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剣を執る者の道(1)

 ログとリーデの姿が重なり、剣が響き合う。

 リーデの剣をログの握る逆手の小剣が受け止め、ログの剣をリーデの左手の光刃が受け止めた。

 交えた剣を挟み、ログとリーデは睨み合う。

 ログが魔法剣を起動した。

 真紅の輝きを帯びた剣の刃が、純粋な輝力で実体を持たない光刃にめり込んでいく。

 リーデが光刃を消して身を躱す。

 ログが続けざまに斬りかかるが、リーデが自らの剣で受け止めた。その剣も輝力を帯びて輝いている。

 ログとリーデが同時に剣を同じ方向に受け流す。

 受け流した先で見えない力がぶつかり、そこにあった胸像を粉砕した。

 同時に二人は離れ、互いの剣から光が消える。

「フィルアネス殿下、離れてください」

「ルフィン、下がりなさい」

 ログとリーデが遠巻きに対決を見守るルフィンたちに告げた。

 互いの剣に宿る魔力と輝力の衝突は衝撃波という形で暴発する。今は互いにそれに気づいて受け流したが、戦いが熾烈になれば逃がした余波が周囲を巻き込むことは避けられない。

「その魔導具の剣、やはり良く出来た剣だわ。“力”を帯びる剣を使った戦い――この時までに学べたことを製作者に感謝することね」

 確かにその通りだ。ここまでに魔法剣に習熟していなければ、光の剣を使う“神女”の動きに対応するのはもっと難しくなっていたはずだ。

 リーデが両手で剣を構える。その剣は輝力を帯びていないが力を温存しているだけで要所で使ってくることは確実だ。

 ログもそれぞれの手で剣と小剣を構える。

 再び両者は踏み込み、同時に相手を間合いに捉えた。



(――始まったか)

 山の頂にて精神を集中していたオレフは立ち上がった。

 彼の感知能力がトリスにて“光”の輝力を捉える。

 それはリーデが解放した神女の力だ。とうとう“最後の騎士”との対決が始まったのだ。

 オレフは目を閉じる。

 トリスから急速に離れていく〈ガラテア〉の存在を捉えた。

 “神馬”に乗り、リーデが目的とする場所に向かっている。

 オレフは〈ガラテア〉が“機竜”を誘導しようとするのを止めるつもりはなかった。

 それがリーデとの約束だからだ。

 だが、同時にそれは首尾良くいかないとも考えていた。

 まず、あの“狼犬”たちがそれを許さないだろう。

 そして、司祭長もオレフの独断行動を看過するとも思えなかった。

 オレフは“機竜”の動きに変化が生じたのを感知する。

 彼の命令から解放された“機竜”が〈ガラテア〉を追い、軌道を修正したのだ。

 近辺地域の魔力レベルに変化が生じているが“機竜”の標的に変更はない。変化の可能性があるものよりも確実に高い魔力を保持している方を選択する習性があるからだ。

(彼女の戦い、僭越ながら見届けさせてもらおう)

