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機霊戦記 ――黄金の女神・暗黒の女神――  作者: 深海
一の巻 黄金の女神
24/60

22話 ルノ(?)

『こちら国際ナノビジョン、帝都フライア皇帝広場前中継席です。

 本日、神聖エルドラシア帝国帝都で凱旋式典が行われております。

 目抜き通りにえんえんと並び続く、この壮麗なる花の神輿のパレードは、先の大陸(ユミル)東部戦区での通算五十回目の戦勝を記念するものであります。

 神聖エルドラシア帝国は、今回も皇帝陛下自らが参戦。

 煌帝国の女帝機を圧倒し、植民星ケンタウリとの玉鉱貿易優先権を勝ち取っております……』

 

「うわ、派手派手しい。何あの山車(だし)みたいな乗り物。けばすぎますわ」 

 

 すきまがめだつトタンの壁。枠組みがむき出しの、小さな小屋。ニンニクだの干しハーブだのおたまだのしゃもじだの。雑然と物がぶらさがっている狭い台所になにかいる。赤……僕の目には黄色に見える、赤いはずの前髪をかきあげながら、ずずっと合成豆湯をすする女……もどき。


「あちっ」


 桃色であろう、だが僕の目にはうすい黄色に見えるワンピースにこぼしそうになって、あわててカップをすすけた卓に置いている。

 肘つく卓にかっちりはまる、小さな四角い画面に映っているのは、島都市(コロニア)国際ナノビジョンの実況生中継だ。


『みなさま、たった今、親衛隊に守られた皇帝陛下が凱旋門をおくぐりになられました。銀髪碧眼のお美しい陛下のお姿が見えます。陛下が、門を抜けられました!』


 天界下界問わず、全世界に発信している映像。

 ナノビジョンの中で、番組の実況アナウンサーがここぞとばかりに語気に力を込める。


『今、女帝陛下が広場から宮殿へ飛び立ちます! 青き宝石をちりばめた、美しい黄金(オーロ)の翼が展開しております!』 

 

 女帝? あれは男だろうに。

 画面に映るエルドラシアの皇帝は、息を呑むほどの美少年だ。

 うりざね型の顔。鋭いまなざし。ばら色の唇。目つきは悪いが、眉目秀麗で美しい。

 その右肩に顕現している機霊の神々しさといったら……。

 

「真・皇帝機光輝武帝(ブリュンヒルデ)……アレイシア・ノイゴールドシュタイン……」


 黄金(オーロ)の光を放つ機霊は、勇ましい戦乙女の姿。羽のついた兜。きらめく竜鱗の鎧。たなびくサーコート。ふわふわと、黄金のツインテールエンゼルス・フリューゲルが豊かに揺れている……


『女帝陛下は宮殿へ向かっております! アレイシア・ノイゴールドシュタインの光体翼のきらめきの、なんとまばゆいことでしょう! 帝国の守護神、黄金の女神が陛下にほほ笑みかけております!』


 赤毛のはずの女もどきが、向かいにどっかり座っている白髪の老人をちらと見る。

 シング老は、卓に映っている映像には無関心だ。右目に嵌めた拡大鏡で、女もどきが持ちこんだ蒼い結晶を鑑定している。

 

「ぬう、ロッテくん。これは……」

 

 リアルロッテ・シュテレーヘンはときどき、街の瓦礫撤去を手伝いに来る。

 今日もその作業をしていて、溶けたビルの割れ目から、その結晶を見つけて拾ってきた。

 彼はにやっとして、ワンピースの隠しからもうひとつ、結晶を出して見せた。


「じゃーん。ご覧になって、シングさん」

「ぬ? 同じ物がもうひとつ?」

「これは、このまえあたしが敵と闘って、死ぬような思いして分捕ってきたやつ。同じ物よね」

「ということは、瓦礫から出てきたのは、エルドラシアが半年前回収しそこねたものかの」

「そのようですわ。帝都詰めの機霊は、翼にみんなそいつをつけてるみたいですわよ」


 シング老はナノレベルまで見えるらしい拡大鏡で、まじまじと二つの結晶を検分した。


「輸入品じゃな。ふむふむ、この構造、Γ(ガンマ)星雲第58番惑星に特有の組成のようじゃのう。帝国があそこらへんと貿易を始めて十年ぐらいになるかの。これがエネルギーを蓄積できる結晶体か」

