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ものの見え方

作者: 石森ライス

アンデルセン大賞応募作品です。落選しましたのでここに掲載いたします。原稿用紙換算で20ページほどなので気が向いたときに読んでみてください。

このお話はついさっきまで、地球のどこかで起こっていたお話です。あるところに、ごく普通の女の子がいました。女の子は好奇心が強く、一つのことを考え続ける利発な子供でした。ある日、女の子はお母さんに聞きます。

「ねぇ、ママ。私ってどう見える?」


女の子のお母さんは、戸惑いますが正直に話しました。


「そうねぇ。いつも考え事してるから顔がムスッとなっちゃってるけれど、二つ結びがかわいらしくて、誰かの気持ちを自分のことのように考えられる素敵な女の子よ」


それを聞いて女の子にさらなる疑問が生まれます。


「そうなのかなあ。じゃあ動物さんたちには私がどう見えるかなぁ。動物さんたちがどこをどういう風にみているか聞ければ、もっと動物さんの気持ちがわかるかも」


「どうかしらね。私たちは動物たちの声を聞くことができないからわからないわね」


女の子はお母さんの言った動物の声を聞く力をひどく欲しがりました。朝起きた時に聞こえてくるスズメのチュン、チュンという鳴き声を聞いた時も、通学路の途中で犬がワンと吠えた時も、学校で飼われているウサギが小さくキュウと鳴いた時も考え続け、ついには一か月がたちました。女の子はとうとう夢の中でもその力について考え続けるようになりました。




夢では女の子が薄暗い闇の中にいました。女の子は手を顎に添えて眠っているのに考え続けます。


「動物さんとお話しできるようになったら、お母さんに聞いたみたいに私がどういう風に見えるか聞きたいな。動物さんがしゃべってくれたらどんなふうに聞こえるのかな。」


「そんなに知りたいならその力、あげちゃおうかな」


夢の中で女の子は一人で考え続けているはずでしたが、いつの間にか目の前に一人の女の子が立っています。二つ結びでピンク色のワンピースを着ています、ほんの少し眉にしわを寄せているけれども、無邪気でかわいらしい女の子です。


「あなたは私なの?」


女の子は、目の前にいる女の子に聞きました。


「そんなことはどうだっていいじゃない。それよりもあなたが欲しがっている力をあげるわよ」

目の前の女の子は、女の子と全く同じ声でしゃべりました。


「動物さんの声を聞く力?」


「そう。目を覚ませば。聞けるようになっているよ。だから早く夢から醒めちゃいなさいよ。きっと素敵なことが起こるから」


そういわれると、女の子は夢の中なのに眠たくなってしまい、やがて眠ってしまいました。




「朝だよ、朝だよ」


という声が聞こえて女の子は目を覚ましました。けれどもお母さんの声でもお父さんの声でもありませんでした。誰の声だろうと考えているうちに意識がはっきりとしてきて、まずは朝食をとろうと思ってリビングに降りていきました。


「ねぇ、ママ、パパ。さっき私を起こしに来てくれた?」


するとお母さんとお父さんが顔を見合わせ、口を揃えて答えます。


「何のこと? 私たちはさっきまで朝食の準備をしていたよ。それよりも早く朝食を食べちゃいなさい」


そう促されて女の子はリビングのテーブルに着き、もしゃもしゃとベーコンと目玉焼き、トーストとレタスを食べました。その後女の子はパジャマからピンクのワンピースに着替えて外へ遊びに行きました。そこでまたさっきの声が聞こえてきました。


「朝だよ、朝だよ」


その声は周りを見渡しても誰も発していませんでした。声は空から降ってきたような感覚でした。女の子は空を見上げると電信柱の上にスズメがとまっていました。そこからはチュンチュンといういつも聞く鳴き声ではなく、やはりさっきの声が聞こえてきました。


