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滅びから始まる世界再生神話  作者: 風見鶏
それぞれの追憶
3/3

勇者の追憶 ひとつの終わり

 気づいたとき私は泉にいた。日は高い、まだ時間は大して経っていないのだろう。そこは星竜の泉と呼ばれるマナの濃い霊域のひとつだった。のどの渇きを感じた私が水を飲もうと泉にかざしたとき手の甲が焼けるように痛みだした。痛み自体はすぐに引いたのだが甲を見たとき、私は愕然とした、無色だったはずの刻印が太陽と薔薇の模様にかわっていたからだが、重要なのは変化自体ではなく、刻印の模様だ、その模様の刻印はある神の加護を示す。「…陽神フレアの刻印」英雄の刻印とさえされる希少な加護、驚きのあまり呟いた私の声に応えるかのようにさらなる驚きが私を襲った。それは、炎だった、泉の中央に突然現れた人型の炎。伝承に僅かに記される “神の顕現”。


 それは、17,8程度の少年の姿をしていた。精悍というより美しいと言うべき顔つきをし、腰に一振りの長剣を携えていたが彼がそれを抜くとはそうそうないだろう。特に長身とも鍛えられたとも言えないだろう体つきの少年から発せられる圧倒的なまでの力、気まぐれひとつで自分は肉塊に成り果てることを理解させられた。

「怯えることはない、危害を加えに出てきたわけではない」

私の恐怖に気づいているからだろう優しげな声で彼は

「私はフレア、炎と剣、正義、秩序を司るとされるものだ、君の名は」

「私の名前は   といいます、大いなる陽神様」

「そんな畏まる必要はない、私はお前たちが思うほど大したものじゃない、敬語じゃなくてため口でいいよ」

「た、ため口ですか」

正直、とても困った。神に対してため口という時点で不味いのに、断ろうにもさっきとは異なる圧力を神様が発し始めたからだ。退路を塞がれた以上諦めるしかなかった

「わかったよ、それでどのような御用でお姿を」

私の質問に神は不満そうに

「前半はいいんだけど、後半もう少し何とかならない?」

全く関係ない不満をいってきた

「これ以上は無理です」

「仕方ないカ、そこは追々何とかするとして本題だ」

「僕は君に会いに来た、君はこれから先いろいろなものを見ることになる、人間を、魔獣を、魔物を、そして世界を見、答えを出さなくてはならない」

「とても苛酷な道だ、今日から君の運命は変わった、幸福なものから苛酷なものに、だから力をこの剣を与えに来た」

自らの剣を手に持ち

「陽光の剣と僕の加護が君の力になる。阻む壁を破り、君の願いを叶えるだろう」

「守りたいものを守るための力になるだろう。復讐のための力になるだろう。」

「剣の意味を決めるのは君だ。君が望む意味に、姿に変わる」

「いつか君のだした答えを聞かせてくれ」

声を出すことができずただ手を剣伸ばし、柄を持った瞬間、神をかたどった炎が消滅した。すべてが突然で理解が追いつかなかったが、もう昨日には戻れないこととすべきことだけはわかっていた。

 まずは強くなろう。加護に、剣に振り回されることがないように。次に勇者になろう、魔物が大量に現れた以上魔王も現れるだろう、そして王国では、伝統に従い勇者を決める闘技大会が開かれる。そこで優勝すれば、国王に願うことが許されている。そこで、家の再興と異種族との融和を願おう。それが貴族達に対する復讐。

そして魔王を殺そう、魔獣王もいるならば殺そう、それが魔物に対する復讐。魔獣に対する復讐だ。だからまずは強くなろう


 三ヶ月後、闘技大会が開かれた。加護の力は、剣の力は強力だった。闘技大会の猛者達を楽に倒すことができた、ただひとり剣聖を除いて。剣聖は強かった、加護と剣の力を全開にしてようやく勝てるほどに。

 私は王に家の再興と異種族との融和を願った。王は魔獣王と魔王を倒すことができたならば叶えると確かに誓った。

 私は旅をすることになった、世界を救うための旅を、聖教の聖女とその弟である賢者、そして金に困っていた剣聖を雇うかたちで仲間に加えた。そしていろいろな光景を見た。雄大な自然を、荒れ地でも生きようとする人の強さを、人の盗賊に襲われた人の村を、そして人をかばい死んだ魔獣を。このときからだろう、魔獣に対する憎しみが揺らぎ始めたのは、そして魔獣王の遺体にすがりつく魔獣王の娘の姿を見たとき私の中の憎しみが消えてしまった。

