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機霊戦記 ――黄金の女神・暗黒の女神――  作者: 深海
一の巻 黄金の女神
16/60

14話 騎士 (皇帝)

 ハル・シシナエ。

 

 その名を聞いた瞬間、イサハヤのふんいきががらりと変わった。

 まるで、暗い部屋にぱっと朝日がさしこんだように。

 

「まじで?! おおおお! ハルちゃん!」


 端末に話すその声はからっと明るく、別人のよう。

 

「どうした? うちに戻る気になったか? そうだよな? きっとそうだよな? 今どこにいんの? 電光石火で迎えにいくぜ!」


 そうしてイサハヤは、女を連れていそいそと外に出ていって。

 僕はひとり、暗い部屋に残された。

 扉を施錠せずに行くとは、ずいぶん舐められたものだ。


「このようなところ。すぐに出てやる!」 

 

 手首の鎖は寝台のすぐそばの壁、銅色の金属板から突き出た輪につなげられている。

 金属板は実に奇妙なものだ。板の四隅にはまっている小さな歯車が、ゆっくり回転している。しかし耳を当てねば回転音が聞こえぬぐらいの静かさだ。歯車の中央に埋まっているのは、宝石だろうか。ほんのり淡く光っている。

 

「こわれろ」


 スイッチかと思い、宝石を押してみる。歯車は……止まらない。 


「こわれろ。こわれろ!」

 

 殴ってみると、歯車の動きが一瞬鈍くなった。


「こわれろ! こわれろ! こわれろ!」


 かかとで何度も蹴ってみた。だが歯車はことのほか頑丈で、衝撃を受けたときだけ止まるものの、またゆっくり回りだす。

 絶対に壊せない――そんな自信があるから、イサハヤは扉に鍵をかけていかなかったというわけか。

 妨害電波かなにかで圧掌波(ブレス)は使えない。どうしたらよい?

 途方にくれかけた僕の背中が、じりっとざわついた。


「アル?!」


 痛み? 違和感?

 否、この感覚は生まれた時からなじんできたもの。

 かすかにちりちりと音がする。背中から鼓動が……!


「アル! 起きたのか?」

 

 アルが出てきさえすれば、僕は難なく、ここから逃げられるだろう。

 鎖など、アルが神槍で一瞬の内に溶かしてくれる。

 あの窓から悠然と、飛んでいける。空を渡って天へ戻れる……!

 期待をこめて窓を見たとたん。突然激しい衝撃音がした。

 

「なんだ今のは。どこから鳴った?!」


 窓からか! 寝台の真横にある窓はかなり大きい。そこに何かがぶつかったようだ。でもこの階はかなり高層に在るはず。こんなところに当たってくるなんて、いったいなんだ?

 

「あ……!」


 青黒い影が窓をかすめる。また激しく、なにかが窓にぶつかった。

 鳥? それとも……

 影を見極めようとすると、べたりと黒いものが窓にはりついてきた。

 上から落ちてきたようだが、窓一面にみるみる広がって……


「光った?!」


 反射的に、僕は扉の方へあとずさった。何個も何個も、ほのかに黒光りするものが窓にぶつかってくる。そのまま落ちていくものが多いが、べしゃりとはりついたものはみるまに広がり、窓を覆っていった。

 これは……なにかまずいものにちがいない。窓にひびが入るなど、決して、ここの住人が望むことではないだろう。

 いくらもたたぬうちに窓が割れた。寝台に落ちた破片は、端末板を五枚以上かさねたほど分厚い。

 これを、あっという間に割っただと?!

