プロローグ 古の秘石を求めて
「それでは、スランシャ様、お気をつけて!」
「な、なにかありましたら、いつでもこのじいをお呼びくだされ! お嬢様の身に何かあったら……じいは……じいは……っ」
そういって、真っ白い毛の白熊のご老人は水色の少女の手をとって、今にも泣き出しそうに震える。その様子に金髪の少年が苦笑して、ご老人の肩を豪快に叩いて笑う。
「だーいじょぶだって、じっちゃん! オレも一緒にいるんだぜ? 心配ないっての!」
「ううう、ダジト様……。スランシャ様をよろしくお願いいたしますぞ!」
そういって、今度は金髪の少年、ダジトにしがみついて泣き出す。そんなご老人の様子に、水色の少女、スランシャは思わずため息をこぼす。
「もうあたくしだって子供じゃないのよ。まったく、みんな……困るわ……」
少々恥ずかしそうにそういう少女に、黒髪の少女が屈託のない笑顔を向けて言う。
「いいじゃないですか、みんないい人達ばっかりで……。みんなスランシャさんのこと好きなんですね」
そんなやり取りをして、ようやく私たちを乗せた馬車が進みだした。
スランシャをアニマの術から解放した数日後、私たちは次の目的地を北方大陸の中央都市に決めていた。光の石がそこにあるという、スランシャの母親の言葉を頼りに進む形だ。光の石を、あの謎の男女、アニムスとアニマが狙っていることは疑う余地がない。ともなれば、光の石のある場所に、必ず彼らは現れる、もしくは現れた手がかりがあると踏んだわけだ。
中央都市にむけて出発することに、大きな問題はなかった。ただ一人、スランシャを除いては――
「あたくし……旅の手伝いはしたいわ。皆さんにもダジトにも借りはあるし……。でも、この光の石を守ることもまたあたくしの勤め……」
そういって、スランシャは旅の同行を迷っていた。しかし、ここで彼女一人に守らせては、またあの二人にいつ狙われるとも分からない。かといってここで私たちまで留まるわけにもいかない。そこでダジトはあっさりとこう提案した。
「じゃあさ、スランシャはその石もって一緒に来ればいいじゃん。その石をこの四人で守れば、さすがに問題ないんじゃないか?」
石を持ち出すというなかなか大胆な案を、なんの躊躇いもなしに提案したことに、スランシャをはじめ、屋敷の全員度肝を抜かれたことだろう。しかし屋敷の人間からも信頼のあるダジトからの強い提案ということもあって、結局はそれに屋敷の人全員が折れる形で、スランシャも石を持ったまま同行する流れとなったわけだ。
「いやあ、それにしたって豪華な馬車だよな。こんなのに乗って旅ができたらどれだけ楽か……」
広い馬車の椅子に寄りかかり、金髪の少年、光の炎の石の守護役であるダジトは笑う。そんな発言をする彼の隣で、水色の肌をした青い髪少女、光の水の石の守護役であるスランシャは眉をしかめて口を挟んだ。
「駄目よ、馬車の従者は魔法も何も使えないのよ。巻き込めないわ」
「でも、山を降りるところまで乗せて行ってくれるだけで大助かりですよ! スランシャさん、あとで屋敷の皆さんにお礼言わせてくださいね!」
そういってスランシャの前に座って笑うのは、光の石の守護役である黒髪の少女、リタだ。リタはそこまで言って、隣に座っている私の方を向いて首をかしげる。
「でも、山を降りたって、すぐには中央都市ってところには行けないですよね?」
少女の問いに、私はゆっくり頷いた。
「そうだね、まず山を降りて、山脈沿いの町々をつたっていくようだろうね。そもそも中央都市というのは、北方大陸の首都があるあたりの呼び名だ。町の数だけでもそれなりにある。その数ある町の、どこに光の石があるのかはまでは分からないからね」
私の説明に、目の前の金髪の少年が口笛を鳴らす。
「さすがクーフさん、詳しいな!」
「光の石に対して、探索の魔法が使えれば楽なんでしょうけどね……。あたくしが持つ石とはまた属性が違うから、探し方が難しいわ」
そういってスランシャが肩を落とす。
「大丈夫ですよ! ヒントが得られただけでも違いますもの! 中央都市についたら、みんなで手分けして探すようですね!」
そんなスランシャを励ますように、リタが元気に微笑む。その言葉に、スランシャも、ダジトも私も頷いた。
「すぐに見つかってくれるといいね」
私はそういって隣の少女に微笑んだ。




