第2話 前世の最期②
学校への坂道を少し急ぎ足でのぼる。
集合時間までにはまだ10分程あるが、ギリギリにつけば生徒会長様からどんなお叱りがあるか分からない。
周りにも研修に参加するであろう生徒が、校門を目指している。
その中に混じって校門をくぐると、
「遅かったわね。」と声がかかる。
右手をみると、数名の生徒会に役員にまじり、自らも参加する生徒の出席をチェックしている生徒会長がいた。
少し色素が薄く茶色がかった長い髪に、意思の強そうなはっきりとした瞳、その表情は蒸し暑さを全く感じさせず、彼女の周囲だけ空気がちがうかのように錯覚させる。俺が知るなかでは間違いなく一番の美人である我が姉。
そんな姉に向かって、「おはよう、惟ねえ。時間には間にあってるだろ? 」と小言を覚悟で答える。
「出席のチェックを手伝ってほしかったのよ。……って随分と眠そうね? 」と言いながらバインダーをこちらへ手渡してくる。
普段と変わらない態度のつもりだが、すぐにバレるな。「ああ、少しね。」ととぼけておく。
「まぁ、来たのならいいけど。」と少し呆れぎみに言いながら、手に持っていたバインダーから一枚の紙をはずして、こちらへ手渡してくる。
紙には、出席するであろう2年生の名前が書いてある。ほとんどの名前の横には、◯がついている。余裕をもって来たつもりだったが、さすがにこの研修に参加するような生徒達。俺は、遅いほうだったようだ。
「残りの人が来たらチェックして、全員確認できたら校舎前に来て。」
「分かった。って言っても、ほとんど来てるんだな。全部で何人くらい参加するの?」と名簿を眺めながら尋ねる。
「1年生33名、2年生37名、3年生8名、教師2名よ。」と名簿も見ずに答えてくれる。これくらいは把握していて当然のようだ。
「随分と多いんだな。50人くらいかと思ってたけど。」
「一昨年までは、それくらいだったみたいよ。何故か去年から定員を越える希望者が出て、先着順になったみたい。」
惟ねえは少し不思議そうだが、俺には納得がいった。去年と今年は惟ねえが参加しているのだ。
惟ねえの校内での人気を考えると、一緒にキャンプ的なイベントに参加できるとなれば希望者が増えるというのは十分にありえるだろう。
ちなみに1年だった去年俺は参加していない。知り合いに頼まれて、プール清掃のバイトをしていたのだ。
と、そこで疑問に思う。
「なら俺が来なくてもよかったんじゃ? 」
「参加できるように手配してあげたのよ。お礼は研修中の手伝いでいいから。」とにこりと微笑む彼女。
「ああ、そうですか。」と力なく答え、俺は生徒のチェックへ向かう。
惟ねえは校舎前へと向かい、程なくして生徒全員の出席を確認し、俺も他の生徒全の人達と校舎前へと向かった。
参加生徒全員が揃った校舎前では、出発前の簡単なオリエンテーションが行われる。
「……貴重な夏休みを使っての研修です。少しでも多くのものを得ることができるようにしていきたいので、皆さん協力してください。そして、
一緒に楽しみましょう。」惟ねえの代表挨拶が終わり、他の生徒会役員から簡単な注意事項が説明され、いよいよバスに乗りこむ。
バスは二台で、席は自由だが、1年と3年とで一台、2年で一台、教師2名が別れてそれぞれのバスに乗ると決めらている。
バスの乗車口では、再度教師による出席と乗車を兼ねた確認が行われている。
俺も2年のバスに向かい、乗車しようとすると、「松永君、君はこちらのバスではないぞ。」と2年の学年主任であり、引率の敷田先生にとめられる。
「えっ? 」と聞き返すと、
「研修中の説明をするから、想は私と同じ向こうのバスよ。」とちょうどこちらへやってきた惟ねえが答え、うむを言わせずに連れていかれる。
バスの中で眠る気満々だった俺は、大きくため息をつきながらもう一台へのバスへと向かった。
1年・3年バスに乗りこむと、
ほとんどの生徒が既に乗車しているバスの最後列から「松永さん、席とっておいたよ。」と声をかけられる。
もちろん俺にではない。
声をかけてきたのは、生徒会副会長にして、数少ない3年の参加者である矢野 聡志。イケメンで成績優秀、スポーツ万能と言う男子生徒の敵という奴である。
俺は、この人に自信過剰なところと、どこか薄っぺらさを感じて苦手だった。別に嫉妬しているわけではない。……多分。
そんな感情が伝わったのか、むこうも俺を見るなり、「君はこっちの、バスじゃないだろ!」と如何にも不機嫌そうに言ってくる。
惟ねえが「想は私がよんだの。私は想と座……」と言いかけたのを遮り、
「すいませんね、先輩。俺、知らない人が隣だと眠れないんですよ。この研修が楽しみすぎて昨夜は全然寝れなかったんで。」と全くキャラでもないことを言い放つ。
「何を……」と副会長が何か言おうとするが、立っている俺達のすぐ側から
「はーい、ここ空いてるよ。」と声があがる。
自分達の前の席を指差しながら立ちあがったのは、女子陸上部の部長で、惟ねえの親友でもある中山 麻衣。
彼女に視線を向けると、やるね! と言わんばかりにニッと笑顔を返された。
彼女に軽く頭をさげ、惟ねえと共に座る。
「チッ」と舌打ちが聞こえた気がしたが、どうでもいい。
席につくなり、「惟ねえ、悪いけど研修のことは、着いてから資料見るわ。それで、何とかなるだろ。」惟ねえをかばうような行為をした気恥ずかしさもあり、一方的に話し、寝るフリをする。
フリのつもりが、目を閉じると一気に睡魔が襲ってくる。
「う、うん。それで大丈夫。……ありが」
惟ねえの返事を最後までに聞かない内に、眠りへと落ちていった。