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迷宮の分析者  作者: 店長
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第14話 魔物の分析

 シードの分析が終了?

 突然のログに驚きつつ、何か変化が起きているのか確認するが、マップには何の変化もない。


 普通に考えればシードとの戦闘に関わることか?

 確認したいが、今周囲にシードはいない。それに、そろそろ他の探索者が来る頃だ。


 俺はシードとの戦闘で確かめたいのを抑え、迷宮を後にした。


 迷宮を出て、テートさんの店へ向かう。店へつくと、いつもの倍近い人で、食堂は満席だった。

 格好からすると探索者のようだ。


 テートさんが俺に気づき声をかけてくる。

「すまない、ソウ君。今日は突然の満席でね。」テートさんは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえ、肉だけ奥に置いておきますね。」

 ここの所、毎日ここで食事をしていたので、テートさん達とは随分親しくなった。忙しそうなので、食堂の奥の厨房へと肉を運んでおく。


 厨房にはテートさんの奥さんのファムさんがいた。ファムさんはテートさんより少し年下の三十代半ばくらいの少しおっとりした感じの女性だ。

 テートさん夫妻は二人で調理も配膳もこなしている。

「あらソウ君、わざわざ運んでくれたの? 」

「いえ、忙しそうですから。ここに置いておけばいいですか? 」

「うん、ありがとう。いくつかのパーティーで迷宮に挑戦するらしいわ。」ファムさんは食堂の方に顔を向け、説明してくれた。

 おっとりとした口調とは裏腹に、手はてきぱきと料理を盛りつけていく。

「そんなこともあるんですね。」俺はちらりと食堂を見る。パーティーごとにテーブルについているようだ。うまく連携がとれれば、人数が多いほど安全に迷宮を攻略することができるだろう。

「うーん、成果も分けるわけだから村ではあまり見ないかな? 今回は主に挑むらしいよ。」

「なるほど、それで大人数なんですね。」


 迷宮には主と言われる、他の魔物よりかなり強い特殊な魔物が存在する。いわゆるボスだ。大体、その迷宮の最奥にいて、これを倒すとその迷宮を制覇したことになるらしい。


 忙しい中、いつまでも話すのも悪いのでテートさんの所を出る。幸い、今日は迷宮でスモールボアを食べたので空腹という程でもない。そのままロジーナさんの所に向かい、シードの種を買いとってもらう。日に日に多くなるシードの種にロジーナさんは驚いていた。


 素材の売却を終え、家へと向かう。少し確かめたいことがあった。


 家について、背負い袋からパンパンになった巾着袋を取り出す。たまった魔石を入れるのに買ったものだ。初めて魔物を倒したとき、ギルドで売るのを忘れて、それからため続けてしまっている。


 魔石を全て出す。全部で三十九個。解体したスモールボアが九体だから、シードを三十体倒したことになる。

 三十体で分析終了か? その効果もまだ分からないが。


 それからしばらく休んでギルドに向かう。

 今日は農家の手伝いの仕事があったので、それを受けることにした。


 農業をしている人は、迷宮の入り口を過ぎたあたりに畑を持っている。依頼人の畑へと向かう。

 そういえば、迷宮より先に行くのは初めてだ。


 大通りを抜け、迷宮の入り口を越えた所まで行って驚いた。前世の大農場のような畑が広がっている。ここまで大きいとは思ってなかった。


 この世界の暦は七日で一週間、四週二十八日で一ヶ月、十二ヶ月三百三十六日で一年と前世と似ている。おそらく、この国をつくったという転生者の影響だろう。また、その変化は穏やかだが一応四季もある。


 今は六の月、三の週の五日、これから夏を迎える時季らしい。


 畑には、これから収穫の小麦のようなものが生えそろっており、その隣の区画では葉野菜やピーマンのような前世にもあった野菜と似たような野菜が育てられている。


 畑と畑の間には家と言うには、少し小さい小屋のようなものが並んでいる。ギルドで教えられた区画の畑を探して歩いていく。


 すでに昼の休憩を終えて、午後の作業を始めた農家の人がいたので目的の場所を聞いて進んでいると、犬のような耳としっぽをつけた二人の少女が畑で働いていた。初めて迷宮に入ったときに見かけた二人だろうか?