「あなたが朝だよ、朝だよって言ってるの?」


するとスズメは女の子の声に反応するように首を下の方に向けました。


「そうだよ。君は僕の声が聞こえるのかい?」


どうやら、女の子は動物の声が聞こえるようになったみたいです。女の子は夢の続きが現実になったような心地がして、嬉しくなりました。


「うん、そうだよ!」


「そうかい。動物のみんないい生き物だよ。いろいろ話を聞いてごらん」


そしてスズメは歌うようにしゃべった後、飛び立っていきました。




女の子は嬉しくて一か月も考えてきた疑問を解決するために、早速生き物を探し始めました。けれどもいつもは猫や犬も歩いているはずなのに今日はなかなか見つかりません。女の子はようやく道端の花にとまっているミツバチを見つけました。


「さぁさぁ、蜜を集めよう。甘くておいしい蜜を集めよう」


「ハチさん、ハチさん、私の声が聞こえますか?」


「あれ、これは驚いたなあ。君は僕の声が聞こえるのかい?」


「そうよ。夢の中でもらったの。それよりも聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」


「いいよ、いいよ。ヒトの女の子と話すのは新鮮だからね」


「ハチさんは私のことどう見える?」


「うーん、そうだねぇ。君が何色の服を着ているかはわからないけれど、君が何千にも分かれて見えるよ」


「私は一人しかいないよ?」


「それはそうさ。僕もわかってる。僕には君以外にも、下にある花も、そこにある大きな木も、何千と別れて見えてそれが普通なんだ」


「そんなにいっぱい見えちゃったら疲れちゃう気がする」


「ヒトの君からしたらそうかもしれないね。でもミツバチである僕からすればそれは当たり前のことで生きる上では必要なことなんだよ。たとえば僕より大きな生き物が僕を食べようとする時にすぐに気づくことができるし、蜜を多く持ってる花もすぐに見つけることができるんだ」


「そうなんだ! 私とは違うんだね。私はあなたがちいちゃくて、でも一生懸命蜜を運ぶ仕事をしている真面目なハチさんに見える」


「ありがとう。見え方は違うけれども、僕からしたら君は好奇心が強くてとても賢そうな、かわいいヒトの女の子だと思うよ。君に何か危険がせまったら大声で叫んでご覧。そうしたらきっと助けに行くから」


