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悪役女と攻略対象の勘違い攻防戦

作者: 甘味

ネタ的な短編。詰め込み過ぎてグダグダしてます。

逆ハーレム状態の悪役が攻略対象の想いに一切気が付かないまま、乙女ゲーム主人公の到来を願う話。


 


 放課後の体育館裏。夕日に照らされる1組の男女。彼は恥ずかしそうに口を開く。


「実は俺、吸血鬼なんだ」


 体育館裏の男女といえば、告白だろう。もちろん恋愛的な意味で。なんて昔の王道なことを考えたりして。だからこんな告白を私は求めていない。何が悲しくて仲の良い男友達にこんな冗談をこんなところで告白されなければならないのか甚だ疑問である。まあ、恋愛的意味での告白よりは良かった。彼のことは親友だと思っている。


「そっか」


 いつもの世間話のように笑う。彼、マルシス・フラメールは外国からの転入生だった。私はマルスと呼んでいる。高校生として一緒に入学し、もう一年が経ったし、きっと彼は日本のオタク文化に溶け込んだのだと思う。


 吸血鬼にハマったんだなぁ。と。


「...やっぱり君も吸血鬼なんだね」


 ルビーに似た瞳が嬉しそうに細まる。マルスの両手が私の両手をおおいかくす。


 うん。これは、どういう設定なのかな。私も吸血鬼設定なのか。のったほうがいい?


「日本の、ね。だからマルスとは性質が違う。今では人間と同じなの」


 のることにした。彼の設定がどうなってるかわからないから適当に。人間と同じにしとけば間違っても血を吸い合う冗談は出てこないだろう。一方的に吸われる冗談はあるかもしれないけど、自分がするよりは恥ずかしくない。...なんて考えてみるけど、流石にそこまでしないと思う。


「なるほど。だから日本の吸血鬼は滅びたって言われてるんだ...」


 マルスが瞳を伏せて悲しそうに言う。


 演技派ですね、マルスさん。そして顔が近いです、マルスさん。もっと言えば、身体が近いんですけどねっ。


 そして色んな設定が追加されていく。それに合わせて私も瞳を伏せた。


「そう。日本の吸血鬼が栄えた時代はとうの昔に終わったのよ。私たち一族は人間と同じ事をして、同じ時を生きるしかない...」


 この設定、なんだか楽しくなってきたぞ。厨二っぽいけど。この年で吸血鬼ごっこか!とか思わないでもないけど。


 私はマルスの手をやんわりと解き、彼の両頬に手を添えてみる。彼の目と私の目がしっかりと合う。あ。マルス、私の背に合わせて屈んでくれてたんだね、ごめん。


「ねぇ、マルス。それでも私たちを、...私を同胞として見れるかしら」


 ノリにのって哀愁漂わせて。


 マルスの目が大きく見開かれ、一瞬の沈黙。そして彼は震える声で口を開く。


「...見れるよ。人間の中に混じられると見つけられる自信はないけど、それでも、仲間なんだ。それに、関わったり歯を見れば吸血鬼の血を引くかどうかわかる。」


 私は、八重歯だ。一般的な八重歯よりも尖っているのがコンプレックスだけど。八重歯だから吸血鬼設定を持ち出したのか。納得。一応、コンプレックスなんだけどね。


「じゃあ、混血と純血、私はどっちだと思う?」


 挑発的な演技で。


 内心、吸血鬼といえば混血純血だよね!と、昔見たアニメを思い返しながら私はどっちか問う。さて、彼の設定の中で私はどっちになるか。わくわくする。


「純血。俺と同じ。歯の尖り具合と血の匂い、色素の薄さ、知識の有無、人間を見る目付きが純血の性質と本能に一致してる」


 やったね純血か。いやはや段々と細かい設定になってきた。人間を見る目付きってとこが物凄く疑問なんだけど、質問できない雰囲気なんだよね。なにこれ。


 もはや演技とは思えないほど真剣な顔をしてマルスは私を見下ろしていた。


「エドも、ルイも、アルも、俺も。満場一致で、君が同胞だと判断したよ」


「エド?ルイ?アル?」


 何か新しい登場人物出てきた!!

