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言霊使いと秘石の巫女  作者: Curono
6章 未来をつなぐもの
118/131

明かされる真実

「神無き時代

 混沌ありき 光と闇の偉大な石が

 神なる力 全てを統べる

 手に入れしもの 創神となる

 世界はそこで終焉となる

 命あるもの すべて消えて

 

 古の神 力を封ず

 溢れし闇を 闇で押さえて

 全てが消える 力は消えて 命は残る

 失われし時代

 残されし子よ 愛されし我が子

 石を守護し 創神を阻め


 終焉の危機 創神誕生

 創られし神は 世界を滅す

 選ばれし子よ 光の巫女よ

 石を封じよ 要となりて

 破滅の力 それで消え失せる

 残されし 救いの道」







****


 ありえない――と思ったのが最初の感情だった。だたそれを受け入れると全てがつながる気がした。

地図にすら記されていない光の石の在り処――

ジフーラの村に伝わる光の神の神殿――

この神殿の異様なまでの光の魔力――

光の石の忠告――

光の石の守護役――

ウリュウ――

そしてこの目の前にある尋常ではない光の魔力――

そう、なによりこの力は説明できないほどの大きさだった。無限の力を感じさせるような、人には持てない力――太陽そのもののような力――。その力自体が意志を持つのだとしたら、人はそれをなんと説明するのだろう――。そう思ったら、今の発言を信じないわけにはいかなかった。

「光の神……まさか……」

 かすれた声を上げたのはダジトだ。

「あたくし達、光の石の守護役に……光の術を授けて下さった……神そのものだというの……!?」

 続けて口を開いたスランシャの声も、驚きと緊張のあまり震えていた。

 理屈ではわかっていた。神が人の前に現れるなど、そんなことがあるはずがないと――。だが彼らも一緒なのだ。あの強大な力を見せつけられて、しかもそれが彼らの属性である光の力であれば尚の事――その言葉は酷く納得できてしまうことだった。

「光の神様……あ、あなたが……!」

 驚きで開いた口も塞がらないのはリタだ。しかし彼女は思ったよりもすんなりこの事実は飲み込めたようで、彼女からは迷うから来る揺らめいた音は聞こえない。きっと素直にこの事を受け入れたのだろうことが心音こころねから伺えた。それが逆に私にとって迷いを吹っ切るきっかけになった。

「……なるほど……光の神……。ようやく――ようやく納得がいきました」

 私の言葉にネスグナ――いや、今は光の神パネスだが――が、ふっと優しい笑みを浮かべた。それと同時に眩しい光がようやく収まってきて、私は細めた目を一度閉じて再び開いてみた。

 まだ光は続いている。彼の身体自体が光っていて、その輪郭に光の淵が見えるがそれでも目を開けていられる程度だ。伝わる光の魔力は心音こころねで聞かずとも肌にビリビリと伝わってくるが、それでも十分普通にしていられる程度にはなった。

「……光の石の守護役であれば――自然と私に対する畏怖が湧くものです。貴方にもすぐ理解していただけるとは……やはり貴方はあのエンリン術師たちに似ている――」

 その言葉に私はハッとした。光の神は、師匠達を知っていた、ということなのか……。

「彼はスティラ様と同じ、エンリン術直々の後継者だからねぇ。だからこそ、石の守護役と一緒に行動する運命だったんじゃないの〜」

 私が口を開くより先にウリュウがそう口を挟んできて、それが酷く納得がいった。私達の師匠を産み落とした闇の女神……その女神が光の石を持つものだとしたら、女神を救い出したい師匠たちの思いを引き継いで、私が光の石に引き寄せられるのも納得がいく。

 私が口を開けずにいると、光の神パネスはウリュウに一つ頷いてすぐに私達に向き直った。その表情から、重要な事を言おうとしているのはすぐにわかった。硬い表情の裏に強い意志を隠すように、瞳だけが鋭く見えた。

「早速ですが――あなた達に『光の石』の真実を話さねばなりません。そして――この危機を止めるための要になってもらわなくてはならないのです」

「カナメ……? 要ってなんですか……?」

 リタが首を傾げると、パネスより先にスランシャが口を開いた。

「重要な役割、ということかしら……。光の神があたくしたちに使命を与えると……そういうことでしょうか?」

 水色の少女の言葉に光の神はゆっくりと頷いた。

「そうです。守護役でなければ出来ない使命があるのです。――何故あなた達『光の石の守護役』を、古くから石に付ける必要があったのか……そこからお伝えせねばなりません」