「えへへ、ありがとう」




女の子はミツバチと別れました。女の子は再びお話しのできる生き物を探しました。すると道の曲がり角の陰から声がします。


「どこに巣を作ろうか?」


「あそこの家のベランダとかいいんじゃない? 見つかりにくそうだし、あそこなら子供が飛ぶ練習しても安全そうだし」


女の子が曲がり角をまがると、そこには二匹のハトがいました。


「ハトさん、ハトさん、私の声が聞こえますか?」


すると、今度は二匹のハトが驚いて家の塀に飛んでいきました。


「逃げないでー!」


女の子の言葉に悪意がないのを感じたのか、ハトはそれ以上距離をとろうとはしませんでした。塀の上から男の声で一匹のハトが言います。


「びっくりした。あんたは俺たちの声が聞こえるのかい?」


「そうよ。夢の中で動物さんとお話しできる力をもらったの」


すると今度は女の声でもう一匹のハトが言います。


「驚いたわ。ヒトと会話したことなんてないんだもの。あたしたちに何か用があるの?」


「うん。聞きたいことがあるの。あなたたちから見たら私ってどう見える?」


するとオスのハトは感想を述べます。


「そうだね、あんたのその服なかなかいい色をしているねえ。撫子色の綺麗な生地を使っているんだね。この島の女の子って感じがして素敵だよ」


するとオスのハトの言うことに、メスのハトが反論しました。


「何言ってるの、この色は石竹色に決まってるじゃない。この淡い色がこの子のほんわかした雰囲気とぴったりじゃない」


「ねえ、ナデシコとかセキチクとかってこの服の色のことなの? 私、ずっとピンク色かと思ってた」

すると二匹のハトが答えます。


「そりゃあ、ヒトが俺たちよりも色の違いがわからないからしょうがねえ。俺たちはな、色を繊細に感じ取

る力が、ヒトの何倍もあるのよ」


「そうよ。別にあんたが考え事をしていてぼーっとしているから見分けられないわけじゃないのよ。私たちにも今みたいに色の違いをぎゃあぎゃあ言い合うこともあるわけだし」


「そうなんだ。私にはあなたたちが喧嘩をしても、とっても仲のいい夫婦に見えるわ」


「ありがとうな。あんたは自分の感覚を信じてればいい。一つだけ確実に言えることは」


「あんたの雰囲気とその服の色がぴったりしていて、とても素敵だということだわ。もしあなたが危ない目にあったらきっと駆けつけるから、その時は大声をあげなさいよ」


「えへへ、ありがとう」




そうして二匹のハトとも別れ、再び女の子は話ができる生き物を探し始めました。すると今度は道路のコンクリートからむき出しになっている土から声が聞こえます。女の子が駆け寄ってそこを見てみると一輪のタンポポが歌っていました。


「ハチさん、ハチさん来て来てね。私はいっぱい蜜あるよ。私のためにもハチさん来てね」


「タンポポさん、タンポポさん、私の声が聞こえますか」


女の子も同じリズムをとってタンポポに話しかけました。タンポポには目も鼻もありませんでしたが、女の子には花がびっくりしたのを感じることができました。


「まぁ、びっくりしたわ。あなたは私が歌っているのが聞こえたの?」


「うん、そうだよ。夢の中でみんなと話せる力をもらったんだよ。あなたは私のことがどう見える?」


女の子は今までと同じ質問をタンポポにしました。


「私は目がないからあなたを見ることはできないわ。けれども風を感じることができるように、あなたの存

在を感じることができる。あなたは無邪気で好奇心が強いのがわかるわ」


「目が見えないって不便じゃないの?」


「確かにヒトは、目がない世界を想像したら真っ暗でなにもわからないと感じてしまうかもしれないわね。でも目がないってことはそれだけ他の感覚が強くなっているの。根っこの先がコンクリートにあたる感触、ハチさんの羽音がブーンと聞こえてだんだん私に近づいてきてくれていること。それからあなたが昨日どういうシャンプーを使ったのかだってわかるわよ。なんていったって、ここを通るヒトは一日に何百人もいるからね。あなたたちが見えない風の向きを私たちはすべての感覚を使って知ることができるのよ」


「すごいんだね! 私は、最初あなたのことを小さなタンポポさんとばかりに思ってたけど、こんなに物知りで繊細だったなんて!」


「うふふふ、ほめてくれて嬉しいわ。もしあなたが危険なことに巻き込まれたら大声でさけんで見てね。きっとあなたの役に立てることをするから」


「えへへ、ありがとう」




タンポポと別れた女の子は再び生き物を探しましたが、ほどなくして若い男を見かけました。その若い男は女の子に背を向けていて顔は分かりませんでしたが背が高く、女の子からすればまるで巨人のようでした。女の子は男に話しかけます。


「おにいさん、おにいさん、あなたは私がどう見える?」


すると、話しかけられた男は女の子の方に振り返りました。顔はおとぎ話に出てくるような端正な顔立ちをしていました。しかし女の子はその顔を見たとたん、おびえてしまいました。男は女の子の問いかけにこう答えました。


「そうだなあ。二つ結びのかわいい女の子だね。ピンク色の服も、そのちょっぴり眉にしわに寄っていることも、すべて君のかわいらしさを引き立てていると思うよ。おもわず見とれてしまうよ、そう食べちゃいたいくらいに!」


その言葉を聞いてさらに女の子は怖がってこう言いました。


「私からはおにいさんがいい人だとは思えない。だってヒトなのにヒトじゃない顔してる。笑っているのに、眼は無表情。目の中には何もないみたいに真っ黒だわ。あなたは何を見ているの?」


「ねえ、君は迷子になっちゃったの? 僕が君を連れてったげよう」


そういって男は女の子の手をつかみました。女の子は男から発せられる底知れる狂気を感じ取り、必死に振り払おうとしますが子供が大人の力にかなうはずもありません。足も踏ん張りますが、強い力に引っ張られずるずると引きずられていきます。男は女の子が抵抗するさまを見て連れ去るのに邪魔だと思ったのか、口をふさごうと手を伸ばしました。