「取り外しは簡単みたい。つまり他のエネルギー源から充電できますの。だから天使自体の生命力を削らず、高出力の波動を撃てるってわけ。でもエネルギーが切れたら打ち止めになりますわ。そこまで耐えれば、勝機はあるのだけれど」

「ふむ。しかしおまえさん、よくがんばっとるのう。五十回目の東部戦区戦での損失は、はんぱなかったじゃろうに」

「ええ。ほんと死ぬかと思いましてよ?」

 

『これよりエルドラシア女帝陛下が、次の戦に挑む息込みを表明なさいます!』


――「けっ! 何が意気込みよ。大量殺戮者っ」


 リアルロッテは歯軋りしてナノビジョンを切った。

 彼は僕が目覚めたころ――すなわち三ヶ月前に、ついに就職先を見つけた。

 半年前に即位したエルドラシアの新皇帝が、こやつの故郷である島都市シルヴァニアを、赤い大地に「墜とした」ことが発端だ。

 なんでも、新皇帝によって元老院を追われた失脚組がシルヴァニアに集まり、反乱を起こしたらしい。帝国は、反乱分子がそこに集結しきるのを待って強襲。反乱軍を一網打尽にして拘束し、シルヴァニアをそのまま流刑地としたとたんに、大地に墜としたそうだ。なんとも情け容赦ない。


「クソ女帝……絶対許さねぇ」


 怒りが再臨したのか、リアルロッテの言葉が地に戻る。

 シルヴァニアが墜ちたところには、下界で二番目に大きいといわれるジャンハイの街があった。人口八十万人。百万都市だったコウヨウと同じく、機関石を使った蒸気機関で船や乗り物を作って、大いに栄えていた街だ。シング老曰くジャンハイには、エルドラシアの最大の仮想敵国である(ファング)帝国の隠れ拠点が、多く在ったらしい。

 落下衝突により、シルヴァニアに拘束されていた反乱軍はほぼ全滅。ジャンハイの街はこっぱみじん。

 シルヴァニアの民やジャンハイの民は避難を急いだが、間に合わず犠牲になった者は少なくない。リアルロッテは家を失くし、家族も失った。たしか父親を……


「絶対あきらめねぇ……これからも、戦区戦には女帝が自ら参戦しやがる。まだあいつの間合いにぜんぜん近づけねぇけど……いつかきっとあいつを倒してやる。この手で」

 

 リアルロッテはいまや復讐に燃え(ファング)帝国の傭兵団に入っている。

 エルドラシアの最大の敵にして、分離型機霊でもOKという、破格の入団条件のところに飛びついたのだ。

 戦区戦で再三やられてくるが、毎回しぶとく生き残ってくるのはやはり……テル・シングが、アホウドリサイズのミケル・ラ・アンジェロを強化しまくっているからだろう。


 地下工房が無傷で残ったのは、実に幸いなことだった。

 その工房からトタン張りのバラック小屋に上がってきたシングの孫が、あわわとリアルロッテのもとにやってきた。


「ひいいいい! ロッテさん! ロッテさあああん!」


 その腕には、大きな背負い型の機霊機がある。


「ロッテさん! 早く背負って! 機霊機背負ってえええ!」

「ぐあふ!」


 目玉をかっ開いた鬼気迫る表情で、シングの孫はリアルロッテに機霊機を背負わせた。

 とたん、ぎゅるぎゅると勝手に、女もどきの左肩に二枚目の相棒が現れる。

 ミケル・ラ・アンジェロ。銀鎧の騎士だ。

 