 急な神の言葉に即座に答えるのは案の定ダジトだ。

「石を悪用されないように、そして石を平和のために使うように、見張るため、オレらの役割はあるんじゃないのか?」

 彼の答えにパネスは頷くが、その瞳は閉じてしまった。

「そうですが……それはあくまで建前……。真の目的は違う所にあるのです……」

 見張り以外の役割が、光の石の守護役に課せられている……。それは一体どういうことだろうか。

「真の目的……って……なんですか……?」

 問いかけたのはリタだ。気付けば私の腕の裾を掴みながら、恐る恐る尋ねている。心音こころねが震えていた。――答えを恐れているのだろう。

 光の神はリタに向き直ると、まぶたを閉じて唐突に話を変えた。

「この神殿に残されているあの黒い石版……あそこに超古代文字で警告が残されていた事は覚えていますか?」

 急な話の降りにリタが戸惑いがちに頷く。

「あ、はい……。たしか、石を己の欲のために使うなとか……」

「そこに書かれている言葉は、過去にネスグナさ……いえ、パネス様が教えて下さいましたわね。超古代文字でしたから、あたくしたちには読めませんでしたけど……」

 リタに続けてスランシャが答えると、光の神はその金の瞳を開いて憂いだような表情を浮かべた。

「あの石版には……後世に伝えるための歌が掘られていました……。決して繰り返してはならない歴史を、後世に伝えるために……。その歌がどんな歌か、あなた達に伝えましょう。『神の石の歌』を」

 その途端だった。急に天から降ってくるように、頭の中に音が鳴り響いた。聞いたことがない楽器の音色……しかし、この人の声とも風の音とも木々や川の音とも言えない奇妙な音の響き方は、過去に聞き覚えがあった。ズスタの地下神殿で守護役に響いていたあの音だ。

 そんなことを思っている間に、あの奇妙な人の声が歌い出した。この音だけだったら、きっと意味がつかめなかっただろう。きっと超古代文字の言葉なのだ。しかしこの音に合わせて、光の神も一緒に歌い出した。



「神無き時代

 混沌ありき 光と闇の偉大な石が

 神なる力 全てを統べる

 手に入れしもの 創神となる

 世界はそこで終焉となる

 命あるもの すべて消えて」



 超古代文明時代の歌を、わかりやすいように光の神が現代の言葉で歌ってくれたおかげで、歌の意味がつかめた。

 神なる力……それこそが光の石であり、それを手に入れた者は神に等しい力を得る。だが……それと同時に世界が終わる……。神々しい歌ではあったが、それ以上に不気味さを覚えた。これから起こりうる未来を垣間見てしまったからだろう――。しかし、どうなってこの世界が滅んでしまうというのだろうか……。考えている間にもまだ歌は続いていた。



「古の神 力を封ず

 溢れし闇を 闇で押さえて

 全てが消える 力は消えて 命は残る

 失われし時代

 残されし子よ 愛されし我が子

 石を守護し 創神を阻め


 終焉の危機 創神誕生

 創られし神は 世界を滅す

 選ばれし子よ 光の巫女よ

 石を封じよ 要となりて

 破滅の力 それで消え失せる

 残されし 救いの道」



 失われし時代……それは即ち「超古代文明時代」のことだろう。古の時代の忠告を今に残す歌――。しかし歌の内容に謎が残らないわけではない。光の巫女……これはきっと光の石の守護役を指すのだろう。彼らに石を封じよ、と残す意味がわからない。石とは……光の石のことなのだろうか……?

