第15話 レベルアップ
Lv2? 分析士の職業Lvが上がったのか?
俺はステータスを確認する。
ソウ 17 男 村エリア G
【職業】 分析士Lv2
装備可能武器 ーー
【スキル】分析Lv1 睡眠耐性Lv8
解体Lv1 気配察知Lv1
【称号】 転生者
レベルが2になっており、スキルが二つ増えている。
解体はスモールボアを解体していたからだとして、気配察知? マップでシードとスモールボアを確認するために、周囲を探っていたからか?
そんなことでスキルが手に入るのか?
マップを確認すると、さっきまで表示されていなかった所に赤い点がついている。スキルを取得したことで、より遠くまで気配が分かるようになったのか?
スキル以外の変化は戦闘で試して見なければ分からないようだ。
と、そこでマップの迷宮の入り口の所にグレーの点が表示される。他の探索者が来たようだ。
疑問だらけのままだが、今日はここまでにする。
迷宮から出て、テートさんの店へと向かう。今日は、普段通りの客入りだった。といっても、けっこう繁盛しているのだが。
「ソウ君、昨日は悪かったね。」テートさんは俺を見て、声をかけてきてくれた。
「いえ、忙しそうでしたね。」
「たまにああいう日があるんだ。今日は食べていくかい? 」
「はい、お願いします。」テートさんにスモールボアの肉を渡してから席につく。
今日のメニューは、煮込んだ肉とスープのセットだった。肉は柔らかく、抵抗なくかみきれるくらい煮込まれていた。ここで出る料理はうまい上にボリュームもあり、迷宮帰りの楽しみになっている。
テートさんの店を出た後、探索者用の道具を売っている店に向かう。
昨日、トマスさんに教えてもらったのだが、今日は午後から雨になるらしい。ベテランの農家の予報に従い、準備をしておこうと思う。
この世界では、傘というものは少なく、雨は外套でしのぐ。迷宮によっては、天候が変わったり、常に雨がふっていたりすることもあるので、探索者は外套を持っている人が多いらしい。確かに、迷宮の中で傘をさしていては、いざというときに反応が遅れてしまうかもしれない。
俺は何種類か外套を見て、黒い防水性のあるものを選んだ。銅貨四十枚と少し高かったが、防水性のあるものは、最低でもこれくらいするようだ。
店を出て家へと戻り、巾着袋の魔石を数える。全部で五十個、五十体でレベルが1上がったということか。レベルの上昇やスキル取得について、もう少し詳しく知りたい。マチルダさんに会ったときにでも相談してみよう。
午後からの仕事を探しにギルドへと向かう途中、昨日畑で見た獣人の少女の一人とすれちがった。同い年くらいの探索者らしき男女の少し後ろを歩いてついていっているようだ。今日は妹? はおらず、槍を手に持っていることから、彼女も探索者で、三人組のパーティーなのだろうか? その割には彼女だけ浮いているような感じだったが。
ギルドについて、マチルダさんがいないか探してみるが、そう都合よくはいかなかった。
すぐに調べなければいけないわけでもないので、仕事を見にいくことにした。
今日は、ギルドの解体場の清掃を受けることにした。ギルドにも解体用のスペースがあり、ギルド専属の解体士が、探索者が持ち込んだ素材の解体をする。
専属解体士の人に案内され、解体場へと入る。そこは学校の教室くらいのスペースしかなく、ホーマーさんの所に比べると狭い。わざわざ掃除を依頼しなくてもいいくらいの広さだ。かけ出し探索者に仕事を与えることも目的なのかもしれない。
三時間程で清掃を終え、後片付けをしていると、「ぶっ、こいつこんな仕事を受けてるぞ。」
「雑魚は大変だな、あははっ。」といきなり大声で言われた。
何のことか分からずそちらを見ると、転生初日からからんで来ているアホと、そのとりまきの男達がこちらを見て笑っている。
俺を馬鹿にしたいのだろうが、ギルドの中で「こんな仕事」と大声で言えば、ギルドの人も面白くないだろうに。俺が専属解体士さんの方を見ると、案の定専属解体士さんは不機嫌そうにアホどもを睨んでいる。アホどもは全く気がついておらず、「解体お願いします。」などと何か素材を置こうとしている。
つきあっていられない俺は、専属解体士さんに「お疲れ様です。ありがとうございました。」と声をかけ、解体場を後にした。「逃げなくてもいいのにな。」などと後ろから声がしているが、無視する。
カウンターで依頼達成の報酬をもらい、マチルダさん達がいないかキョロキョロしていた。今日は、昼前から来て仕事も短かったので、まだ十六刻前だ。しばらく明日の仕事の依頼でも見ながら待ってみようかなどと考えていると、突然後ろから声をかけられた。
「ソウってお前か? 」
俺がふり向くと、そこには初めてここに来たときに俺達転生者に声をかけてきて、ナビルナさんにとめられていた男と他に二人の三人の男がたっていた。
