謎解きの始まり
その日は酷く師匠の音が乱れていた。滅多に心音を揺らさない師匠が、嵐の前の湿った風のように、時折その音を強めては不穏に揺れ動く。その音に、ただならぬ決意を感じていた。
(我が愛弟子、クーフよ――)
「はい」
師匠の言葉に私は静かにその頭を上げる。かすれて透明になりかけているその姿はいつも見慣れているそれだったが、長い髪に隠れて滅多に見えないその表情が曇っているような――そんな印象を受けた。
(お前ももう十三……古い歴史にならえば、十二を過ぎればちょうど成人の儀式を行う歳だ。そこでお前に一つ課題を与える)
その言葉は予測は出来ているものだった。昔から十二を過ぎたら成人の儀式を行い、私の力を試すと――そういわれていたのだから。だがこの時の私は、その言葉を期待と不安が入り混じった気持ちで聞いていた。ただの課題なら、それを乗り越えてやろうという決意ただ一つしかなかっただろう。しかしこの時に限って不安が強かったのは、きっとただならぬ師匠のその音を聞いたからだ。
私は深く息を吸い、揺らいでいた迷いを打ち消す。どんな課題であれ、私はそれを乗り越えて師匠から最強の術を教えてもらう――そう決心していたのだから。
「――何なりと――おっしゃってください。必ずその課題を成し遂げてみせます」
強い気持ちを込めて言葉を発すると、その音を聞いた師匠はうっすらと笑ったように見えた。響く心音が一瞬静まった。
(――お前なら、きっとそう言うと思っていたよ)
そう呟いて、師匠は私の背後を指差して言葉を続けた。
(ここからずっと東に海を渡ると、闇族の大陸がある。クーフ、お前はその大陸に進み、鬼族の城に行け。そこにいる鬼族の王に、あることを伝えてくるのだ)
師匠が言うには、鬼族は闇族の中でもまだおとなしい方で滅多に大陸の外には出ないのだという。しかし数日前、この島を経由して一人の鬼族が北方大陸に逃げたという。おそらくその人物を鬼族の王は探しているだろうから、そのことを伝えて来いと――そういうことだった。
(まあ恐らくは悪さをしたわけではないだろうが、闇族のものが国外に抜け出すと騒ぎになることが多い。極力その情報は向こうにも知らせてやるべきだからな)
もっと難しい課題が出されるだろうと思っていたから、師匠のその課題に、思いがけず私は一瞬気が抜けた。そんな私の音を聞いたであろう師匠が、マントを揺らしながら私に顔をよせた。
(――油断はするものでないぞ。闇族の大陸は危険だらけだ。そこに単身飛び込む危険が、わからないわけではなかろう?)
そのいたずらに微笑む師匠の表情に、一瞬しまった、と思いながら私は慌てて表情を引き締める。
「十分準備を整えて挑みます」
私の言葉を聞いて、満足げに師匠は微笑んで見せた。
(ではクーフ、期待しているぞ)
その課題こそ――私のトラウマになる出来事のきっかけになろうことなど、この時は知る由もなかったのだ――。
夢を見ていた。私に微笑んでいる少女の夢を。
いつも暖かく微笑んで優しさを投げかけてくれる、そんな真っ直ぐな好意に、私の心が満たされていることに気がついた。つないでいる手が温かい。そのぬくもりに癒されている気分だった。
微笑んで、つないだ手を見て恥ずかしそうにする少女は、私から離れようと手を離した。離したくなくて思わず手が伸びた。捉えれば小さく細い体は私の元に引き寄せられる。腕でそっと抱きしめると、そこから伝わる体温が温かい。そのぬくもりを、どれだけ自分が必要としていたのか――その時になってはじめて気がついたのだ。
そっと少女を離し、自分の両手を見る。赤に染められた薄汚れた手は傷だらけで、冷たく冷えていた。だがその手で少女を抱きしめると、手が少女の体温に温められていく。
――冷たくはない、暖かく柔らかな感触――