「どどど、どうし……たんですの、テル・シング?」

「ミッくんが、今すぐロッテさんに会わせなかったら、合掌翼ぶちかますって駄々こねてええ」

「ひっ? 合掌翼って、今回注文した攻撃機能じゃないの。もうつけてくれたの?」

「そ、そりゃあ、ざっくりてきとうに、ちょちょいっと……」

『ロッテ! いとしの君! 会いたかった!  私たちは、もう二度と会えないかと……!』

「はぁ?! 離れてまだ一時間も経ってませんわよ!」

『たとえ一瞬でも、君と離れるなど耐えられぬ』

「分離型のくせに何ほざいてますの?! いいかげん単独メンテに慣れなさいよ!」

 

 情けない顔で女もどきの腰にしがみつく銀鎧の騎士。

 上目遣いのうるうる目だと? ……キモイ。これは果てしなくキモイ。

 

「テル・シング! こいつの性格も今すぐ叩き直して! 後生だからっ」

「それは無理だってば、ロッテさん」


 テル・シングは冷や汗たらたら。苦笑しながら、頬を人差し指で掻いた。

 

「ミッくんは純粋な機霊じゃなくて、ロッテさんのご先祖さま。実際に人間として生きた人なんで……」

「それはこないだ聞きましたわっ。機霊機内部に、ミケルってやつの魂を移植したっていう碑文があったとかないとか」

「そうなんっす。AIじゃなくて本物の人魂が、この機霊箱に封印されてるわけだからさ。つまりなんていうか、幽霊が憑いてるのと同じ? 魂が宿ってるモノがAIチップじゃないんで、改造は無理……」

『もう嫌だ! 改造は嫌だロッテ! 家に帰りたいっ。私の城にっ……』

「ミッくん、お城はもうないって、何度言ったら理解してくれますの?!」

『あ、ああ、そうだった……我が城は瓦礫に……ううう! 許すまじエルドラシア皇帝!』

「はぁ……せめて老人ボケだけは直んないかしら……」

「無理っすね。えっと、あとひとつ部品つければ終わるんで。ロッテさん、機霊機背負ったままじっとしててください」


 いやだとわめく機霊を、シング老がなだめた。その部品は反動調節弁だとか、つけないと女もどきが、強烈なGと衝撃をもろに味合わうことになるとか。穏やかに優しく諭した。

 さすがシング老だ。みるまに年寄り貴族がおとなしくなった。

 僕は老技師を褒め称えるべく、ぱしりと尻尾を床に打ち付けた。


「よっしゃ終わったー。これで今回のメンテとチューンナップは完了! 俺も豆茶のむー」


 ざっくざっく黒い粉をカップに入れて、魔法瓶でどぽどぽ湯を入れるテル・シング。その足元に、額と尻尾が禿げているネコがまとわりつく。


「テル、おつかれさまー」


 僕はもう一度ぱしりと尻尾を打った。

 バラック小屋の窓からさんさんと、日の光が差し込んでいる。床には陽だまり。僕はそこにうずくまり、目を細める。暖かくて、よい気持ちだ……。


「うっへえにが! 砂糖! じっちゃん砂糖どこー?」

「ここにあるわよ、テル。流しの棚に」

「おお、さんきゅ! プジ」

「タマはさすがじゃなぁ。かしこいのう」

「じっちゃん、タマじゃないって。こいつはプジ」

「おや。そっちがタマじゃったかな」

「ちがうって。そっちのはルノ」


 テル・シングが僕を指差す。僕はのんびり体を伸ばし、自分の白い毛をなめた。

 シング老が席から立ち上がり、禿げネコにカリカリを与える。僕の目の前にも、茶色いカリカリがはいったお椀がことりと置かれる。これを体の中に入れないと、動けなくなる。味もよいから、僕は抵抗なくそれを食べる。

 人間の食事もそろそろ作ろうかの、とシング老が流しにいくと、リアルロッテが席を立った。

 卓にはきらり、もちこんだ蒼い石がひとつ。


「さてと。ちょっと瓦礫掃除してから営舎に帰ろうかしらね。それでそのう、メンテ代金なんだけど。とりあえずその蒼石の結晶で、払ってよろしいかしら?」

「ほうほう。今までのツケも今回の費用も、このふたつの結晶で十分じゃ」

「ほんとに? わあ、助かりますわ」


 エルドラシアの最新鋭機は、蒼い結晶石を左右七個づつ、計十四個つけている。さっきナノビジョンのアナウンサーがそう説明していた。エルドラシアの力はすごいと言わんばかりに。

