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迷宮の分析者  作者: 店長
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第1話 前世の最期①

  スマホのアラームが、起きるまで諦めないというように鳴り続けている。無視したいが、これ以上続くと、母さんが起こしにやってきてしまう。17歳にもなって、母親から起こされるというのもないだろうという思いだけで、スマホに手を伸ばす。

 

  時刻は、6時40分。5時半には横になったから 一時間くらいは眠れたか……。

 

  地球なんてなくなってしまえばいいのに……。これくらいの睡眠時間で起きたときの気分はいつもそんな感じだ。

 

  重い体を引きずりながら部屋のドアを開けたとたんに感じる、もわっとした蒸し暑さにクーラーをつけっぱなしだったことを思い出す。今年の夏は特に暑く、この時間でも十分に夏を感じさせる。

 

  そう今は、高校生にとって最も楽しみなはずの夏休みだ。その夏休みにこんな朝早くから起きなければならないのは、これから向かうイベントのせいだ。

 

 

  北筑高校リーダー研修。生徒会主催で行われ、参加者は合宿の中で、集団行動や、会議のすすめ方を学び、実際に生徒総会に向けたいくつかの議題や、各委員会からの議題で会議を行ったり、ディベートをしたりする。

 

  これだけ聞けば、いかにも真面目な生徒だけが参加するような内容だが、合宿中には、レクレーションや飯盒炊飯などのキャンプ的な要素を利用して、夏休みの間に出会いを得ようといったやつも参加するらしい。

 

  合宿先が学校ではなく、バスで二時間もかかる避暑地の施設を借りて行われることを考えると、そういう目的の生徒がいてもおかしくないとは思うが……

 

  どちらにしても俺が参加する理由にはならない。夏休み中にはバイトもあったし、読破しようとしていた本も何冊もあった。

 

  現に、昨夜もつい読み出してしまった小説を途中でやめられずに、ほとんど眠れなかったのだ。


 


  「おはよう。後10分して起きてなかったら起こすように惟に言われていたのよ。」気のりしない合宿のことを、まわらない頭で考えながら階段をおりるとすぐに母さんが声をかけてきた。

 

  「おはよう。惟ねえは? 」苦笑いしながら、俺がこのやっかいごとに参加しなければならない原因のことを尋ねる。

 


  松永 惟。俺の姉であり、生徒会長。本来、研修に参加しないはずの3年ではあるが、すでに推薦で大学を決めているため、2年の役員とともに参加。……というより仕切っている。

 

  「手伝うわよね。」と俺の参加を勝手に決めてくれたのである。生徒会長にして、成績は常にトップ、その容姿で学年問わずに異性はおろか、同性にもファンがいる相手に対して、成績は中の上、イケメンでも不細工でもない顔だち、普通の代名詞とも言える俺に、学内のことで拒否権はなく強制的に参加となったのだ。

 

  「惟は出席の確認しなきゃいけないからって先に行ったわよ。朝ごはんはどうする? 」と母さんはすでに家を出た父さんと惟ねぇの朝食の後片付けを一旦やめて、冷蔵庫から取り出したお茶をコップに入れてくれる。

 

  「大丈夫、食べれそうにないし、食べてる時間もなさそうだしね。」受けとったお茶を一気に飲みほし、その冷たさに少し目を覚ましつつ、用意をしに俺は洗面所に向かう。

 

  顔を洗い、簡単に髪を整えると、部屋に戻り制服に着替える。昨夜用意して置いた鞄を手に、玄関へ。

 

  「じゃあ、行ってきます。」玄関からリビングに声をかけると、「相変わらず用意は早いわね。」と少し慌てて母さんが出てくる。

 

  「これくらいは食べていきなさい。」とチアパック入りのゼリー飲料をくれる。10秒でチャージできるというあれだ。

 

  「ありがとう。じゃあ、行ってきます。」

 

  「行ってらっしゃい。気をつけていくのよ。」と母さんは心配そうに言ってきた。

 

  2泊3日の学校の旅行程度で母さんが不安そうなのは、俺の本当の両親のことがあるからだろう。

 


  俺と父さん、母さん、惟ねえは血がつながっていない。

  俺の本当の両親は、俺が5歳の時に、親友どうしで家族ぐるみのつきあいをしていた松永家に俺を預けて買い物にいき、居眠り運転の車にはねられ、なくなった。

  俺には、他に身寄りがなかったらしく、松永の父さん、母さんが俺をひきとって育ててくれた。

  当初は泣きじゃくっていたらしい俺も、本当の家族として接してくれた松永家のおかげで、いつの間にかこの人達を家族と思うようになっていた。



  「大丈夫だよ。母さん。それより早くいかないと、惟ねえに何を言われるか。」心配しなくていいと最後に少しオーバーにため息をついて、俺が答えると、一瞬、何を心配したのかを悟られたことを後悔したような表情をしたが、すぐに母さんは「そうね、行ってらっしゃい。」と微笑んでくれた。




 


  まだ7時すぎとはいえ、睡眠不足には十分すぎる日差しの中を集合場所である学校へと向かう。

 

  学校までは、電車を使って40分程度。電車をおりると普段より大きめの鞄を持った、研修に参加するのであろう生徒が学校へ向かっている。

 

  その中には同じクラスのやつらもいた。向こうもこちらに気づいたらしく、小走りでかけよってくる。

 

  「おはよう、松永君。」声をかけてきたのは、クラス委員の門田 円。長く整った黒髪で、小顔にはっきりとした目と、まさに人形のようという表現があう。真面目で誰にでも優しいとクラスの男子生徒からの人気No.1だ。

 

  「おはよう。門田さんも参加するんだね? 」

 

  「うん、勉強になりそうだし、いろいろ楽しそうだしね。」

 

  自分とは全くちがう、彼女の前向きな参加への姿勢に少し戸惑っていると、「あれ、円、松永君と一緒にきたの? 」と背中から聞こえてきた。

 

  門田さんとそちらを向くと、少し日焼けした肌に後ろでアップにした髪の少女がいた。


  宮地 恵理、引き締まったスラッとした体型に、活発そうな表情を見せる、いかにもスポーツ美少女といった彼女は門田さんの親友にして女子テニス部の副部長。

  どちらかというとこういう堅めの研修には参加しそうにないタイプのようだったが、どうやら彼女も参加するらしい。


  クラスで1、2を争う人気の二人が参加すると分かっていたら、俺のクラスからの参加者はかなり増えていただろう。

 

  門田さんが、慌てて「ちがうよ。えり。今あったの。」と否定する。

 

  誤解される程、クラスで話したこともないと思うが、一応のっておく。

 

  「ああ、俺も今きたところ。宮地さんも参加なんだね? 」

 

  「うん、円に誘われてね。」と門田さんの方に視線を向けると、また門田さんが少し慌てて、


  「そ、そう。一人だと少し不安で。」と答える。

 

  不安と思われるのが恥ずかしかったのか? と疑問に思いながらも、そろそろ学校に向かわないとまずいと、「じゃあ、よろしく。」と二人に向かって言うと、学校へと向かった。

 

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