このままでは危ないと、女の子は感じ取り、生き物たちに言われたことを実行しました。あらん限りの声を振り絞って、「きゃあああああ!」と絶叫しました。




口をふさごうと手を伸ばした男は思わず手を耳に当てました。そのわずかな隙を突き女の子は必死に足を動かして逃げました。しかし男も抵抗されることに慣れているのかすぐに追いかける姿勢をつくり、あっという間に女の子との距離を詰めてしまいました。女の子は転んでしまい、もう逃げる術がありませんでした。男が手を伸ばし女の子に触れる直前に事は起こりました。


「ハックション! おかしいな。この季節にこんなに花粉が飛んでいるなんて」


大人は花粉症で何度も咳やくしゃみを繰り返します。普通の花粉症の症状ではありません。なぜか、大人の

周りにだけ目に見えるほどの花粉が飛んでいました。


「なんだこれは。花粉が黄色い霧みたいだ。息ができない」


男は手をぶんぶんふって花粉を振り払おうとしましたがうまくいきませんでした。この光景を見て賢い女の子はわかりました。


「タンポポさんだわ! タンポポさんが私を助けてくれたんだ!」


男はもがきましたが、それでも女の子を捕まえようとするのを止めません。再び大人が女の子に近づこうとする時、今度は道の曲がり角からミツバチの大群がやってきました。


「君の声が聞こえたから仲間を連れて助けに来たよ」


みると、先頭には先ほど女の子としゃべったミツバチがいました。ミツバチの大群は男に群がりました。温厚なミツバチたちは大人を刺す武器を持っていませんでしたが、必死になって周りを飛び続け、大人が女の子に近づくのを防ぎ続けました。


「なんなんだ。なんなんだよこれは!」


男は花粉によって息ができず、ミツバチの群れによって身動きが取れません。それでもなお男は女の子に近づこうとしました。


すると空から声が聞こえてきます。


「あんた、女の子に手をだすんじゃねぇ!」


「この辺で女の子を襲ってた野郎だね。今度という今度は許さないよ!」


二匹のハトが花粉とミツバチによって身動きが止まっている男めがけて急降下しました。狙いは一つ。大人の目玉です。


「クルック言いやがって! こいつら、いつも俺に襲い掛かってきたハトじゃねえか」


そういって男はハトたちの鳴き声に反応して顔を空へと向けました。目を開けると、男の目の前には視界いっぱいに二匹のハトが映っていました。


男は叫び声をあげます。それは偶然にも女の子が発したような、自身の命に危険が迫った時に発する絶叫でした。




男は目をつぶされ、逃げていきました。


女の子は呆然としたのもつかの間、先ほどまでの恐怖を思い出して泣きじゃくりました。


「おいおい、せっかく俺たちが助けてやったんだから喜んでもいいじゃないか」


「アホかいあんたは。この子は今の今までものすごく怖い思いをしたんだから、私たちが慰めてやらないといけないもんでしょ。よしよし、怖かったろうねえ」


そうしてメスのハトは女の子の肌を傷つけないように硬いくちばしをそっと動かし、女の子の肌をなぞりました。オスのハトもメスのハトに従って女の子を慰めます。


タンポポは遠くにいるので直接慰めることはできませんでしたが、気分を落ち着かせるような甘い匂いをだして女の子を慰めました。ミツバチたちは羽音で音楽を作り出し、女の子を慰めました。やがて女の子も泣き止み顔をあげて言いました。


「みんなありがとう、みんなありがとう」


そうして女の子は生き物たちによって危ないところを助けられ、無事に家に帰ることができました。女の子はこれからも生き物に助けられ、時には生き物の手助けをし、仲良く暮らしていくことでしょう。



いかがでしたでしょうか。まだまだ小説を書き始めたばかりなので批判・感想をいただければ幸いです。

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