、ねちねち責められて、私もどうしてかそれを真に受けて謝ってたんだろうな)
その様子がありありと脳裏に浮かび、胸に苦い物が広がる。
それがどうにも嫌で、一刻も早く忘れるため、アルバに体を寄せた。
ハンナの行動に、アルバは少し驚きながらも嬉しそうに彼女を抱きしめる。
(そうだ。あんな人達の事なんてさっさと忘れてしまおう。私には今、アルバがいるんだから)
「急にどうしたんだ、ハンナ?」
「ううん。アルバと付き合えて、幸せだなって思ったの」
その言葉にアルバは口元を緩ませて、それを見てハンナも嬉しくなる。
(……昔の私に言いたいな。私にも、こんな素敵な彼氏ができるんだって)
どうして自分ばかりこんな目に遭うのだろうと、思い悩んでいた時期があった。
あの頃は本当に辛くて、自分自身に問題があるのではと疑っていたこともある。
けれどそれは違うのだ。
今までの男性はたまたま運が悪かっただけ。変に抱え込む必要などなかった。
それどころか、アルバとこうして出会えて、恋人になれたのだから、自分は男運が悪くない。むしろ良い方なのだと、今のハンナは胸を張って言えると、そう思った。
アルバは自分を運のいい男だと思っている。
しかし、彼の生い立ちを知る者にそれを伝えれば、誰も賛同しないだろう。
彼は赤ん坊の頃、川に捨てられていた。親に捨てられたのか、不慮の事故なのかはわからない。
幸いにも子供のいなかった夫婦が彼を拾い、育てた。貧しいながらも平穏な生活を送っていたが、それは長く続かず、彼が九歳の時に流行り病で亡くなってしまう。
それから親戚に預けられるも、あからさまな冷遇を受け、過酷な日々を送ることになる。
だがこの頃、彼は運命の出会いを果たしたのだ。
それはいつものように親戚からのいじめから逃れ、一人路地裏に座り込んでいた時の事である。
息をひそめるようにじっとしていた彼は、誰かがやってくるのを感じた。
「ねえ、待って! 返して!」
「うるせぇな! 返してほしかったらここまで来いよ!」
見ると、少女が少年を必死になって追いかけている。少年の手には可愛い麦わら帽子。
「かえ、かえしてぇ! それ、買ってもらったばっかりで」
「うっせぇなぁ!」
少年が追いすがる少女を鬱陶し気に突き放すと彼女は尻もちをついてしまう。
それを見た少年は鼻を鳴らして、手に持っていた帽子を放り投げるとそれを踏んづける。
「あ……」
少女はショックを受けたのだろう、固まってしまう。それを見て、少年はにやりと笑う。
「これからは、俺に黙って勝手なことするなよ」
少年がそう言って去った後も、少女は茫然としていた。
やがてゆっくり動き出して、踏まれて形が崩れてしまった帽子に手を伸ばす。
汚れを落とそうと手ではたくも、完全には落ちきれない。
少女は肩を落とし立ち去ろうと顔をあげた瞬間、アルバと目が合った。
なんとなく気まずくて目をそらすアルバだったが、何を思ったのか少女がこちらに近づいてくる。
「……ねえ」
「……何だ?」
「ケガ、大丈夫?」
少女が見ているのはアルバの口元。そこには今朝、親戚から殴られた跡が残っていた。
「痛そう……」
泣きそうな顔をする少女に何を言えばいいのかわからず、アルバは固まってしまう。
少女はポケットからハンカチを取り出すと、それをアルバに差し出す。シミ一つない綺麗なハンカチだった。
「これ、使って」
「……いいの?」
「うん」
ついさっき、自分だって傷つけられたばかりだろうに、どうして見ず知らずの自分にこんな優しくしてくれるのかアルバにはわからない。
だが、胸が温かい物に満たされたような気がした。
「ありが、とう……」
汚してしまわないよう、恐々と受け取ると少女がにぱっと笑う。
とても、可愛らしい笑顔だった。
「それじゃあ、ばいばい」
くるりと体を翻し、去っていく少女にアルバは慌てて声をかける。
「ま、待ってくれ! 名前を教えてほしい!」
アルバの言葉に少女は振り返り、同じく声をあげた。
「私、ハンナ! ハンナっていうの!」
それだけを告げると少女は今度こそ去ってしまう。
残されたアルバは少女、ハンナの姿が見えなくなるまで、それを見つめ続けた。
手の中にあるハンカチを、大切に握りしめてながら。
アルバはもう一度ハンナと会いたかったが、どこか別の町に引っ越したのか、これ以降彼女の姿を見かけることはなかった。
それでも諦めきれず、親戚の目を盗んで勉学に励み、成長して家を出てからは様々な町に足を運んでハンナを探し、そしてようやく見つけたのだ。
(やはり、何度考えても、俺は運がいいとしか思えないな)
ハンナと再会できたこと、彼女が結婚していなかったこと、彼女の兄と友人となれたこと、彼女のことを紹介されたこと、彼女の信頼を得られたこと、彼女と恋人になれたこと。いや、それよりも何よりも、ハンナと出会えた、それ自体が奇跡ともいえる幸福である。
ハンカチを差し出されたあの日から、ハンナはアルバにとって生きる意味になったのだ。
だからこそ、あいつらを許すことはできなかった。
(すまないな)
ハンナを腕に抱きながら、アルバは粉々に砕け散った皿を思い返した。
(よりにもよって寝室だなんて、俺にはとても許容できなかったんだ……許してくれ、オドリック)
ハンナから愛されるという、自分が必死に掴んだ奇跡をいち早く物にしておきながら、彼女を傷つけて見放されたあいつら。
そのくせ、彼女のことを諦めきれずに往生際悪く探し回っていて、もしアルバが再会する前に見つけられていたらと思うと背筋に冷たい物が走る。
しかし同じ女性に惚れたよしみで、せめて彼らが望んでいた通りにハンナと一緒にいられるようにしたのだ。
とはいえ、そのうちの一つはアルバ自身の手で、それすら叶わなくなったのだが。
しかしまあ、それでも当人は満足のはずだ。本来なら叶うはずのない夢が、一時でも叶えられたのだから。
そんな身勝手なことを思ったアルバだが次の瞬間には懺悔の気持ちは消え、ハンナに送る詫びの品は何がいいかと考えていた。
彼にとって、ハンナ以外の人間なんぞその程度のものなのだ。
そんなことを考えているとはつゆ知らず、ハンナは恋人の温もりの中で幸せを感じていた。
ハンナは男運が悪い。
もしかしたらそれは、今も……