 オレフの意識はトリスの貯水池の底に向けられる。

 そこには“狼犬”側の鉄機兵を封じている“門番”二体が沈んだままでいた。

 オレフはそれらに稼働用の魔力と命令を与えた。



「また!?」

 池の底で動けない《グノムス》の内部にいた妖精プリムは、足許が揺れて思わず膝をつく。

「……また、何かあったんだね」

 プリムは上を向く。

 改修作業を一時中断したダロムは現在、どこかに行ってしまった。プリムだけが留守番をしていた。

「グーちゃん、わかる? さっきから大地がさわいでるの」

 大地の妖精であるプリムは大地の力である霊力の流れには敏感だ。

 妖精娘は“機竜”が暴れ出してから霊力の流れが大きくうねり、乱れていくのを肌身で感じていた。

「なんだか……こわいね」

 上手く口にできないが、どんな事にも揺らぐことのなかった何かが揺らいでいる。

 それがプリムを不安にさせた。

 内部の照明の一つが点灯する。それは不安に陥るプリムを静かに照らす。

「ありがとう、グーちゃん。はげましてくれたんだね」

 プリムがにっこりと微笑む。

 力の無駄遣いができない《グノムス》がここまでして気を遣ってくれている。それがプリムにはとてもうれしかった。

 その時、再び周囲が揺れる。

「きゃあッ!?」

 プリムは尻餅をつく。足許ではなく近くで何かが動いたようだ。

 周囲のモニターが点灯し、《グノムス》が危険を判断したのか、緊急起動を始めた。

 映しだしたモニターに《グノムス》の腕を抱える二体の“門番”が映った。

 そのうちの一体、左腕を掴んでいた“門番”が動き出していたのだ。

 動きだした“門番”を振りほどこうと《グノムス》が腕を曲げる。すると“門番”はあっさりと腕を離した。

 振りほどかれた“門番”を中心に池底に真紅の魔法陣が浮かび、その姿が瞬時に消える。

「消えちゃった!?」

 プリムが驚いている間にも《グノムス》は右腕を捕らえる“門番”にも掴みかかる。

「やめろ、グーの字! そいつは動かん! 壊してはいかんぞい!」

 いつの間に戻ったのか、背後に立つダロムが叫んだ。

 その言葉に従い、《グノムス》は再び休止状態に移行。全体がまたしても暗くなった。

「じいじ、何がおこったの?」

「どうやら誰かが“門番”を呼び寄せたようじゃ。おそらく、あの科学者じゃろうな」

 ダロムが髭をいじりながら答える。

「しかし、恐ろしい事をしでかしおる。まさかこの時代の人間が“神”様の造り上げた“聖域”を決壊させようとするとはな」

「それって、すごくたいへんな事じゃないの!?」

「そう大変じゃ。だからワシらも急がねばならん」

 ダロムは上を向いた。

「グーの字! 残った“門番”はワシが一時的に動力を遮断している。操られて動くことはないから破壊するんじゃないぞい!」

「どこにいったかと思ったら、そんなことしてたんだ」

「エルマの姐さんからの伝達があってな。どうやら誰かが必要としているらしい。ともかく、作業を続けるぞい」

「うん!」



 ダロムは作業に戻り、その後ろでプリムが揺れで散乱した機材を拾っていく。

 老妖精は作業を進めながら考えていた。

 ダロムは地下世界に鎮座する“神”に頼まれ、この地上に赴いた。

 その頼みとは勇士――マークルフの所有する古代鎧を修復すること。そして必要なら自らの判断で勇士たちの手助けをしてほしいということだ。

 “神”は自ら動かない。その真意も伝えることはない。

 人々に造物主と信じられなくなった時、すでに彼らの運命は彼ら自身の手に委ねているのだ。

 しかし、人々を導くことを全て放棄したわけでもない。

 運命に対して最善を尽くせば、それが報いられるよう“神”は見えない形で手を差し伸べる。 その見えない導きに人々が気づかず、無駄となることも数知れないとしても、それに応える者を見捨てることもしない。

 そんな“神”の姿を知るのはダロムをはじめ、“神”と直接、謁見できる者たちだけであった。

 だからこそ、ダロムはその頼みを受けて地上への旅に出たのだ。

(“神”様、貴方はこうなることを予見してワシを遣わしたのか――)



 待機していたオレフの背後に転移した“門番”が現れた。

 本来は二体を呼び寄せるつもりだったが、一体は動力自体が切れており、動かすことはできなかった。

 池の底に沈んだ“門番”に密かに工作するなど考えにくいことであったが、それが為されたというのも事実だ。

(俺の把握していない何かがあるのか?)

 目の前の“門番”を精査するが不審な点はない。

(どちらにしろ、こちらから出向いて確かめるまでだ)

