表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/112

支配権の行方

「ヨイショ、っと──」

 地上の様子を見に来たプリムが辿り着いたのは城だった。

 床から顔だけ出したプリムは周囲を見渡す。

 城も混乱のためか、随分と荒れていた。

 内部で魔物でも暴れたかのように、壁や調度品が何かで破壊されたような痕跡もある。

 広間にいたのは男爵の傭兵たちだ。彼らは円陣を組んで床に座っていた。

 そこには壁に背を預けるログの姿もある。

 プリムは地中に潜り、ログの真下まで来ると顔を出した。

「ふくちょうさん」

 ログが足許のプリムに気づいた。

「ケガしてるの? 痛くない?」

「……命には別状ない。それよりも閣下の方はどうなっている?」

「男しゃくさんは身体を治してるところだよ。じいじがいるから、だいじょうぶだよ」

「そうか。ならば閣下に会えたらお伝えしてくれ。フィルアネス殿下が──」

 その時、外が騒然とし、やがて悲鳴に置き換わる。

 やがて、ログたちの前にタニアが駆けつけた。

「ログさん!! みんな!! 大変!!」

「どうした!?」

「“機竜”が──この真上に来たの!」

 息を切らせながらもタニアが叫ぶ。

「何だと!?」

 傭兵たちが次々に立ち上がり、外の様子を見に行く。

「……妖精の娘、君は逃げろ。ウォーレン、肩を貸してくれ」

 ログが年輩の傭兵とタニアの肩を借りて外の様子を確かめに行く。

 プリムも慌てて地面に潜り、地中を通ってその後を追った。

 中庭に城の者たちが集まっていた。

 皆がそろって蒼白な顔をしている。

 その視線の先、トリスの上空に巨大な鋼の魔物が羽ばたいていた。

 何度もブランダルクの上空を横切っていたあの“機竜”だ。

 城の者たちはただ呆然としていた。

「ログさん、“機竜”がなぜ……王女様を追って行ったんじゃ──」

「……分からん」

「でも、これじゃあ、ログさんが戦った意味が──」

 “機竜”が向ける口腔から誰も目を背けることができなかった。“機竜”に攻撃されればもう逃げ場などないのだ。



 空が夕暮れに染まり始めようとしる中、その真ん中に突如として“機竜”が出現した。

 遠くからも街に残っている人々の悲鳴が風に乗って運ばれてくる。

 いま、トリス全体が“機竜”の出現に恐怖し、混乱に陥り始めたのは間違いなかった。

 エレナも空に君臨した“機竜”を前に冷静を繕うしかできない。

「なぜだ……いつの間に……」

 “機竜”が接近しているのは分かっていたが、こうも易々と上空まで侵攻してくることまでは予想していなかった。

 エレナは左手を握った。その指にはめられた新たな信号増幅の指輪を起動させようとする。

「やめておけ、フィルディングの姫──」

 オレフが言った。

「奴は現在、司祭長に支配されている。司祭長は“機竜”を操作する本来の操縦装置を手中にしているからな。一度、命令を送ったぐらいでは止められん」

「なるほどね」

 エルマが腕を組んだ。

 すでに腹をくくったのか、この状況でも落ち着いていた。

「“機竜”は元々、エンシアの国防兵器。兵器なら当然、正規の操縦手段がある。“機竜”をいろいろな手段で誘導してきたけど、一番の切り札として、失われていた“機竜”の操縦手段を手に入れていたわけね」

「俺の持つ“機神”の力も、ガラテアの誘導も使えなくなった時の最後の手段としていた。俺も能力を封じられた現在、いまの“機竜”は司祭長の意のままだ」

 オレフが前に出る。

「エルマ、俺から離れるな。ここで二人とも共倒れだけは避けねばならん」

 険しい表情で“機竜”を睨みながらオレフが言った。

『久しぶりだな、エレナ嬢』

 突如、声が響き、エレナは周囲を見渡す。

 それは紛れもなく司祭長ウルシュガルのものだった。

『驚くことはない。この“機竜”には指向性の音声伝達機能がある。昔のエンシアはこれで刃向かう者に降伏勧告をしていたらしい。どうかね? 当時のその気分を味わえているかね?』

