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闇の巨人

「……なんか、とんでもない事になっちゃいましたね」

「ああ、ついに来るべき時が来たって感じだぜ」

 整備途中の状態で横たわる“門番”。その陰にアードとウンロクは隠れていた。

 目の前ではエルマとフィルディングの姫、そしてオレフたちが“機竜”と対峙しているが、誰を見ても楽観できるような様子ではなかった。

「オレフの野郎め、あいつが姐さんを巻き込んでロクでもないことをするから、こんな事になるんだ」

 ウンロクが悪態をつく。

「でも、この際、あの人でもいいから何とかしてもらえないっすかねぇ」

 でかい図体を隠しきれないアードがため息をつく。


 ガンッ


 二人の眼前、“門番”の機体に何かが落ちてきた。

 それは瞬く間に展開し、鋼の骸骨となる。

「うぁああッ!?」

「何じゃあッ!?」

 二人が驚いて後ろに飛び退く。

 やがて、“機竜”がいる空から骸骨たちが幾つも落下してきた。

 起き上がった骸骨たちは二人に穴の空いた眼孔を向けながら、じりじりと近づいてくる。

「〈竜牙兵〉が何で!?」

「アード、おまえが持ってる計器を狙ってるんじゃないのか!?」

 〈竜牙兵〉は魔力を求めてうごめく“機竜”の尖兵だ。機械を動かす魔力を感じとったのだろう。

「しゃあない! 捨てちまえ!」

「だ、ダメっすよ! 姐さんに怒られるっす!」

 二人はそろって逃亡すると、〈竜牙兵〉たちは一斉に追いかけてきた。

「ウンロクさんも魔力の封印具を預かってるじゃないっすか! それこそ捨ててしまいましょうよ!」

「バカ言うな! 姐さんから大事に持っておけと頼まれたんだぞ!」

「じゃあ、どうするんです!?」

「ともかく逃げろ!」

「さっきも王女と逃げ回ったばかりなのに──」

「文句言う前に走れ!」

 二人は〈竜牙兵〉たちに追われながら周囲を逃げ回る。

 エルマたちの方に逃げず、自分たちで〈竜牙兵〉を引きつけるのが、せめてもの彼らなりの戦いであった。



 プリムは地中を潜行する。

 地上に“機竜”が現れたことを地下にいる男爵たちに知らせなければならなかった。

『きゃぁッ!?』

 プリムは波に打ち上がられたかのように地中から吐き出され、地面にポテンと落ちた。

「……いたぁい、なんでよぉ」

 プリムはぶつけた鼻をさすりながら、地面に手を潜り込ませてみる。

 地中が波打つような感覚が伝わっていた。地中を巡る大地の霊力が大きなうねりを巻き起こしている。地中に潜っていたプリムはその影響をまともに受けて吹き飛ばされたのだ。

(そういえば、じいじが“聖域”が壊れかけてるっていってたなぁ)

 “聖域”が決壊し、大地の霊力の流れが大きく乱れている。特にこのトリスは影響が大きいらしいので、地下の霊力の流れも激流のように変化しているらしい。

(どうしよう、こんなのかんがえてなかったよぅ)

 霊力の奔流が物理的な影響を及ばすことはないが、その力で地中に潜る妖精族はそうはいかない。

 このような霊力の激流は自然現象としては滅多になく、ダロムや年輩の妖精たちからは教えられていたが、若いプリムは実際に体験したことはなかった。

(もうちょっと、まったほうがいいのかなぁ)

