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言霊使いと秘石の巫女  作者: Curono
5章 秘石の謎解き
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答えを知るもの


 私たち四人はミズミと向き合うように向かい側のソファに座ると、ミズミはソファから起き上がって、膝の上で肘をついた。綺麗な顔をその両手の甲の上に乗せると、闇族王はニヤリと微笑んだ。

「さてと、まず光の石の話をお前たちは聞きたがると思うんだが――」

 単刀直入なその発言に、思わず私たちは聞き耳を立てる。

「しかし、まずは話していいかどうかの判断を、ウリュウにしてもらおうか」

 その言葉に思わずダジトが声を上げる。

「ええ~!? マジかよ? オレ、コイツ苦手なんだけど」

 その言葉に案の定、ウリュウが不満げに口を開く。

「なんだよ~! 三日も寝食を共にした仲じゃない! ねぇ、スランシャちゃん?」

と、スランシャに同意を求めるが、彼女は苦笑気味に微笑む。

「まあ、ダジトの気持ちもわかりますわね」

 予想通りの返しにダジトも私も頷くが、ウリュウは不満げに地団駄を踏む。

「そんなぁ~! スランシャちゃんまで……」

「いいから、さっさと進めろ」

 やり取りを見守っていたミズミが呆れてウリュウを急かす。その言葉にさすがのウリュウも渋々従う。なんだかんだ言ってやはり彼は王の命令には逆らわないのだ。

「わかりましたわかりましたよ。もースティラ様も気が短いんだから……じゃ、早速一つ確認するけど――」

 そう言ってウリュウは急に真剣な表情になって私たちを見る。

「君たちに闇族の大陸に行け、といった人は、何という人だったっけ?」

 それがどう関係するのだろう。迷ったが私は素直に答える。

「ネスグナ、という光の石の守護役の一人です。光、風の石を守護している少年でした」

「どんな外見してる?」

 響く音が珍しく質問に集中している。そんなウリュウの心音こころねを聞きながら、私は答えた。

「茶色の髪に金の瞳、年は十四、五と言ったところでしょうか」

 その答えに、ウリュウの音が震えた。

「――間違いなさそうだね……」

 そこでウリュウの眼光が鋭く光った。ネスグナの存在が、一体どういう関係があるのだろうか……? 謎の多かったあの少年の姿が脳裏に浮かび、不安が過る。

 そんな私の不安をよそに、ウリュウはニヤリと口の端を歪めて言葉を吐いた。

「じゃあ、最後に一つ。光の石を君たちが探す理由を当ててみようか。――何者かが石を我が物にしようとしている。――違うかい?」

 その発言に私だけでなく、全員が息を飲んだ。

「――どうして……それを知ってるの……?」

「まさか――石を狙っていたのは……貴方たちだったというわけでは……」

 思わず口をついたリタとスランシャの発言にウリュウは呆れるように首を振った。

「そんなこと、ボクらが望むわけないじゃない。あんな強大な力、何も知らずに手を出す輩の気がしれないよ」

 彼の発言には、どこか憂いが込められていた。見ればミズミの表情も険しい。

 一息挟んで、ウリュウは低く呟いた。

「わかったよ。恐らく、話す時期なのだと思う。――スティラ様、いいね?」

 彼が一言断りをいれると、ミズミは無言で頷いた。

「……そうだな」

 ウリュウの問いかけに王は短く答えた。見ればその瞳の色が怪しげに揺らめいている。

「案内しよう」

 そう言って彼女は立ち上がった。

「……え、どこへ……?」

 嫌な胸騒ぎがして、とっさに疑問が口をついた。私の問いに、茶髪の人物は口を歪めた。しかしどこか寂しげな空気と一緒にだ。

「――お前たちがもっとも知りたがっているモノの所へだ。そして……」

 息を吸う音がして一瞬の間を撮った後、再び声が響いた。

「真実を見せてやる」

 王の声色がどこか沈んで聞こえた。思わず顔を見合わせる私達の目の前で、ミズミはあごでウリュウに指示を飛ばす。

「メイカ、転送魔法の準備を」

「はいはい、場所は……あの森?」

「ああ」

 気がつけば目の前でウリュウは床に奇妙な模様を書いていた。足の爪先で地面を削るようになぞってゆけば、それが不思議と光り輝く模様になっていく。思わず凝視していると、ミズミの静かな声が私達に投げられた。

「さあ、行こうか」


 転送魔法で飛ばされた場所はあまりに予想外だった。石に近づく場所だから神殿のような場所を想像していたのだが、ついた場所はどこかの森だったのだ。

 闇族の大陸にしてはのどかな場所だった。緑の深いその森は、静かに風が吹き抜けて、そのたびにサワサワと木の葉のかすれる音がした。天を見あげれば、随分と高い木の枝が頭上を覆っており、その木々の間から木漏れ日が降り注ぐ。陰の気はさすがにないわけではないが、それでも平和な空気がそこには流れていた。

「素敵な森……。こんな豊かな森が闇族の大陸にあるなんて」

 隣に立つ黒髪の少女が、森の空気を深く吸いながら言う。

「精霊にだって、住み心地は悪く無いと思いますわ。魔物の気配はないわけではないけれど」

 リタに続けてスランシャがそう森の奥に視線を投げる。聞こえてくる音は鳥のさえずりと、きっとこの近くを流れているのであろう水のせせらぎばかりだ。しかし森の奥から静かな魔物の気配を感じる。しかしどの気配もそっと息を潜めているように思えた。もしかしたら私達の――いや、闇族王ミズミの力を感じ取って、身を潜めているのかもしれない。