 エレナは毅然と“機竜”を見上げた。

「ふざけないでいただきましょう! 私たちごとトリスを滅ぼしに来ましたか!」

『落ち着きたまえ。こちらの用件は君との交渉だ。それにオレフ、そなたとも話をしておきたくてな』

 オレフも黙って“機竜”を見上げていた。

『なぜ、わたしを裏切った? そなたは己の野心だけでは動かぬ男だ。わたしと共にフィルディング一族が擁する“機神”の脅威と戦うつもりでいると思っていた』

「司祭長。貴方を裏切ったことは釈明するつもりはありません」

『全てを話せ。そなたが自らの信念と使命のみに動く男という評価はいまも変えておらん。その動機次第では、今回の裏切りも不問にすることも考えている』

「せっかくですが、俺は後戻りするつもりはありません。許しも──乞いません」

『こうなることも承知の反逆か。残念だ。そなたがそこまでする理由が何なのか、どうしても知りたかったのだがな』

 “機竜”の首がエレナの方に向いた。

 エレナも“機竜”の破損した双眸を正面から受け止める。

「何が目的です! 言っておきますが制御装置の凍結解除は私にもできません! 例え、トリスにいる全ての人間を人質にしたところで一緒です!」

『そう結論を急ぐことはない。交渉の前に一つ、君に面白い笑い話でもしようと思っていてね』

「ふざけるな!」

 エレナは声を荒げる。

「私はエレナ=フィルディング! 一族の使命を背負いここに立っている! 馬鹿にするのもいい加減にしてもらおう!」

 エレナは叫んだ。この後に及んでの笑い話という愚弄に彼女の怒りも頂点に達していた。

 司祭長のくぐもった笑い声がした。

『君は素晴らしい姫君だよ。それゆえに、その毅然とした姿に逆に同情する気持ちになる』

「何が言いたい! はっきり言ったらどうだ!」

『君を安全装置としたユーレルン老の選択は正しかった。だが他が腑抜けでは管理者としての役割など滑稽でしかないと言うことだ。まずはわたしの話を聞くといい。そうすれば、君も自分の立つ場所の本当の姿がよく分かるだろう』



 《グノムス》の内部で警告音が鳴った。

「何だ!?」

「増設しておいた動力源探知装置じゃ! すぐ近くに巨大な魔力動力源が接近しておる」

「ジイさん! それって、まさか──」

「ちょっと待っておれ!」

 ダロムが慌てて隔壁の向こうに消えるが、やがて戻って来ると頭を抱えた。

「やはりじゃ! “機竜”がここに来ておるぞい!」

「そんな!? もうそんな近くに来ていたなんて──」

 リーナが声を震わせる。

 最も怖れていた“竜墜ち”が目の前に迫っているのだ。

 マークルフは“機竜”との戦いを思い出した。

 “機竜”は慣性を一時的に無効にする能力を持ち、不規則な軌道と加速を持つ飛行を見せた。それを応用すれば予想以上の加速度を得て接近することも不可能ではないはずだ。

 いずれにしろ、“機竜”が何かに操られているのも明確だ。オレフか、司祭長のどちらかだろう。

「ワシはプリムを連れ戻してくる! “機竜”が暴れれば地中にいてもひとたまりもない──」

 外に出ようとしたダロムをマークルフは右腕を伸ばして掴んだ。

「グーの字! 俺たちを地上に戻せ!」

 マークルフは《グノムス》に命令し、手に掴んだダロムを顔の前に持ってくる。

「ジイさん、治療を中断してくれ。俺たちが“機竜”と戦う」

「無茶じゃ! 身体が動くようじゃが、とてもまともに戦える状態じゃないぞい! おぬしはこのまま回復するまで待っているんじゃ!」

「待ってられるか! 俺たちは“機竜”を止めるためにここまで来たんだ!」

「しかし! それでは確実にやられるぞい!」

「“機竜”の砲口を破壊するだけでもやってやる! いま出なきゃ、次に戦えるかも分からねえんだ! 頼む!」

 ダロムがリーナの方を見た。

「姫、そなたも同じか」

 リーナもうなずいた。

「はい。私たちは空での対決の時、“機竜”を破壊することができず、やむなく“機竜”を“聖域”内に落としました。それがいまの惨状につながっている以上、逃げるわけにはいかないのです」