 何が違う、あの時の私と。ただ理不尽に家族を奪われたあの時の私と。

 「憎いか、私が」

 「私に復讐したいか」

 いつの間にかそんな言葉が出ていた。彼女が復讐を望んだとき、どうするのかなど考えることさえできずに。仲間達は静かにこちらを見守っていてくれた。

 彼女は静かに怒りの宿った瞳でこちらを見つめ

 「お前が、お前たちが憎い」

 「父さんを、皆を救おうとした父さんを殺したお前たちが」

 「でも復讐はしない。父さんがそれを望まなかったから、復讐のために強くなるのではなく、相手を許せる強い心を持てと言っていたから」

 「だから私はお前たちを許す、憎しみを捨てられるかはわからないけど、復讐はしない。」

 私は、自分が何を聞いたのかわからなかった。許す、あの時私はそんなこと考えることもできなかった。父の望み、私はそれを復讐のための道具にした。人と彼女達、どちらが優れているのだろう。

 予想を裏切る答えに私だけでなく仲間達も、僅かに動揺した。その隙をそれは、見逃しはしなかった。

 それは、影の渦というべきものだった。それの正体に気づいたのはただひとり、賢者だけで

「これは転移魔術!!」

対処などできなかった。

 目を開いたとき飛び込んで来たのは終末とも言うべき世界だった。草木の生えない白い大地、ヘドロと化した海、黒く覆われた空、命の気配のない世界、そして仮面を被った道化師のような男

 「初めましてぇ、勇者一行に魔王の娘さん、私はアンギスゥ、世界の代行者にして魔王と呼ばれるものですぅ。是非お見知りおきを」

「魔王アンギス!!」

 最悪だった。魔獣王との戦いですでにこちらはぼろぼろ、勝つのはほとんど不可能に近い状態、だが

「魔王、少し聞きたいことがある」

「ほぉほぉ、聞きたいことぉ。まぁ冥土の土産と言う言葉もありますしぃ、答えて差し上げてもいいですよぉ」

 「あなたは何を望む、あなたの目的を教えてほしい」

 「私の目的ぃ、そんなの人を滅ぼすことに決まっているじゃないですかぁ」

 「理由は」

 「・・・・・」

 「人を滅ぼす。確かに魔王らしい行動なのだろう。だがあなたをそう呼んだのは人だ。魔王でないあなたは何を理由に世界を滅ぼそうとする」

 「・・・。やれやれ、復讐に憑かれたままならば疑問を抱くことだろうに、面倒な」

 「答えてくれるのではなかったのか、魔王」

 ‥「えぇ、答えましょう、私に勝てたらねぇ」

 突然、広げた手に黒く輝く杖を握った。


 結局、私たちは魔王に勝つことができた。疲労した私たちが勝てたのは、決して魔王が弱かったわけではない、複数の上級魔術を同時に行使するだけでなく魔法さえ使う上、剣聖と互角に打ち合える棒術の腕を持つ魔王が弱いはずがない、さらにこの場所は、マナの気配がほとんどなく、賢者や聖女でさえ下級の魔術が精一杯だった。(魔王は当たり前のように、私も、普段よりは劣るが行使することができた)

 そんな状態で勝てたのは、彼女、魔獣王の娘が力を貸してくれたからだ

 「なぜ、そちらについた?魔獣王の娘ヨル」

 「なぜ?、何でかはわからない。わからないけど面白いと思ったから」

 そんな気まぐれに命を救われたと考えると少し怖いものがあった

「ふふふ、まぁいいさ」

 雰囲気の変わった、いや本来の態度を取り始めた魔王に

 「質問に答えてもらえるか」

 「なぁ、勇者、おまえはこの世界をどう思う。」

質問の答えとは異なる問いに

 「とても悲しい世界だと思う。ここには命が感じられない、まるで世界が死んだように」

 「世界が死んだか。そう、この世界は死んでいる」

 「この世界は、マナが枯れてしまった。マナは命の源、マナがなければ、世界でさえ死ぬ」

 「そして、この世界は貴様らの住む世界の未来の姿」 

 「我ら、魔物は世界の防衛本能、滅びを感じた世界が生んだ守護者、多量のマナの消費に反応し、人を食らい、マナとなり世界に還る」

 「だが、それも、もはや無意味、マナの枯渇はすでに最悪の段階にある。滅びは避けられず、我らにできるのは僅かにその時を遅らせることだけ、だがなにもしないほど、我らは怠惰でなく、世界に対する恩もある」

