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コラボ作品「ヤンキーズ・ハーツ」

作者: sitis

こんにちは、sitisです!

今回は友人である鎌倉氏の作品をリメイクさせて頂きました!私のものを見ると共に、是非オリジナルの方も見て頂けると幸いです!

「チッ、雑魚が」

 あたしは足元に転がる傷だらけの死体モドキ達を一瞥して、その場を後にした。

「流石だな、アカネ!お前には誰も敵わねぇなぁ。女とは思えねえよ。おお、怖い怖い」

「うるさい。黙れ」


 あたしこと、橘 明音はこの町で知らない奴が居ないほど名の売れたヤンキーだ。ありていに言えば、スケバンってやつだ。


 夜な夜な喧嘩や恐喝なんて自分でも馬鹿だと思う真似をしているが、昼間はちゃんと高校に通っている。でも、やっぱり高校では教師すらあたしを生徒として扱わず、まるで超VIPのような対応をされてしまう。まぁ、あたしとしては楽でいいんだけど、悪い奴が優遇されるなんて、嫌な世の中だ。

 そんな私に、今日も構ってくる奴がいた。

「おはよう、橘さん。今日も暑いね~」

 またか…

「あのさ…いっつも気になってるんだけど、なんであたしに構う訳?あんたもあたしと同じ扱い受けるよ」

 こいつがその構ってくる奴、加藤 薫だ。

「『あんた』なんて無粋な代名詞嫌だな~。ちゃんと名前で呼んでよ、せっかくいい笑顔が出来るんだから。ほら『加藤君』って…あれ?」

 無視。

 うざいので教室を出る。

「ちょ、ちょっと~!そろそろ授業始まるよ~!!」

「いい。帰る」

「えぇ~。僕、何か変なこと言っちゃった?待ってよ、橘さぁ~ん!」

「うるさい!授業始まるなら教室に戻って!」

 そう言い捨てて、私は学校を出て行った。

 あたしがあいつと絡むのが嫌なのは理由がある。それは、あいつのキャラが嫌いなこと。でも、そんなことより大事な事がある。それは、あいつが重い病気にかかっている事。しかも気になって調べるとその病気は治すことは難しいのだと、ある本に書いてあった。

 そんな奴と関係をもってしまうと、仲良くなってしまうと、何より、あいつを好きになってしまうと、と思うとゾッとする…。あたしはこんなんだが、なるだけ傷つきたくはなかった。


 あいつの事はなるべく考えないようにしよう。そんなことをするからまたムシャクシャしてくるんだ…。

 いやいや、ちょっと待て。そもそもなんであたしがあいつの事を考えなくちゃいけないんだろう?

「くそ…」

 何だってあんな奴の事…。別にあんなのどうだっていいじゃないか。そうさ、どうにでもなってしまえばいいんだ!!

 その日あたしは喧嘩せず、まっすぐ帰った。家に帰っても何かをする気分になれなかったし、早めに寝ることにした。

 寝て、忘れることにした。


 次の日、ムシャクシャする感じも薄れたので学校に行くと、あいつの周りに他の男子が群れていた。

「人気者は大変だねぇ…」

 あたしはそんな悪態を吐いた。あいつは何故か普段から人気者なのだ。

 …なんか様子がおかしい?普段よりなんか、険悪な気がする。話の内容も聞こえなかったので、少し近づいてみることにする。

「…橘が…なんだって?。」

「マジで!?有り得ねぇわ~」

「そう…よ。…が…きだよ。…く有る?」

 あまりに遠すぎるのと、あたしに向けて喋ってないことから端々しか聞こえてこない会話だったが、その場の雰囲気は一発で分かった。少なくとも、良い雰囲気ではない。けど、何故か皆笑っていた。そのちぐはぐさに違和感を感じるが、しかし笑ってるってことは雰囲気は良かったりするのだろうか。あたしもあんまり喋るほうじゃないため、空気を読む能力は圧倒的に乏しかった。

 しばらく聞いていると、あることに気付いた。あたしの名前が出てきている。きっとあたしの話題なんだろう。それは別に構わないが、あたしの評判なんて一つ。悪評だけだ。

 まあ別に、それ自体は別に気にしない。けどなんでだろう?あいつがそれを言ってるんだと思うと、何故だか胸が痛い。

 あたしの事で笑ってるんだ…。

 そう認識すると、胸の痛みは強くなった。何これ?気持ち悪い…。

 あたしが自分と戦っている最中、どうやら話はヒートアップしていたらしい。突然椅子が倒れる音がした。音の方を見るとあいつが他の男子の胸倉をつかんでいる。へえ、何か言われたのかな?ならあいつもなかなか根性あるんじゃん。