 すでにブランダルクに存在する古代機械への命令は完了していた。

 オレフが命じると地面に魔法陣が浮かび、彼と“門番”の姿が消えた。



 ログは通路を走るリーデを追う。

 すでに城の広間全てが二人の決戦の場となっていた。

 リーデは飛び上がって側面の壁を蹴り、ログの頭上を飛び越える。

 不意を突いた動きだがログはそれに反応し、リーデに向かって剣を振り上げた。宙を舞った彼女を刃が狙う。

 しかし、リーデの左手が通路の天井に向けられ、手から飛び出た光刃が天井に突き刺さる。 彼女の動きが変わり、ログの剣が逸れる。

 入れ違うようにリーデが頭上から剣で薙ぐ。ログは逆手の小剣で受け止めようとするが、リーデの剣が輝力を帯びる。

「――クッ!?」

 まともに受けては剣ごと斬られると判断したログは紙一重で仰け反って刃を躱す。

 ログは床を転がり、着地したリーデが追いすがる。

 ログも床を転がる勢いを利用しながら跳ね起きると手にした魔法剣を翻す。

 真紅の刃と光刃の軌跡が重なった。

 二人はすれ違いながら互いに剣を振り抜く。

 両者が描いた剣の軌道をなぞるように見えない力が窓を砕き、カーテンを切り裂いた。

「――浅かったわね」

 ログの左肩に刀傷が浮かび、それを見ながらリーデが呟いた。



 ルフィンの目の前でリーデとログの剣戟は絶え間なく続いた。

 剣の打ち合いが城内に響き渡り、輝力と魔力の衝突する余波が壁や調度品を破壊していく。

 下手をすれば周囲にいる者も巻き込まれる激闘であるが、ルフィンをはじめ、他の者たちもそこから動かなかった。

 この“聖域”でも最高峰というべき剣技の応酬に皆が目を奪われていた。

 ルフィンもブランダルクを背負う者として、神女の伝説を受け継ぐ二人の戦いを最後まで見届けるつもりでいた。

「……やめだな。もう冗談でもあんなのは真似できねえ」

 サルディンが困ったようにその場にしゃがみ込む。

「殿下、もう“最後の騎士”の影武者なんてやめだ。目の前であんな戦いをされたらな」

 サルディンの言葉は周囲にも聞こえていたが、誰も口を挟まない。

 すでに皆、あの目の前にいるログこそが本物の“最後の騎士”だと疑っていなかったのだ。



(副長の一世一代の大舞台が来たか)

 カートラッズは混乱を避けて城の中庭の片隅に立っていたが、城内から響く剣の打ち合いを耳にする。

(最後の舞台にならねば良いがな)

 カートラッズは動かなかった。副長の戦いが気にならないといえば嘘だが、あくまで自分は雇われの傭兵隊長だ。大きな宿命に立ち会うような立場ではないとわきまえていた。

「いた! ダンナさん!」

 息を切らせながら駆けつけたのはテトアだ。

「いま、男爵側からこれを受け取りました」

 テトアが差し出した二枚の書類をカートラッズは受け取る。

 一枚はユールヴィング家が発行した報酬分の小切手だ。

 そして、もう一枚に記されたのは男爵自身が記した現状報告だ。

 黒幕である司祭長の目的。そして“聖域”の決壊が起き、魔力が漏れ始めた事。それを利用して“機神”の能力を持つ者が暗躍している事などだ。

 最後にこの情報を報酬に加えておく旨が記してあった。

「――この情報を頼りに生き残って、報酬に変えろってことですか?」

 横から覗いていたテトアが言う。

 これだけの額の小切手はユールヴィング領か、本部クラスの傭兵ギルドでなければ換金できそうになかった。

 だが、カートラッズは不敵に笑う。

「血統書付きめ、何が報酬に加えるだ。転がっている儲け話を教えただけで情報料代わりなど恩着せがましくて片腹痛くなるわ」

「え? い、いまのに儲かるような話が?」

「テトア! 傭兵組織の情報網はまだ生きてるな!」

「は、はい! 世間が混乱した時こそ傭兵の出番ですから、“龍聖”さんたちが頑張って動いてくれてます!」

 テトアが背筋を伸ばして答える。

「なら、今すぐにこの事を伝えてやれ。そして、ブランダルク中の傭兵たちに広めろ!」

 戸惑うテトアを置いて、カートラッズは動き出す。

「グズグズするなよ。間に合わなくなっては“蛇剣士”の名折れになる」

「な、何に間に合わなくなるんですか!?」

 テトアも慌ててカートラッズの背を追いかける。

「司祭長が“竜墜ち”を起こせばブランダルクは大混乱だ」

「もう、かなり大混乱ですけど!」

「そうなれば周辺国の野心家たちはそれにつけ込んで動き出す。現在も国境近辺に他国の部隊が展開していただろう?」

「まさか、ブランダルクを守るためにそれと戦うつもりじゃ――」

 カートラッズは不意に立ち止まり、テトアも背中にぶつかる。

「俺がそんな無駄で危険な戦いをすると思うか?」

「全く思いませんけど、だったら、どうするんですか?」

 カートラッズは振り向き、したり顔を見せる。

「決まっている。俺の名を売り込みに行くのよ。他の連中に出し抜かれるわけにいかん。行くぞ!」

「あ、あの、男爵は!? 副長さんも大変な戦いしてるみたいですけど!?」

「報酬を出した時点で俺たちがここに居座る必要はないということだ。それに血統書付きもやはり傭兵の端くれよ。戦いの先を見越して傭兵稼業の需要を作り出すつもりなのさ」

「そのネタって何なのですか?」

「それを知るための取材だろ、記者さんよ?」

 カートラッズは控えていた部下に出陣の号令を下した。

(すまんな、血統書付き。そっちに付き合いたいのはやまやまだが、こちらも傭兵としての生き方は通させてもらう。そのためにも負けてくれるなよ)