 黒いものがどろどろと、窓枠から流れ込む。生きているかのようにうごめき、壁にひろがり、またびきびきとひびを作っていく。

 

「風が!」


 窓があったところから、涼やかな空気がびゅうびゅう流れ込んでくる。

 風と一緒になにか入って来た。黒い塊……いや、人間だ。まっくらだから顔はよくわからないが、男か? ひとり。ふたり。三人、四人。抱えているのは、大きな銃。


「潜入成功!」


 くぐもった声。


「目標発見!」


 ちかづく硬い足音。


「確保する!」

 

 軍靴? いや、服装はみんなばらばらだ。黒っぽかったり青かったり赤かったり。

 こいつらは、兵士じゃないのか? 中の一人が、耳につけた小さな飾りをひっぱって言葉を落とす。


「ボス、見つけました! はい! はいっ! 了解です。すぐにお届けします!」

「やったな。ドラゴギルドのやつら、地団太踏むぞ」

「はは。うちのボスに鼻高々に自慢するなんて。盗ってくださいって言ってるようなもんだろ」

「イサハヤは二代目でほんとバカだからな」

 

 

 なるほど。つまりこやつらは、ドラゴギルドと同じような団体の者というわけか。

 こやつらのボスも、ここのイサハヤと同じことをしたいのだな。

 僕をとらえて、僕のではなくなったエルドラシアに売り渡す――。

 

「来いよお姫さま」


 いやだ。来るな。さわるな。


「こわがらなくていいぜ。ボスがかわいがってくれるさ」


 こちらに向けられた銃口が、冷たく光る。噴き出す青白い炎が、僕の足元を照らす。

 まっくらな部屋にまばゆく火花が散って――


「ほら、これでここから出られるぜ?」


 鎖が、切れた……!


「おいこら!」「待て!」「どこへいく!!」


 く……背後の扉に回り込まれたか。でもまだ、開けているところはある。

 男たちのすきまを縫って、僕は走った。

 割れた窓はもうあとかたもなく、黒くどろどろ広がるものは、壁をもあらかた崩している。飛び立つには、十二分だ。こんな高さ、こわくなどない。宮殿のバルコニーとさして変わらぬ!

 だから呼んだ。いつもそうしていたように。


「アル! 展開(ディストリクト)!」


 床のきわで思い切り、足を踏み切った。じゃらりと鎖が鳴って、いくばくかの重みによろけた。

 黄金の光は出てこない。でも背中は、ちりちり言っている。


「アル! アルゲントラウム! 起きろ!!」


 浮遊感。その直後に落下感。

 落ちる。落ちる。

 だめなのか?

 このままだと、地べたに叩きつけられる。

 こんな状況――僕の命がなくなる可能性が高い状況なのに、アルは出てこない。

 出られないのか? 鼓動は聞こえるのに。

 だれもが僕を探して売ろうとしている。ラテニアにいってもたぶんそんな輩ばかりなような気がする。味方になってくれる者はいないかもしれない。

 つまるところアルを治してくれる人は、どこにもいない。

 アルにもう会えないなら僕は――

 

 かぶっていた毛布がふき飛んだ。空気をはらんでいたものがなくなり、落ちる速度が速くなる。

 悲しくて、両手で顔を覆った。

 死んだら楽になる……のだろう。

 蟲どものうごめくところでつぶれて果てるとか、最低だ。赤毛少年や黒髪男の言うことが本当ならば、それが妥当な死に様なのかもしれない。皇帝ではなくて、ただの人形なら。

 

 ああ、なに弱気になってるんだ。

 アルはまだ生きてるんだ。死んでない。死ぬものか――


「起きろアル!!」


 怒鳴ったら、ふしゅっと背中がひりついた。

 ああ、聞こえてる。僕の声が聞こえてるんだ。必死に出ようとしてくれてる。


「顕現しなくていい! 結界だけ展開しろ!」


 地が近づく。ふしゅふしゅと背中が鳴る。パッと黄金色の光がまたたく。

 黄金(オーロ)の翼だ……!

 ほのかに自分のまわりがきらめきだす。輝きが、ほとばしる――


「そこの天使っ!」


 な? 影? 黒い? 大きい?

 目の前におりてくる物体。丸くてずんぐりして、ぶんぶんうるさい。

 視界が閉ざされる。ネオンに満ちた地上が、闇色のものにさえぎられた。

 

 邪魔するな。邪魔するな。邪魔するな!!

