表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮の分析者  作者: 店長
6/19

第5話 新しい世界

  二人との別れをすませ、しばらくすると、背後に気配を感じた。


  「お待たせしました。」そう言って振り向く。


  「別れを告げることができたようですね。」

  これまで淡々と話していた気配の雰囲気が、少し変わった気がした。


  「ええ。ありがとうございました。」


  「では、これからあなたには転生してもらいます。」


  「はい。その前に一つ聞いていいでしょうか? 」

  すでに心の準備はできているが、聞きたいことを聞いておく。


  「ここで他の者のことを答えることはできませんが、転生は、同時に行われます。それに転生する場所は安全な場所です。」

  やはり、声に出す前に質問に答えてくれる。 他にも聞きたいことは沢山あるが、今聞いてできることもないだろう。


「分かりました。色々とありがとうございました。……じゃあ、お願いします。」


  「……はい。それでは、新たな世界で、新たな生を、思うままに、精一杯生きてください。」


  気配のこれまでで最も力強く、そして優しい声の後、俺は光につつまれ、目を閉じた。



 


 

  目を開くと、同じ制服に囲まれて立っていた。

 転生を選んだであろう生徒達だ。どうやら事故で亡くなった生徒はかなり多いらしい。かなりの事故だったようだから、誰も助からなかったのかもしれない。


  皆、驚きつつもキョロキョロと周りを見渡している。

 

  俺たちは、高校の体育館くらいの広さの石造りの部屋の中にいた。神殿? といったつくりで、俺達がいる所は祭壇のようになっていて、他の場所より高くなっている。俺達がいる方の反対の壁には幾何学的な模様の入った、大きな扉がある。

 高さが2メートル以上ありそうな大きな扉だ。


  周囲を確認し、次第に落ち着いてきたのか、生徒達も誰がいるかの確認を始める。


  俺も惟ねえを探そうとしていたら、背後から声をかけられる。


  「想っ」


  振り向くと、惟ねえと中山先輩がいた。


  中山先輩も転生を選んだらしい。


  惟ねえは、一瞬安心したかの表情を見せた後、「やっぱり、あなたも転生を選んだのね。……お父さん達には会った? 」と少し悲しげに聞いてきた。


  「うん、会ったよ。」とだけ答える。


  惟ねえも「そう。」とだけもらした。


  別れをすませたとは言え、思い出せば悲しみがよみがえってくる。


  「それにしても、ここどこなんだろう? 」

 と俺は空気をかえる。


  惟ねえも中山先輩も察して、あたりを見渡す。


  「何か神殿っぽいよね? 」

  中山先輩も同じように感じたらしい。


  「確か迷宮の世界、だったわね? ここが迷宮の中なのかしら? 」

  惟ねえが気配の説明を思い出させる。


  「転生する場所は危険なところではないとは言ってたけどね。」

  迷宮というのがどういう場所かも分からないので、判断のしようもない。


  惟ねえ達と話していると、他の生徒達もここがどこか不安になってきたらしく、ざわつきだす。


  しばらくして、他に出入口らしきものもないので、何人かの生徒が大きな扉の方へと進んでいく。


  それに気づき、皆そちらを見る。


  一人の男子生徒が扉に手を伸ばしたとき、手が触れる前に扉は開き出す。


  扉に触れようとした男子生徒は慌てて、手をひき後ろへと跳ぶ。


  扉がコゴゴっと低い音をさせ、完全に開くと、扉の向こうから二人の男女が入ってきた。


  二人とも法衣? といった白を貴重とした前世でいう神父のような格好をしている。


  茶色い髪に、きれいに整えられた髭の男性の方は四十代半ば、紺に近い青い髪をした女性の方は二十代後半といったところで、かなり美人である。


  突然現れた二人に思わず俺も他の生徒達も思わず身構える。


  それを察したのか男性の方が、「安心してください、転生者の皆様。私達はあなた方の案内をするためにやってきました。」とよく通る声で、警戒する俺たちに語りかけてきた。


  どういう理屈かは分からないが、言葉は通じるようだ。日本語ではないが、理解できる。転生のサービスといったところだろうか?


  「私は、フレッドと申します。この神殿の司祭を務めさせていただいています。こちらはシェシルです。」と自分と女性の紹介を行う。


  「神官のシェシルと申します。」と女性が頭を下げる。


  フレッドと名乗った男性は続ける。


「転生者の皆様には分からないことだらけでしょうから、私の方から少しこの世界について説明させて頂きます。ここは、迷宮の世界クレータ、そしてその中の唯一の国メディウムです。この世界では、迷宮が貴重な資源です。迷宮に潜り、そこから持ち帰る恩恵によって我々の生活は成りたっています。皆様もこの世界で生きていくためには、少なからず迷宮と関わっていくでしょう。私達は、その手伝いをさせて頂きます。」


  そこまで話すと、生徒の側から手が上がる。

 それに気づき、フレッドはどうぞと右手をそちらに向ける。


  眼鏡をかけた小柄な男子生徒が手をあげている。野上 要、俺達の学年の成績トップだ。


「あなたは、私達を転生者と知っているようですが、なぜ私達の事情を知っているのでしょうか? それと、私達の手伝いをしてくれるとのことですが、私達に何か求めるものがあるのでしょうか? 」


  ストレートな質問だが、確かに気にはなる。

 俺達を転生者だと知っていて、何も分からない俺達に色々と教えてくれる。疑り深いのかもしれないが、純粋に善意からなのだろうか? 向こうにも何かしらのメリットがなければそんなことしないのではないだろうか?