 ログに向かってリーデが右手の剣を突き出す。

 ログは逆手に握った小剣でそれを受け流しつつ、右手の魔法剣を起動してリーデの隙を狙う。

 リーデも左手に発生させた光刃で魔法剣を弾くと、空いたログの懐に飛び込みつつ剣で薙ぎ払う。

 ログは咄嗟に小剣の鍔で剣を受け止め、そのまま強引に押し返す。

 後ろに押されたリーデを踏み込んだログの剣が狙う。

 さすがに回避は間に合わず、リーデも剣でログの斬撃を受け止めた。

 ログは剣の腹に左腕を添えて強引に押す。リーデも押されつつも左腕を添えて、それに耐える。

「……強引に力比べさせる気ね」

 リーデの剣が光に包まれる。

 ログも対抗して魔法剣を発動、輝力と魔力の刃の間に生じた衝撃が両者を弾き飛ばす。

(――競り合いには持ち込めないか)

 両者は同時に着地すると、剣を構え直す。

 ログはすぐに魔法剣の発動を止めた。

 リーデも左手の光刃を消し、同じく光の消えた右手の剣を構える。

「消耗戦に持ち込むのは諦めることね。時間をかけたら、その分だけリファは遠くに移動して助けるのが難しくなるわよ? そもそも、消耗戦で不利なのはあなたの方ではなくて?」

 リーデが挑発するように告げる。

「幸運にもここの魔力が上がっているから長く保っているみたいだけど、その魔法剣がいつまでも使えるわけではないのでしょう?」

 その通りだ。

 リーデの使う輝力に対抗するには魔法剣しかないが、蓄積された魔力は限られており、“聖域”の働きが不安定になっているとしても消耗は激しい。

 彼女も輝力を発揮すれば消耗は避けられないはずだが、あくまで自身の力を使うリーデと限りのある道具に頼るログでは、どちらの限界が早いかは明らかだ。

 リーデが挑発の笑みを浮かべながら後ずさると、近くに転がっていた長椅子の上に座る。そして剣を握ったまま腕を組んだ。

「わたしの剣技こそ神女のそれだけど、この身体自体は普通の娘と変わらない。だから、消耗戦になれば体力の方がいずれ追いつかなくなり隙が生じるはず――そう考えたのではなくて?」

 彼女は余裕を見せつけるようにログの前で足も組む。

「過酷な訓練で剣と身体の両方を鍛え上げたあなたなら当然、そう考えてくることを神女が教えてくれたわ」

 ログは眉をひそめる。

「神女の声は聞こえないけど、その意思と同調はしているの。だから、神女ならどう考えるか分かるのよ……心しなさい。あなたが現在、相手にしているのはこの肉体以外、神女そのものよ」

 リーデの見透かしたかのような双眸がログを捉える。

「宣告しておくわ。このまま続けたら負けるのは確実にあなたよ。分かっているはずよ?」

 剣を交え、リーデの剣が次第に鋭さを増すのは気づいていた。

 少しずつ本気を出し、追い込もうとしているのだろう。

 ログもこのままでは自らが不利と読んでいた。だからこそ、勝機があるとすればリーデを先に疲労させることだったが、それもすでに見抜かれていた。

 勝ち目がだんだんと見えなくなっていた。

「わたしはずっと疑問に思っていた。それは神女も同様よ。だから、この問いは神女のそれと思って答えなさい」

 リーデの目がログの左手――逆手に構えた小剣に向けられる。

「なぜ逆手のままでいるの? その手を自由に使いこなせば、あなたはわたしと互角以上に戦えると神女も認めているわ。なのに何故、あなたは全てを出し惜しむようなことをするの?」

 ログは答えられなかった。

「いま、迷っているわね」

 リーデの瞳がログの震えている左手を映す。

「やはり、あなたは過去の悪夢を封じたつもりで克服できないでいる。そうではなくて?」

 ログは息を呑む。

 逢ったことのない神女がまるで目の前にいるかのようだった。

 全てを見通すような彼女を前に、ログは戦慄が走るのを止められなかった。

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