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言霊使いと秘石の巫女  作者: Curono
3章 光の神の森

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休息の宿

「素敵な町でしたね。またあの町に寄りたいなぁ」

 軍の小型機で、次の町まで運んでもらった私たちは、昼食をとるべく町の中を散策していた。その途中、私の隣を歩いていた少女が唐突にそんなことを呟く。

「リタもあの町が気に入った?」

 少女を見下ろしながら私が言うと、黒髪の少女、リタは私を見上げて微笑んだ。

「はい! みんな良い人たちばかりで……。大変なこともあったけど、でもよかったです。あの町に寄れて……。仲良くなった人もたくさん出来ましたし!」

「へぇ、誰と仲良くなったの?」

 少女の言葉に思わず聞き返すと、嬉しそうな声が返ってくる。

「ガトンナフさんもそうだし、食事係の人とか救護隊の人とか、それにロガッフさんも、ミローナさんも!」

「ミローナさんも? ……そうか……」

 予想外な人物の名前が出て、思わず私は言葉が漏れる。一体何処で仲良くなったのか見当がつかなくて一瞬考え込む。そんな私を下から覗き込んで、リタが笑う。

「えへへ、結構いろいろお話しちゃいました」

「ああ、話したといえば……。リタ、結局ロガッフくんといつも何の話をしていたの?」

 ずっとかわされて答えてもらえなかった質問を、もう一度投げかけてみる。でも今度はかわされても気にしない程度の好奇心だった。今となってはそこまで感心がないことは、自分でも不思議だったが。

 少女は目を丸くして、ああ、と声を漏らす。

「ロガッフさんとは、いろいろお話したんですよね……。何を話したかなぁ……。でも、一番多かったのはクーフさんのお話です」

「私の?」

 立て続けてきた予想外な言葉に、今度は私が目を丸くする番だった。そんな私を見て、リタが笑みをこぼした。

「ロガッフさん、クーフさんの話になると止まらなくて……。それで二人してクーフさんの話ばっかりしてました」

 そう言ってリタは目線を外してうつむく。耳を奪う柔らかな心音が響いた。

「昔のクーフさんの話とか聞けて、結構……嬉しかったですよ」

 見れば少女の頬がまた少し赤くなっている。私は思わず頬をかく。

「……私の話で面白い話なんてあったかなぁ……」

 心あたるものがなくて思わず呟く。あるとしたら、それこそガトンナフさんにからかわれるネタくらいしか思い浮かばないのだが。

「ああ、それと……」

と、そこで少女は目線を上げ、きょろきょろと周りの様子を伺う。ダジトとスランシャが前方で店を覗いていることを確認して、リタが私の腕の裾を引いて背伸びをする。その様子から耳を寄せてほしいことを察した私は、腰をかがめて、少女に頭を寄せる。

「実は、スランシャさんの話も、ちょっとしてました」

「スランシャの……?」

 彼女の小声につられて、私も小声で返す。リタは頷いた。

「ロガッフさん、実はスランシャさんのこと……」

「なあ二人とも、ここにしようぜ……って、何してんの?」

 唐突に後ろを向いた金髪の少年、ダジトが、コソコソ話をしている私たちに気がついて、怪訝そうに眉を寄せる。その反応にリタが慌てて首をふる。

「な、なんでもないですよっ」

「ふぅん……ま、別にいいけどさ。じゃ、ここで飯な」

 そういって少年がまた背を向けると、私とリタも目線を合わせて、彼に続いた。

 リタはもちろん気付くはずないのだが、私は内心疑問だった。ダジトの心音がずっと不安定に揺れ続けているように聞こえるのだ。店に入りながら、私は静かに心の聞き耳を立てていた。

