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言霊使いと秘石の巫女  作者: Curono
5章 秘石の謎解き
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ウリュウの正体


 闇族王の命令にウリュウはのん気に、はーいと軽い返事をして歩みを止める。そんなウリュウをミズミとハクライが追い抜いて道を先へと進める。

「……また、お前と話すのかよ……」

 目の前まで近づいた細身の男に、あからさまに不機嫌な表情をダジトが見せる。

「まあまあ、いいじゃないの、楽しく話そうよ!」

 ウリュウのテンションは相変わらずだ。私たちは歩みを止めずにミズミに続いていくと、ウリュウも私達の歩みに合わせて歩き出した。

「ウリュウさん、光の石のこと、ご存知なんですか?」

 ウリュウの性格をまだよく知らないリタは無邪気にそう問いかける。ウリュウはそう、と一言軽く答えるが、答えの割にその心音こころねは随分と警戒しているように聞こえた。

「……以前あなたが言っていた……話すべき時、ということなんですか?」

 私が問うと、男はあの鋭い目を一瞬光らせたように見えた。しかしいつものあの細い目のまま静かに男は私を見つめて、口元をだらしなく歪めた。

「ま、簡単にいえばそういうことだよ。君たちも気になってるでしょ、光の石のこと」

「そりゃあそうさ。そのためにこの大陸まで来たんだぜ」

 力を込めてダジトが答え、スランシャも無言で頷く。それを横目で盗み見る男の表情はどこか無感情的に見えて気味が悪い。しかしその無表情さを歪んだ口元でかろうじて間抜けに見せようとしている――そんな風に見えた。

 しかし、そんな表情から一変、男はにやりと意地悪く笑うと私達の目の前で腕組みしてみせた。呆気にとられる私たちの前で、男は楽しそうに口を開いた。

「さてと、じゃあ話す前に、一つナゾナゾをいいかな?」

 急にテンション高くそんなことを男が言うので、思わず私たち全員が拍子抜けしてしまう。

「な、ナゾナゾぉ!?」

 呆れて大声を上げるダジトをさておいて、男はヘラヘラといつもの笑顔を浮かべた。

「そ、ボクからのナゾナゾ! 答えられたらご褒美を出しちゃうよ〜!」

「いらねーよ、そんなもん!」

 ウリュウの言葉に間髪入れずダジトが突っ込むと、その様子にスランシャとリタがクスクスと笑う。そんな穏やかな様子にウリュウは気を良くしたのか、くるりと一回転してから、ナゾナゾを突きつけてきた。

「さあ、ナゾナゾをだすよ! どうして――ボクたちウリュウ一族は闇族に仕えていると思う?」

 テンション高く楽しげに男は問いを投げかけてきた。しかし、言いながら微笑む男は目が笑っていない。細い目の奥で鋭い眼光がぎらついている。それを見て私は直感した。おそらくは、ただのナゾナゾではないのだ。