「はい、俺ですけど。えぇっと、キーダさん? 」確かそう呼ばれていた気がする。
「おっ、覚えてたか? 」と少し嬉しそうに笑う男。
「それで、なぜ俺のことを? 」さっきアホどもに絡まれたこともあり、少し警戒して聞く。
「ん? ああ、ホーマーの兄貴から、いたら気にかけてくれと頼まれてな。で、黒髪に黒目でソロのかけ出し探索者らしき格好がいたんで、お前がそうかなと思ってな。」
なるほど、この人もホーマーさんの後輩らしい。ホーマーさん、心配して後輩の探索者に声をかけてくれたんだな。本当に頭が上がらない。
「そうなんですね。ソウです。よろしくお願いします。」俺は改めて後ろの二人にも頭を下げる。
「俺達は『ファング』って、パーティーを組んでる。」と明るい茶髪で三十代前半くらいのキーダさんが言い、後ろの二人の方をチラリと見る。「ゴルンだ。よろしくな。」と大柄な方の人が、「コイルだよ。よろしく。」と小柄でどこか上品さを感じさせる人が名のる。二人ともキーダさんと同い年くらいだ。
「今日はもう終わりか? 」とキーダさんが聞いてくる。
「はい、さっき依頼が終わって。」
「じゃあ、一緒にどうだ? 」と食堂の方を指す。
俺は、少し早いが『ファング』の面々と一緒に食事することにした。
『ファング』は、キーダさんが剣士、ゴルンさんが手斧を使い、コイルさんが弓使いというパーティーだった。コイルさんは、市民街の出身で、三男ということもあって、気ままに探索者をするために村エリアへと来たらしい。『赤い鷹』のレイドさんが弓の師匠だそうだ。
食事の間、マチルダさんに聞こうと思っていたレベルアップやスキル取得について聞いてみた。
三人の説明によると、レベルが上がると体力や攻撃力などのゲームでいうステータスが少し上がり、スキルを取得することがある。が、スキルは取得できないことの方が多く、一つでも取得できれば運がいいらしい。例えば、解体のスキルだと五十体以上魔物を解体していても取得できない人もいるとのことだった。神殿での説明とあわせると、取得できるスキルは職業によるものと、それまでの経験や個人の資質によって決まるとのことだったので、俺の場合、経験によるスキルを一度に二つも取得したことになる。
解体したのは十体そこらだし、気配察知についてもそこまで意識していたわけではない。スキル取得にも分析スキルが関係していそうだ。解体や気配察知といった行動を分析した結果、取得しやすくなったということか? この辺は考えても答えが出そうにない。
他にLv1から2だと、スモールボアやシードだと十体から二十体倒せば上がるらしいので、分析士はレベルが上がりにくい職業なのだろう。
キーダさん達に他にもいろいろと教えてもらいながら食事をしていると、離れたテーブルから「あそこで俺の槍が」とか「俺の攻撃で」と、騒ぐ声が聞こえてきた。探索がうまくいったようで、盛り上がっているらしい。
そちらを見ると、騒いでいたのは俺に絡んできたアホ達と白い鎧をつけた知らない探索者達だった。探索者達の方は、どちらかと言うと話しを聞いているという感じで落ちついているが。
「うるせぇな」と言いながらキーダさんもそちらを見て、すぐに「ちっ」と舌打ちした。
そして、「おい、ソウ、あそこにいる奴らは知り合いか? 」と真剣な顔で聞いてきた。
「……まぁ、同じ所から転生してきたのは間違いないです。なぜかあいつら俺に絡んでくるので、無視してますが。」俺は少し考え、正直に答えた。
「……そうか。」キーダさんも少し考えてから
「あのテーブルに座っている白い鎧の奴らには気をつけろ。特に真ん中のホルンって奴から何か話しを持ちかけられても絶対に無視しろ。」
俺は改めて騒いでいるテーブルを見る。白い鎧をつけた三人組の真ん中にいる二十代くらいの整った顔立ちの金髪の男、見た目は白い鎧もあって騎士という感じだ。
「分かりました。……何かあったんですか? 」
キーダさんのこれまでにない真剣な態度に俺は頷く。
「……あいつらは市民街を本拠地とする『白い守護者』というクランの連中でな。」
「クラン? 」
「ん、ああ、クランってのは、目的や信条が同じ探索者の集団だ。組織だったでかいパーティーとでも考えりゃいい。あいつらはそこから新人のスカウトって理由で来てるんだが、ここらの迷宮でかなり稼いでる。それは別にいいんだが、あいつらが目をつけた新人の探索者が何人か消えてるんだ。」
「死んだんですか? 」
「いや、迷宮に潜ったきり、帰ってきてねぇ。ただ、迷宮で装備だけが見つかってるから、多分な……。」
キーダさんは悲痛な面持ちで続ける。
「それ自体は探索者やってりゃあることだが、その中に俺達がいろいろ教えてたパースって奴がいてな。パースは特に慎重な奴で、一人で迷宮に入ったりするタイプじゃなかったんだ。俺達はあいつのことを探して、情報を集めたんだが、消える直前にあいつらにスカウトされたと喜んでたってことしか分からなかった。俺はホルンの奴を問い詰めたが、あいつは知らないの一点張りだ。」