「しかし……」

 ダロムが苦渋の表情を浮かべる。

 マークルフの“心臓”は肉体の修復を優先しており、装置を中断しなければ通常の活動に戻れない。しかし、それは勝ち目のない戦いに向かわせることも意味していた。

 周囲が揺れ、上昇する気配を感じた。

 《グノムス》が動き出したのだ。

「グーの字! まさか、おぬし──」

 ダロムがマークルフの手から抜け出し、床に降りた。

「そっか。グーちゃんもプリムちゃんを助けに行きたいのね」

「行け、グーの字! 鉄機兵の面構えなんざ分からねえが、てめえは特別に男前と認定してやる!」

 マークルフたちを乗せながら、《グノムス》は地上に向けて進み始めていた。




『ランムトの豪商ゴルドバーク。大司教サルバートン。ヤルライノの辺境伯アレッソス──』

 エレナの顔付きが変わった。

『やはり、ユーレルン老の後継者だな。知っての通り、彼らは残された制御装置の後継者たちだった』

 その台詞が過去形であることにエレナは表情を厳しくする。

『君を動かすには一族の“総意”が必要らしいのでね。わたしが代わって彼らから承認を取り付けた』

「バカな!? 何を言っている──」

『君が装置凍結の権限を発動するには、残っているその他の装置保持者全ての承認が必要だった。逆に凍結を解除するにも、保持者全ての同意が必要なのは突き止めたよ』

「その情報をどこで……いや、この短期間で他の所有者たち全てから承認なんて──」

『わたしを見くびらないでもらおう。わたしも一族との対決に備え、“聖域”全域に間者を潜入させ、いつでも他の所持者を狙う準備だけはできるようにしていた。もっとも、それには時間と困難を伴うと思っていた。全ての承認を認めされるにも、最悪、全員を暗殺せねばならんと考えていた。だが実質、一人を始末するだけで目的は達成されたよ』

 エレナは司祭長の告げる話の意味が分からず、それがさらに焦りを生む。

『分かりやすく言おう。他の二人は保持者ですらなかったということだ。奴らは継承した制御装置を埋め込むこともせず、放置していのだ。だから、その二人は無視することができた。そうでなければ、この絶好の機会を見逃すしかなかっただろうな』

 エレナにはにわかには信じがたかった。“機神”の制御装置はフィルディング一族の擁する秘密の最たるものであり、それゆえにその管理には最大限の責任と義務が生じるものだったはずなのだ。

『彼らからしてみれば、権限が低いのに拒否反応による命の危険を伴う装置の埋め込みなど、したくもなかったのだろう。わたしや君のように使命に命を捧げるつもりは最初からなかったわけだ』

 司祭長の話に確証があるわけではない。だが、否定をすることのできない真実味を帯びていた。

『つまり、君が活動している制御装置の唯一の保持者となった。君こそが一族の“総意”となったのだ。まったく笑いたくなる話だろう。君が一途に守ろうとした一族の威信など、砂上の楼閣に過ぎなかったわけだ。もっとも、おかげでこの短期間で目的を成せたのだ。これ以上は言うまい』

(そんな……)

 エレナは一族の“総意”を背負ってこの危険な地に赴いたはずだった。だが、信じるはずの威信を根本から覆えされ、足許からぐらつくような動揺が彼女を襲う。

『ユーレルン老も分かっていたはずだが、君はそこまで教えられていなかったようだな。仕方あるまい。一族本流の管理体制がこのようないい加減なものなんて万が一にも敵に知られるわけにいくまい。いや、君に教えなかったのも老のせめてもの優しさかもしれんな。君をブランダルクに送り出した老の心境も、さぞ複雑であっただろう』