 そんな私たちをさておき、男の説明は続く。

「正直、ボクらは相当の力を持っている。それこそ、闇族になんか従わなくてもいいくらいにだよ」

 その言葉に、前方からミズミが鼻を鳴らした。それを耳にしたらしいウリュウが、慌てて彼女の方を向く。

「あ、スティラ様は別ね! ホント、スティラ様に関しては普通の闇族じゃないもん! 正直ボク、闇族なんてこわかないけどさ、スティラ様は別だよ?」

 心底怯えるような声で弁明する彼に、ミズミは不機嫌そうに手を払う仕草を見せる。

「それはどうでもいいから話を続けろ」

 王の言葉にほっとしたのか、細身の男は一息ついてまた私達の方を向くと、後ろ向きに歩きながら言葉を続けた。

「ボクらはそもそも――本来の姿はこれじゃないんだ。もちろん、闇族じゃあない」

 ニヤリと笑う男に、思わずダジトがへぇと身を乗り出した。

「なんだ、お前闇族じゃないんだ」

「でも、精霊族でもありませんわね」

 ダジトに続いてスランシャも口を挟むと、ウリュウは満足げに頷いてまた彼女に顔を近づけて微笑む。

「そうなんだ、スランシャちゃん。よく気付いたね。やっぱりボクのこと、結構気になってる?」

「アホか! んなわけ無いだろ!」

 スランシャが答えるよりも早くダジトのツッコミが響く。ウリュウが反撃するよりも早く、驚きの声を上げたのはリタだ。

「え? ウリュウさんって闇族でも精霊族でもないんですか?」

 ウリュウと一番接点の少なかった彼女が驚くのも無理はない。リタのその言葉にウリュウは自慢げに胸を張る。

「ふふふ……そう思うよねぇ。じゃあここで問題! さあ、ボクの正体はなんでしょう?」

 楽しげに問いかける男に対して、少女二人は本気で考え出したようだ。口を閉じる二人とは裏腹に、ダジトは冷め気味に呟く。

「正直、そんなことにオレは興味ねぇけどな」

「そんなこと言ってぇ。ボクの正体を知ることこそ、実は君たちの探し物に近づくんだよ?」

 からかい気味にほくそ笑む男のその言葉に、金髪の少年の目が細くなる。

「――本当だろうな?」

「ウソは言わないよ。だって、もう話していいと――言われているからね」

 意味深なその言葉に、リタもスランシャも思わず目線を彼に向ける。しかし、最初に言い当てたのは――

「あなたの正体は――『竜』、ですか」

 私の言葉に、ウリュウの目が細くなる。

「――正解。なんだ、気づいてたの」

 ナゾナゾがすぐに終わってしまったことがつまらないのだろう。あからさまに、男は不満げなため息を付いた。

「いくら音が聞こえても、そんな一発で当てられるとは思ってなかったのに」

「確かにな。オレでも姿を見るまでは確信を得なかったのだが……よくわかったな」 

 ウリュウに続いて私に称賛の声をかけたのは闇族王のミズミだった。やはり彼女も最初に彼の音を聞いて違和感を感じたのだろう。

「ええ、実は過去に一度、竜を見たことがありまして……。ウリュウ、という名を聞いてもしかしたらと、ピンときたんです」

 竜なのだとしたら、あの獰猛な獣のような音も理解できる。人間離れした図太い音、本能的な警戒音の強さ――あれはそうだ、昔戦ったことのある邪竜にも似た響き方だった。ただ邪竜のように破壊への衝動や憎悪感、嫌悪感といった邪悪な音ではなく、彼の音はどちらかといえばまだ私たち精霊族に近いものがあるように思う。

 思えばズスタの街を訪れるきっかけは、あの邪竜との因果だ。こうして今度はこの土地でウリュウに出会うというのは――竜とは何らかの縁がありるのかもしれない。

 そんなことを思う私をよそに、衝撃を受けて受けたのはリタ達だ。

「竜……? 竜って……え、あのドラゴン?」

 挙動不審気味に私とウリュウの顔を交互に見る黒髪の少女の隣では、ダジトがはっと何かに気がついたような顔をしていた。

「――もしかして――あの、姦族の奴らとオレたちが戦ってた時、闇族王を連れてきたあの竜ってのは――まさか」

「そ、ボクだよ。あれが本来のボクの姿さ」

 驚く彼らとは裏腹に、落ち着き払った表情でウリュウは淡々と説明する。

「あの姿に戻ると結構疲れるんだよねぇ。ま、ただ移動するにも攻撃するにも、やっぱりあの姿が一番速いし強いからさ。スティラ様の命令とあれば、あの姿に戻ることもやむを得ないよねぇ」

 淡々と語る男に、私は疑問が沸き起こっていた。そもそも、どうして竜が――闇族に仕えているのだろう? それはとても不自然なことに思えた。

「竜といえば……昔には竜神の信仰もあったほど、神に近い力があったと聞きますが……」

 私がふと漏らしたその言葉に、リタもスランシャもダジトでさえも振り向いた。

「え、ホントですか!?」

「そういえば、ズスタ近くの街にも竜の信仰をしていた街があったと聞きますわね」

 私に続いて、スランシャも思い出したように呟く。

「神に近いほどの力って……ええ~!? このウリュウが?」

 信じられない、とばかりにダジトが呆れた声を上げると、ウリュウは不満げに頬を膨らませる。

「だからこの姿は仮の姿だってば! ダジトくん、君失礼だぞ!」

 またもプリプリ怒る細身の男は、見た目は確かにとても竜には似つかわしくない。しかし響かせる音の感じは確かに人間離れしている。逆にここまで人懐っこすぎる方が竜らしくなく、不自然なくらいだ。

「話を戻しますが……どうして竜ともあろう貴方が、闇族に仕えているんですか?」

 いつまでも話が進まない男に、私は肝心な質問を投げかけた。私の質問に、怒っていた男はニヤリと笑みを浮かべ横目で私を見た。

「そう、肝心なのはそこなんだよ……」

 そう言って彼はそっと首を動かした。彼の目線の先には闇族王の後ろ姿があった。

「――竜は王を守る――。闇族の歴史が始まってからずっと、古の契約に従ってボクらは闇族王を守ってきたんだ。いや、正確には――」

 と、男の目が細くなった。

「ガイアサンジスを、だけどね」

 男の言葉の響きに、森がざわついたように聞こえた。天を仰げば、大きな木々の枝が風に揺らめいている。ただの風に揺らされたにしては、奇妙な音が聞こえた気がした。




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