 プリムは周囲を見渡した。どこかの民家の庭のようだが、すでに逃げ出しているのか周囲に人の気配はない。

「あれっ?」

 プリムは民家の軒下に子猫がいるのに気づいた。その上に崩れた瓦礫が覆い被さっており、プリムの姿を見つけると助けを求めるように小さく鳴いた。

「どうしたの!? でられないの!?」

 プリムは慌てて駆け寄る。おそらく何度か起こった地響きで屋根が崩れたのだ。

「まって! すぐに助けてあげるからね!」

 プリムは猫の上に重なった瓦を取り除こうとするが、小さなプリムの力では動かすことができない。それに下手をすれば瓦礫がさらに崩れそうでもあった。

「うぅ……どうしよう」

 頭を抱えるプリムの前で、子猫が鳴いた。

 怯えているのと弱っているのか、その声はか細い。

「誰かぁ、いませんかぁ!」

 プリムは声をあげるが、それに応える人の気配は全くなかった。

 その時、突風が駆け抜け、煽りを受けたプリムは地面を転がる。

 すさまじい突風が周囲の家屋を揺らした。

 見上げたプリムは暗くなりはじめた空を“機竜”が通過するのを目撃する。

 “機竜”は周囲を彷徨っており、それが風圧となって地上に届いていたのだ。

「こ、こらぁ! こっち来るなぁ!」

 プリムは抗議するが、返ってきたのは突風だ。プリムは近くの草にしがみついてこらえるが、屋根が風圧に軋み、上に残っていた瓦が崩れた。

 瓦が軒下にいた子猫の上へと降り注ぐ。

「ネコちゃんッ!?」

 プリムは悲鳴をあげて、目を背ける。

 瓦礫が降り積もる音だけがした。それが静まっても、プリムは怖くて目を開けることもできずにいた。

 だが、次に聞こえたのは猫の鳴き声だった。

 プリムは慌てて目を開ける。

 地面から巨大な鋼の手が伸び、猫を庇っていた。

 鋼の手が瓦礫を押し上げ、下敷きになっていた猫が自力で這い出す。

 プリムは猫を受け止める。元気はないが大きなケガはしていないようだ。

「グーちゃん! 来てくれたんだね!」

 地面から《グノムス》の半身が現れ、胸の装甲の隙間からダロムが飛び出した。

「無事じゃったか、プリム! 心配したぞい」

「じいじ、グーちゃん、聞いてよ! 地面にはうまく潜れないし、“機竜”は飛んで来るし! この家は“けっかんじゅうたく”だし、さんざんだったよ!」

「霊力の激流を注意しておかなかったのは悪かったが、欠陥住宅は大家に言ってくれんかのう」

 ようやく安心できたプリムに文句を言われ、ダロムは困って頭をかく。

「あれ? そういえば男しゃくさんたちは?」

「二人は先に飛び出していったよ。あれをどうにかするつもりらしい」

 ダロムは空を彷徨う“機竜”を見上げた。

「エエッ!? でも、男しゃくさん、まだ治ってないんじゃないの?」

「そうじゃが、黙ってられんようでな。捨て身の覚悟なのは間違いないの──」

 眉間を寄せるダロムの身体を《グノムス》の左手が掴んだ。そのまま胸の装甲の内側にダロムを放り込むと、今度は右手をプリムと子猫の前に差し出す。

「乗ればいいの? ネコちゃん、おいで。こわくないよ」

 プリムは子猫を連れて《グノムス》の掌に乗った。その手が持ち上がり、《グノムス》の内部へとゆっくりと運ばれる。

 胸の装甲が閉じると、内部が点灯した。

 だが、それはいつもと様子が違った。

 モニターにいくつもの画面が浮かび上がり、そのどれもが見慣れない文字で埋められている。その画面が一つ、また一つと真紅に輝いていった。

「“機神”の支配信号は感知されず、魔力も充分に使える……今しかないということか。リーナ姫と勇士を助けに行くんじゃな」

 ダロムが画面の一つを見ながら言った。

「じいじ、グーちゃん、どうしちゃったの?」

 プリムが心配になって訊ねる。隣にいた子猫もその周囲を落ちつきなく歩き回る。

「プリム、ともかくここにいるんじゃ。確かにいまはこの中が一番、安全かもしれん」

 足許が揺れた。

 《グノムス》が地中に潜らず、歩き始めたのらしい。

 その巨体が地面を震わせながら進んでいく。

 それはプリムの知る、あの穏やかな鉄巨人の姿でなかった。



 エレナたちの前に〈竜牙兵〉たちが落下し、包囲する。

 鋼の骸骨たちはエレナを標的に定めたのか、彼女に向かって近づいてくる。

「奴らを近づける!」

 護衛の騎士たちが彼女を守るように取り囲み、〈竜牙兵〉と交戦する。

「エレナ姫! こいつらの狙いはその手の指輪よ!」

 エルマが叫ぶ。

 その彼女にも一体の骸骨が襲いかかったが、オレフがエルマの前に出て掌をかざす。

 骸骨は見えない衝撃に骨を砕かれて吹き飛んだ。地面に転がった骸骨が再生しようとするが、再生の魔力が尽きたのか、中途半端な姿で再生が止まる。