 エレナは手が震えているのに気づく。

 あの日、一族存亡の危機に立ち向かうために全てを自分に託した祖父の姿を思い出す。

 エレナは命に代えても使命を果たすと誓ったが、その姿を祖父はどう感じたのだろうか。

『君自身が一族の“総意”であると理解してもらえたところで本題と入らせてもらおう』

 “機竜”の顎が動いた。威嚇するようにエレナたちに向けて開かれる。

『オレフの制御装置を凍結解除してもらいたい。それがこちらの要求だ』

 司祭長の狙いが分からず、エレナは返答ができない。

『オレフ、そなたも装置をわたしと同調させてもらうぞ』

「それをしなかったら──」

 オレフが“機竜”に向けて問いかける。

『地上にいる全員、この“機竜”の息吹を浴びてもらうことになる』

 司祭長が答えると、オレフは思い詰めた様子でエレナに視線を向けた。

「フィルディングの姫。俺と司祭長の制御装置はつながっている。同調した状態で俺の制御装置を凍結解除すれば、それは司祭長の装置にも適用されるだろう」

『そうだ。わたしが先に装置を凍結された時、それがオレフの側にも伝わりかけたのは気づいていた。その時は慌てて同調を切ったが、今度はその逆のことをしてもらう』

 打ちひしがれていたエレナだが、拳を握って手の震えを抑えると“機竜”を睨みつけた。

「断る! 例え“機竜”に灰にされようが封印を解くことだけはできない! 貴様に“機神”を渡すわけにはいかないのだ!」

 エレナは答えた。

 そんなことをすれば“機神”の支配権は司祭長が握ることになる。装置を封印されるような真似も二度とはしないだろう。そうすればフィルディング一族は司祭長の軍門に降ったも同然なのだ。

『例え腑抜けた一族であろうとそれを守るため、自分を含め、この場にいる全ての人間を見捨てるか』

「貴様を野放しにすることだけはできない! 私もブランダルクに足を踏み入れた時、それぐらいの覚悟はしている!」

 “機竜”がエレナたちを見下ろす。機械であるはずの瞳に狡猾な意志が感じられるようであったが、いまは動揺を少しでも見せるわけにいかなかった。

『なるほど、褒め称えるべき忠義と意志だ。しかし、見捨てるのが“聖域”全体の人間だとしても、果たしてそれを貫けるかな』

 エレナは思わず目を見開くが、司祭長の揺さぶりに乗ってしまったことに気づく。

『考えてみたまえ。わたしとオレフの制御装置は凍結されている。いま“機神”に唯一命令できる権限を持つのは君だけであり、同時に“機神”の制御装置として働いているのも君だけだ。ここで“機竜”が君を攻撃して、全ての制御装置が活動を止めたらどうなると思うかね?』

 エレナはようやくその意味に気づいた。彼女はオレフとエルマ、二人の方を見て意見を求める。

「……“機神”は魔力不足で休眠状態にあるが、魔力を全く貯めていないわけではない。それは過去の“機神”の活動からも間違いはない。暴走の危険は否定できない」

 オレフが言った。

「そうね」

 エルマも言った。

「特にいまは大公様たちが“機神”を利用するために魔力を与えている状態。制御装置のタガが外れた時点で“機神”がどう動いてもおかしくないわ。だいたい、どこかのバカが“聖域”にヒビを入れてしまったし、下手をすれば“聖域”も“機神”を抑えきれなくなるかもしれない」

