表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言霊使いと秘石の巫女  作者: Curono
1章 盗まれた古の秘石

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/131

次の目的地

 スランシャさんを助けた私たちは、事情を知った屋敷の人達からものすごく感謝されてしまった。特にダジトさんは、昔からスランシャさんの友達というだけあって、余計に感謝の気持ちが強かったのだろう。何も言っていないのに、勝手に屋敷に泊まる運びとなり、豪華な食事にすごい寝室まで個別で準備されて、正直私には生活レベルが違いすぎて、かなりびっくりしてしまった。


 そんなドタバタがあったものの、スランシャさんとまともに話が出来るようになったのは翌日のことだった。思ったよりも回復が早くて、私はホッとしていた。




 豪華なお屋敷の客間で、私とクーフさんはダジトさんが来るのを待っていた。まずはダジトさんから話をつけてくる、ということで、彼が話し終わるのを待っていたわけだ。クーフさんと二人きりになるのは久しぶりで、ちょっとだけドキドキしてしまう。

 私は落ち着いたそぶりでお茶を飲んでいると、クーフさんが何気なく声をかけてくる。

「それにしても、今回の作戦は無事に進んでよかったね。リタとダジトも怪我がなくてよかったよ」

 そういって微笑むクーフさんを見て、私も嬉しくて微笑み返す……が、一つだけ胸に引っかかっているものがあった。思わずうつむいて、興奮を抑えながら質問してみる。

「そういえば、クーフさん……。あの、スランシャさんに取り付いてたあの……アニマ、でしたっけ? あの人にあんなに甘えられて……ド、ドキドキしなかったんですか?」

 私の問いに、クーフさんは、ああ、とそっけない態度で返事をする。

「確かにスランシャさんはきれいだけど……放つ音で分かるよ。明らかに混沌とした音をしていたからね」

 その言葉に思わず私は首をかしげる。

「混沌とした音……?」

 私の問いに、クーフさんは軽く微笑む。

「スランシャさん本人の音でないのは、私ならすぐ分かる。まして、一度アニマの音は把握しているからね。直接本人に会えば、すぐに正体がばれるものだよ。正体さえ分かってしまえば、いくら誘惑しようと術を使っても、無駄だからね」

 な、なんて大人の余裕……。

 ちっとも動じずに微笑むクーフさんに、思わず私は感心してしまう。私は納得がいったように頷いて言葉を続ける。

「そっか……。あのアニマは、クーフさんを誘惑の術にかけようとしてたんですね……」

 言っていて正直心は穏やかじゃない。クーフさんにそんな術かけようだなんて……ちょっと我慢できない……。かからなかったからよかったけど……。

「そうだね、どうやら私にあの神殿の結界を破壊してほしかったようだね……。誘惑の術は音で分かる。裏に不協和音がするから、聞いていて心地がよくないからね……」

「ふうん……」

 クーフさんがそういってうつむく様子に私は思わず考え込む。

 人の感情や力を音で感じるって、どういう感じなんだろう……。確かに聞こえたら便利かもしれないけれど、聞きたくない音を聞く事だってあるだろう。そんなとき、クーフさんはどんな顔をしているんだろう? いつも優しいクーフさんだから、逆に音が聞こえることが、辛い事だってあるんじゃないだろうか……。

 そう思うと、なんだかさびしい気持ちになった。

 ふと顔を上げると、目の前にクーフさんの顔があった。あまりに距離が近かったので、思わず私は跳び上がる。その様子にクーフさんがくすくす笑った。

「な、な、ど、どうしたんですか、急に……」

 私が心臓のドキドキを押さえながらそれだけ言うと、クーフさんは頭の位置をそのままに優しく微笑んだ。

「なんだかリタの心音が優しい音だったから、つい」

 そういってクーフさんが自分の座っていた位置に姿勢を正す。その優しい表情に私はまた頬を赤らめる。

 ――あ……そういえば……

「そういえば……クーフさん」

 呼びかければ、笑いを治めたクーフさんが、優しい笑顔で首を傾げる。

「私の心音って、クーフさんにはどう聞こえているんですか?」

 単純にちょっと気になって私は問いかけた。私の音って、どんな音なんだろう? 自分では聞けないだけに気になるな……。

 すると予想外に、クーフさんが動揺したように見えた。

「えっ……うーん……」

 そういって急に黙り込まれて、私は瞬きする。

 ――あれ? なんだかクーフさん、ちょっと……慌てている?