 オレフが再び手をかざすと骸骨は砕け、残骸は溶けるように消失した。

 護衛の騎士たちもそれぞれ、骸骨たちを攻撃していた。

 骸骨の動きは単調であり、腕の立つ騎士たちには造作もない相手だ。

 しかし、剣で斬りつけても〈竜牙兵〉はすぐに再生する。

 刃は効果的ではないのだ。オレフのように叩き付けなければ、すぐに再生してしまう。

 それに倒しても、すぐに新手が出現した。

 エレナの目の前で、騎士たちは次第に後退を余儀なくされる。

 エレナは“停止している“門番”の一体に目を向ける。オレフが使っていたあれならすぐに利用できるはずだ。

「……“門番”を動かします。ここを脱出するのです」

 エレナは打ちひしがれた姿のまま、それでも騎士たちに向かって告げた。

「しかし! その指輪は数がありません! 無駄に使うことは──」

 騎士の一人が反論するが、エレナはかぶりを振った。

「構いません! 私が役目を果たせなかった以上、貴方たちまで巻き添えで失うわけにはいきません。あの“門番”の前に行ってください。私が“門番”を動かし、貴方たちを遠くへ飛ばします」

 その間にも骸骨の包囲はエレナたちを追い詰めつつあった。

 エレナは立ち上がり、指輪をはめた左手を掲げる。

「合図をしたら、骸骨の包囲を抜けて“門番”の前に行ってください」

「お止めください! エレナ様を置いていくなど、そんなことはできません!」

「このまま全滅するわけにはいきません!」

 エレナは覚悟を決めた。使命を果たせなかった以上、足手まといになって余計な犠牲者を出すわけにはいかない。ここに同行した騎士たちもフィルディングの貴重な財産なのだ。

「エレナ姫! 上ッ!」

 エルマが叫んだ。

「──ッ!?」

 エレナの頭上に小さな鉄球が迫る。鉄球は瞬く間に骸骨となり、彼女の視界を覆った。骸骨の腕から刃が伸びる。

『伏せな!』

 目の前を何かが横切った。それは骸骨を吹き飛ばし、近くの木へと叩き付けていた。

 唖然としたエレナが振り向く。

 騎士と骸骨たちの戦いに割って入るように黄金の霊気に包まれた何者かがそこに立っていた。

 それは魔力の紋章に包まれた全身に明滅する黄金の“鎧”を纏うマークルフの姿だった。



「エレナ姫さんよ。何か知れねえが自暴自棄とはらしくねえな」

 エレナを襲う〈竜牙兵〉を排除したマークルフはそう言うと、周囲を見渡す。

 そして、家宝の槍を手にするオレフを睨み付けた。

「……てめえまで、何でここにいやがる?」

「説明は後でエルマから聞いてくれ」

 オレフが空を旋回する“機竜”を睨み合いを続ける。

 その間にも骸骨たちがマークルフを敵と定め、こちらへと集まってくる。

「“狼犬”、なぜ出てきた!? まだ治療ができていないではないか!」

 不安定な装着状態を見てエレナが叱責するが、マークルフは肩をすくめた。

「やれやれ、助けてやったのに非難されるとはな。まあ、見てな。こいつらとの戦い方を教えてやる。やるぜ、リーナ!」

『はい!』

 不安定ながら“鎧”となったリーナの声が答える。

 マークルフは動いた。

 完全な鎧発動がまだできないが、それでもマークルフの動きは素早く、瞬く間にその頭蓋を鷲づかみにする。

「おりゃあッ!」

 マークルフは骸骨を投げ飛ばし、別の骸骨に叩き付けた。二体の骸骨は絡み合うようにひしゃげて地面を転がる。

 背後から新手の二体が飛びかかるが、マークルフは一体の胸部を蹴り飛ばし、もう一体には左手を突っ込むとその肋骨をまとめて掴んで砕いた。

 再生の魔力を貯める肋骨部分を破壊された二体は、まともに再生もできずにそのまま消失する。

 絡まった骸骨が融合し、一体の骸骨となって立ち上がったが、マークルフはすぐにその懐まで踏み込むとその背骨を掴む。

「そらよ!」

 マークルフは骸骨を掴んだまま、騎士たちと対峙する骸骨たちの前に殴り込んだ。手にする骸骨を武器代わりに骸骨の群れを次々に殴りつけていく。

 あらかた殴りつけたマークルフは手にした骸骨を放り捨てた。他の骸骨の部分と融合していたそれは一回り大きな骸骨となって再生する。

「そうそう。そうやってまとまってくれた方がやりやすいぜ!」

 仲間の魔力を集め、素早さが上がった〈竜牙兵〉が襲う。マークルフも両腕から一対の光刃を伸ばし、すれ違いながら〈竜牙兵〉を切断した。

 胸骨から上、そして下半身を切断され、肋骨の残った部分をマークルフはさらに寸断する。細切れとなった鋼の骨は再生できずに蒸発、魔力が残っていた肋骨の幾つかが引き合って融合するが、それは形をとる前にマークルフによって踏みにじられて消滅した。