キーダさんは睨みつけるように、ホルンという男を見ている。
「分かりました。俺も何かあればキーダさん達に報告します。……ただ、一緒にいる奴らは俺が言っても聞かないと思います。」
いくらアホどもでも死ねば後味が悪いが、俺が言っても聞きはしないだろう。今は気にかけておくくらいしかできない。
「ああ、お前に何もなけりゃいい。困ったことがあればいつでも相談してこい。……何か暗くなっちまったな。今日はここまでにしとくか。」
キーダさんは粗野にふるまっているが、後輩思いの面倒見のいい人なのだろう。別れ際も何度も「なんでも言ってこい。」と言ってくれた。
キーダさん達と別れてギルドを出ると、トマスさんの言った通り、雨がふっていた。この世界に来て初めての雨はそこまで強くなく、しとしととふっているという感じだった。午後の仕事が短かったので、まだ十八刻前だが、天気のせいか何となく店を見てまわったりする気にもなれなかったので、普段より早く帰ることにした。
家へと戻り睡眠をとった後、少し早いがいつも通りに迷宮へ向かう。雨は少し強くなっており、外套を纏い、フードを被る。
もうすぐ迷宮が見えてくるというところで、前から声が聞こえた。いつもより早いとはいえ、この時間に他の探索者がいるのは初めてだ。予想外のことに、思わず足がとまる。
「――――女の――に―――か!? 」
「――の―でも、銀――――――るわ。 そ―――金どうや――――」
「―――死ぬよ――、―――だろ! 」
雨音で聞きとれないが、男女で何か揉めているようだ。
少し待っていると、話がついたのか村の方へと歩いていった。別に隠れているつもりはなかったが、雨の中を黒い外套のフードまで被っていたので、向こうは俺に気がつかなかったようだ。
二人が過ぎ去ってから気をとりなおして迷宮へと入る。外は雨で夜中でも、コクモノ平原はいつも通りだ。外套を脱ぎ、マップを確認する。気配察知スキルのおかげで、周りの気配に集中しなくても、マップには魔物を示す赤い点が表示される。
スモールボアの分析を終えるために、狙っていく。
マップを頼りに進み、すぐに一体目との戦闘となる。
まずは、スモールボアの突進と追撃を躱し、一撃を加える。
スモールボアに5のダメージを与えた。
すぐにその場から跳び、スモールボアの反撃を避け、着地すると同時に、攻撃を避けられ無防備なスモールボアの横腹に蹴りを放つ。
スモールボアに1のダメージを与えた。
一方的に攻撃を受け、怒りをぶつけるかのように突進してくるスモールボアをひらりと躱し、再度一撃を加える。その後三回程攻撃を加え、スモールボアを倒した。
レベルが上がったことで、一回の攻撃で与えられるダメージが5になっていた。蹴りでも少ないが、ダメージを与えられるようだ。他にも数字では確認できないが、戦闘中の反応もほんの少しよくなった気がする。
それからは、スモールボアとの戦闘を繰り返していく。気配察知スキルにより、マップによる索敵範囲が広がったことと、レベルアップの効果で少し戦闘時間が短くなったことで、予想していたよりも早くスモールボアの分析を終えることができた。
後は、解体用の二体を倒して終わりにしようかと思いながらマップを確認して、ちょうど二層への入り口が近いことに気がついた。
しばらく考え、マップで確認しながら進むようにして、分析を終えた二種類の魔物が相手なら死ぬような目にはあわないだろうと思い、二層の様子を見にいくことにした。どんな所か見るだけで、戦闘するつもりはないし、予想より魔物の数が多ければ、すぐに一層へと戻ればいい。理由は分からないが、魔物が階層を越えて追ってくることは、滅多にないらしい。
二層への入り口は、盛り上がった地面に穴があいているような形で、その中は緩やかな下りになっていた。明かりはないが少し進むと、先の方に出口からの光が見え、それを頼りにそのまま進む。
二層への入り口から外を覗く。景色は一層と変わらない。
初めて迷宮に入ったときのように、緊張しながら二層へと入る。周囲を確認した後、マップを確認する。赤い点が十個以上表示される。種類はスモールボアとシードで間違いないが、一体一体の距離が近い所が多く、一体と戦闘していると他の魔物もよってきそうだ。
マップをよく確認しながら少しだけ進んでみることにした。魔物に気がつかれない距離を保ちながら、魔物と魔物の間を縫うように進んでいく。
少し進むと、マップに二体の赤い点に挟まれたグレーの点が表示される。俺は驚きつつも、その方向を見る。
そこには、血で真っ赤に染まった腕を抑えた獣人の少女が、二体のスモールボアに囲まれていた。
その光景を見た瞬間、俺は走りだしていた。