 まさか、吸血鬼ごっこって結構な規模で行われたりしてるわけ?


「エドは、エドモント・フュルスト・フォン・ヴェステン。西の貴族ヴェステン侯爵家の長男。

 ルイは、ルイス・フュルスト・フォン・オーステン。東の貴族オーステン侯爵家の三男。

 アルは俺の弟、アルフォード・フラメール。」


 いや、誰だよ。弟くんはまだしも他の2人は呪文か。長過ぎて覚えれない。侯爵家って、今どきそんなのないでしょ。設定だよね。そもそも存在する人物なの?本当に覚えられないんだけど。


 心の中で突っ込みを入れる。だって、どうせ遊びで設定しているだけなんだし。ここまで来たらうんと付き合おうじゃないか。私、女優になれそう。楽しいからまあいいや。


「...東西の侯爵家が、何故?」


「俺たち4人は東西侯爵家の支援で花嫁を探しに来たんだ。」


 マルスは跪いて私の右手の甲に唇を寄せた。なかなかっている演技だ。


「吸血鬼の、花嫁...」


 っておい!なんだそれ乙女ゲームか!

 もしかして、マルスってば乙女ゲームにハマったの?

 イケメンだから台詞に違和感ないね。


 ん?

 あれ?


 ...乙女ゲーム?ってなんだっけ?何言ってるの私。

 そう言えば、吸血鬼のアニメなんてこの世にないのに、なんで吸血鬼のアニメが頭に浮かぶの?

 何でマルスと同じ顔がそのアニメに出てるの?


 途端、頭の奥に20代の平凡な女性が見えた。


「そんな、まさか...?」


 動揺して思わず飛び出た独り言。マルスには今までの会話と繋がっていると捉えられる。


 そして今度は彼の手が私の頬に添えられる。


「思った通り。君が日本の次期当主なんだね、エリナ」


 煽情的な笑みを浮かべるマルスの姿を最後に、私の意識は遠のいた。キャパシティオーバーだ。
















 ************************
















 私は20代の女性だった。アニメや漫画が好きだけど、オタクと言うにはまた違う。どっちかといえばゲームオタク。いわゆるゲーマーだった。最も好きなジャンルはRPG。物語を進めながらレベルや能力を成長させるゲームが多かった。


 その種類なかの一つが、"人間と7人の吸血鬼"というR恋愛PGである。グラフィックは勿論のこと戦闘機能も充実している文句無しの作品だ。アニメ、映画、漫画にもなったほどの人気ぶりだった。


 乙女ゲームとRPGが組み合わさったものだったが、難易度が選ぶことができ、ふわふわのマシュマロに爪楊枝を突き刺すくらい簡単なものがある。それは難易度マシュマロと呼ばれ、戦闘描写が少ない上に自動的に流れていく。ゲームが苦手な人向けのものだ。多くの人はこの難易度を選んでいる。


 私はといえば、難易度が一番高いものに決まっている。この難易度では、物語に変化はないけど、戦闘を自分で操作して行うことが出来る。やはり手応えがなければつまらない。戦闘バトルに関してとことんこなしていた。と、前世について思い出したのはそれくらいだ。どういった経緯で今の私になったのかもわからない。