 アルが出てきそうなのに。もう少しで、出――


「なんて無茶するんだ!」


 黒い革の上着が見えた。ぐいと、腕をつかまれた。革の手袋をした腕が腰にまわってくる。

 こいつは……!


「起動不良起こしてるのに、飛び降りるなんて。地べたはすぐそこだぞ」

「な……なんでおまえが?!」


 ハル。

 ハル・シシナエ。

 ドラゴギルドのイサハヤを呼び出した男が、落ちる僕を受け止めていた。変な乗り物に乗って、ホッとしたような顔で。


「離せ! 大きなお世話だ!」


 ハル・シシナエの腕力は強く、僕はこやつの胸板にむりくり頭を押し付けられ、手足の動きを封じられた。たくましい手が、ずんぐりした乗り物のレバーを引く。蜂の羽のような四つの翼がぶうんと音をたて、ビルの上に舞いあがるのと同時に。僕の背中がふしゅんと、断末魔のような悲鳴をあげた。


「助けなど、いらなかった!」 


 強がりだ。

 でも僕は、叫んでいた。自分が情けなくて。ひとりではなにもできないと、認めたくなくて。


「僕は飛べるのだ! こんな、こんな不細工な機械になど、助けてもらわなくとも!」

「わかってる」

「僕はこんなものよりもっと高く、速く! 飛べるのだ!!」

「わかってるよ、きれいな天使」

「飛べるのに!!」

 

 ハル・シシナエの金の髪は、黄金(オーロ)の光のようで。ジャングルのようなビルが放つ明かりに、きらきら照らされていて。 


「もう大丈夫だ。だから泣くな、きれいな天使」


 とても、まぶしかった。


「とりあえずあそこの連中から逃げるぞ。暴れないで、しっかりつかまってろ」

 

 革手袋をした手が、天を指さす。

 頭上に大きな影があった。ふしゅうふしゅうと蒸気を出す、巨大な魚のようなものが。

 

「蒸気船……」


 ひときわすさまじい煙が、胴体から吐き出されて。刹那、僕の視界は真っ白に染まった。

 両目が、つぶされたかのように。





 ハル・シシナエが操る乗り物は、ぶんぶん羽音をたてながら、ビルの合間をかなりの速さで飛んだ。

 同じような乗り物が四機、僕らのあとを追ってきた。イサハヤの部屋に侵入してきた者どもだ。

 うるさい羽音に混じってくる怒鳴り声からすると、ハル・シシナエは「裏切り者」らしい。

 奴らもハルも、ビルの上を飛ぶ巨大な蒸気船から降りてきたようだ。

 

「裏切り者とは、どういうことだ?」

「ついさっきまで、あの船にいるボスと話してた。ギルドに入らないかと、誘われたんでね」

 

 蒸気船は、タイガギルドという組織のもの。ドラゴギルドと同規模の大ギルドで、日頃から何かにつけ、はり合っているという。


「お誘いは丁重に断ったが、それじゃそっけないかなと思って、ボスにちょっと協力してやったんだ。ドラゴギルドが確保した君をほしがってたから、イサハヤを外におびき出してやったのさ。この飛行機(ブンブン)は、その報酬ってわけ」


 盗んだわけじゃない、ちゃんともらったものだと、ハル・シシナエは笑った。

 そうしておいてこの一匹狼は、僕という獲物をやつらの目の前からかっさらったというわけだ。


「つまり……タイガギルドのボスに近づいたのは……僕を手に入れるためか? おまえも、僕を帝国に売るつもりというわけか」

「はは、どうしようかな?」

  

 僕の腰に回る手に力が入る。乗り物が斜めにかたむいたとたん、すぐ脇を青白いビームが走った。

 追っ手が撃ってきたのだ。ハル・シシナエは舌打ちして、片手でレバーをいじった。

 