  質問の意図を察しても、フレッドは全く気分を害した様子もなく答える。


  「まず、私達があなた方を転生者と知っているのは、神託があったからです。転生が行われる前には、迷宮神様よりその時期と人数が神託により告げられます。後で確認させて頂きますが、今回は、88人の方が転生されるとの神託でした。」


  88人? 研修の参加者は、確か先生含め80人くらいじゃなかったか?

  俺は後ろを見る。俺達がいる祭壇? の一番奥の方にバスの運転手らしき制服をきた男性が二人、大学生くらいの女性が四人、夫婦らしき二人の男女がそれぞれグループの様に、ひとかたまりになって立っている。バスの運転手がいるってことは、同じ事故で死んだ被害者だろうか?


  俺が後ろを気にしている間もフレッドは続ける。

「そして、ここは神殿の転生の間と呼ばれている場所で、転生者の方が来られたとき以外は開きません。転生者の方が来られたときは、我々司祭や神官がこの世界のことを説明することになっています。」


  そこで一呼吸つき、


  「我々はあなた方を我々の管理下に置こうとか、何かをさせようというつもりはありません。というよりは、そんな必要がないのです。先程、申し上げた通り、この世界で生きていくということは、少なからず迷宮に関わることになります。迷宮に挑む者、それを支える者、形は様々でしょうが、皆様もそうなっていくでしょう。それだけで、十分価値があるのです。したがって、我々は最低限必要な手助けをするだけで、その後は皆様の自由に生きて頂くことになります。」


  「……分かりました。ありがとうございます。」

 嘘や怪しさは感じられない、野上もひとまず納得したようだ。


  「他の方も気になることが多々あるでしょうが、まずはこの世界で生きていく上で、非常に重要なステータスと職業の説明をさせて頂きます。シェシル。」そう言ってフレッドはシェシルの方を見る。


  「はい。」と返事をしシェシルが少し前に出る。


  「皆様、ステータスと念じてみてください。」シェシルが凛としたよく通る声で話す。


  俺は、言われた通りに念じてみる。


  すると、



  ソウ   17   男   ーーー   ー


  【職業】 ーーー

 

 

  【スキル】 睡眠耐性Lv8



  【称号】 転生者


 

  【賞罰】



  と、目の前に表示された。


 

  周りの生徒から驚きの声があがる。


  「きたーっ」や「チートはないのか? 」と言った声が一部から上がっている。


  俺も驚きながら周りを見る。どうやら自分のステータスは自分にしか見えないらしい。


  俺はまた自分のステータスを見る。


  称号の転生者はともかく、スキルの睡眠耐性ってのは? 事故のとき寝てたことを後悔してたのと関係あるのか?


  「このステータスは、この世界に生きる者は誰しももっています。次に、ステータスカードと念じて見てください。」睡眠耐性について俺が考えていると、シェシルが説明を続ける。


  ステータスカードと、念じると再び同じものが表示される。

  しかし、今度は周りの生徒の前にも同じものが見える。

 

  「ステータスカードと念じると、他者へステータスを表示することができます。この画面は各項目に触れて設定することで、他者への表示範囲を制限することができます。」


  俺はスキルの睡眠耐性をタッチしてみる。

 

  すると、カードから睡眠耐性が消えた。

 ついでに【称号】というところをタッチすると、【称号】の表記自体が消えた。まとめて消すこともできるようだ。


  「ステータスの職業やスキルは非常に重要です。不要なトラブルを招くこともありますので、普段は表示しないことをお勧めします。ただし、一部施設などではステータスをチェックされることもあります。」


  ステータスカードが身分証のようなものらしい。


  「……皆様、確認できたようですね。それでは、次に職業の説明に移らせて頂きます。」


  「ここでの職業は、仕事という意味ではなく、皆様の素質、経験などからつくことのできるステータス上のものです。この職業によって、覚えるスキルや成長の仕方、扱うことのできる武器などが決まってきます。例えば、剣士であれば剣を扱うことができ、〈刺突〉や〈回転切り〉などのスキルを習得することができます。」


  適性のある職業につき、スキルを覚えていく……本当にゲームのようだな。


  「職業は、剣士や魔法使いと言った戦闘向きなものばかりではありません。鍛治師や料理人、農夫など様々な職業があります。職業によって、どのような生き方をするのかも変わってくるでしょう。」


  そう言われるとかなり重要な気がする。

 この世界で生きていく上で、職業の影響はかなり大きいようだ。


  「職業については、理解していただけたでしょうか? それでは、これから皆様の適性を調べ、職業について頂きます。」


  ……これから選択の時間のようだ。


 


 


 





 




 


 


 


 




 




 





 


 


 

 


 




 


 


 

 



 


 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