 最新鋭機は、先日ナノビジョンでお披露目されたばかり。融合型だが、主人の生命エネルギーを吸収するという、融合型のデメリットを完全に無効にできる。あらかじめ別のものからエネルギーを蓄えておいた蒼い結晶で、消費エネルギーをまかなうことができるデバイスを持っているからだ。

 つまり結晶をたくさんつければ、計測不能域の高出力も可能となる――。

 

 僕は身を起こして、小屋の外へ出て行くリアルロッテについていった。テル・シングと禿げ猫も一緒だ。

 きゅりきゅりと猫目の人工眼を動かせば、あたりは一面焼け野原。そこかしこに瓦礫の山ができている。遠くには、沈んだビルの廃墟がひとつの城のようにそびえている……。

 

 半年前。

 コウヨウの中央区にあったビル群は、アルゲントラウムの熱で溶かされてかたまり、ひっつきあった。今はおどろくほど巨大な、異様な形の黒い建造物と化している。ぐにゃりとまがった塔がいくつも集まってできた、要塞というべきか。

 現在その内部に、たくさんの人々が住みついている。破壊の混乱を利用して、あまたあるコウヨウのギルドをひとつにまとめた「統一ギルド」なるものが、そこに住む人々を支配している。

 ボスはあのドラゴギルドのイサハヤだというから、驚きだ。

 いったいどんな真似をして、その地位を得たのだろうか。


「プジ! ルノ! いくぜ」


 テル・シングがすすけたテケテケのエンジンをかける。僕と禿げ猫はニャーと鳴いてうしろの二台に乗った。テケテケは、どでかい翼を広げて飛び始めたリアルロッテを追いかける。

 狭かった路地は、広くなった。そこここに、新しい建物がちらほら見える。以前のように高層ではない。平たい小屋がかなりの数ある。仮設住宅だ。

 僕らはほどなく、巨大な瓦礫の山に行きついた。黒いビルの高さに及ぼうかという、まさに山。街のいたるところに、そんな山がいくつもできている。

 それはかつて、びっしり密集して建っていたビルの瓦礫だ。


「プジ、接合(ティー)!」


 テル・シングが猫を背負って黒い竜翼をだす。第一次形態だ。その姿でなかば飛びながら、どでかい爪のついた手袋をはめ、いまだ道路にころがる瓦礫を拾い、山に寄せる。赤毛の天使も爪つきの手袋を装着。テルと同じことをしている。彼らだけではない。たくさんの人々が、せっせと瓦礫を積み上げ、地面をきれいにしている。


「ニャークト!」 


 僕も翼を広げた。コマンドとともに、白い竜翼が展開する。禿げ猫が出す翼とまったく同じで、色だけが違うものだ。

 猫の形をしている体が変化する。すこしふくらみ、腰骨が変形し、二足歩行型になる。肉球がついていた手は、第一形態の禿げ猫のように指と爪がぐぐっと伸びて。コンクリートやギヤマンの破片をつかむのにうってつけのアームとなる。

 

「ニャー!」


 そうして僕は、半壊したまま立ち枯れているビルの根元から、折れた建材を拾い上げる……

 毎日こつこつ。僕らは地を埋めつくしたビルの残骸を拾い、積み上げている。この地に新しい建物を建ててもらうために。

 

「ニャー……」


 しかしこれが、罪の償いになるのだろうか。

 ……わからない。

 わからないが、やらずにはいられない。だから僕は、今日も瓦礫を拾う。


 百万人いたコウヨウの民。半年前、アルゲントラウムの光を浴びた彼らは、幸いにして大部分が生き残った。人々は街の中央部が崩れ行くのを見て危機を感じ、いちはやく避難し始めたらしい。シング老のように地下にシェルターを作っていて、惨事をしのいだ者も多かったようだ。