それが少女の生きている証だと思うと、ひどく胸が締め付けられた。嬉しさと彼女への切ない気持ちが胸に溢れていることに気がつく。
「リタ――傍にいて」
思わず名を呼んで腕の中の少女を見つめた。素直に気持ちを述べれば、いつもの藍色の瞳が大きく見開かれ吸い込まれそうになる。
「……もう、失いたくない――」
ナナリーの時のように、自分の無力さ故に大切な人を失うのはもう嫌だ。でも、今回は守れたのだ。私自身の力で――
それはとても誇らしく思えた。
「リタ――君は、ちゃんと守りきるよ――」
決意と想いを込めて口にすると、私の大切な少女は頬を赤らめた。それが愛おしくて、強く抱きしめていた――。
――目を開けると、そこは灰色の部屋だった。
夢を見ていたことに気がついて、私は再び目を閉じる。ああそうだ、私は――今、闇族王の城に来ていたんだ。
一つ息を吸い、動こうとしてはっとする。目線を下げれば、そこに黒い頭が見えた。それがリタだと気がつくのに、少々時間が必要だった。
「――リタ――?」
呼びかけても返事はない。響く呼吸の音と心音から彼女は寝ているのだろう。しかし――
「……参ったな……」
リタは私の腕を枕に、私に寄り添うように眠っている。まるで――いや、もしかしたら本当に、彼女を抱きしめたまま寝ていたのではないだろうか……。
昨日の流れを思い出して私は確信を持つ。そうだ、あの時リタを抱きしめてから――そういえばそこから先の記憶がない。お互いに泣き疲れて寝てしまったのだろう。
自分でやったことなのだが、それでもこの状況は気まずい。私はそっと起き上がり、リタを起こさないように腕を抜く。なんとか彼女を起こさぬようにベッドから抜け出すと、安堵のあまりため息が漏れる。一先ずこれでリタを困らせることはないだろう。
次に私は自分の体を見る。ミズミとの戦いでボロボロになった服は、上着だけを脱がされていたようでそれ以外の服は破れたまま、まだ着ていた。体の音を探りながら自分の体を見回す。どうやらリタの魔法で傷は大分癒えているらしい。それにしては――回復が早すぎる気がするが……。
私は音を立てぬようにそっと部屋の扉に手をかける。音も立てずに扉を開け、隙間から廊下に身を滑らせると――
静まり返った長い廊下の壁に、思いがけず一人の人物が寄りかかっていた。
「よく眠れたか」
ちらと視線だけを投げてよこす茶髪の人物は、案の定闇族王のミズミだった。緑色の瞳はどこか楽しそうで口元も歪んでいた。私が起きるのを待っていたのだろうか。
「――ええ、オカゲサマで……」
なんだか嫌な予感がしてカタコトにそう返事をすると、彼女は楽しそうな心音を響かせて一つ息を吐いた。
「――その様子だと、特別手は出していないようだな」
「……」
もしかしてリタのことを言っているのだろうか……。もしや、一緒に寝てしまったところを見られたのだろうか……。――彼女ならありえる。
そう思うと、額に変な汗が滲んだ。
「どうか……ダジトやスランシャには言わないでくださいね?」
ダメもとでお願いしてみると、闇族王はどこ吹く風、そっぽを向いてニヤついている。
「さて、何のことだろうな? 何を言わないで欲しいんだ?」
――なかなかミズミの性格は歪んでいそうだ……。ニヤリと意地悪い表情で笑う彼女は楽しそうに私を探っている。ガトンナフさん以来のこの返しにため息が溢れる。
「知ってて、そういいますか……」
「フン、お前たちの仲なら、何しようが誰も口は挟まんだろうが」
ミズミはそう言うが……正直あれ以上先は躊躇う。
「それより、お前たち――オレに聞きたいことがあるんじゃないのか? そう、確か――光の石とか言うものについて」
その言葉に私ははっとする。ウリュウの言葉の節々に見受けられた光の石のヒントを、おそらくミズミも知っているのだろう。無言で見つめていると彼女は静かに息を吸った。
