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迷宮の分析者  作者: 店長
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第7話 武器と職業

 俺は石板を見ていた。

 しかし、石板に新たに文字が浮かぶことはない。確か、二つか三つは選択肢があるんじやないのか? それに分析士って、どんな職業なんだ?


 少しの間考えていたが、他に選択肢もないので、石板の分析士の文字をタッチしてみる。文字が強く光、消えていく。

 今ので職業が決まったのか?


 ステータスを確認してみる。


 ソウ   17   男    ーーー    ー


【職業】 分析士Lv1

  装備可能武器   ーー

 

【スキル】 分析Lv1   睡眠耐性Lv8


【称号】 転生者



 職業が分析士になって、スキルに分析というのが加わっている。職業の下に出ている装備可能武器というところには何も表示されていない。


 専用の装備がないとか、そういうことか? 名前からして戦闘用の職業ではなさそうだが……


 しばらくステータスを見ながら考えてみたが、これ以上分かることもなさそうなので、部屋を出ることにした。


「よい選択ができましたか? 」部屋を出ると、すぐにクルンさんが話しかけてきた。

「選択というか……」と、俺は言葉をにごす。

「何か気になることでも? 」

「装備可能武器って、どういうものなんでしょうか?」

「ああ、他の武器を使いたいのですね? 」

 クルンさんは俺が何か使いたい武器があると勘違いしたようだ。

「いえ、装備可能武器というのがないんです。」

「えっ、ない? し、失礼ですが何の職業に? あっ、いえお答にならなくて結構です。すいません。」クルンさんはかなり慌てて、失言を詫びてきた。


 この世界において、他者に職業を聞くというのは、失礼らしい。迷宮に挑む者にとっては、他者はライバルであり、職業という自分の情報を知られることは、不利にしか働かない。

 俺は、迷宮に挑みたいわけではないが、だからといって公表するつもりもない。この世界の、というより、この神殿の人はとても親切だが、すぐに全面的に信用できるわけではない。俺達は知らない世界に来たのだ。警戒しておくにこしたことはない。


「いえ、気にしないでください。それで、装備可能武器がないというのは問題なのでしょうか? 」

「いえ、問題というわけではありません。ただ戦闘において苦労するというか……」

 少し言いづらそうにクルンさんは続ける。

「装備可能武器とは、その武器用のスキルを取得できるということなのです。攻撃系のスキルは通常の攻撃より威力が高いので、戦闘において重要になります。戦闘系の職業は攻撃系のスキルの取得が多い職業とも言えます。」


「じゃあ、装備可能武器がないというのは、戦闘には向いていないということなのですね? 」

「それはそうなのですが……」

 クルンさんは更に言いづらそうに口ごもる。

「ほかにも何かあるのですか? 」

「職業が最もレベルアップしやすいのが迷宮の魔物を倒すことなのです。なので、普段は迷宮に挑戦をしないものでも、迷宮で職業Lvをあげて、必要なスキルの取得を目指すのです。普通どんな職業でも装備可能武器があり、それ用のスキルを一つは取得するのですが……」

 それがない俺は、戦闘において他の人より劣るので、職業Lvをあげてスキルを得にくいということか。


「だせぇ。落ちこぼれだな。」

 クルンさんからの説明を聞き終えたころ、突然他の生徒の方から聞こえた。俺がそちらを見ると、こちらを嘲笑うかのような表情で見ている男子生徒がいた。どうやら同級生のようだ。見たような気もするが、話したこともないし、名前も知らない奴だ。俺とクルンさんの話しを聞いていたようだ。


「前はお姉ちゃんのおかげで、調子にのれてたのにな! 」と俺が自分の方を見たのを確認して、言い放つ。


 なるほど、こういう奴か。たまにいるのだが、惟ねぇの弟というだけで、なぜか「調子にのっている。」「いきがっている。」と言ってくる奴がいるのだ。俺は自分自身が普通だと理解しているし、目立つ言動をした覚えもない。


 こういう奴は、相手にしないことにしている。

 俺は無視して、改めてクルンさんに質問をする。

 まだ何か言っているが無視だ。


「スキルがないと生活していくのは大変なのでしょうか? 」クルンさんは少し何か言っている男子生徒の方を見た後、そちらにも聞こえるように少し大きな声で答えたくれた。

「いえ、そんなことはありません。職業とスキルを活かした方が成果はあげやすいし、スキルがないとつけない仕事というものはありますが、職業やスキルに関係のない仕事をする者もいます。」

 この人は本当にいい人のようだ。

「それに魔物を倒す以外でも、少しずつ経験をつむことはできます。そうしてLvアップしてスキルを取得することもあるでしょう。覚えることのできるスキルは、職業によるものと、その人の資質や経験によるものになると言われています。時間をかけて経験してきた方が、覚えたいスキルを覚えることができるかもしれません。」

 どうやら魔物との戦闘ができず、スキルを取得することができなくても生活していくことはできるようだ。


 クルンさんの説明で何も言えなくなった俺に絡んできた奴は、小さく舌打ちすると他の生徒との会話に戻っていった。


「ありがとうございます。」とクルンさんへ頭をさげる。

「いいえ。」と言って笑顔を見せると、

「では、今後のことを説明させていただきますね。」と言って、部屋の方々に散っていた生徒達を集める。


「全員の職業が決まったようですので、これからのことを説明させていただきます。これから今別れているグループ毎に、村エリアへと移動して、そこで一ヶ月間生活していただきます。」


