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言霊使いと秘石の巫女  作者: Curono
6章 未来をつなぐもの
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狂気との対戦


「このワタシに敵うと思っているのか!」

 高笑うような声で男は叫び、その腕を前につきだした。

『アクイア!』

 いきなり発生した激流に息を飲み、一瞬動きが止まった少年だが、その傍らで少女の動きは速かった。

『召喚!青女!!』

 少女の両手から放たれた凍てつく吹雪は、一瞬でその激流を凍りつかせた。

「助かるぜ! 行くぜ……『陽光』……!」

 攻撃を放った直後で動きの鈍い敵めがけ、ダジトはその両手から特大の光の珠を撃ち放った。

『降臨!!』

「やっぱりだ……光の力が強いおかげで魔法も強化されてる……!」

 今まで発動することのなかった光魔法の中でも高等クラスに当たる難しい術を、難なく少年は発動してみせた。この空間を支配する光の力が相乗効果となって、彼らの力を底上げしているのだ。

 失明しそうなほどのまばゆい光を紙一重でかわすと、その勢いに銀髪の男はよろめいた。

「おのれ……あの小娘のような小賢しい術を使うとは……ガキが……!」

 徐々にその表情に怒りが表れてきていた。赤い瞳が黒く淀んでくると同時にその四肢は怒りからか小刻みに震え出した。

「気をつけてダジト、あの男はキレると動きが速くなるわ」

 脳裏にズスタの基地で対戦したことを思い出しながらスランシャが囁くように助言する。リタとアニムスが対戦した時、攻撃を受ける度に敵は怒りで攻撃の威力が上がっていた。それだけではない。放つ闇魔法の威力はそのままに攻撃の手が早くなっていたのだ。リタの魔法が遅れを取り何度も直撃しそうになっていたことが思い出されて、スランシャは言いながらその両手に結界の術を浮かび上がらせていた。

「魔法攻撃を軽減する結界をはるわ。でもあの攻撃は強大だから極力食らわないでね」

 リタを守っていた結界はクーフが作ったあの奇妙な術の結界だ。回数に限度はあるもののその魔法攻撃を完全に霧消する強力な結界だ。しかし今のスランシャにはそれほどの強力な結界を作る力はない。思わず漏れた言葉にはその不安が表れていた。

「わかってるって!」

 言いながら金髪の少年は銀髪の男との間合いを詰める。その両手にはそれぞれの魔法を発動できる準備をしていた。

「光の術など……ワタシの術で打ち消してくれる……!」

 両手に黒い力が集まっているのが分かる。まるで闇がその手に降臨したかのようにその手の姿は見えない。その闇を大きくしながら、瞳は鋭く金髪の少年を刺して動かなかった。

「さも当たり前のようにスランシャの側に立つ貴様が目障りだったのですよ」

 不気味な笑みを貼り付けたまま、銀髪の男が口を歪めた。声は恍惚した響きがあり、この瞬間を愉しんでいるようにさえ見えた。しかしその声に徐々に殺気がこもる。

「こうして彼女の前で貴様を砕くことが出来る……。この上ない快感だ!」

 言いながらその右手を前に突き出すと、邪悪な呪文が放たれた。

『タナトゥス!!』

『陽光……降臨!!』

 ほぼ同時にダジトは光系魔法最強の術を繰り出した。地面から浮き上がるように出来た光の珠は空間を真っ白に染めるほどの輝きを持って、目の前に迫った黒い闇を打ち砕いた。

「相殺か!」

 それを察した金髪の少年が叫ぶより早く、スランシャが魔法攻撃を放っていた。

『召喚――青女!』

 凍てつく冷気の風が、先程相殺した光魔法と闇魔法の暴風に襲いかかる。しかしその両方を飛び越えて宙に飛び上がったのは、あの銀髪の男、アニムスだ。

 ハッとする間もなく、アニムスはその左手を前に突き出し、ダジとに向け冷たい笑みを浮かべて叫んだ。

『タナトゥス!』

 敵は両手に発動していた魔法のうち、片方だけしか発動しなかったのだ。相殺することを計算し、即座に次の攻撃に出てきたというわけだ。それを察していたスランシャの動きですら、かわされてしまったのだ。

 たちまち黒い闇の塊がダジトめがけ落石のように直撃した。爆風とともに黒い波動が部屋を駆け抜けた。

「ダジト!」

 叫ぶスランシャに、羽のようにふわりと頬を押さえるものが触れた。ゾッとした。黒いその手は、先程闇魔法を放ったアニムスの浅黒い手だった。

「あのクズにあなたが執着するのが許せない」

 言いながら、アニムスの手がスランシャの顔を、首を押さえつける。抵抗しようとした直後、勢いよく首を捕まれ宙吊りにされた。足が浮き、もがけばもがくほどその黒い手が首を絞める。

「ぐっ……」

 言葉が出せない少女を下から見上げるその銀髪の男の表情は、不気味なほど恍惚とし、その苦しんでいる姿を愉しんでいるように見えた。

「その顔も美しい。だが素直にワタシのモノになれば、苦しむこともないんですよ」

 優しくそう囁く男に、スランシャは必死に声をあげた。

「……お、生憎様……っ……」

 言いながらその手をアニムスの顔面に伸ばし、絞り出すように呪文を唱えた。

『召喚……』

 しかし言い終わるよりも先に、敵の片手がスランシャの口を塞ぐ。地面に足をつけることは出来たが、彼女の自由はまだアニムスに支配されたままだ。

「生意気なその様子も、決して嫌いではない……」

 と、顔を寄せ不気味にほほ笑んだ直後だった。

『光華!』

 呪文とともに男がはっとして視線を向けるよりも早く、黒い煙の中から光の矢が飛び出した。突然の攻撃にアニムスが避ける間もなく、光の矢は男を突き刺し、勢いよく部屋の隅へと突き飛ばした。

「大丈夫か、スランシャ!」

 案の定、攻撃はダジトだ。男の手から開放され、苦しげに息を吸う水色の少女に駆けよると、その肩を押さえよろめく少女を抱きかかえる。

「ダ、ジト……こそ……」

 息も切れ切れにスランシャがようやくそれだけ言うと、ダジトは緊迫した表情に一瞬だけにやりと笑みを浮かべてみせた。

「お前の結界のおかげで少しはな」

 そう言って、すぐに敵に向けて意識を向ける少年の左腕は、黒く煤け服は破れ落ちていた。無傷ではないが、結界のおかげもあってダメージは少量で済んだようだ。とっさに光の術で相殺を試みたのかもしれない。

「小癪なマネを……!」

 唸るような男の声がして、部屋の隅から銀髪の男が立ち上がった。見れば腹部に攻撃を受けたのか、赤く出血している様子が見えた。しかしその痛みなど気にもならぬ様子で男はギリギリと歯を鳴らし鋭くこちらを睨んでいた。

「やっぱ、一筋縄では行かねーな」

「とにかく、動きを止めるわよ。石を手に入れるのが最優先ですもの」

 敵を見つめながら、二人は呼吸を整えていた。



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