「そうだな……お前の思っている通り、光の石についてはオレも知っている」
そう言って私に視線を投げるミズミの瞳は深い緑色をしていた。深いその輝きとともに発せられる音が思いがけず私の心の耳を打つ。ずいぶんと深く突き刺さる、それでいて透明感のある音だ。――もしかしたら、彼女のエンリン術は私以上に心音に敏感なのかもしれない。
そんな疑問を口に出さずとも、相手はそれを察したようだ。口元をわずかに歪めてミズミは笑った。
「……その通りだ。オレに嘘は通用しない。それはお前も同じだろう? 」
「ええ……」
答えながら私はうつむく。彼女の響かせる音は迷いのなく強い音だが、それでいてどこかに悲しげな音が見え隠れしていた。私の感じたことのある憂いよりも――もっともっと深く、怒りの込められた悲しい音――。
おそらく彼女は私以上に辛い音を、この術で聞かざるを得なかったのだろう。
そんなことを一瞬考えた私の思考が聞こえたのだろう。ミズミは軽く鼻を鳴らしてから静かに息を吸った。
「フン……そこはお互い様だ。いちいちそんな音を出すな。――それより、お前達全員目が覚めたら、四人一緒にオレの部屋に来てくれ」
視線を上げれば、何の感情も感じさせないような無表情でミズミが私を見ていた。あまり人に同情されるのは苦手なのだろう。思わず苦笑する私に、彼女は眉を寄せ不機嫌そうにまた視線を外した。そしてそのままくるりと背を向けると廊下を歩き出した。
「飯を食った後でいい。オレは部屋で待つ」
「ええ」
背中を見せたまま続ける闇族王に、私は短く返事をした。
「――ああそうだ、リタも起こして来い」
「――え」
急に立ち止まり、視線だけを投げてよこすミズミの一言に思わず声が漏れる。
「お前のせいで、リタはお前に添い寝したんだぞ。責任持って起こして来い」
言い終われば、くっくと肩をわずかに揺らして歩き去る、中性的な彼女の背中があった。
「…………」
振り向きもせず、しかし楽しげにそう去っていく彼女の背中を見て、私は何も言えずにうなだれていたに違いない。
――あんなことをしてしまったからこそ……気まずくて顔を合わせにくいのだが――。ミズミにああいう言われ方をされてしまうと返す言葉がない。仕方なく私は再び部屋に戻った。
部屋に戻ると、思いがけず椅子の上に服が置かれていることに気がついた。つまみ上げれば私にちょうどいい大きさだ。恐らくミズミの召使いがわざわざ準備してくれたのだろう。闇族の文化なのか見慣れない服だが、これを失敬し着させてもらうことにした。
着替え終わり、躊躇いはあったが……これを避けて通ることもできない。リタをなんとか起こそうと試みた。
「…………」
眠っている少女の顔を見つめ、そっとその頬に手を寄せて触れてみた。暖かな体温にホッとする傍ら、どうやって起こそうか迷う。声をかけるべきか、揺すってみるべきか……。こんな些細な事なのだから、気にしなければいいのだろうが――
起きた時のリタの反応を思うと、こちらもどんな顔をしていればいいのか考えこんでしまう。昨日抱きしめているのだから……謝るべきか――。いや、しかし、自分の素直な気持ちからの行動であれば、謝るのも何かが違う気がする。かと言っていつもの様子で気にしない素振りでいていいものか……。抱きしめた行動は彼女にとっても自分にとっても、意味のある行動だっただろうから……。
息を吸い、私は一つ決心した。頬から手を離し、そっとベッドの上に腰掛けると、彼女の顔を覗き込むように肘をついて少し体を斜めらせた。
静かに呼吸を続ける少女の顔は、あどけなさを残しつつも、美しかった。静かに肩に手を乗せ、小さく呼びかけた。
「――リタ」