「しっかりつかまれ!」


 機体がさらに傾く。左右をすりぬけていく、幾本もの明るい弾道。紙一重のところでかわしながら、ハル・シシナエはがつんとかかとを、機械の底に打ちつけた。直後。


「うわっ? 蒸気?!」


 なんて勢いだ。音もすごい。蜂のような船尾から、白い蒸気が噴出している。

 速さが格段にあがったにもかかわらず、乗り物はビルとビルの狭い隙間へ飛び込んで行く。

 

「ブンブンは機霊よりも速いぞ、きれいな天使」

「でも駆動音がうるさい」

「蒸気機関だからそれは仕方ないさ。ずうっと燃焼しつづける、小さな機関石から得られる高圧の出力は――」

「わっ」

「石炭の百倍って話だぜ?」


 乗り物がぐるりとひっくり返る。くそ、逃げられるチャンスだったのに。思わずシシナエの胸をつかんでしまった……

 

「空はまずいな。うようよしてるのは、あいつらだけじゃない。他のギルドにも情報が抜けてる」


 うしろで爆音がした。見ればこちらのスピードについていけず、追っ手が一機、ビルに激突していた。ビルの隙間は迷路のようで、シシナエにしがみつく僕の頭はふらふらしてきた。

 右。左。まっすぐ。左。左。右……

 高度がどんどん下がっていく。

 またうしろで、爆音がした。あんなに派手にビルに激突したら……ああ、黒いビルにも大穴があいているではないか……


「ビ、ビル……倒れたりせぬだろうな?」

「大丈夫じゃね? 死人は出てるだろうけどな。でもまあ、お宝の争奪戦となりゃ、このコウヨウの街は毎回こんな調子だよ」


 ハル・シシナエがなに食わぬ顔でいう。

 

「ギルド同士の小競り合いや、金づるになるもんの奪い合いなんて、しょっちゅうさ。だから危ない目に合いたくない奴は、街のはじっこか周辺に住む。中心街に住むやつは、みんな覚悟の上だ」


 この街はならず者のたまり場。いつ寝首をかかれるかと警戒しあい、狙い合う者どもの巣窟。

 にべもなく断じるハル・シシナエのまなざしは、どこかもの悲しい。

 そういえば、一匹狼でいるのは、人殺しをするのは嫌だからと言っていたな……


「地下に潜るぞ、きれいな天使」


 ひときわすさまじい音をたてた直後、蒸気の噴出が途絶えた。とたんハル・シシナエは僕を抱えて乗り物から飛び降りた。最後に思い切り曲げられたレバーのせいで、乗り物が垂直に天へ昇っていく。

 それが追っ手の一機と見事に衝突して――


「っへへ! 大爆発だ」


 涼しい顔で張本人は言ってのけ、とあるビルの二階のひさしに降り立った。それから息もつかせぬ速さで走って。隣のビルのひさしに飛んで。走って。飛んで。走って……

 シシナエは、ビルのそばにある暗い地下道に降りた。明かりが点滅している、閑散としたところに。


「ハル・シシナエ。おまえも……僕を売るのか?」


 僕が訊くと、暗い階段を降りていくシシナエは、「どうしようか」と笑った。

 

「正直、金は欲しいな。薬でごまかしてるが、俺の母親は手術しないと治らない。そうするには莫大な費用がかかる」

「では、売るのだな」

「そうするのがいいんだろうな。でもテルが大騒ぎしてたからな」

「シングの孫が?」

「おまえを助けないとって。でも俺はあいつのようには思えないな。うん、できれば金は欲しい」

 

 階段はどこまで続くんだろう。なんと長いのか。それに暗い。

 点滅する明かりがどんどん褪せていく。


「僕は……売られたくない」

「そりゃそうだろうな」

「僕を玉座から落とした奴を、倒したい」

「まあ、普通はそう思うよな」

「だからおまえを雇うことにする」


 シシナエの足が止まった。


「なん……だって?」


 見上げれば、心底驚いた顔をしている。


「反逆者が取引するなら、僕も取引をするまでだ。おまえを雇う、ハル・シシナエ。僕を守れ。僕のために戦え。僕が帝位をとり戻すまで働いてくれれば、それ相応の報酬と地位と、名誉を与えよう」