 逆に私がクーフさんの顔を覗き込もうとすると、クーフさんはちらと顔をそむけてしまう。その向きでは私からは表情が見えない。

「え、どうしてクーフさん、そっぽむくんですか?」

「いや、別にそういうわけではないよ」

「えー……そうかなぁ……」

 そういって私がさらに質問を続けようとしたその時、扉をコンコンと叩く音がして、執事のおじいさんが入ってきた。

「スランシャ様とダジト様がお呼びです。どうぞこちらへ」

「さ、リタ、行こうか」

 助け舟とばかりに、クーフさんが席を立つのを見て、私も慌てて席を立つ。

「え、クーフさん、質問に答えてないです~」

 私はクーフさんの背中を追うようにして客間を出て行った。


 案内されたのは、スランシャさんの寝室のようだった。執事のおじいさんがノックをすると、なぜかダジトさんが入っていいよう答える。きれいな装飾に飾られた白い扉を開けると、部屋の雰囲気が今までの屋敷の様子とは微妙に異なっていた。淡い黄色の壁紙に、白を基調とした家具、部屋の中心の置かれたベッドは柔らかなオレンジ色をしていた。柔らかな色合いは、なんだか女性らしいな、と思った。そのベッドに水色の女性が上半身を起こしてもたれかかっていた。スランシャさんだ。その隣には金髪の少年、ダジトさんが椅子に座って私たちを見ていた。

「スランシャ、紹介するぜ。オレの命の恩人でもあり仲間のクーフさんとリタ」

 ダジトさんの紹介に、スランシャさんがすこし頬を膨らませて抗議していた。

「だから、記憶がうっすらとあるから、分かるって言ってるでしょ! 一応アイツの目を通して見てたんだから……」

 そう言うスランシャさんの雰囲気は昨日までのそれとは全く異なっていた。妖艶な笑みとは違って、恥ずかしそうに怒る表情、照れたときの感じなど、なんだかこっちの方がとても魅力的に見えた。

 スランシャさんが小さくダジトさんの腕を叩くと、ダジトさんは痛がりながらも嬉しそうに笑う。

「そうそう、スランシャはそうでないとな」

「何言ってんのよ、もう!」

 きっといつものスランシャさんに戻って、ダジトさんも嬉しいのだろう。見ていて私まで思わず口元がほころんでしまう。

「改めて、はじめまして。クーフです」

「リタです」

 私たちが近づいて頭を下げると、スランシャさんは上品に一礼した。やはりこういうときの動きはお嬢様らしい。

「昨日は本当にありがとうございました……。あなたたちのおかげで、あたくしも無事解放されました。あたくしにとって、皆さん、命の恩人ですわ」

「じゃあ、オレも命の恩人だよな」

と、隣で口を挟むダジトさんに、またもスランシャさんの片手打ちが命中する。いて、と痛がるダジトさんの様子に、私もクーフさんもつい笑ってしまう。

 スランシャさんは軽く息を吸い、伏し目がちになって言葉を続ける。

「特にクーフさん……。あなたには特に詫びねばなりません……。あのアニマに体を奪われていたとはいえ、とんだ失礼を……どうか忘れてください」

 少々頬を赤らめていうスランシャさんに、クーフさんは頬をかきながら弁解する。

「いえいえ、あなたの本心でないのは初めから分かっていましたから。全てはあのアニマの仕業でしょう」

「え、なんかあったんですか?」

 思わず私が口を挟むと、クーフさんが困ったように、まぁ、といい、スランシャさんにいたっては顔を赤らめてそむける。

 えええっ! なんか……すごく心配だし……気になる!

「え、も、もしかして、二人きりのときに……何かあったんですか?」

 思わず不安になって、クーフさんの腕の裾を掴んで言うと、クーフさんは苦笑して、急に私に顔を近づけると、そっと耳打ちする。

「今は聞かないであげて、スランシャさんが嫌がるだろう?」

 そう優しく耳元で囁かれて、私はつい頬が赤くなってしまう。とはいえこの話題は気になる……。私は必死になってクーフさんの肩の裾をつかんで、顔が離れないようにすると、逆に耳打ちする。