静かにその肩を揺らすが、少女は小さく声を上げ……また静かに呼吸を続けた。……どうやらまだ起きないようだ。
「リタ……リタ……」
静かに起こそうとするが、その程度の揺れと声では起きないようだ。愛おしい寝顔に、少しイタズラ心が湧く。私はそっと少女の耳に口を寄せた。それこそ唇が触れそうなほど。
「リタ……リタ、起きて」
耳元でささやくと、思いがけず、リタが呻いた。
「ん……あ……うん……?」
わずかに呻いたのち、はっと効果音でもつきそうなくらい勢いよく瞳を開けた少女が、それこそ鼻の先が触れそうな距離で私と目があったものだから――
「うわあっ……! く、クーフさんっ……!?」
勢いよく上半身を起こして起きだしたその様子に、私は先程までの苦悩を忘れて思わず笑い出していた。
「はは、ごめんリタ……。なかなか起きないから、ちょっとイタズラしてしまったよ」
私の言葉に、リタは頬を赤らめて何度も瞬きして私を見ていた。
「え、あ、えっ、その……い、イタズラ……?」
急に起きただけでも鼓動が早くなっているだろうに、私の発言にさらに不安になったのか、頬を両手で抑えて動揺している少女に、私は微笑んで返した。
「ちょっと耳元で起こしてみただけだよ」
私の答えに、どこか安堵の表情というか、少し気落ちしたような表情をして、リタは大きく息を吐いた。
「そ,そうですか……。あ、朝からびっくりしました……」
そんな少女の様子に私はホッとしていた。昨日のこともあったけれど、相変わらずの様子は私を安心させてくれた。私は少女をしっかりと見つめたまま言葉を続けた。
「ごめんよ、昨日といい今日といい、私の我儘で振り回して……」
私の言葉に顔を上げ、案の定リタは何か言おうと口をひらいた。が、それを予想していた私はリタの唇を人差し指で制した。そう、指一つ、彼女の唇に触れそうなほど近づけて、発言を止めたのだ。急に唇に指を寄せられて、動揺した少女が息を吸うのを感じながら、私は言葉を続けた。
「でも……あれが昨日の私の素直な気持ちだから、行動を詫びるつもりはないよ。そして……辛い話を聞かせてくれて……聞いてくれてありがとう」
私の言葉にリタは何か一瞬言いかけたが、言葉に困ったのか、黒髪を肩からサラリと零すように俯いて恥ずかしそうに頷くだけだった。
彼女の様子に、私は少し安心してため息を付いた。頬を赤らめた少女が視線を上げて来たので、それに微笑み返すとますます少女は頬を赤らめてしまう。この可愛らしい反応がいつも通りであることは、不思議と愛おしさと安心感を覚えさせてくれた。
心配していたリタのこと、そしてナナリーの謎も一つ解けた今、最優先の課題はただ一つ……。――あの光の石だ。
一呼吸置いて私はベッドから立ち上がると、机の上に置かれていた帽子を手にとって言葉を続けた。
「ミズミ達が石の真実を知っている。まずはダジトたちの所に行こうか」
私のその言葉に、はっっとしたようにリタが顔をあげた。
「そ、そうでした……! 昨日、ダジトさんたちに、クーフさんの治療に行くって言ってきりだったから……し、心配してるかも……!」
慌てて立ち上がると、リタは扉に手をかけて私に振り向いた。
「案内しますね! 二人ともクーフさんのことすごく心配してたから!」
リタに案内されるまま、私達は広い城の中に飛び出していった。
案内されて二人のいる部屋に入った途端だった。私の姿を見るなり、二人共胸を撫で下ろして安堵の表情を浮かべた。
「よかった、クーフさん、もう動けるんだな!」
「リタも戻ってこないから少しだけ、心配してましたわ」
互いの無事を喜びあったのち、私たちは部屋に準備されていた食事を採った。
食事も終わりに差し掛かる頃、私は今朝方聞いたミズミの言葉を皆に伝えた。
「部屋にこいって――随分偉そうだな」
不機嫌そうに開口一番、ダジトがぼやいた。