 歌が全て歌われると、その深い意味に思わず私達は無言になった。考えを深めようとしていると、ゆっくりと音が消えていった。

 音が消え、僅かな沈黙を挟んで光の神は答えた。

「真の目的……それは、光の石が暴走したときに、それを抑える要です」

「石の暴走……?」

 それはどういうことだろうか――。

 疑問に思ったのは私だけではなかったようで、早速視界の隅で金髪の頭がわしわしとかかれているのが確認できた。

「石が暴走って……どういうことだよ? なんだか話が見えねぇけど……」

 光の神の視線がこちらに向いた。溢れる光の魔力の威力に威圧感がないわけではないが、それ以上にその表情が緊迫していた。金の瞳が鋭く光り、まるで睨まれているのかと思うほど険しい表情で光の神は私達を見ていた。

「光の石は、すべての力をその光の力のもと支配することが出来る。光・炎の石は全ての炎の力を、光・水の力は水の力全てを、風、大地、そしてそれは光の力と闇の力も例外ではない……。つまり、あの石はこの世界にある全ての力を光の力を使って支配することが出来るのです。その石の力を六つとも我が物にした人は、世界を支配すると言っても過言ではない」

 その話は今の歌だけではなく、確か以前にもネスグナから聞いた覚えがあった。

「たしか……人が、神になるほどに―—強大な力だったと――」

 私が続けた言葉に光の神は頷いて、さらに言葉を続けた。

「そう――だから古の人々も……光の石で世界を支配しようとしたのです」

 その言葉に私とダジトは無言で視線を交わしていた。ダジトは私と目があうと、不安げにその表情を歪ませ心音こころねを震わせた。嫌な予感を感じている傍ら、神の言葉は続いていた。

「光の石は、神なる力を手に入れようとして作られた究極の秘宝です。過去にこの石を作った人々は、この石を人間が使えるようにと作ったはずでした。手始めに、彼らは闇の力を封じようとします。使われたのは……光の闇の石だ」

「……! ――まさか……」

 その言葉に真っ先に反応したのはダジトだ。神は構わず続けた。

「古の人々は光の闇の石で、まずは闇の力……悪しき力を封印しようとした。全ては世界から闇をなくし、世界を光だけの平和な世界にして、それを統治するという……そういう目的だったのです。ですが……」

と、そこで光の神は再び瞳を閉じた。その表情は心なしか苦しげに見えた。

「一人の少女を人柱に、光の闇の石は大地の奥深くに封印されました。それと同時に、人々の悪しき力は全て地下深くに封印されました。しかし……それだけではありません。世界全てにあった闇の力も全て……封印されたのです。その結果、世界に何が起こったと思いますか……?」

 その問いに、私の頭の中では昔ネスグナが言っていた言葉が引き出されていた。そして――闇族王ミズミが言っていた「闇の女神」の話も一緒に――

「光の力で……闇を封印……? な、なんかあんまり悪い事のようには思えないけど……」

「そうかしら……」

 リタの答えを遮ったのはスランシャだ。形の良い眉をよせて難しい表情をしていた。

「以前……この神殿でネスグナさん……いえ、パネス様が言っていた言葉、覚えてない? 『極端に陽に偏ると……調和を乱し、秩序が乱れる』――って……」

 その言葉にリタも思い出したように息を飲んでいた。スランシャは光の神の方を向いて言葉を続けた。その表情には緊迫感があった。

「もしかして……パネス様、その古の時代……光の石によって闇の力が封印されて……世界が乱れたのではありませんか? それこそが……超古代文明時代が滅んだ経緯なのでは……」

 彼女の言葉に、ダジトが小声で私に呟いた。

「ミズミが言っていた……あの闇の女神の生まれた理由と一緒だな……」

 彼の言葉に私が無言で頷くと、光の神がスランシャの言葉に頷いているのと同じタイミングだった。

「その通りです。超古代文明時代……あの時代、非常に魔法技術は発達していました。今の世界以上に進んでいたのです。ですが――「光の石」……。この石が生まれたことで全てが終わってしまいました。光の力だけの世界などありえない。暴走する光は、逆に命あるものに牙を向き、その存在を破壊してしまう。世界は、すべての力があるからこそ、調和がとれているのですから、そのうち世界は不安定になった。不安定になった大地で、光の石はさらなる負の連鎖を引き起こします。大地奥深くに封印された『光の闇の石』……その石との安定を図ろうと――光の石は次々沈みだしたのです」

「石が……沈む……!?」

 予想していなかった発言にダジトの大声が響く。

「沈むって……え、他の光の石も封印されちまうってのか?」

 ダジトが驚くのも無理はないが、しかし納得の行く結末でもあった。力というのは基本的に不安定な状況は好まない。それは魔力に限った話ではなく、マテリアル……物質的な世界においてもそうだと師匠から教わったことがあった。水が引力に引かれて低い土地に流れるように、不安定な力は安定する場所に移動するのは至極当然のことなのだと――。