「あ、あとで聞かせてくれますか……?」

 その言葉に一瞬、笑ったように聞こえた。私がはっとする間もなく、またその至近距離でクーフさんが囁く。

「わかった、また後で」

 そういってまたその至近距離で微笑むクーフさんを見て、私は顔が熱くなるのが分かる。

 と、そこを邪魔するように、ダジトさんの咳払いが響く。慌てて私はクーフさんから顔を放した。

「で、肝心の話なんだけどよ、続けていいかい?」

 ちょっと不機嫌そうな細目をして、ダジトさんが口を開くと、クーフさんは微笑んで頷く。その様子にちょっと肩を落として、彼は続けた。

「どうやら、スランシャを初めに術にかけたのは、アニマじゃないらしいんだ」

「え? じゃあ誰……?」

 私が問うと、スランシャさんが険しい表情で続けた。

「アニムス……あの、銀髪の男よ……」

「アニムスが……? 一体どうやって? …………まさか」

 スランシャの言葉に、クーフさんが問いかけて、はっと息をのむ。その様子にスランシャさんが静かに頷いた。

「そう、あの男もまた誘惑の術を使うのです。あたくしとしたことが、つい隙をつかれて……」

 その様子に、クーフさんの表情が曇る。

「そうでしたか……。……あ。……………………あの…………無事でしたか?」

 クーフさんの言い回しに、スランシャさんではなく、ダジトさんが慌てて口を開く。

「あああ、クーフさん、それ以上言わないで言わないで! 言いたいこと分かった、うん」

「え、何ですか? 何が分かったんですか?」

 さっぱり分からない私をさておいて、ダジトさんとクーフさんが私を制す。

「いや、リタは気にするな」

「うん、……まあ聞かないで」

「えええ、何? 何で二人ともそんな反応するの?」

 思わずあっけに取られる私のその横で、スランシャさんが恥ずかしげに一つ咳払いをして会話を止める。

「その……余計な誤解のないように言わせていただきますけど……ホントに何もなかったですから、ご安心を」

と、そこまで言って、またダジトさんの腕を叩く。しかも今度は勢いがある。

「いってぇ! 本気で叩くなよ!」

「ダジトがヘンな言い方するからでしょっ! ……さっきから何回もあなたには説明したじゃない! ……ホントに何もなかったの! 危うく唇を奪われそうになっただけで……ギリギリ大丈夫だったの! 余計な誤解を招かないでよっ!!」

 顔を真っ赤にして怒るスランシャさんはなかなかかわいらしい。その様子に私は笑うが、クーフさんはちょっと安心したように胸をなでおろす。

「いえ、私こそヘンな事を聞いてすいません。しかし……」

とそこで表情が険しくなる。

「双方とも誘惑の術を使うのか……。厄介な敵ですね……」

「だろ? オレが結界を破られたときもそうだ。神殿でオレの手伝いをしていた術者たち……女の子ばっかりだったけどさ、そいつらが操られたように、結界を壊す手伝いをしたから、奪われたんだ。人の心を自在に操るなんて……相当手ごわいぜ」

 クーフさんに続いて、ダジトさんが忌々しげに言う。そうか、男と女の両方が誘惑の術を使うのだとしたら、操れない人間などいないというわけだ。しかも彼らが半端な術者ではないことは、直接彼らを見た私にも分かっていた。あれほどの力がある人なら、操れない人間を探す方が珍しいだろう……。

 そこまで思って、私はクーフさんを見た。きっとクーフさんのように、心音が聞こえる人なら、話は別なのだろうけど……。

「それよりも問題は、光の石をどうやって取り戻すか、ですけどね」

 一つため息をついて、スランシャさんが言うと、そこでクーフさんが顔を上げた。

「そうだ……一つ聞きたいことがあったんだ。リタ、ダジト、そしてスランシャさん。光の石というのは一体この世界に何個あるんですか?」

 その問いに私は首をふる。私は正直、光の石の属性のことすら知らなかった。石が何個あるかすら、私には分からない。ダジトさんを見ると、彼も困ったように頭をかく。

「実は、オレも詳しいことはわからないんだよな……。大体、リタも光の石の守護役だって聞いてびっくりしたくらいだからさ」

「あたくし、聞いたことがありますわ。光の石は……全てで六つあると……」

 スランシャさんが、静かに答えた。

「六つ? そんなにあるの?」

 思わず私は問い返す。

「ええ、古い神話の話ですけど……。昔、世界を我が物にするために、古の偉大な魔術師が作った石、それが光の石だと……。古い神話には、その石には六つの属性があり、それぞれがそれぞれの属性の力を支配するのだと……そう聞いたことがあります」