 この世界で数日暮らして分かったのだが、ここには獣人と呼ばれる身体に耳や尾、鱗といった動物のパーツの一部をつけた人達がいる。 ただ、数が非常に少ないのか、村では滅多に見かけることはない。


 薄い紫色の髪をした二人の獣人の少女達は、姉妹なのかよく似た顔立ちをしており、一人は同い年くらいで、もう一人はまだ七、八歳といったところだが、二人とも美人だった。初めて迷宮に入ったときに見かけた二人だろうか?


 彼女らを見ながら目的の畑へとついた。畑のそばの小屋の扉はあいており、俺は中へと声をかける。「すいません、トマスさんの畑はここでいいですか? 」


 出てきたのは白髪に短い白い髭を生やした小柄な老人だった。老人は少し曲がった背筋ながらも、その足どりはしっかりしており、またまだ現役といった感じだ。

「トマスは私だが、君は? 」

「ギルドで仕事を受けて来ました。ソウと言います。よろしくお願いします。」と依頼書を見せる。

「ああ、君が。じゃあ、少し早いが始めようか。君は私が収穫した野菜をここまで運んでもらいたい。」

「分かりました。」とトマスさんの畑を見ると、バスケットボールのコート二面分くらいあり、葉野菜、ピーマン、バナナ、桃のようなものが育てられていた。


 木でできた小型の荷車のようなものを押しながらトマスさんの後をついてまわる。トマスさんは、収穫しながらそれぞれの名前を教えてくれた。

 驚いたことに、ピマンやピチの実など、ほとんどの野菜は前世と同じだった。トマスさんいわく、現在農家で育てられているもののほとんどが、元々は迷宮で採れたものを長い時間をかけて、品種改良してつくられたもので、最初に迷宮から採ってきたのが、この国をつくった転生者、つまり俺達と同じ地球からの転生者だったらしい。


 それから三時間ほどかけて、収穫と作物の手入れをしてまわった。各小屋から村へは、それを運搬する仕事をしている人達がおり、彼らに任せるらしい。


 トマスさんももう村へ戻るとのことだったので、一緒に戻ることにした。帰りに畑を見渡したが、獣人の少女達はいなかった。彼女らも仕事を終えたのだろう。


「どうかしたかね? 」畑を見渡している俺を不思議に思ったのかトマスさんが聞いてきた。

「あっ、いえ、すごい広さだなと思って。村では農業にたずさわる人が多いんですね。」俺はごまかしながら答える。

「いや、この畑は村のものだけではないんじゃ。市民街や貴族の畑もある。」

「えっ、どうやってここまで来るんですか? 」

「彼らは転移陣を設けて自分達の畑へと来る。特に大きな畑は彼らのものがほとんどじゃ。」

「転移陣? そんな技術があるんですね。」転生した神殿からここまでくるときに通った門のようなものか?

「転移陣は一般に出回っているものではない。その素材は希少で、つくれるものも僅からしい。使えるのは、有力な貴族くくらいじゃ。市民街のものたちは共有で使っているらしい。」

 確かにそんな技術が普及しているならもっと見かけていいはずだ。


 村へつくと、トマスさんが食事に誘ってくれたので、トマスさんの家で御馳走になった。トマスさんの奥さんのヘレナさんが腕によりをかけて、つくってくれた沢山の野菜をつかった料理はとても美味しく、食後には果物まで出してくれた。ピチの実、前世の桃だが、久しぶりに食べた甘味に二個も頂いてしまった。俺は後で知ったのだが、探索者が多く、迷宮からの供給が多いスモールボアやホーンラビットのような安い肉に比べると、農家がその供給のほとんどをまかなっている野菜や果物はそれなりに高い。


 ヘレナさんは普段は畑を手伝っているのだが、腰を痛めて、今日は休んだらしい。そんな身体で料理をして大丈夫なのか聞くと、それくらいなら全く問題ないと俺を見るなり、すぐに料理をつくってくれた。