 ダジトの選んだ店で食事を取りながら、次の目的地のことについて話を始めた。

「次の目的地の……場所は何て言ったっけ?」

「確か、ジフーラ地方でしたわね」

 ダジトの問いかけに、隣に腰掛けたスランシャが答える。

「この地方はほとんどが未開の土地なの。森がとても豊かで、精霊の棲みかになっていると聞きますわ。ただ問題は……そこまでの距離が結構あることですわね」

「遠いんですか? どのくらい……?」

 スランシャの言葉にリタが私を見上げる。私は地図をテーブルに広げて、皆が見れるようにする。私は現在位置と目的地を指差して答えた。

「今いる位置がこのあたりなんだけど……肝心のジフーラ地方はここ。見て分かるとおり、距離がある。町々を渡り歩いて、十日以上は見たほうがいいだろうね」

「十日ですか……」

 私の言葉に、恐らく旅の資金を気にしているのだろう。リタの声色が沈む。

「途中で資金も集めて行こう。ではまずはこの町の隣町まで行って、宿を探そうか」

 私の提案に三人は頷いた。珍しくダジトは静かで、それ以上口を挟むことはなかった。


 その日の夜、久しぶりに二部屋取って、リタとスランシャ、私とダジトで部屋を同じにした。久しぶりの男女別部屋に、リタもスランシャも嬉しそうだった。

 私はダジトと相部屋になることで、彼の様子を伺うつもりでいた。しかし、その日のダジトは町に買い物に行くといって、部屋になかなか戻ってこなかった。

 一人部屋で彼を待っていると、扉が開いた。入ってきたのはリタだ。

「どうしたの、リタ?」

 少女がそっと入ってきた様子に気がついて、私は読みかけの本を閉じて声をかけた。リタは私を見て微笑んだ。

「ううん、大した用事じゃないんですけど、クーフさん何してるのかなって」

 そういって私の傍まで歩み寄って、彼女もダジトがいないことに気がついたようだった。空のベッドを見て、部屋中に視線を送る。

「あれ? ダジトさんは?」

「珍しく買い物、だって」

 ため息交じりに答えると、リタもへぇ、と目を丸くした。

「いっつも金欠で困ってるダジトさんが……珍しいですね。でも一人で大丈夫なんですか?」

「多分ね。光の石を持たない私たちを、アニムスたちが襲う理由はないからね」

 リタの質問に軽く微笑んで返すと、リタはほっと肩をなでおろした。

「じゃあ、これから相部屋にしなくても大丈夫ですね」

「はは、安心した?」

「え、い……ま、まぁ……」

 何故か私の返しにリタは返答に困る。

「ところで、ダジト……何かあったかな……」

 私は思い切ってリタに話題を振ってみる。急に話題が変わって、少女はきょとんとしていた。

「ダジトさんに……ですか? ……いえ……何もないと思いますけど……」

 一生懸命考えながら少女が出した答えに、私は軽くため息を吐く。

「そうだよな……」

「気にしているといえば、きっと光の石のことですよね……。スランシャさんの石、奪われちゃったから……」

「そうだね……。石を持って一緒に旅に出よう、と言い出したのはダジトだから、多少なり責任は感じているのかもしれないけど……。でもあれは私の責任だからな……」

 その件に関しては、彼一人の責任ではない。アニムスたちに隙をつかれた原因は私にもある。アニムスたちが襲撃してきたあの時、基地に私が残っていれば、こんなことにはならなかったはずなのだから――

「クーフさんのせいじゃないです! も、もちろん、ダジトさんのせいでもないけど……」

 私の言葉に、急にリタが声を強めた。思わず目線を向けると、少女は真剣な表情で私を見つめていた。

「あれは、ホントに……どうしようもなかったんです……。私、あの後考えたんですけど、きっと、ダジトさんが部屋にいたとしても、結局は基地の隊員の方をつかって、あの二人は攻撃して来たはずです。三人がかりでもきっとあの二人を追い出すことは出来なかっただろうから……」

 私は少女から目線を外し、小さく呟いた。

「……あの時、私が基地に残ればよかったんだよ。そうすれば、あいつらは襲ってこなかったはずだから」

「そんなこと……だって、あの時ガトンナフさんと一緒に行くしか……なかったじゃないですか……」

 少女の言葉に私は沈黙していた。他にも手段はあったはずだ。それこそ、ガトンナフさんの言うように、リタと彼で行くことも出来た。ただ、それを拒んだのは私自身だ。

 とはいえ――あの時の背後にある気持ちを、今言うわけにもいかず、私はため息をつくしかなかった。

「クーフさん……」

 目線を上げると、少女と目が合った。じっと見つめる藍色の瞳は、どこか悲しげな色を帯びて、美しく輝いていた。

「あんまり……一人で抱え込まないでください。光の石のことは、私たち守護役の問題じゃないですか。クーフさんは寧ろ、困っている私たちを助けてくれてるんですよ。――感謝してます」