「六つ……ですか……」

 クーフさんはスランシャさんの話に視線を落とす。

「もしかして、その六つ全てを、あいつらは奪う気でいるのか?」

 ダジトさんがはっとした表情で口を開くと、スランシャさんが頷く。

「恐らくそうでしょうね……。あのアニマが私の体に入っていたとき、何度かアニムスと会話をしていたけれど、光の石は、ここにある水の石を手に入れれば、あと二つ、だと言っていたわ」

「二つ!?」

 彼女の言葉に、私とダジトさんの声がかぶる。

「あ、あと二つしか残ってないのかよ!?」

「正確にはあたくしの石は残っているから、三つ、よ」

 慌てるダジトさんにスランシャさんが、ため息混じりに返す。

「で、でも、あと三つ、てことは、私の石と、ダジトさんの石と……後、もう一つ、あいつらが持っているって事ですよね……?」

 私の言葉に、クーフさんが静かに答えた。

「そういうことになるだろうね」

「一体、どこの石なんでしょう……」

 私の問いに、誰もが沈黙した。

「……え……? もしかして……誰も知らないの……?」

 予想外のことに私が思わず聞き返すと、ダジトさんが苦笑し、スランシャさんは目線を落として口を開いた。

「いや、オレは光の石の守護役っていったら、コイツしか知らなかったしさ」

「あたくしも……近くのダジトが守っていた炎の光の石の神殿とは、古くから交流があったから知っていたけれど、他の石の在り処は知らないわ。ただ……」

 と、そこでスランシャさんは目線を上げる。

「昔、お母様が――あ、私の前に守護役をしていたのだけれど――その、お母様が言うには、北方大陸の中心都市のどこかに、大地の光の石はあったと、聞いたことがあるわ」

 その言葉に、私もクーフさんもダジトさんも身を乗り出す。

「ホントか、スランシャ!?」

 ダジトさんの問いかけに彼女は頷く。

「ただ、詳しい場所までは分からないわよ。それに神殿として残っているかも怪しいわ」

「あ」

 その言葉に私は思わず声を上げる。つられて二人は私を見る。

「そういえば、私の守護していた石のあった場所は、神殿なんて形してないですよ。もう、祠しか残ってなかったもん。ずーっと昔に壊れちゃったって、おばあちゃん言ってた」

「そうなの……。どおりでダジトもあたくしも、あなたのことを知らなかったはずだわ……。神殿があれば、少なからず話は聞くものね」

「そうなると、その大地の光の石がある場所も、神殿は残ってない可能性が高いな」

 スランシャさんとダジトさんはそういって目を見合わせる。

 私は張り切って声を上げる。

「じゃあ、次の目的地は、中央都市ですね! そこであいつらが来たところを、返り討ちにしちゃえば、私の石もダジトさんの石も取り戻せるわけですね!」

 その言葉に、ダジトさんが拳を握って気合い十分に頷く。

「ああ、必ず取り戻してやるぜ!」

 その言葉に、私もクーフさんも頷いた。私は、クーフさんの方を向いて微笑んで見せた。私の顔を見て、クーフさんも強い目で頷く。が、すぐに目線を下げると、その強い目のまま、呟くように言った。

「しかし……一体彼らの目的はなんなんだろうね……。神話に残るような石を集めて……何をする気なんだ……」

 クーフさんの言葉に、私も目線を落として考え込む。

 確かに謎は多い。あのアニムスとアニマが何者であるのかもわからないし、その目的すら分からない。ただ、一つだけ間違いないことがある。私は、自分が守らねばならない石を、ちゃんと取り戻さなくちゃいけないってこと。

 私が目線を上げると、クーフさんが微笑んでいた。その表情は優しく微笑んでいるものの、頼もしい力強さがあった。……きっと私の今の心音を聞いていたのだろう。私はその笑顔を見て、また微笑み返した。

 これから先、まだたくさんの危険があるだろうけど、この人と一緒にそれを乗り越えられるなら、どんなに素敵なことだろう。私が初め思っていたよりもずっと、旅は長引きそうだけど、でもそれがクーフさんと一緒なら――。

 私は心の奥に、温かい気持ちがわいてくるのを感じていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