 「故に、貴様には退場してもらう!!、永劫にこの世界を彷徨え」

 「待て、おまえたちが世界の守護者なのだとしたら、ダンジョンとはなんだ、なぜ、おまえたちはあそこに現れる」

 「ダンジョン!!笑わせる、あそこはおまえ達の戦争によってできた最も深い世界の傷痕だ、いまも世界を蝕む、かつて世界樹のあった聖地、マナの生まれる場所、世界樹の切り株からでる僅かなマナが世界を生かしている」

 「さぁ、冥土の土産には十分だろう。魂を捕らえる黒き枷よ、〔シャドー・ジェイル〕」

 魔王の詠唱とともに生まれた黒い影が、私めがけ飛び、動く力のなかった私はかわすことが

 「させません!!」

 「アダム!?」

 「貴様!!」

私をかばった賢者に影が絡み付き

 「この術は、行使より解除のほうが時間がかかり、その間あなたは、私の邪魔はできない、ちがいますか?」

 「貴様、気付いたのか!」

 「えぇ、私たちは、精神のみを、この場に飛ばされた。ならば、対処はそう難しくありません。精神と肉体はともにあるのが普通なのですから」

 「そうだ、だが」

 「影に絡み付かれた者は戻れない。そして機会は一度きり」

 「覚悟の上か」

 交わされる言葉から予想される賢者の行動

 「やめろアダム、そんなことをしたらおまえは!!」

 「戻れないでしょう。ですが皆さんは戻ることができます。もう運命も義務もないのですから自由に生きてください」

 「アダム!!」

 「兄さん!!」

 「さよなら、〔あるべきものをあるべき姿に、正しき姿に セイクリッド〕」

 白い光にすべてが消えていくなか、

 「原罪の転生者が!邪魔をしてくれたな」


 魔獣王の城で私達は目覚め、賢者は目覚めなかった

 「皆さんはこれからどうします?」

 「俺はアリアが目覚めたらすぐにまた旅をするつもりだ」 

 と剣聖

 「お熱いですね」

 「ちぁかすな、イブ、おまえはどうするんだ」

 「私は、兄を信頼できる人に預けた後は教団に戻ります。やらなければならないことがありますから。勇者はどうします?」

 「私は国王に報告したあと願いをひとつ増やしてもらうよ」

 「それは・・・・」

 「貴族達が黙っていないだろうな」

 「それでもやるさ、それでヨルだったかな?君はどうする?」

 「私は・・旅をするよ。この先、世界がどうなるか自分の見たいから」

 「なら私と来ないか」

 「おまえと?父の敵のおまえと、か?」

 「嫌か」

 「・・・いや、お願いしよう。どのみち案内人は必要だ」

 「そうか、なら王国に帰ろう」

 私達は、王国に帰り、英雄として迎えられた。賢者は、信頼できる大貴族に預け、剣聖は旅にで、聖女は、宗教改革をはじめ、私は国王に異種族との融和、奴隷解放、そして魔獣たちとの共存を訴え、国王は受け入れた。貴族達の妨害に悩まされながらも徐々に国が、世界が変わり始めていた時期それは、始まった。魔王の予言した滅びだ。そして私達は世界を滅した裏切り者として追われることとなった。私達の動きをよく思っていなかった貴族達や聖教の枢機卿達の根回しだということはすぐに理解できたし予想できていたのですぐに逃げることができた。

 「さぁ、いきましょうか、ヨル」

 「やっと旅に出られるか。何ヶ月おまえの屋敷に閉じ込められたことやら」

 「私も忙しかったですし、あなたの勉強も必要でしたから」

 「むぅ、まぁ確かにそうだけど」

 「これから、旅できるからいいじゃないですか」

 「追われる身だけどね、九十エルム金貨、一生遊んで暮らせる」

 「だ、大丈夫ですよ。私は鎧を着ていたので顔を知られていないですし、あなたはいくらでも変えられるから問題ないでしょう」

 「まぁ、そっちはいいけど、この馬車どこから持ってきて、馬はどこにいった」

 「馬車はメリルからもらいました。馬は・・どこ行ったんでしょう」

 「おい!」

 「だ、大丈夫ですよ、この辺は大型の魔獣が多いですから、あなたがお願いしたらなんとかなります」

 「魔獣に引かれた馬車なんて目立ちすぎる!常識必要なの私じゃなくあんたじゃないのか?」

 こうして私とヨルの旅は始まった。多少の不安をのこして


 「私はあのとき見失った答えを見つけるために」

 「私は父が愛したこの世界のいく末を見届けるために」


 私は勇者として世界を救い、世界は滅びの道をゆく。これは終わりの物語 終わりの先の物語

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