 とはいえ百万のうちの大部分、だ。犠牲者は、十万に及んだのではないかといわれている。

 焼け出された人々は、他の都市へと流れていった。大過の直後に焼け野原に戻ったのは、ごくわずか。しかしコウヨウは遺跡にほど近い。資源にもっとも近いところにあるゆえに、毎日ぼつぼつと人が戻ってきている。

 みんな、復興と新しい建築に熱心だ。かつての東区、北区はだいたい整備が終わった。この南区も、もう少しできれいになる。

 きれいになったところから、宅地造成や建築が始まっている。建材は瓦礫の山。溶かせるものは溶かし、組めるものは組み。再利用しまくっている。

 近隣の都市からの援助のみならず、交易人がどっと物を売りつけにやってくるので、お腹がすくということはない。

 人の力とは、すごいものだ……。

 

「うひょ! ショージの会社が、またここに工場建てるってさ」

 

 テルが端末を見て喜んでいる。テルの友人は、会社の支社がある街へ引っ越していったのだが。


「あいつ、新工場建設の責任者として戻ってくるらしい! やったぁ!」


 コウヨウとジャンハイ、二つの事業所を失ってなお、友人の会社はもちこたえている。すごい、のひとことに尽きる。


「へへ。これで復興に拍車がかかるぞぉ!」

 

 僕と同じものが懸念するのがなんだかわかるような気がする。

 いつかきっと、下界の人たちは天の技術を陵駕する。

 そんな気がする――


「今日はここまでにするかー」


 空に星がまたたきだしたころ。赤い天使は天へ帰っていき、僕とテル・シングたちは家へ帰った。

 

「そうそう、先週上級者遺跡(ヨコスカ)にもぐったハル兄がさ、帰ってくるよ」


 う。


「下層までいったけど、負傷してギブアップしたってさ。やっぱお前に協力してほしいなぁとか、メールでぼやいてるぜ」


 ハル・シシナエは苦手だ。再会したとたん土下座。ついでに頬ずりされたが、まだまともに話せない。

 

「ま、嫌なら、のらりくらーり、かわせばいいさ。それよりそろそろ……」


 夕飯のカリカリを僕に出しながら、テル・シングはじっと僕を見た。


「そろそろ、新しい入れ物ができあがるぜ? どうする、ルノ?」

  

 僕を大地に落としたあいつは、魂を移す技術を自分が開発したといっていたが。たぶんそれは間違いだろう。

 リアルロッテの機霊は、もとは人間。機霊機に人の魂が宿っている。


『我らはここに、シュテレーヘンの当主を永遠に封じ込めたり』


 命令なしに出てくるミケルの挙動からすると、667年前に刻まれたという碑文の言葉は真実……と判断できなくもない。

 そして。今この世にその技術を持つ者が、もうひとり……

 

「なぁ、いつものお見舞いがてら、見てみなよ。じっちゃんに、カプセル開けてもらうから」


 僕はぱしりぱしりと長い尻尾を打って同意の意志を示した。

 今の入れ物はニャーとしか喋れない。はじめはこれで十分と思ったが、今は禿げ猫と同等の発声機能が欲しくなっている。

 

「きっと、もっともっとイケメン猫になるのね」

「今度は犬かもしんないぞ」

「犬はこわいわ。イケメン猫にグレードアップだったら、あたし喜んじゃうかも」

「いやいやオオカミいいぞ。かっこいいぞ」

「テル、そこはヤキモチ焼くとこよ。なんでわざわざあたしの天敵をあげんのよっ」


 いつもの夫婦漫才が始まる。この二人は本当に仲がいい。

 カリカリを平らげた僕は地下へ降りた。自分の入れ物。それも気になるが。


「ニャー」


 工房へ入るなり、僕は四角いギヤマンケースに走り寄った。

 きらきらと、かすかに黄金の光が漏れているところへ。

 一目散に。

 

テルの猫名由来はたぶん

プジョーとルノーからだと思われ…(・ω・(フランスの自動車会社)

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