 "人間と7人の吸血鬼"の主人公ヒロインは17歳で、初期名が大園おおぞの 愛音かのんだ。高校二年生での転校から始まる。


 そして攻略対象は以下である。


 大公ヘルツォークである吸血鬼の兄弟、


 マルシス・ヘルツォーク・フォン・フラメール

 主人公ヒロインと同じクラスのフラメール大公家長男。普段は、マルシス・フラメールと名乗る。


 アルフォード・ヘルツォーク・フォン・フラメール

 主人公ヒロインの後輩となるフラメール大公家次男。普段は、アルフォード・フラメールと名乗る。



 侯爵フュルストである4大貴族の吸血鬼、


 エドモント・フュルスト・フォン・ヴェステン

 西の侯爵家長男。主人公ヒロインの先輩で、普段はエドモント・ヴェステンと名乗る。


 ルイン・フュルスト・フォン・オーステン

 東の侯爵家三男。主人公ヒロインの先輩で、普段はルイン・オーステンと名乗る。


 ヴォルフ・フュルスト・フォン・ノルデン

 北の侯爵家五男。主人公ヒロインと同じ学年で、普段はヴォルフ・ノルデンと名乗る。


 カストル・フュルスト・フォン・ズューデン

 南の侯爵家六男。主人公ヒロインの後輩で、普段はカストル・ズューデンと名乗る。


 他には、


 ウィリム・カーティス

 主人公ヒロインの通う学校の保健室教員。これまた吸血鬼。


 隠しキャラの8人目は、三河みかわ 晴臣はるおみという。やっぱり吸血鬼。日本の吸血鬼だけど、先祖返りで能力万能。



 ぶっちゃけると容姿も詳細もあんまり思い出せない。思い出せるのは若干の物語の流れと名前だけだ。マルスの場合は容姿もわかるけど。


 そして主人公ヒロイン大園おおぞの 愛音かのんは転校生としてやってくることになっていたはずだ。今から丁度1ヶ月後くらいだったと思う。


 それではここで、私の自己紹介としよう。


 私の名前ははなぶさ エリナ。主人公ヒロインと同じクラスの、言ってみれば、悪役やら恋の障害物。主人公ヒロインと同じただの人間である。人間。そう、ただの人間である。人間なのだ。大事な事だから何回でも言う。私は人間だ。


 覚えているだろうか。私が気を失う直前にマルスが言ったことを。


 そのことに関して私には一切身に覚えがない。遊びだと思ってたもの。私、本当に人間だもの。ゲームでもはなぶさエリナが吸血鬼なんて設定はなかった。つまり、私の演技がとんでもない事態を起こしている可能性がある。過去に戻りたい。


 これからの事を考え、嫌な予感と絶望感を抱きながら私は目を開けた。どうやらふかふかのベッドの上にいるようだ。保健室かと思っていたけど、見たこともない場所だった。片側だけカーテンがあり、様子が見えない。けれど、その向こうから数人の気配を感じていた。


「ああ、目が覚めたようだね」


 タイミング良くカーテンが開けられ、白衣の男性が近付いてくる。蕩けるような笑みを浮かべて。


「カーティス先生...」


 ウィリム・カーティスだ。女も羨む銀髪セミロングが歩く動きに合わせてサラサラと揺れている。


「急に倒れたと聞いたけれど、今の気分はどうだい?どこか痛いところは?」


 思い出した。この部屋は吸血鬼の存在を知った主人公ヒロインを一時期監禁していた部屋だ。今の言葉は主人公ヒロインが目を覚ました時にウィリム・カーティスから言われるやつだ。なんてこった!


 気分は最悪だよコノヤロー!という言葉は飲み込む。

 考えろ、エリナ。下手したら監禁される。一時期と言えどもそんなの嫌だ。


 こうなったら力無き日本の吸血鬼として演技を突き通してやる。一ヶ月の我慢だ。私ならやれる。やるしかない。


 だから早く主人公ヒロイン来い!!!



頑張って吸血鬼を演じることで監禁されるのを回避。攻略対象に絡まれつつのスクールライフ。全力で逃げたい。監禁やめて。

一ヶ月後、主人公が転校して来る。悪役に祝福の鐘が鳴る、と思いきや。見向きもしない攻略対象。何とか主人公と絡ませようと奮闘。

悪役の精神ライフはゼロに近い。主人公と攻略対象が仲良くしてくれない。一層の事、自分が人間だとばらそう。そうしよう。

正体ばらしたけど、何か勘違いされている。何言っても勘違いされている。上手い具合に吸血鬼だと思われる悪役。何故だ。解せぬ。

このまま自分は一体どうなる。てか、働け主人公。お願いだから。


そんなこんなの悪役物語。もはや悪役ではない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冗談だと思ってノッて見たら、本当な上に相手に本気にされた。 という、現実でもある流れとファンタジーが組み合わさってとても面白かったです。 続編が読みたい!
[一言] 面白い!! 続きが読んでみたいです(>o<)
[良い点] 面白かったです❗ 続編あったら絶対見ます❗
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