 これには、生徒たちから驚きの声があがる。

「はっ? このグループで? 」

「えっ、他のグループになった子は? 」

 俺もそうだが、友達と離れてしまった生徒もけっこういるようだ。


 女子生徒の一人が手をあげて質問する。

「他のグループの人と交代してもらってもいいですか? 」

「申し訳ありませんが、グループの変更は認められておりません。皆様全員を受け入れることのできる家を有するエリアはございませんし、すべての希望をかなえられるグループ分けができるとも思えませんので。」クルンさんは少し間をおき、「そして、これは皆様ひとりひとりに生きていく力を身につけてもらうためでもあります。」


 確かに、俺達は自分で決めて転生した。個人で生活していけるように努力するのは当然かもしれない。それにこの神殿の人は、かなり手助けしてくれたと言えるだろう。しかし、それでもいきなり放り出されて全員がやっていけるだろうか? 同じように思っているのか、生徒たちはかなり不安そうな表情で考えている。


「安心してください。国から、一人銀貨二枚が支給されますし、家も用意しております。最初の一月の家賃も必要ございません。また、最初の迷宮探索は、探索者ギルドが用意した探索者が案内をしてくれます。各エリアで一ヶ月間、生活していけるように経験をつんでいただき、その後は住む場所を変えていただいてもかまいません。」


 この世界の暦は、一ヶ月は二十八日で前世に近かった。


 銀貨二枚というのが、どのくらいの価値かは分からないが、ただ転生してきただけの俺達が生活していけるようにとここまでしてくれるのだ、文句は言えないだろう。

 グループ分けに不満があった生徒も何も言えないようだ。


 その後は、俺達が向かう村エリアというところの説明が行われた。


 この国は、俺達が今いる神殿や王たちが住む城があり、本当に限られた一部の人しか住むことのできないロイヤルエリアを中心に円状に広がっているらしい。内側から順に、ロイヤルエリア、第一貴族エリア、第二貴族エリア、第一市民エリア、第二市民エリア、そして、俺達が向かう村エリアとなる。


 上位のエリアへと、例えば村エリアから第二市民エリアへと引っ越すには、かなりの税金を納めなければならない。上位のエリアにいけばいくほど、攻略難度は高いがその分見返りも大きい迷宮が多く、またそこからとれる素材を扱った高級な店などが多い。どこのエリアに住んでいるかが、一種のステータスとなるのである。こうすることで、迷宮に挑む者のモチベーションをあげることが狙いらしい。事実、上位のエリアでくらすことを目標とする者は多いとのことだ。


 俺達が向かう村エリアは、さらに東西南北四つのエリアに分かれていて、俺が向かうのは村エリア西ということだ。







 それぞれのグループでの説明を終えた後、移動する準備の間、一旦転生の間に全員で集まって待機となった。

 別グループとなった知り合いと、今後のことを話せるようにとの配慮だった。


 転生の間に戻って、惟ねぇを探していると、門田さんを見つけた。


 向こうもこちらに気がついたらしく、小走りでこちらにきた後、きれいな黒髪を整えながら「松永君、どこのエリアになった? 」


「村エリア西だよ。門田さんは? 」

「私は東。反対か……」

 気のせいか少し寂しそうに見える。

「宮地さんは一緒じやないの? 」

「ううん? 一緒だよ。恵理は今他の子と話しにいってる。」

 じゃあ、そんなに寂しいってこともないんじゃないだろうか?


「あっ、あの一ヶ月が過ぎたら、一度集まれないかな? 」

 新しい世界で知り合いもなく生活していくことが不安なのか?

「いいよ。一ヶ月たって、移動できるようになったら東エリアにいくよ。」

 惟ねぇがどのエリアか分からないが、惟ねぇの所にいった後に東エリアにいけばいいだろう。村エリアがどれくらいの広さか分からないが、どうせなら他の村エリアも見てまわるつもりだしな。


「約束だよ! じゃあ、待ってるね。」

 やはり不安だったのだろう、凄く嬉しそうだ。

「ああ、ひとまず一ヶ月がんばろう。」


 そう言って、再び惟ねえを探そうとすると、門田さんの向こう側にこちらを見ている惟ねえを見つけた。


「じゃあ、一ヶ月後に。」と告げて、門田さんと別れ、惟ねえのところに向かう。


「惟ねえ、どこのエリアになった? 」

「……北よ」

 やけに機嫌が悪そうだ。グループ分けのときの感じだと、順番的に中山先輩と一緒のエリアになれたはずだが。ちがうグループになってしまったのか?

「中山先輩とは、一緒じゃないの? 」

「一緒よ。今は別行動してるけど。」


「さっきの子は同じエリアなの? 」

 門田さんのことか?

「いや違うよ。同じクラスだったんだ。」

「俺は西エリアで、彼女は東エリアらしいよ。」

「そう。ならいいけど……」

「えっ? 」

 小声で何と言ったか分からなかったので聞き返した。

「何でもないわ。それより、一ヶ月間大丈夫? 」

「まぁ、何とかなるだろう。惟ねえこそ、一ヶ月たったらすぐに行くから無理はするなよ。」

「麻衣も一緒だし、私は大丈夫よ。」

「じゃあ、一ヶ月たったら北エリアにいくよ。もし、連絡をとる方法があればすぐに連絡するから。」

 手紙のようなものがあるのか分からないが、何かしらの連絡手段があってもおかしくない。

「分かった、待ってる。くれぐれも無理はしないようにね。」


 惟ねえがそう言うと、神殿の職員らしき人が転生の間に入ってきた。

「移動の準備が整いました。西エリアの方から移動をしていただきます。」と言って、西エリアに行くものを集める。


「惟ねえ、じゃあ、一ヶ月後に。」


 そう言って惟ねえと別れ、転生の間を後にした。






















 

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