「どうもこの森を女性は好むようだな」

 少し前方を歩くミズミがちらと視線を向けて呟く。

「綺麗なところだしね。樹族の住処としてもいい場所なんでしょ」

 あまり口数の多くないハクライという闇族王の従者も、ぽつりそんなことを呟く。

「ジュゾク? ……ってなんだよ?」

 反射的にダジトが疑問を投げかけると、ウリュウが答えるより早くスランシャが口を挟んだ。

「闇族の種族の一つよ。強族や姦族のように凶暴な民ではなくて、どちらかと言えば闇族の中でも虐げられている一族と聞くわ」

「へぇ……同じ闇族でも酷いもんだな……」

「ええ、平和を愛する民で、陰の気さえなければ私達精霊族や……むしろマテリアル族に近いくらいだもの」

「詳しいな、精霊族のお嬢さん。たしか……スランシャ、と言ったか」

 ミズミがまた視線だけを後ろに投げながら微笑む。

「はい、スランシャと申します。きちんとしたご挨拶をしていませんでしたわね。遅くなって申し訳ありませんわ。闇族王……ミズミ様、だったかしら」

 スランシャの言葉にミズミは肩を震わせて静かに笑う。こういう様子だけを見ると、戦いで見せる凶暴性は全く感じさせない。闇族に親しげに話されるのが気に触るのか、隣でダジトは不機嫌そうに眉を寄せる。

「様、などいらん。お前たちも俺のことはミズミと呼び捨てしてくれ。クーフとリタのようにな」

 その言葉はおそらくダジトに言ったのだろう。ミズミが穏やかにあの緑の瞳をダジトに投げかけると、ダジトは気まずそうに視線をずらす。彼はそのままちらと視線をスランシャに向けると、小声でごもごもと呟いた。

「ホントに大丈夫なんだろうな……」

「……心配ないと思うわ。なにより囚われていたはずのリタがあれだけ心を許せるんですもの。あたくしたちも、あの方を信じていいんじゃないかしら」

 同じく小声でスランシャが返し、そのまま私の方を向いてわずかに微笑んで見せた。

「クーフさんも、ミズミには随分気を許しておられるようですし」

「ああ、かの……いや、彼なら大丈夫。心配しなくていいよ」

 私も確信を込めて頷いてみせると、ダジトは深く息を吸い観念したように頷いた。

「そこまで言うんじゃ……オレも信用しないわけにはいかないな」

 そんなやり取りをしている間にも、リタはミズミの隣に並んで質問を浴びせている。

「ところでミズミ、この森はどのあたりの場所なの?」

「場所を言った所でお前にはわからないだろうが」

「む……そ、そうかもしれないけど、転送魔法で急に飛ばされたら、場所よくわからないじゃない。ほら、お城からどのくらい離れているのかとか……」

「城の場所、お前わかっていたのか?」

「…………」

 完全にミズミに遊ばれているようだ。そのやり取りに私たちまで笑みが溢れる。

「ですがミズミ、私たちはどこに向かっているんですか?」

 私が問いかけると、ミズミはああ、と表情を真面目にして森の奥を見つめる。

「森の奥に、お前たちが探し求めているものがある。そこに案内しているのさ」

「探しているもの……光の石ってことか……?」

 ダジトが思わず口を挟むと、ミズミはああ、とまた短く返事をする。

 あっけなく大事なことを回答されて、絶句するのはこちらの方だ。

「え、な、ほ、本当か!? 本当に光の石の場所に案内してくれているのか!?」

「ああ」

「え、だ、だって、光の石だぜ!? 本当に…この大陸にあるのか!?」

「…………」

 ダジトが興奮を抑えられずに声を大きくするが、思いがけずミズミは無言だった。

「……な、なんだよ……本当なんだろうな?」

「ああ」

 重ねて何度も確認されて、ミズミが若干不機嫌にそう答える。しかし私には聞こえる。彼女の心の奥に、何か重い感情――どちらかといえば悲しみや自責の念に近い感情が、見え隠れしている音が――。

 静かに風が吹き、一瞬私たちは無言になった。木々風の吹かれる音だけが、やたらとこの空間を平和なものだと感じさせてくれた。私は深く息を吸いこんだ。

「なにか、訳があるんですね」

 私の言葉が沈黙を破ると、ミズミは一息置いて鼻を鳴らした。

「フン……ただ――話すのは複雑なんだ」

 そう言って、ミズミは空を仰いだようだった。木漏れ日を受けて歩く彼女の髪は光に透けて金に光る。

「だが、お前たちには話さねばなるまい。そういう時がきたんだろう」

 彼女の言葉にはひどく意味深で、私達には理解し難いように思えた。少なくとも簡単な話ではないのだろう。リタとスランシャが思わず顔を見合わせ、ダジトも首を傾げた。

「石の場所まではもうしばらく歩く。その間に少し、石に関わる話をしてやろう。――メイカ」

 ミズミは唐突に従者のウリュウを呼んだ。呼びかけられ、列の先頭を歩いていたウリュウは勢い良く振り向いた。

「あ、ハイハイ! どうしたのスティラ様」

「あの石のことをこいつらに話すには長くなるだろう。まずお前から話してやってくれ」




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