「さて、と──」

 空気を切り裂くような咆哮が地上に響き渡った。

 紅い夕日を押しのけ、暗くなり始めた空に真紅の輝きが浮かぶ。

 破損部分から魔力の光を漏らす“機竜”が、マークルフの姿を捉えていた。

 大きく開いた顎で威嚇し、両翼の翼を広げて警戒の構えを示している。

「てめえもやる気だな。ま、そんだけボロボロにしたのも俺だからな」

 マークルフは“機竜”を見上げて対峙する。

「気をつけろ」

 オレフが告げた。

「“機竜”は緊急の自己防衛行動に移ろうとしている。俺と司祭長の支配に関係なく、そちらを狙って行動してくるぞ」

「ようするに俺とケリをつけたいわけだろ。それより、その槍を返せ」

「まだ返す時ではない。それに、その状態では槍があっても〈アトロポス・チャージ〉は使えまい」

「人の家宝を横取りしておいて、ぬけぬけと言ってんじゃねえぞ」

 マークルフは吐き捨てるが、その視線は“機竜”に向けられたままだ。

「できるだけ注意を引きつける」

 マークルフは“鎧”となったリーナに告げる。

「頼むぜ。うまく、奴の口許まで飛ばしてくれ」

『はい。やってみます』

 マークルフは気合いを入れるように両拳を打ち合わせ、リーナも緊張をはらんだ声で答える。

「どうする気だ?」

 マークルフたちの意を決した姿を見て、エレナが訊ねる。

「なに、奴はご丁寧に大口を向けてくれるからな。それにあわせて奴の口に突っ込むのさ」

「正気か!? まともに攻撃を食らうぞ!」

「奴の武器は口からの〈魔咆〉だ。それだけでも潰せば地上に墜ちても被害はかなり抑えられる」

「自爆するようなものだぞ! 死に急ぐのか!」

 エレナの語気が強まる。

「俺も“戦乙女の狼犬”という看板を背負ってるんでな。因縁の相手が目の前にいて、何もしないわけにはいかねえのさ」

 マークルフは答え、一歩踏み出す。

 “機竜”が〈魔咆〉を使おうとすれば、すぐにでも飛び立つ気でいた。

「貴様は……その“狼犬”の名のために、命を捨てるつもりか?」

「それだけの看板なんでね。泥は塗れんのさ。それよりも早く逃げな。待ってる余裕はないんでな」

 “機竜”が翼を広げたまま静止する。〈魔咆〉を使う前の姿勢制御の動きだ。

「来るぞ!」

『はい!』

 まともに戦える状態ではないが、マークルフたちは地面を踏みしめ、“黄金の鎧の勇士”として“機竜”と対峙する。

 “魔咆”が直撃すれば間違いなく終わりだ。だが、その前に“機竜”の口に潜り込み、砲口である顎を破壊するつもりだった。

 “機竜”とマークルフが同時に動く。

 空の向こうで繰り広げた決戦の続きが始まろうとした矢先、それを妨げるように一筋の光線が目の前を横切り、“機竜”に直撃した。

 直撃した箇所が閃光に包まれ、“機竜”の咆哮と爆発が空を覆う。

 地上に居た一同が、光線が飛んできた方向に一斉に振り向く。

 その視界に映ったのは、近隣の家屋を押し倒しながら出現した一体の鉄機兵だった。

 機体全体の装甲が浮き上がり、その隙間から覗く内部機構に強烈な真紅の輝きが宿っていた。

 上腕部の装甲が開いて砲塔が現れており、両腕を向ける形で一対の砲塔は“機竜”に狙いを定めていた。

「おい、リーナ。あれは──」

『……グーちゃん?』

 リーナも戸惑っていたが、その巨人は《グノムス》に間違いなかった。

 だが、変形し、禍々しさすら覚える真紅の光に包まれたその姿は、いままでにマークルフも見たことのないものだった。

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