 その言葉に、私もリタと同じような瞳で笑っていたに違いない。

「でも、改めてごめんなさい。なんだか光の石のことって、私の問題だったのに、クーフさんが手伝ってくれるって……その言葉に甘えっぱなしだったから……」

 リタはそういって、私の腰掛けるベッドにそっとその腰を落とす。私は隣に並んだ少女に首をかしげて見せた。

「……正直……石探し手伝うの……クーフさん、大変じゃないですか……?」

 そう尋ねる少女の瞳は、どこか不安げに見えた。

 私は息を吸い、少女から目線を外した。私は心に深く響く声を思い出す。

 この旅は自分にとって、ただの偶然とは思えなかった。術の持つ力に導かれるように、北方大陸に足を向けて、その直後起こった事件だったのだから。

「大変ではないよ。逆に……リタ、私が旅の手伝いをするのは、迷惑ではなかったかい?」

 私の問いに、少女は瞳を大きくし慌てて首をふる。

「なっ……何言ってるんですか……! 迷惑なわけ……ないじゃないですか! ……ありがたいだけです……」

 言いながら、何故か語尾が小さくなり、頬を赤らめる少女に私は思わず口元が緩む。

「それならよかった」

 私の返しに、リタは上目遣いで私を見、顔色を伺っているように見えた。まだ疑問が出てきそうな少女の表情が面白くて、私は彼女の目線を受けて思わず見つめ返す。

 どうもじっと見つめられるのは苦手と見え、少女の心音が波打ってきた。それを感じ取って、思わず私は笑ってしまった。無言で頬を赤らめる少女を確認して、私は目線を外すが、まだその笑いが治まらないでいた。

「……クーフさんて……謎が多い人ですよね」

 そんな私に、唐突に少女が声をもらす。思わずまた目線を戻すと、リタはじっと私を見つめていた。

「……どうして……私たちを助けてくれるのかとか……ズスタの軍でも、急に現れて危機を救ってくれたヒーローだったって聞いたし……クーフさんの術のことも……」

 静かな少女の声を私は複雑な気持ちで聞いていた。少女はまだ私を見つめていた。

「私…………クーフさんのこと、もっと……」

 言いかけて、リタははっと息を飲む。急に目線を外してベッドから飛び降りた。

「あっ……も、もうそろそろ部屋に戻ります! ク、クーフさんおやすみなさい!」

 言いながらリタはそそくさと扉に駆け寄り、ばたん、と音を立てて扉を閉めた。私はそれを呆然と見つめていた。

「……何を言いかけていたのやら……」

 一つため息をついて扉を見つめていると、あとは沈黙だけが流れていた。






*****

 長い廊下にカツコツと靴音が響いていた。白い金属で出来た床に、黒い影を落としながら歩くのは幼い少年だった。黒髪を逆立たせ、黒い光沢のある服を身にまとう小さな背丈、しかしそれに不釣合いなほど威圧的な鋭い瞳が、目の前にはない何かを睨んでいるように見えた。

 不意に少年が足を止めた。その直後、少年の背後の空間が揺らめいた。空気がまるで水面のように揺れると、そこから姿を現したのは一人の男だった。黒い服を身にまとい、浅黒い肌をした銀髪の男……アニムスだった。

「シャドウ様、報告に参りました」

 男の声に、名を呼ばれた少年は振り向きもせず無言でいた。

「シャドウ様のおっしゃっていた地点に、光の石を発見いたしました。ただ、あの石の周りには強力な結界があり、どうも我々には入手困難のようです」

 その言葉に少年が始めて振り向いた。

「お前でも入れない、と……?」

 静かに発するその声は、幼い少年にしては重い響きがあった。その声にアニムスは静かに頭を下げる。

「はい……風の精霊が神殿を守っています。精霊は最悪ワタシの術でも追い払えますが、しかし肝心なのはその先……。神殿の奥に、どうも光の結界があるようです」

「光の結界……」

 その言葉に、少年の目が細くなった。アニムスは軽く目線を上げて言葉を続ける。

「恐らく……光の属性であれば、入り込むのは容易かと……」

「なるほど……。考えておく」

「恐れ入ります。ワタシどもの力では太刀打ちできず、申し訳ございません」

 銀髪の男の言葉に、意味深な返しをして少年はまた向きを戻す。また歩みだそうとして、ふと足を止めて背後の男に声をかける。

「……アニムス、もう一つの石のありそうな場所を探せ。闇の属性を持つ光の石だ」

「は、仰せのままに」

 少年の言葉に、アニムスは静かに頭をたれて頷くと静かに立ち上がり、先を歩く少年を恭しく眺めた。そしてその少年の向かう先を察して、思わず声を発する。

「シャドウ様、本日も……あちらへ?」

 少年はその言葉に立ち止まる。しばしの沈黙を挟んで、少年は静かに息を吸った。

「……現状を報告するだけだ。新たな仕事が入ったらまた連絡する」

 そう言って廊下にまた足音を響かせる少年を、アニムスは複雑な表情で見つめていた。

「……シャドウ様……」

 思わず口から漏れる言葉は、沈黙した廊下に吸い込まれるように消えていった。

*****



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