 この世界の気候や天候についてや、農家は村エリアの中では収入がかなりよい方なのだが、毎日の作業より一攫千金を夢見て若者は探索者になることが多いことなど、食事の間、トマスさん達から色々な話を聞けた。


 トマスさんの家には風呂もあり、入らせてもらった。帰り際には、今日は泊まっていけと、ヘレナさんは何度も言ってくれたが、至れり尽くせりで申し訳ないし、迷宮のことがあるので、また来ることを告げ断った。


 家を出るときに、トマスさん達には探索者に憧れ、迷宮で命を落とした息子がいたと、トマスさんがこっそり教えてくれた。そして、ヘレナさんには息子と俺が重なって見えたのだろうと、申し訳なさそうに言われた。


「……必ずまた遊びに来ます。」俺はそう告げて、家に向かった。


 洗濯や剣の手入れをし、いつも通り眠ろうとするが、トマスさんの言葉を思い出す。


 順調に魔物と戦えるようになってきて、迷宮で収入を得られるようになっているが、迷宮は危険な場所で、探索者は死と隣り合わせの職業なのだ。


 ……油断することなく、慎重に行動することを改めて決意し、俺は眠りについた。


 三時間程眠り、迷宮へと向かう。


 今日は、『シードの分析』の結果を確認する。迷宮へ入り、いつものように周りを見渡した後で、目を閉じ周囲の気配に集中する。目をあけ、マップを確認すると、マップ上に三体の魔物を示す赤い点が表示される。


 その内のシードのところに向かう。シードを見ると、シードの身体? にこれまではなかった直径十センチくらいの赤い丸が見える。分析の結果か? これはひょっとして……。


 近づき、シードもこちらを認識し向かってくる。シードの行動はいつも通りなのだが、俺は驚愕していた。


 シードの行動が分かるのだ。攻撃してくるタイミングや方向、攻撃後に落ちる距離など、シードがこれからする行動が予測できるのではなく、はっきりと『分かる』のだ。


 俺は驚きのあまり、一瞬硬直していたが、それでも跳んでくるシードを僅かに身体を反らすだけで、余裕で躱すことができる。


 攻撃を躱され、落下するシードとの距離をつめ、剣を振り下ろす。



 シードに2のダメージを与えた。



 ログを見て、自分の仮説が間違ってなかったことを確認する。攻撃のときに狙ったのは、シードの身体に表示されていた赤い丸の部分だ。あれは、魔物の急所というか、ウイークポイントを示すのだろう。


 これまでのシードとの戦いでも一度だけ、カウンター以外で『2』のダメージを与えたことがあった。他のシードの同じ場所を攻撃してみても『2』のダメージを与えることはできなかったので、そのときは偶然だと思ったが、シードは個体によってウイークポイントが違う魔物なのだろう。そして、シードの分析が終了したことによって、俺にはそれが分かるようになったということみたいだ。


 その後は、カウンターでウイークポイントを攻撃して、『4』のダメージを与えたりしながらシードを倒した。


 初めは『分析士』という職業は、装備可能武器がなく、迷宮には向かない職業なのかとも思った。が、そもそも迷宮でしか分析スキルは働いていないし、マッピングもそうだが、迷宮探索に特化した職業のようだ。


 シードとの戦闘を終え少し考える。


 これまでは、シードを優先し、スモールボアは解体できる分だけ倒してきたが、これからはスモールボアを中心に倒していくことにした。魔物の分析の効果を考えると、早い内にスモールボアの分析を終えた方がより安全に探索することができる。


 マップで、スモールボアを探し倒していく。肉を放置することに罪悪感を感じ、偽善だと分かっていても、合掌し、魔石だけを回収して次へ向かう。


 九体倒した内の二体だけを解体し、そろそろ戻ろうかと入り口へと向かう途中、スモールボアを見つけた。最後の一体と決め、倒すことにする。スモールボアのHPバーが0になったことを確認したとき、身体の奥が熱くなるような感覚に襲われる。痛みなどはないが、妙な感覚に戸惑っていると、ログが表示される。



 分析士がLv2になりました。






ブックマーク、評価ありがとうございます。少しでも読んでくださっていることが実感できて、大変励みとなります。


これからもよろしくお願いします。

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