「闇族の王ですもの、多少なり偉そうになるのは仕方ないんじゃないかしら」
スランシャがダジトの言葉にそう微笑む。
「でも、彼らから光の石の話をふってくるなんて……どういうことなんでしょう? そもそも、あの闇族王の狙いは、クーフさんとの力比べだったんではなかったんですの?」
スランシャの言葉に私が答えるより早く、リタが驚いたように声を上げる。
「ええっ!? ミズミってただ力比べするためだけに、クーフさんをあそこまで傷つけたの!?」
急に振り向いたものだから、彼女の動きに合わせてティーカップの水面が大きく揺れる。怒りのこもったその発言にダジトも同意する。
「全くだぜ! 力比べのためだけにあそこまで無理するなんてどうかしてるよ。オレ、アイツは信用できねぇ」
「でも、私の傷はこのとおり、全く何も心配ないよ」
私はそう答えて微笑んで見せた。それを見て、三人ともほっと表情を和らげる。
「でも、それにしたって、やっぱり信用ならねぇよ。闇族だぜ? またいつ、あんな戦いを挑まれるか、わかったもんじゃないだろ」
「ウリュウさんの件もありますし、なんだか狙いが読めなくて不気味ではありますわね」
ダジトに続いてスランシャも不安を口にする。しかし予想外にミズミの肩持ちをしたのはリタだった。
「確かに――闇族って怖いと思ってましたし、信用できないと思ってましたけど……でも、ミズミたちなら、結構大丈夫だと思うけどなぁ……」
呟くように下を見ながら言う少女の発言に、二人は驚いたようにお互い顔を見合わせる。
「リタ……お前だってさらわれたわけだろ……? しかもクーフさんにあんな怪我させたヤツだぜ? 大丈夫かよ」
怪訝そうに強く言うダジトの言葉に、リタも思わず声がしぼむ。
「それは……もちろん許せませんけど……。でも、こうしてクーフさんの怪我もすぐ治してくれたし……私もさらわれたけど、みんな逃げ出そうとしなければ親切だったし……。それになんだか……ミズミ、根は悪い人じゃない気がするの……。なんとなくですけど……」
その言葉にダジトが思わずため息混じりにうつむく。
「……リタがそこまで言うのは意外だな……」
「――いずれにせよ、光の石のことはウリュウが知っている。それは彼本人の口から漏れたことだから間違いはない。ミズミの話に乗って、ちょっと話を聞いてみようじゃないか。石に近付くヒントは彼らしか今はないからね」
私が立て続けに言うと、ダジトもスランシャも静かに頷いた。
食事を終えると、部屋の外で待機していた一人の老人に出会った。おそらくは城の従者の一人であろう。奇妙な体をしたこの老人は、私たちをミズミの部屋に案内してくれた。体は真っ黒で異様に細長い腕はまるで鳥の足のようだ。体を同じように黒いフードで覆い、その肝心の胴体がどうなっているのかは分からない。その背丈は私の膝くらいしかなく、まるで子供のような大きさだ。とても人間とは思えず、魔物の一種と思われてもおかしくないような姿なのだが、聞けばウリュウと同じように代々闇族王に使える一族でヤミガラスという種族らしい。
「ミズミ様が客を招くなど、日の国の方以来ですじゃ。どうか失礼の無い様に……」
曲がった腰を更に折り曲げて案内する老人は、奇妙に長い三本の指で王の部屋を指差した。
部屋に入れば、大きく豪華なソファに、寝転ぶようにもたれかかっている闇族王の姿が見えた。そのソファの両端に、黒髪のハクライと、緑の髪をした細い男、ウリュウが立っていた。今までのウリュウはあまりに緊迫感のない様子だったが、さすが王の隣に立つときは空気が違う。その二人の様は、王を守る側近の姿そのものだった。
「ようやく来たか」
闇族王は私たちを見て、その緑の目を細めた。
「さあ、大事な話をしようじゃないか。お前たちも知りたがっている、光の石の話をな」