 

 なぜならこいつは腕が立つ。下界の蟲にしては、使える奴だ。見たところ僕を売ることに、がぜん乗り気というわけでもなさそうだし。

 だから僕は思い切って口に出した。

 状況は最悪だ。こちらの分は悪い。だが、アルさえ治ればいちかばちか勝負できる。アルは一機で当千の力をもつ。たとえ何百という機貴人の軍勢を相手にしても、負けはしない。

 

「皇帝機アルゲントラウムは無敵だ。僕はこの機霊を修理して戦う。帝位を取り戻すために。だから――」

「アルゲントラウムは、無敵?!」


 だが。

 ハル・シシナエは、信じられないことを言ってきた。目を丸くして。


「ちょ、ちょっと待て。アルゲントラウムは、ただ細々と、人形の命を食って生きながらえてるってだけだろ? 一千年も前の機霊が戦えるはずがない。治ったって、せいぜい飛ぶのが限界だろ?」

「そんなことはない! アルはちゃんと戦える! アルは強すぎるのだ。他の機霊と、格が違いすぎる。戦う相手と釣り合わぬから、元老院は代理をたてているのだっ」


 ハル・シシナエが階段の途中で、僕を下ろした。ものすごく眉を下げて。まるっきり、哀れみのまなざしを向けながら。

 

「アルゲントラウムは暗黒帝を倒したあと、すぐに保存処置された。それ以来一度も実戦には出てない。なぜならぶっこわれて、ただ息をしてるだけのモノになったからだ。そんなの、下界のガキでも知ってることさ」

「違う!!」

 

 ちくしょう。どうしてみな、アルと僕を貶めるのだ。


「アルゲントラウムは、帝国の威光を高めるだけのお飾りだよ。きれいな天使」  

「違うっ! アルはちゃんと飛べる! 戦える! 今はこわれてるけど、僕が落とされるまで、全然こわれていなかった!!」

 

 この世界は嘘だらけで。虚構でつくられていて。

 どこもかしこも鋭い刃だらけで。

 

「後悔などさせぬ! 僕に従えば、おまえは必ず勝利と栄光を手にするだろう!」

 

 むかつくあまり、だれもかれも殺したくなるけれど。

 みんなだいきらいだと、泣き叫びたくなるけれど。

 

「高祖マレイスニールの裔、第五十代エルドラシア皇帝フンフツィグ・ジークフリート・アムルネシア・フォン・エルドラシアの名にかけて! 朕は、嘘はつかぬ! アルゲントラウムはだれにも負けぬ! 千年たった今でも! アルが治った暁には、朕こそが陣頭に立ち、敵を蹴散らしてくれようぞ!」

 

 僕はこらえた。耐えてごくりと、僕を貫いてきた残酷な剣を呑み込んだ。

 ちりりと背中が痛む。そうです、と答えてくれているかのように。

 黄金の乙女に背中を押された気がして。僕は、迷いなく命じた。


「ゆえにハル・シシナエ! 我が騎士となれ! 皇帝機が復活するまで、朕を守れ!」

「きれいな天使……おまえ……」

「僕はこんな言い方しかできない。どうか頼むなどとは、口がさけても言わぬ! 膝をついたり頭を下げたりもせぬ。いまここで朕に与するを拒否するなら、全力でおまえを倒す!」

「た、倒すって……」


 こいつには絶対に勝てそうもないけれど。はったりもよいところだけれど。

 僕は本気だった。

 相手にとっては嫌な奴だろうと思う。偉そうで、でも力はまったくなさそうで。

 でも本当に、こんなしゃべり方しかできない。こんな態度しかできないのだ。

 だって僕は人形ではない。僕は。

 僕は――

 

「選べ地上の蟲! 朕の騎士となるか、朕に殺されるか!」



 皇帝、なのだから。 



「いまここで、おのが運命を決めるがいい!」



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