 しかし、光の力を支配する石が封印されることになれば、きっと世界全体にも影響は出るはずだ。私の考えていた不安を、ダジトの隣に立つスランシャが代弁していた。

「そんなことが起こったら……今度は光の力はどうなるんですの……?」

 そんなスランシャの言葉に、今度ははっと気付いたように息を飲んだのはリタだった。

「ま、まさか……光の力が……消えてしまうって……ことですか……?」

 恐る恐る触れたその言葉に、全員の視線がリタに向いた。世界から光の力が消える――それはその言葉の響きだけで、良くないことが起こるとすぐに察しがつくような、嫌な予感がする言葉だ。思わず表情を歪める私達の目の前で、光の神は静かに、しかし深く頷いた。

「その通りです。古の時代……光の闇の石で闇の力だけを封印しようとしたはずなのに、結局全ての石の封印の連鎖は起きてしまった。すべての光の石が沈めばどうなるか――そうです、今あなた達が考えているような、大変な事が起こります――光だけの世界を作り、平和が永遠になるような世界を望んでいたはずなのに、その光が全て消えてしまった。それどころか、光の石は光の力で大地の力や炎の力も支配する。光の大地の石が沈めば、光の力と同時に大地の力が、光の炎の石が沈めば同様に炎の力が、光と共に封印される……。世界中に溢れていた全ての魔力は、光の石の封印とともに封印されてしまった。……そしてそれを、誰も止める事ができなかったのです」

パネスはそこで一息つき、静かに私達を見回した。驚愕の事実に私達が言葉を発せられずにいるのを確認して、暫しの沈黙を挟んで更に言葉を続けた。

「そうやって……全ての魔力を失って、超古代文明は滅びました。しかし、長い年月を経て、石は徐々に地表に戻りつつあります。今はその過渡期……。まだ完全な安定ではありませんが、それでもだいぶ安定してきたでしょう? それは光の石の五つが開放されて、随分年月が立っているからです。そして最後の一つ、『光の闇の石』が地表に出れば、全ての光の石が開放されて、安定した世界に戻るのです」

 重い空気で話が進んでいた中、唐突に間の抜けた声が響いた。声の主はウリュウだ。

「ま、徐々に開放されてっていうけど、相当の年月がかかってるけどねぇ。最近地表に現れた光の風の石だって、ボクの曾祖父ちゃんの時の話だから、かれこれ数千年前だからねぇ」

「はあ!!??」

 唐突に口を挟んだウリュウの発言に、ダジトが遠慮なく大声をあげる。

「曾祖父さんが数千年前って……え、ウリュウの年ってどういう計算の仕方してんだよ!?」

「やだなぁ、ボクらは結構長生きなんだよ〜?」

「なんだ、お前……実は結構なおじいちゃんなのか……」

「失礼な!こう見えてプリップリの300歳だからねっ!」

「…………」

 彼の発言に思わずダジトのみならずスランシャもリタも絶句したのは言うまでもない。

 まあ竜といえば相当力のある種族だから、一代で一千年は下らないだろう。そう思うと改めて彼の年齢は納得行く数字だ。

「それよりも……そうなると光の神、奪われた石を早く取戻す必要があるのは……やはり下手に使われて、また封印されることを避けるためですか?」

 私が話を元に戻すと、光の神はまた静かに頷いた。

「光の石の力を自分のものにしようとして、器のないものがそんなことをしても身の破滅を招くだけです。光の石は一つでも相当強大な力を持つ。台座に置くからこそ安定して力を少しずつ発揮するものの、それを一人の人間が我が物にするなど……身体という器、心という器を破壊されてしまうでしょう。そうなった時、行き場をなくした石はどうなるか……。安定を求めて動き出します」

「じゃ、じゃあ……そうなった時、また地下に沈み始めようとするってことですか……?」

 リタが続けた言葉に神は頷いた。

「そういうことです。だからこそ……あなた達に早く、石を取り戻して欲しいのです」

 そう答える光の神はあの金の瞳で悲しげに私達を見るのだった。




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