 しかし、あいつの口から発せられたのは、そんなあたしの考えを覆すような言葉だった。

「それ以上橘さんを悪く言ったら、僕は君を許さない。今すぐ橘さんに謝れ」

「はぁ?何?薫くん熱くなってんの?ウザいんですけど~」

「今なら許してあげるよ、薫く~ん?」

「僕の事は何とでも言っていいさ。でも、橘さんにはちゃんと謝れ!」

 次の瞬間、あいつが壁に叩き付けられた。掴んでいた手を振りほどかれて、押されたようだ。

 あいつを押した男が、襟を正しながら見下したように言う。

「あんなのの味方するなんて、バッカじゃねえの?」

 その瞬間、あたしはそいつを殴っていた。それはあたしのためなのか、それともあいつのためなのかは分からない。けど、その言葉を聞いた瞬間、あたしの中で何かが切れた。

「あんたら、さっきから黙って聞いてたら好き勝手言ってくれたな!」

 そこからは、正直よく覚えていない。けど、全てが終わった後あいつから礼を言われたときは、まあ、悪い気はしなかった。

 でも、嫌な予感がする。特に、あいつの何かを決意したような表情…。



 その晩、あたしはいつものように、いつもの奴らと、いつもの所で絡もうと思って外へ出た。

 バイクに乗って30分。いつもの場所に着く。そこで違和感を感じた。裏路地が騒がしいのだ。

「どうしたの?」

「あぁ、アカネ!いや、コイツがさぁ!」

 そいつの目線の先を見る。あたしは絶句した。そこには、傷だらけのあいつが居たのだ。

 必死に、ボロボロになりながらも何かを皆に頼んでいる。

「お願い、です。橘さんを…普通の娘に、してあ、げて…く、だ、さい…」

「ギャハハハハッ!なにこいつ?マジで言ってんの!?ウッゼェ~!正義の味方カッコイー!ギャハハハハ!」

 そして、皆があいつを滅茶苦茶に蹴り始めた。リンチだ。

「ぐっ…」

 あいつの呻き声が聞こえる。普段なら喜んで参加するのだけど…。

 今日は、何故かそんな気分にならなかった。

「ちょっと、皆やめなよ!」

「なんだよ、アカネらしくねぇな。おいお前ら!ノリの悪い奴はほっといてやろうぜ!」

 あたしを無視してあいつを蹴り続ける皆。すると、あいつがまた何かを言い始めた。

「お、願い、です。橘さんは、本当は…優しいんです…」

 それを聞いた瞬間、あたしは弾けたように動き出した。手近に居た数人をぶっ飛ばして、中心でうずくまっている馬鹿の手を握った。この人数で敵うとは思えない。それでも、あたしは立ち向かった。きっと、加藤が私のためにやったことも同じなんだろうな。

「おいおい、本気で敵うと思ってんの?バカじゃねぇ?」

「…るさい」

「は?」

「うるさいって言ってんだよ!」

 あたしが絶叫して鉄板を仕込んだ鞄を振り上げた時、バイクのエンジン音が響いた。

「お前、もういいわ……死ねよ」

 二つのライトが近づいてくる。


 ドルドルと響くエンジン音。それはそのバイクの威力を意味していた。

 近づくバイクのライト。それはそのバイクとの距離を意味していた。

 大きくなるエンジン音。それはもう逃げられないことを意味していた。

 いくら体を鍛えても、ひかれたら一発で死ぬ。そんなの分かりきっていたことだ。

 静かに目を閉じて、死を覚悟する。まあ、こんな死に方もいいか。加藤を守れて死ぬんだ。これまで傷つけてきた人への花向けになるかな…?

 …ああ、でも。

 あたしが死んだら、加藤はどうなるんだろうな…。


「危ないっ!橘さんっ!」


 ドンッ!

 吹き飛ぶ体。撒き散らす血、驚愕を隠そうともしない男達。

 誰が思うだろうか。あんな、ボロボロの体で、あたしを突き飛ばすまでの体力がまだあったなんて。

 ドサッと加藤が落ちて来る。その音であたしは正気に戻った。

「加藤っ!」

 あたしは急いで加藤に駆け寄った。

「あ、はは…。やっと、名前、呼んでくれたね…」

「加藤っ!しっかりしなよ!えっと、救急車は…!」

「ね……、げほっ!ねえ、橘さん」

「1……、1……っくそ!間違えた!」

 手が震えている。くそ!流血なんて慣れてるのに!慣れてるはずなのに!

「僕、幸せだったよ…。いずれ死ぬ体を、君のために使えたんだから…」

「もう喋るな!」

「自分の好きな人ぐらい…自分の、手で守りたい……。ありがとう、明音ちゃん…じゃあね……。大好きだったよ…………」

 そこで血を吐いて、力が抜けた。人が、亡骸に変わった瞬間だ。

「薫、薫!起きてくれよ!薫!薫!かお、る!かおる…」

 彼はもうそこには居ない。あるのは彼に似た肉片だけ。

 力を無くしたあたしは、泣いた。泣き続けた。

 気づいたら、周りには誰もいなくなっていた。それでも、あたしは泣き続けた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『おい見ろよ。あの人が橘先輩だろ』

『だろうな。あの人いっつも黙ってるよな…すっげぇ綺麗なのに残念だ…』

『馬鹿、何言ってんだよ!あの人って二年前は……』


 男子の会話を聞き流して、私は窓の外を見ていた。そこには、綺麗に咲き誇る向日葵がある。

 突然、担任の教師が話しかけてきた。

「橘さん。あの向日葵、いつも見てるね」

「…………そうですね。あれを見てると元気がもらえるんで」

「知ってた?あれってね、二年前に事故で死んじゃった子が育てていた花なんだよ。まぁその子は重い病気を患っていたらしいけど」

「え…?」

「あぁ、知らなかった?その子の名前はね……」

 知らなかった。あいつ、そんな事してたんだ…。

「……」

「あ、あれ…?だ、大丈夫??」

 気付くと、あたしは涙を流していた。そういえば、涙を流すのはあいつの事を考えた時だけだ。

「大丈夫です。すみません」

 あたしは涙をふくと教室を出た。廊下を歩くのもまどろっこしくて、不良時代に戻ったように窓から出ていく。

 あたしは向日葵の前に立って、精一杯の笑顔を作った。薫に、良い笑顔だと褒められた顔。この顔じゃなきゃ、失礼な気がした。

「本当、薫には敵わないよ…死んでも私を、支えようとするんだか、ら…さ……!」

 その時、確かにあたしには「当然だよ」と聞こえた気がした。


 泣き笑いも悪い物じゃない。私は最近、そう思う。今も、これからも泣いて、笑って、乗り越えよう。

 何時かあいつが言ってたいい笑顔で…

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