 エルマも険しい顔を隠さない。

「司祭長ウルシュガル! 貴様も“機神”を危険視していたのではないのか! そこまで手段を選ばないようになったか!」

 エレナが吐き捨てるように叫ぶ。

『無論、それは変わらない。“機神”を野放しにしたくないのは同じだ。ただ、わたしは別の予想をしている。制御装置が全て無効になっている状態は最も危険な状態だ。君が管理する安全装置がそれを想定していないわけがない。おそらく君が消えた時点で、最悪の事態を回避するためにわたしの装置凍結は解除され、“機神”の制御を担わせると考えている』

「勝手なことを! それは貴様の憶測だ!」

『そうだな。だが、その安全装置の機能を最も熟知しているのはユーレルン老だ。老は慎重なお方だ。このような最悪の事態に陥る可能性も考慮しているはずだ。それでも老は黙って君を送り出した。それが答えだとわたしは思っている』

 司祭長は言い切った。

『違っていると思うなら遠慮なく指摘してくれたまえ。老を最も熟知しているのはエレナ嬢、君だからな』

「……」

 エレナは追い込まれているのを隠すことができなかった。必死に反論の言葉を探すが見つけることができずにいる。

 エルマとオレフの二人からも異論は出なかった。

 司祭長の推測だけならはね除けたかもしれないが、祖父を話に出されたことでエレナの動揺は決定的となっていた。

 エレナは誰よりも祖父ユーレルンを信頼し、理解していた。だからこそ、司祭長の話を否定することができない。祖父ならそう考えると、自分でも嫌でも理解してしまうのだ。

『わたしが言いたいのは、君たちを消すことに躊躇いはないということだ。さあ、そろそろ返答をいただこうか。わたしの装置凍結を解除するか、それとも多くの人間を道連れに、無駄かもしれない殉死を望むか』

 一同の視線がエレナに向けられる。

 エレナはしばらく迷っていたが、やがて黙って右手をオレフの胸へと向ける。

 こちらに反論の手段は残っていなかった。

「凍結を……解除する」

 エレナの手がゆっくりと降ろされた。

 オレフの表情が変わる。彼の制御装置の凍結が解除された。

 そして、その瞬間、司祭長の言葉が真実であることも証明された。

 エレナはその場にくずおれる。

 自分は、いやフィルディング一族の威信は司祭長の前に屈服したのだ。

「俺の封印は解除された。そして、司祭長もな──」

 オレフが告げた。

 エレナの頬を涙が伝っていた。

『君は悪くない。恨むなら君に不甲斐ない思いをさせた一族を恨むのだな』

 司祭長の声が途絶えた。

 オレフが“機竜”を睨む。

 “機竜”の様子が変わっていた。

 こちらへの威嚇を止め、その場を旋回し始める。

「エレナ姫、確かにここを離れた方が良いかもしれません」

 うなだれるエレナを支えるように、エルマが手を添えた。

「いまオレフと司祭長が互いに“機竜”への命令を打ち消し合っている状態です。このまま持久戦に持ち込まれたら──“機竜”はここに落下します」

 エレナが顔を上げた。

「彼女の言う通りだ」

 オレフが厳しい状況を物語るように険しい表情を浮かべる。

「トリスに魔力は流れ始めているが、“機竜”の浮遊を支えるには足りん。このまま上空に足止めされれば、いずれはトリスに墜ちるしかない」

「オレフ、何か手はあるの?」

 エルマが訊ねると、オレフは目だけで周囲を窺いながら告げる。

「周囲の騎士が俺を殺したがっているようだが、それは止めてくれ」

 エレナが引き連れた護衛騎士たちは確かにオレフを狙おうとしていた。彼と司祭長の力の源は彼が持つ“機神”の能力に他ならないのなら、彼を殺せば止められると考えたのだろう。

「司祭長の手には“機竜”の操縦装置もある。俺がいなくなれば、その時点で“機竜”はトリスへ墜ちる」

 オレフの声に焦りが感じられた。

「エルマ、フィルディングの姫、ここから離れろ。使えるなら“門番”を使え」

 彼の持つ黄金の槍が黄昏の色に染まり始める。

 トリスはまさに、“竜墜ち”という終焉の危機を迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